第250話 女神様

 突然眩しい光に包まれてキツく目を瞑っていると、だんだんとその光が弱まってきたようだったので、俺は恐る恐る目を開いた。


 するとそこには……、絶世の美女がいた。


 真っ白なストレートのロングヘア、瞳は綺麗な金色だ。服装は白を基調として、アクセントに金色が映えているドレス。そしてその上にベールのようなものを纏っている。


 ――もしかして、女神様?


「やっと神物に触れてくれたわね! あなたが神物に触れないと連絡もできないし神界に呼ぶこともできないし、本当に大変だったのよ。神力を頑張って溜めて神の領域の外に神託までしたんだから!」


 女神様っぽい女性は突然そう話し始めた。そして今までの苦労をつらつらと語ってるみたいなんだけど……急にそんなに話されても頭に入りませんよ。そしてクレープとかケーキが話に出てきてるけど、マジでなんの話ですか? というかここどこ? 


 でも話の感じ的に俺が罰せられるって雰囲気じゃなさそうだ。俺はその事実に内心でかなり安堵した。

 そうすると、やっぱり俺が使徒ってことなのかな?


 というかこの女性さっきからずっと喋り続けてるんだけど、とりあえず本当に神様なのかを確認させて欲しい。


「あ、あの……、話の前に一ついいですか? あなたはミシュリーヌ様ですか?」


 俺は女性の言葉を恐る恐る遮りそう聞くと、女性はパァッと輝やかんばかりの笑顔を浮かべた。美人の笑顔は破壊力が凄いな……


「良かった! ちゃんと見えてるし話せるのね。もう、反応しないから聞こえてないかと思ったじゃない!」


 いや、あなたがずっと話してるから口を挟む余裕がなかったんです……


「あなたを神界に呼ぶために神界用の体を作ったの。レオンの体と同じにしてあるけど、どうかしら? 不便はある?」

「えっと、見えてるし話せるので大丈夫だとは思います。それで、ここはどこですか?」

「さすが私ね! 完璧じゃない! 動いてみてちょうだい。はい、ジャンプ」

「ジャ、ジャンプ?」

「そうよ! 早くしなさい」

「は、はい」


 ……この人全然俺の話聞いてくれない!!

 でも神様なら流石に逆らっちゃダメだろうと思い、とりあえず従ってその場でジャンプをした。


「動きも完璧ね。素晴らしいわ!」

「はぁ……あの、ところであなたは誰ですか?」

「遂にここまで来たのね……。毎日血の滲むような努力をして神力を貯めたのよ! 今までの我慢の日々、思い出しただけで泣けるわ……」

「あの、あなたは……」

「あの我慢の日々から遂に解放されるのよ。クレープ、ケーキ、クッキー、生クリーム……想像だけで幸せ」


 ……ダメだこの人。マジで一切話を聞かない! 俺はこの人が神様なのかなと思って遠慮していたのをやめて、強気に行くことにした。


「あの! 一旦話を聞いてもらっていいですか?」

「そうだわ、レオン! 洋菓子の次は和菓子よ。次は和菓子を作るのよ!」

「話を聞いて……」

「まずはどら焼きがいいわね。後は羊羹も食べたいわ。お饅頭も絶対よ」

「話を……」

「アイスも欲しいし、チョコも作って欲しいわね!」


 あぁ、もう!!


「ミシュリーヌ様、一旦黙ってください!!」

「……何よ。そんなに大声を出さなくてもいいじゃない」

「まず、あなたはミシュリーヌ様ですか?」

「そうよ、私が女神なの。凄いでしょ!」


 ミシュリーヌ様は腰に手を当てて胸を逸らし、得意げな顔をした。すっごく美人だからその様子だけを見れば可愛いんだけど、さっきから残念なところを見てるからか、とにかく残念だとしか思えない。外見詐欺だよ……

 というかこの世界、こんな神様で大丈夫なの? めちゃくちゃ心配になってきたんだけど。


「そうですね。凄いですね」

「心がこもってないわ。もっと心を込めなさい!」

「凄いですねー」

 

 俺は思わず遠い目をしつつそう言った。なんか女神様って、もっと厳かな雰囲気で全てを包み込むようなタイプかと思ってた。イメージと違いすぎる。

 そして俺はこの女神様のことを今まで怖がってたのか。その事実に思わず深いため息が漏れる。


「はぁ〜、ミシュリーヌ様。俺が使徒様ってどういうことなんでしょうか? そんなこと今まで一度も聞いていませんが……。それにここはどこですか? 俺はさっきまで王宮の宝物庫にいたはずなんです」

「そうね、その話をしないとよね。そこのソファーに座っていいわよ」


 そう言ってミシュリーヌ様が指差したのは、白くてどこまでも続く空間にぽつんと一つだけあるソファーだった。改めてこの空間を見回してみると、この空間にはソファーと机にいくつかの棚しかない。

 そしてそんな空間に、ミシュリーヌ様とレオンの姿の俺がいるだけだ。


「では失礼します」


 聞きたいことは山ほどあるけれど、とりあえずソファーに腰掛けた。


「まず最初から説明するわね。この世界が魔物の森に侵略されそうなのは知ってる?」

「はい」

「その原因は私が以前に作った魔物が暮らす世界とこの世界を繋げてしまったからなの。本当は繋ぐつもりなんてなかったのよ。でもどこで間違えたのか小さな穴で繋がってて、それが時間の経過と共に大きくなって……それで今の現状になったの」

「では、魔物の森は別の世界からやってきているということですか?」

「そうよ。魔物の森をずっと進んだ先に大きな穴が開いていて、そこから植物や魔物が入ってきてるわ」


 待って、ということは、この世界が滅びかけてるのってミシュリーヌ様のせいなの!? 


「ミシュリーヌ様、俺達が危機に陥っているのって……」


 俺は流石にミシュリーヌ様のせいですか? とは言えずにそこで言葉を濁した。しかし意味はしっかりと伝わったらしい。ミシュリーヌ様は少しだけ気まずそうな表情で口を開く。


「ま、まあ、私が原因、とも、言えなくはないわね」


 いや、そうとしか言わないし!

 はぁ〜、さっきから残念感漂ってるって思ってたけど、もう残念どころかこの神様ポンコツすぎる。

 本当は神様に会ったら畏れる気持ちとか敬う気持ちとか、そういうのが自然と湧いてくると思ってたんだけど、ミシュリーヌ様に対しては一切湧いてこない。


 まあ、親しみやすいって点では、いいと思うよ、うん。


「なんでそんなことしたんですか……」

「私だってそんなことしたくなかったのよ! 私は人間が好きなのよ。なのに、なのに……いつも人間は滅びちゃうんだから! なんであんなミスをしたのよ、私のバカ!」


 ミシュリーヌ様は一応反省はしているようで、自分のミスに落ち込んだ後、自分で自分の頭を叩いている。

 というかさっき重要な情報があったな。ミシュリーヌ様は人間が好きなのか。それなら魔物の森に関しては俺達の味方になってくれるってことだ。


「ミシュリーヌ様の力で魔物の森をどうにかできないのですか? 魔物の森を全て消してその穴を塞ぐとか」

「そんなことできたらとっくにやってるわよ!」


 意外と神様も万能じゃないんだね……


「そんなに大掛かりなことをするにはいくら神力があっても足りないのよ。それに穴を塞ぐことはできたとしても、魔物の森を消すなんてことはできないわ」

「そうなんですね」

「そこでレオン、あなたなのよ!」

「俺、ですか?」

「そうよ。あなたは魔物の森をどうにかしてもらうために、私が地球の神から魂をもらって転生させた存在なの」

「それでは、俺は使徒ってことですか?」

「そうよ!」


 やっぱり俺は使徒であってるのか。でもなんで今までは音沙汰なかったんだ?


「普通は転生させる時に説明とかしませんか……?」

「……もちろんそのつもりだったのよ。でも、あなたの魂がレオンの体に引っ張られて神界から下界にいっちゃったんだもの。それで、連絡を取る術がなくなって……」

「ではその時も、失敗したってことですか……?」

「……まあ、そうとも言うわね」


 だからそうとしか言わないから!

 はぁ〜、この女神様ミスばっかりじゃないか。そしてそれにめちゃくちゃ振り回されてるよ、俺。


「で、でも、全言語理解と全属性魔法は付与したのよ!」

「ああ、今まで不思議に思ってたんです。何で言葉が通じるのかなって」

「ふふっ、私のおかげよ! ちゃんとこの世界の人間が話す言葉は全て読み書きできるようにしたの。固有名詞とかどうしても変換できないものはそのままになるところが難点だけど、不自由はないでしょ?」

「はい。ありがとうございます。全属性魔法は一般的な六属性に加えて空間属性のことですか?」

「そうよ! 便利でしょう?」


 便利っていうか、凄すぎる能力です。


「この能力を持っていることによって大変なこともありますが、大切な人を守ることができる力なので感謝しています。ありがとうございます」


 俺はちゃんとお礼を言うべきだろうと思って、しっかりと頭を下げてお礼をした。するとミシュリーヌ様は、途端に顔を赤くして照れたような表情を見せる。

 ……可愛いじゃないか。本当にこの外見は詐欺だな。


「べ、別に、お礼なんていいのよ!」


 そしてツンデレだ……美少女残念女神様のツンデレ。ミシュリーヌ様、属性多いよ。


「……逆に私の方こそレオンに謝らないといけないのよ。この世界に連れて来てしまってごめんなさい。地球と違って大変でしょう……?」


 ミシュリーヌ様は急にしおらしくなり、小首を傾げて俺の顔を下から覗き込むようにしてそう言った。


 うぅ……そんな感じで来られたら責められないじゃないか。それに最初は混乱したけど、意外とこの世界を楽しんでるし、今となってはこの世界が俺の生きる世界だと思ってるし……


「大変なこともありましたが、素敵な方々に囲まれて楽しく過ごしています。逆にこの世界に連れて来てくださってありがとうございます」

「そう、それなら良かったわ。少し心配してたのよ」

「……あの、一つどうしても気になることがありまして、俺は日本で死んだのですよね……?」

「まあそうなるわね。ただ私は日本のことは知らないの。日本のことは地球の神の領分だから」


 そういえばさっきも地球の神って言ってたよね。さっきは流しちゃったけど、やっぱり地球にも神様っていたんだな。もっと神社とかで真剣に祈れば良かったかも。


 日本での最後がどんな感じだったのか知りたい気もするけど、ちょっと怖い気持ちもある。知る術がないのならそれがいいのかもしれない。

 俺はそう思いそれをミシュリーヌ様に告げようとしたその時、一足先にミシュリーヌ様が口を開いた。


「シェリフィーに聞いてあげるわね!」


 そしてそう言った後、すぐどこかに飛んでいってしまった。


 ……えっと、俺この空間に置いてけぼりですか? そしてシェリフィーって誰ですか? もしかして、地球の神だったりします?


 そしてこの空間に置き去りはめちゃくちゃ心細いです。ミシュリーヌ様、ちゃんと帰って来てくれますよね!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る