第249話 王都に帰還
遂に、遂に王都に着いた!
俺達の馬車は今やっと王都に入ったところだ。二週間前に俺の能力がバレてすぐにリオールの街を出発したけど、その道中がとにかく大変だった。
途中立ち寄った街で刺客に襲われたり、領地の領主に待ち伏せされていて無理矢理屋敷に連れていかれそうになったり、食事に毒が盛られていたり、泊まっていた宿が火事になったり……
本当に、本当に大変だった。リシャール様に隠しておくようにって言われてたのもわかる。俺が使徒様だったらまた違ったんだろうけど、力だけ持ってる平民って立場が混乱を生む元なんだろう。やっぱり使徒様だってことを否定しないほうがいいんだろうか……
……本当にこれから先が思いやられる。俺が貴族になれるとしても王立学校を卒業してから、冬の月はなんとか凌がなければならない。
本当は王都の近くまで来たら俺だけ転移で帰る予定だったんだけど、ずっとバリアや他の魔法も使っていたので魔力が回復していなく、結局馬車で最後まで帰ることになった。
マリーは、父さんは母さんは、他の皆は大丈夫だろうか。それが本当に心配だ。
「レオン、この馬車は王立学校に行かずそのまま公爵家に行くことになっている。後少しだから少し休んでいた方がいい」
ステファンが心配そうにそう言ってくれた。
「レオン、さっきからずっと歩き回っているが、レオンがここを歩いていても馬車は早く進まないぞ」
「そうよ。レオン、座っていなさい」
リュシアンとマルティーヌにもそう言われて、俺はマルティーヌに強制的にソファーに座らせられた。
「それは分かってるんだけど、落ち着かないんだ」
「レオン、この馬車の中はバリアの魔法具で守られてるんだよね?」
「うん」
「じゃあ少し寝た方が良いよ。ステファン様、公爵家までは後どのぐらいでしょうか?」
「二時間ってところだな」
「じゃあレオン、二時間寝ること」
「でもロニー、寝られないんだよ」
「寝られなくても横になる!」
そうしてロニーに怒られて、俺はソファーに無理やり横にさせられた。そして絶対に寝られないと思っていたけれど、自分で思っていたよりも疲れていたのか横になった途端に深い眠りに落ちた。
「レオン、レオン」
「はっ……、マルティーヌ?」
俺はマルティーヌに起こされて目が覚めた。
「もう公爵家に着くわ」
「俺寝てたんだ……」
「横になってすぐに寝ていたわ。それだけ疲れてたのよ」
「そっか、ソファーを占領してごめんね」
「大丈夫よ。少しでも休めて良かったわ」
マルティーヌはそう言って優しく微笑んでくれる。俺はその笑顔に疲れが抜けていくのを感じた。
「レオン、もう馬車が止まるから降りる準備をしてくれ。お祖父様が出迎えに来てくれているぞ」
「分かった」
そうして馬車が公爵家の屋敷の前に止まり、俺達は全員で馬車から降りた。
「タウンゼント卿、私達まで押しかけてしまい申し訳ない。魔物の森でのことは父上から聞いているだろうか?」
ステファンが代表してそう口を開く。
「王子殿下、王女殿下、ようこそお越しくださいました。十分なもてなしもできず申し訳ございません。魔物の森でのことは陛下から伺っております」
「気にしなくて良い。それなら話は早いな。そのことでここまでの道中、様々な刺客に襲われてきた。今後のことについて早急に話し合うべきだろう」
「心得ております」
「あの、リシャール様、その前に家族の安否だけでも聞いて良いでしょうか?」
俺はどうしても家族の安否が気になり、思わず二人の会話に割って入ってしまった。しかし誰にも注意を受けることなく、リシャール様は俺の方に顔を向けてくれる。
「確かに先に伝えるべきだったな。レオン君のご家族は公爵家で匿っていて無事だ。今は厨房で働いている時間だと思うが、呼んでこようか?」
「……それは、良かったです」
俺は家族が無事だという話を聞いて、思わず体から力が抜けてしまう。
「レオン、大丈夫!?」
「あっ、ロニーごめん。ちょっと力が抜けちゃった……」
「レオン君大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。家族を守ってくださって本当にありがとうございます。無事だということがわかれば十分ですので、話を進めてください」
「ではそうさせてもらおう。レオン君の体調が大丈夫ならば、これからすぐに王宮へ来てもらいたいんだ。そこで陛下と私から話がある」
リシャール様はかなり真剣な表情でそう言った。
何か俺の能力がバレたことで問題があったのかな……。疲れてるけど、俺が向き合わないといけない問題だ。
「もちろんです」
「ありがとう。ではリュシアンとロニー君はうちの屋敷で休んでいてくれ。……殿下はいかがなさいますか? うちの屋敷でお休みいただくことも可能ですが」
「いや、私達は一度王宮まで帰ろう。急いでいるのだろう? 私たちのことは気にしなくても良い」
「かしこまりました。ご配慮感謝いたします。……ではレオン君、こちらの馬車に乗ってくれるか?」
「はい」
そうして俺はリシャール様と共に公爵家の馬車に乗り込んだ。ステファンとマルティーヌはここまで俺達が乗ってきた馬車で王宮へ、リュシアンとロニーはこの屋敷で休むことになった。
「リシャール様、何かあったのですか?」
俺は馬車に乗ってすぐリシャール様にそう聞く。するとリシャール様は雰囲気をより真剣なものに変えて深く頭を下げた。
「レオン様、まずは先ほどまでのご無礼をお許しください。まだ公にはレオン様のご身分を明かしてはならないかと思い、今まで通りにさせていただきました」
えっ、なんで急にこんな話し方なの? それにレオン様とか呼ばれてるし……
俺がその疑問をリシャール様にぶつけるより先に、リシャール様が続けて口を開いた。
「数日前、私と陛下はミシュリーヌ様より神託を受けました。使徒であるレオン様に神の遺物である本を渡すようにとのことです。できる限り早い方が良いと思い、このように急がせてしまったこと申し訳ございません」
……えっと、マジでどういうことだ。ちょっと色々ありすぎて頭が働かない。神託? 神の遺物?
「リシャール様、よく理解できないのですが……」
「レオン様、私などに敬称を付ける必要はございません。どうぞお好きにお呼びください」
「ちょっ、ちょっと待ってください。一旦落ち着きましょう。……まず、私は使徒様ではないですよ?」
今までは俺の言葉を信じてくれて使徒様扱いはせずにいてくれたのに、なんで急にこんなことになってるんだ。
確かにマルティーヌが、アレクシス様やリシャール様は俺のことを使徒様だと思っていると前に教えてくれたけど、それでも使徒様扱いはされなかったし、最近はやっと理解してくれたと思ってたんだけど……
「レオン様、どのような理由があって使徒様であることを隠されているのか存じませんが、ミシュリーヌ様からレオン様が使徒様だと拝聴しましたので、レオン様を使徒様として扱わないわけにはまいりません」
そうだよ、そこが全ての元凶だ。ミシュリーヌ様って、この世界の女神様だよね……?
「あの、ミシュリーヌ様のお声を聞かれたということでしょうか?」
「おっしゃる通りです。陛下と私の二人でお声を拝聴しました」
――女神様の神託って本当にあるんだ。なんか、現実感があまりない。
「それで、女神様がなんと仰ったんでしたっけ……」
「レオン様が使徒様であると。それからレオン様に神の遺物である本を渡すようにと仰せでした」
「俺が、使徒様……」
確かに今俺が使徒様って言ったよね。俺が使徒様なんだ。俺が使徒様……って、俺は何も知らないんだけど!?
なんで本人は何も知らないのに他の人が知ってるんだよ。最初に俺に言ってよ……
というか、最初から言ってくれれば今までの苦労は殆ど要らなかったじゃん!
そうして俺が内心で驚いて憤ってと忙しく思考を巡らせていると、馬車は王宮に着いた。
「レオン様、これから先で他の者がいる場では今までのように振舞わせていただきます。大変申し訳ございません」
「は、はい」
俺は急展開すぎて思考が追いつかず、とりあえず頷いてリシャール様の後をついて行った。
そうして王宮の中をしばらく歩いていると、一度も足を踏み入れたことのない部屋の前に辿り着く。かなり奥にある部屋で、厳重な警備体制が敷かれているようだ。
「私とレオン君の二人で中に入る」
「はっ! 少々お待ちください」
ドアの前で警備をしている騎士はリシャール様から紋章を受け取るとそれを念入りに確認し、リシャール様の顔と俺の顔を確認して中に入れてくれた。
中に入るとそこはあまり広くない部屋で、高そうなものがいくつも置かれている。宝物庫だろうか?
そしてそんな部屋の中にはアレクシス様がいた。
「レオン様、足をお運びくださりありがとうございます」
アレクシス様は俺の前に跪くと深く頭を下げた。リシャール様もアレクシス様の斜め後ろに移動し同じ体勢をとる。
「お、お二人とも、頭を下げるなんてやめてください!」
俺が慌ててそう止めると、二人は顔を上げてくれたけれど跪いた体勢はそのままだ。完全に俺が使徒様だと思っているらしい……
とにかく先に、ミシュリーヌ様からの本ってやつを受け取ってみた方が良いのかもしれない。それで何かがわかるのだろう。
もし俺が本当に使徒様なら話は変わるし……
「アレクシス様、ミシュリーヌ様からの本を受け取っても良いでしょうか?」
「もちろんでございます。リシャール」
「はっ!」
アレクシス様がリシャール様を呼ぶと、リシャール様はすっと立ち上がり奥から一冊の本を手に戻ってきた。
「こちらがミシュリーヌ様からの本でございます」
リシャール様がそう言って差し出したのは、両手で抱えるほどの大きな本だった。革で作られた表紙には宝石も散りばめられていて凄く高そうだ。
「ありがとうございます」
俺はリシャール様から本を両手で受け取る。そして落とさないように本を抱え直したその時、
――突然真っ白な光に包まれて、何も見えなくなった。
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