第244話 魔物との模擬戦 後編
それからステファンとリュシアンは、特に危なげなくロックモンキー、ツノウサギと剣で倒し、ロックワームには魔法も使いながら戦い勝利を収めていた。
やっぱりこの二人って凄いね。頭も良くて剣の腕も凄くて、それでいて身分も申し分ない。外見も完璧だ。
何この二人、二人こそ主人公だよ。
「ロックワームは少しだけ苦戦しました。まだまだ鍛錬が必要ですね」
「実際に魔物と戦い自分に足りないものが分かったからな。これからは少し鍛練のメニューを変えよう」
「そうですね。私も帰ったら護衛の兵士と相談することにします」
二人はそんな会話をしている。まだ強くなるつもりなのか……まあ、強くて悪いことはないだろうけど。これからの世界には一番重要な能力かもしれないし。
それにしても、まだ十歳や十一歳で新人騎士が苦戦してた魔物に勝っちゃうんだもんな。俺よりも全然凄い気がする。俺のはよくわからないチート能力のおかげだから。
「次はレオンだな。どんな戦いになるのか楽しみにしているぞ」
「はい。頑張って参ります!」
俺はそう答え、気合を入れて訓練場に入った。訓練場に降りていくとジェラルド様が声をかけてくれる。
「次はレオンだな。レオンの戦いは初めて見るが楽しみだ。ここから剣を選んで準備ができたら言ってくれ」
「かしこまりました」
十本ほどある剣の中から一番しっくりくるものを選び、俺は訓練場の真ん中まで歩いていった。訓練場は実際に降りてみると結構広い。
「準備完了です」
「わかった。ではまずロックモンキーからだ」
「では行くぞ!」
騎士の方がそう言って檻を開けてくれる。すると中からロックモンキーが飛び出してきた。
この戦いでは回復魔法と身体強化しか使えないので、俺は他の人に不自然に思われない程度の強化を全身にかけ、ロックモンキーに向かって駆け出した。
さっきまでの試合を見ていると、ロックモンキーは石を作り出すまでに数秒かかるみたいだったのだ。だからその前に倒す作戦でいく。
俺はロックモンキーが飛び出したと同時に地面を蹴って走り出し、間合いに入るとそのまま剣を右下から左上に振り上げてロックモンキーに切り掛った。
避けられたら後ろに飛んで距離が取れるように準備していたけど、そのままロックモンキーは絶命した。
……なんだ、呆気なかったな。
「レオン、お前剣術までそんなにできるのか! 回復魔法もあんなに使えるのに……。騎士にならないか?」
ジェラルド様は興奮した様子で俺のところに駆けてきて、肩を掴んでそう言った。
「そ、そんなにですか?」
「ああ、さっきの二人も凄かったがお前はそれ以上だな! どんな鍛錬をしたんだ?」
……もしかして、身体強化をかけすぎたかも。でも今更弱くしても仕方ないし……、まあいいか。魔法も実力のうちだ。実際頑張って鍛錬したから身体強化が有効になったわけだし。
「お二人と同じような鍛錬です」
「ならばお前は才能があるんだ。こんなにも才能溢れる者がたくさんいるとは、この国の未来に希望が見えてきた! さあ、次にいこう。……だが、レオンはツノウサギと戦っても意味ないな。飛ばすか?」
確かにツノウサギは倒したことあるし、いいかな? あれは倒すって言えないぐらい一方的だったけど……
でも戦ったとして、突進してきたツノウサギを一刀両断すれば終わってしまうだろう。それならいいかな。
「ではロックワームをお願いします」
「分かった。おい、次はロックワームにしてくれ!」
「はっ!」
そうして俺はロックワームと戦うことになった。ロックワームは何かを投げたりする魔法は使わないからか、檻の間隔がかなり広いので開く前から中が見える。
うん、やっぱり気持ち悪い。こうして対峙するとより思う。芋虫と深海魚を足して二で割って、さらにサイズを巨大化させた感じだ。
「では行くぞ!」
騎士の方がそう言って檻を開くのと同時に、ロックワームは以前も聞いた気持ち悪い叫び声を上げながら俺の方に向かってきた。
芋虫だから動きが遅いと思うかもしれないけど、人が走るぐらいのスピードでは動いている。予想以上に早いな……
多分近づいて側面から切りつければ直ぐに倒せるけど、それだと面白くないよね。そう思って俺は少し様子を見てみることにした。
ロックワームが一直線に向かってくるので横方向に走って避けてみる。するとロックワームは器用に方向転換して追ってくる。ロックワームの進行方向とは逆向きに逃げてみても、器用に小回りして追いかけてくる。
うん、結構小回りも効くし自由に動き回れるみたい。それが分かったところで、今度はロックワームに正面から対峙し、牙の生えた丸くて気持ち悪い口で襲われる直前に、横に避けて胴体部分を浅く傷つけた。
何故殺さなかったのかは、ロックワームの魔法を体験してみたかったからだ。ロックワームは胴体を傷つけられた痛みでその場に止まり、悲痛な叫び声を上げている。
「グモォォ!」
そしてすぐにそう叫び魔法を使ったようだ。俺の足元に土で山が作られ、それが段々と固くなっていく。
時間にして十秒ぐらいかな? それぐらいで土の硬化が終わった。でもこれ、石ってほど固くなってない。足に身体強化をかければボロボロ崩れて抜けられそうだし、剣で上手く壊しても抜けられそうだ。
それでもほとんどの獲物に効果がある魔法なんだろう。足元が固まったら焦るし。
ロックワームは俺が魔法にかかったことが嬉しいのか、さっきよりも嬉しそうな叫び声を上げて全速力で俺の方に突進してくる。口を大きく開けて俺を食べる気満々だ。
……本当に気持ち悪い。
検証はここまでかな。俺はそう考えて足にビルドアップをかけて魔法から抜け出し、獲物を捕らえて安心しきっているロックワームを剣で斬りつけた。今度は倒す意思を込めて首であろう場所を深々と。
それによってロックワームはすぐに絶命した。
うーん、魔物が弱すぎてあんまり参考にならない。とりあえずこの程度なら、全属性を明かさなくても楽勝だな。
「レオン、お前遊んでなかったか?」
「いえ、少し検証をしただけです」
「検証って……。まあ、レオンだからな。俺はお前は只者じゃないと思ってたんだ!」
ジェラルド様はそう言って俺の背中をバシッと叩いた。ジェラルド様、痛いです!
「これからに期待してるからな」
「は、はい。ありがとうございます」
そうして魔物との戦いを終えて階段を登っていると、身体中の力が抜けていくのを感じた。余裕だったけれど結構緊張してたみたいだ。自分でも気づかなかった。
ふぅ〜、俺は大きく息を吐き出して気持ちを落ち着かせ、それから皆の場所に戻った。
すると皆からじーっと見つめられる。え、何?
「えっと、なんでしょうか?」
「レオン、やりすぎだ」
「え、何もやってませんよ?」
「身体強化を使っていただろう!? あれは剣術に長けた者ならすぐに気づくぞ! ジェラルド様も気づいてるだろうな」
リュシアンが小声で怒鳴るという器用なことをして、俺にそう教えてくれた。
「え、本当? だってかなり弱くしかかけてないよ?」
「たまに一瞬だけ強くかけていただろう? 走り出す時とか! 常人にはあり得ないようなスピードだったぞ」
「本当……?」
「本当だ」
マジか、完全に無意識なんだけど。確かにリュシアンと模擬戦をする時とか公爵家で鍛錬する時とか、もう無意識と言えるほど自然に身体強化を使っている。
……うわぁ、やっちゃったかな。
「リュシアン、どうすればいい?」
「帰ったらすぐお祖父様に報告だ。他の者は気づいてないだろうし、ジェラルド様ならば大丈夫だとは思うが……」
「ごめん……」
「やってしまったものは仕方がない。これからの対応が大事だ。まずは帰ったらすぐに報告だからな!」
「はい! ちゃんと報告するよ」
そうして俺がちょっとやらかしたけれどそれ以外は特に問題もなく、俺たちは魔物との戦いを終えた。これで明日は魔物の森だな。今日が余裕だったからと気を緩めずに行こう。
それから他の班の皆も一通り魔物と戦い、今日の予定が終わった。
「これで全員戦ったな。皆よくやっていたぞ。これからも鍛錬に励んでくれ。では、何か魔物についてなど質問がある者はいるか?」
俺はやらかしたという事実に落ち込んでいたけど、ジェラルド様のその言葉で思い出した。一つ聞きたいことがあったのだ。
「ジェラルド様、一つ良いでしょうか?」
「レオンか、なんだ?」
「魔物は二属性以上の魔法を使えることがあるのですか? マッドフロッグのことを聞きまして……」
「ああ、確かにその話をしていなかったな。魔物は複数の属性を持つことは多々ある。ただ知られている魔物の中で四つ以上の属性を使えたやつはいなかった。よって、今のところは三つまでだな」
「そうなのですね……」
やっぱり魔物は複数属性が使えるのか。本当に、この世界の理に反してるよね。まあ、それは俺もなんだけど。
というか魔物と俺って何か関係があるのだろうか? 複数属性って共通点あるけど……
魔物と共通点あるなんて、なんか嫌だな。
「他に質問がある者はいるか? ――いないならば今日は解散とする。明日は魔物の森に入るからしっかりと寝ておくように」
そうして解散になり、俺たちは明日に備えて早めに眠りについた。
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