第242話 フラワーボムと魔物

 バッンッッッ!!


 フラワーボムは、遠くから眺めている俺たちにとってもかなりうるさい爆音を響かせて破裂し、中の種が四方に飛び散った。

 うわっ、種は結構デカくてかなりのスピードで飛び散っている。あれ、直撃したら危ないんじゃないか?

 そう思って騎士達を心配していたら、騎士達がいるところまではぎりぎり種が届いていない。多分、最大飛距離をわかっていて後ろまで下がったのだろう。


 魔物の森は予想以上に厄介だな。事前知識がなかったら思わぬところで危険に晒されそうだ。


「お前たち、一つも取り逃がすなよ!」


 騎士達のまとめ役のような人がそう叫ぶと、騎士達は横一列でしゃがみながら前進していく。


 …………いや、これは凄く大切な仕事だということはわかってるんだよ? 失敗したらマジでやばい仕事だってことはわかってるんだよ?

 でも、それにしても、絵面がシュール!!


 騎士の格好をして帯剣した騎士達が、横一列にしゃがみ込んで草むしりしながら前進していくんだ。うん、凄い光景。


 しかし安心して見ていられるのはそれまでだった。俺達の目から見てもわかるほどフラワーボムが育ってきているのだ。成長早すぎるよ……


「実ができ始めたらもう終わりだ。その前に全て摘み取るんだ! デカくなったものは茎を斬るのでも構わない。時間は……後十分!」


 後十分ってことは、二十分ぐらいでもう実を作り始めるってこと? 本当に常識が通じないな。


「魔物の森とは、本当に常識が通じぬところなのだな」

「本当ですね。実際に見たならば誰でもその脅威を理解できると思いますわ」


 ステファンとマルティーヌが騎士達の方を真剣に見つめながらそう言った。


「本当に、別世界という感じですね」

「ああ、この世の光景とは思えんな。魔物の森とは、何なのだろうな」


 俺が思ったことをそのまま口にすると、ステファンが皆が疑問に思っていることを言葉にした。

 本当に、魔物の森って何なんだろう。どうやって生まれたんだろう。この世界の動物も植物も基本的には魔力なんて持っていない。なのに魔物の森の植物や動物は全てが魔力を持っている。

 突然変異とか? でも、こんなに同じ場所で一斉に起こらないよね。じゃあ、宇宙から何かが降ってきたとか? そもそもこの世界にも宇宙ってあるのかな?


 ……ダメだ。わからないことだらけだ。でも一つ確かなのは、この世界が本当に危険な状況ってことだ。


「ウォーターボアとロックモンキーが来たぞ! 気をつけろ!」


 魔物の森の不思議について考え込んでいたら、騎士のまとめ役の人がそう叫んだ。そしてそのすぐ後に魔物が走ってくるのが見える。

 あの魔物達、騎士達の方に一直線に向かってないか? 魔物って基本的には魔物の森から出ないんじゃなかったの?


「ジェラルド様、魔物は魔物の森から出ないのでは?」

「ああ、基本的にはそうだ。しかしフラワーボムが育っている間は別だ。フラワーボムが実を付けるまでの約二十分間、魔物が何かに惹かれるように寄ってくるんだ。魔物にだけがわかる匂いなどを発してるんじゃないかと言われている。何故そんな特性を持っているのかはわかっていない」


 普通植物が良い匂いをさせるのは、受粉などのために虫を誘き寄せるためとかだよね。魔物がくることで受粉になるのかな?

 うーん、でもそんな様子じゃなさそうだけど。


「ジェラルド様、フラワーボムって飛び散った全ての種がしっかりと成長して実を付けるのですか? 例えば魔物が近づかなかった種は育たないなどはありますか?」

「いや、そのようなことはない。全てが例外なくかなりのハイペースで成長する。そして二十分ほどで実をつけ始める」


 改めて聞くと意味不明植物すぎる。だって受粉とかしてないってことだよね? 

 ……これは、俺の常識で考えても意味がないな。何か俺にはわからない理由でもあるんだろう。


「レオン、ロックモンキーってやつ凄い数がいるよ……」


 ロニーが一歩後ずさりながらそう言った。


「本当だね、凄い数……」

「ここまで来ないよね? 僕、魔法も使えないし剣術も苦手なんだけど……」

「大丈夫だと思うけど……」


 断言できないほどたくさんのロックモンキーが集まってきている。あれ、百は超えてるよ。大丈夫なのかな?

 ロックモンキーは、一匹一匹の大きさは人の膝ぐらいまでだけど、たくさんの数がいると圧倒されそうになる。


「大丈夫だ。あの程度なら騎士達が怪我ひとつせずに倒し切れる」


 俺たちの会話にそう答えてくれたのはジェラルド様だ。ジェラルド様に言われると、ちょっと安心して見てられるな。


「連携が凄いですね……」


 そう呟いたのはリュシアンだ。リュシアンは恐怖を感じているというよりも、騎士達の戦いに瞳を輝かせている。

 でもちょっとわかる。騎士達は完全に息を合わせて、連携し魔物を圧倒している。これは憧れる。


「魔物の森への対処には連携も大切だからな、訓練で重視しているんだ。特にロックモンキーは個人で立ち向かったらすぐにやられてしまう。ほら、ロックモンキーが何かを投げているのがわかるか?」


 確かにさっきから何かを投げて攻撃してるんだけど、どこに投げるものを隠し持ってるんだろう?


「はい。確かに何かを投げていますけど……何を投げているのですか? それに、どこに隠し持っているのでしょう?」

「あれは石だ、隠し持っているわけじゃない。ロックモンキーは土魔法で石を作ってそれを投げて攻撃してくるんだ」


 ……そっか、魔物は魔法が使えるんだったよ。やっぱり魔法って便利だけど敵になったら厄介だな。


「一匹ではそこまで強くはないが、必ず群れで行動し、全方向から石を投げて攻撃してこようとする。よってこちらも連携をとり、ロックモンキーを包囲しながら倒していくんだ」

「凄いですね……」


 魔物って知能まで高いのかな。舐めてかかったら大変なことになりそう。



 それから数十分。騎士達の戦いにひたすら見入っていると、フラワーボムに寄ってきた魔物は全て倒し終えたようだ。

 しかし勝利を喜ぶのではなく、疲れたと倒れ込むのでもなく、騎士達は倒した魔物を荷台の上に乗せて何処かへ運んでいく。


「ジェラルド様、魔物はどうするのですか?」

「魔物も魔植物も、倒したものは基本的に焼却処分だ。すぐ近くに大きな穴が掘ってあり、そこで倒したものを燃やしている。放置しておくとそれに向かって魔物が寄ってきてしまうからな。焼却が一番なんだ」


 そういえば前にリシャール様が言っていたな。

 アイテムボックスの魔法具を魔物の森に対してだけ使いたいって言われたけど、あれがあれば本当に便利になるんだね……。実際に見て改めて実感できた。


「確かにそうですね。埋めるにしても大変ですし、燃やすのが一番ですね」

「ああ、火魔法を使いなんとか焼いている。ただ持ち運びが難しい魔物や森の中で倒した魔物などは放置も多いんだがな。それに燃やすのも大変だ」


 アイテムボックスの魔法具はしばらく公開できないけど、魔物や魔植物の水分を除去する魔法具を作ったらどうだろう?

 あれなら水魔法だし、魔力がかなり多くて運良く魔法を使える人が作成者だとか言って誤魔化せないかな? 水分がなくなるだけで焼く労力がかなり減らせるだろう。

 ……帰ったらリシャール様に相談してみようかな。


「よしっ、今日の見学はここまでだ。何か質問があるものはいるか?」


 ジェラルド様が空気を変えるように明るい声でそう聞くと、皆が詰めていた息を吐き出したようで雰囲気が緩んだ。


「――質問はないか? じゃあ帰るから馬車に乗ってくれ」


 そうして俺達はリオールの街まで帰った。帰りの馬車の中は、皆口数が少なく静かに過ぎていった。

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