第231話 魔物の森へ出発
「では私達も馬車へ向かおう」
「はい。馬車はどちらに?」
「あそこだ」
ステファンがそうして指し示した先には……なんだか凄く豪華な馬車が一つと、それよりも少しは劣るけどかなり豪華な馬車が二つあった。全部王家の紋章入りだ。
……三つも馬車あるの? というか、大きすぎない? 一番大きい馬車は馬が四頭で引いてるし。
「凄く大きな馬車ですね……」
「ああ、中はかなり快適な作りとなっている」
「なぜ三つも?」
「使用人が乗る馬車と荷物を入れる馬車だ。特別に三つ許可された」
さすが王族……なんでも特別に許可されるね。
というか周りに騎士がいるんだけど、あれって全体を守ってくれる騎士の方達だよね……?
「周りの騎士の方達は……?」
「あの者たちは私とマルティーヌの護衛である近衛騎士団の者達だ。遠征全体を護衛するのは第一騎士団の一部の者だが、私達のみを護衛する近衛騎士団の者もいる。まあ、気にする必要はない」
……うん、これは気にしないに限るな。王族なんだから特別扱いは当たり前だ。いちいち気にしても仕方ないよね。
「かしこまりました」
そうして話しながら馬車まで歩いて行くと、馬車の直前で後ろから誰かに話しかけられた。
「ステファン、マルティーヌ」
この声と二人を呼び捨てにする人物は……
「叔父上、どうしたのですか?」
「叔父様!」
ですよね〜。トリスタン様だ。俺は後ろを振り向いてトリスタン様を初めて間近で眺める。
うん、やっぱり近くで見るとすっごくキラキラしてる人だ。金髪に金眼なのもいかにも王族って感じだし、オーラがキラキラしている。でも近くで見ると、チャラいって感じよりも親しみやすい雰囲気が勝つかも。
「二人とも、安全には気をつけるんだよ。危ないことはしないようにね」
「はい。分かっています」
「もちろんですわ。というか叔父様、それは何度も聞きました」
「そうなんだけどやっぱり心配なんだ。可愛い甥っ子と姪っ子が危険な目にあったらと思うとね」
「騎士もいますし大丈夫です」
「そうだね。……お前達、命に代えても守るんだ」
トリスタン様は馬車の周りにいた近衛騎士の皆さんに、二人に話している時よりも数段低い声でそう言った。
「はっ、この命に代えてもお守りいたします」
「頼んだぞ」
「かしこまりました!」
「二人とも、本当に気をつけるんだよ。わかったね?」
「もう、叔父様しつこいですわ!」
「ごめんごめん。そうだ、レオンは初対面だったね。私はトリスタン・ラースラシア。君のことは兄さんから聞いてるよ。よろしく頼む」
トリスタン様はそう言って、微笑みながら右手を差し出した。俺は恐る恐るその手を取り握手を交わす。
「はじめまして、レオンと申します。こちらこそよろしくお願いいたします」
「うん。二人をよろしくね」
「かしこまりました」
「あとは……君はリュシアンだね! こうしてしっかりと話すのは久しぶりかな。大きくなったね〜」
「はい。お久しぶりでございます」
「そんなにかしこまらなくてもいいよ。今度姉さんも一緒に遊びに来てくれたら嬉しいな」
「ありがとうございます。母上に伝えておきます」
リュシアンのお母さんはアレクシス様の妹で、トリスタン様のお姉さんなんだ。ということは、アレクシス様、ソフィア様、トリスタン様っていう順番の三人兄弟なんだな。
「それで君は、誰だったかな? ごめんね、名前を知らなくて……」
トリスタン様はロニーの方を向いてそう言った。ロニーの話は聞いたことがなかったんだろう。
「叔父上、私から紹介します。レオンの友達で私たちの友でもあるロニーです。孤児院出身ですがとても優秀で、将来有望な人物です」
「ロ、ロニーと申します。よろしくお願いいたします」
「ロニーだね。二人と友達になってくれてありがとう。これからよろしく」
「は、はい。こちらこそよろしくお願いいたします」
ロニーは少し青褪めながらも、なんとかそう挨拶をした。
「じゃあ皆、安全には気をつけて楽しんで来るんだよ」
「はい。行って参ります」
そうして俺たちは、トリスタン様と別れて馬車に乗った。ふぅ〜、出発前からちょっと疲れた。
でもトリスタン様凄く良い人だったな。甥っ子と姪っ子大好きって感じだったし、俺たちにもフレンドリーで優しかった。本当に王族って良い人ばかりだな……
「叔父上が突然すまなかったな。以前から私たちの友と話したいと言っていたのだ。それからレオンとも話したいと」
「そうだったんだね。でも凄く優しそうで良い人だね」
「ああ、叔父上は本当に素晴らしい人だ」
「それが伝わってきたよ」
「それならば良かった。……それでは話は変わるが、これから五週間改めてよろしく頼む」
ステファンはそう言って楽しそうに笑った。
「うん! なんか楽しみだよ。皆で旅をするなんて」
「私もずっと楽しみだったわ。ずっと皆と一緒にいられるなんて……」
「私も楽しみだったぞ。そうだ、ロニーにはレオンの魔法について話したんだよな?」
「うん。今日の朝に話したよ」
「では話してはいけないことなどもないし、皆で友好を深めるぞ。もちろんロニーも」
リュシアンがそう言うと、ロニーはまだ緊張した様子ながらもコクッと頷いた。
「はい。よろしくお願いいたします」
「ロニーは固いな。敬語でなくても別にいいんだぞ?」
「ええ、敬語でなくても良いわよ。ねえ、お兄様?」
「もちろん構わん」
「い、いえ、流石に僕は敬語を使わせていただきます! ただ、少しは崩して話させていただきますね……」
「まあそうだな。最初はそのぐらいか。だんだんと仲良くなっていけば良い」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
そこまで話したところで一旦話が終わり、皆でソファに深く座り込んで一息ついた。ロニーも体の力が少しは抜けたようだ。
俺はそんなロニーの様子に安心して、馬車の中をぐるりと見回す。
本当にこの馬車凄いな……。まず何よりも驚くのは、馬車の座席がソファになっていることだ。馬車に合うように作られた簡易的なものなのだろうけど、それでもソファだ。
それに豪華な机もあるし、絨毯は敷かれてふかふかだし、光球で中は明るいし。そして極め付けは、馬車の中にドアあることだ。
普通の馬車は御者席に続く窓と景色を見る窓、それから出入りするドアがついているだけなんだけど、この馬車はそれに加えてドアがもう一つついている。
そう、外に出るのではなく馬車の中で他の部屋があるということだ。なんの部屋なんだろうか……
「ステファン、あのドアの先には別の部屋があるの?」
「ああ、あのドアの先はトイレだ」
「え、トイレ!? この馬車トイレあるの?」
「あるぞ。私達で持ち運びトイレを開発しただろう? それが設置してある。この馬車はトイレの空間を他と区切って作り出すために大きめになっているんだ」
「そうなんだ……、めちゃくちゃ便利だね」
トイレがあるなんて最高だ。基本的に馬車での旅は外に簡易的なトイレを作って用を足すか、何処かでトイレを借りるしか方法がなかったから。トイレの心配がいらないなんて素晴らしすぎる。
やっぱり頑張って開発して良かった。
「それでは準備ができましたので、出発いたします!」
馬車の外で先生がそう声を張り上げるのが聞こえた。
「おおっ、ついに出発だね」
「そうだな」
「馬車ってどんな順番で行くのかな?」
「確か真ん中が一班だったはずだよ。それで二班三班と前後に順番で並んでいくんだ」
そう答えてくれたのはロニーだ。
「そうなんだ。やっぱり真ん中が一番安全なのかな?」
「多分そういうことだろうね。僕はただの平民なのに、ちょっと申し訳ないよ……。こんなに豪華な馬車にまで乗れて」
「それはロニーの人脈のおかげだから、ロニーが自分で勝ち取ったものだよ」
「そうだぞ。人脈作りも能力の一つだ」
「……そうですね。ありがとうございます。では胸を張ってご一緒させていただきます」
「ああ、それが良い」
「では、しばらくは景色も変わらないでしょうし、友好を深めるためにもお茶会をしましょう!」
「そうだね。じゃあ準備するよ」
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