第229話 秘密を明かす

 馬車の中には俺とロニーとロジェの三人だけだ。

 基本的には男爵家までの貴族のみが従者を連れていくことを許されるんだけど、俺は例外としてロジェを連れていくことを許可された。

 なんでも王族は人数上限なく使用人を連れていけて、公爵家も数人程度なら増やせるらしい。なのでロジェは、対外的にはリュシアンの従者として付いてくることになっている。でも基本的にはいつものように俺に付いてくれるようだ。

 ロジェがいると心強いので結構嬉しかった。


「ロニー、緊張してる?」

「うーん、もうなるようになると思ってるからそこまで緊張してないかな? 何回か会ってるし」

「あっ、緊張してるってそっちの話?」

「え? 違うの?」

「いや、魔物の森に行くことについて緊張してるのかなって思ったんだ」

「あ〜、確かに。普通はそっちだよね。それよりも馬車のメンバーが凄すぎて、魔物の森のこと全然考えてなかったよ」


 確かに魔物の森に着くのはまだ二週間後とかだし、直近に緊張する出来事があったら後回しになるか。


「まあ、緊張してないなら良かったよ」

「うん。僕って王都から出るのも初めてだから、今はちょっと楽しみかも。王都の外の景色とか、他の街とか楽しみだよ!」


 ロニーはそう言って目を輝かせた。これからステファンとマルティーヌとリュシアンと同じ馬車で何週間も過ごすのに緊張してなくて楽しみだなんて、ロニーまじで成長した。楽しめるのならそれが一番だよね。


「それなら良かった。……あのさ、そんな楽しい気分を壊すかもしれないんだけど、一つだけ話があるんだ。聞いてくれる?」


 俺は少しだけ緊張してロニーにそう告げた。

 ロニーに全属性のことを話すのは結構緊張してるんだ。ロニーなら普通に受け止めてくれるとは思うんだけど、もしかしたら怖がられるかもとか、そんな考えがどうしても少し残る。


「いいけど、そんな真剣に話すことなの……?」

「うん。かなり大切な話」

「……分かった。ちゃんと聞くよ」


 ロニーは真剣な表情で頷くと、居住まいを正して聞く体勢になってくれた。


「ありがとう。俺の魔法についての話なんだ」

「レオンの魔法?」

「うん。俺の魔法は回復属性だったでしょ?」

「知ってるよ。確か魔力量は五だったよね」

「そう。でも実際は回復属性だけじゃなくて……、他の全ての属性魔法が使えるんだ。それに使徒様が使っていたと言われていた魔法も使える。……いままで隠しててごめんね」

「ん? ちょっと待って、え、全ての属性魔法? 使徒様? ……どういうこと?」


 ロニーはかなり混乱している様子だ。俺の言った言葉をなんとか理解しようと考え込んでいる。


「レオンが、全ての属性魔法を使えるの……?」

「そうなんだ」

「使徒様が使っていたとされる魔法って、どんな攻撃も効かないとか、何もないところから物を取り出せるとか、長い距離を一瞬で移動できるとかだよね? レオンも、そういうことができるの……?」

「うん、できるよ」


 俺がロニーからの質問に頷くと、ロニーは今度こそ固まってしまった。


「ロニー? 大丈夫?」

「えっと、ちょっと待って。今までで一番衝撃的なこと言われた気がする。レオンの資産の話より衝撃なんだけど! レオンが、全部の属性魔法を使えるの!?」

「そう。使ってみようか?」

「う、うん。使ってみてくれる?」


 そうして俺は、馬車の中でも使える簡単な魔法を全ての属性で使ってみせた。もちろん空間属性もだ。


「目の前で起きてることが信じられないよ。待って、じゃあレオンは…………使徒様なの!?」


 やっぱりそうなるよね。これ全員に聞かれるな。


「ううん、俺は使徒様じゃないんだ。使徒様じゃないのに全部の魔法が使えるんだよね」

「そうなの……? え、使徒様じゃないのに使えるなんてことあるんだ」

「それが俺にもよくわからないんだけど、実際に俺は使えるんだよね」

「……レオンが、使徒様じゃないっていう根拠はあるの? 使徒様だって考えた方が自然じゃない?」

「根拠はないから俺もそれは考えたんだけど、自分が使徒様だと知らない使徒様なんてあり得ると思う?」


 俺がそう聞くと、ロニーは真剣な様子で考え込んだ。そしてしばらくしてから口を開く。


「歴史の授業で、使徒様がいらっしゃったときには定期的に神託があって、使徒様は女神様と直接対話できたって習ったよね。だからそれは考えにくい……かな」

「そうなんだよね。だからもし俺が使徒様だったとしたら、女神様からなんらかのアプローチがあると思うんだ」

「うん、確かにそうかも。レオンは女神様と話したりできないんだよね?」

「うん。それどころか一度も会ったことないし、存在を感じたこともないよ」

「じゃあ違う気がするね……。そうなると、なんでレオンは全属性なんだろう?」


 ロニーはそこが不思議で引っかかるみたいだ。ロニーって意外と研究者とか向いてるのかも。


「そこが不思議なんだよね。女神様が間違えたとか? もしくは別の何者かにこの力を与えられたとか……」


 もし邪神とかがいて、そういう存在に与えられた力だった場合が一番最悪だ。神様にバレたら消されそう。


「女神様は間違えることなんてなさそうだけど……」

「確かに神様だからね」

「別の何者かっていうのも、そんな存在いるの?」

「もしかしたらいるのかも、ぐらいかな。調べる術もないし」

「そうだよね」


 ロニーはそう言ってまた考え込んでしまった。このままだと話が終わる前に王立学校に着いちゃうな。


「俺もずっと考えてるけどわからないんだ。でもとりあえず全属性は使える、ここまではいい?」

「あっ、うん、いいよ。話を逸らしてごめんね」

「全然いいよ、気になるのはわかる。俺も知りたいと思ってるんだ。……それで話の続きだけど、俺には全属性と使徒様の魔法以外にも色々と人と違う能力があって、まずは魔力量かな。普通の人は生まれた時から魔力量が決まってて変化することはないでしょ? それが俺はどんどん増えていくんだ」

「増えていくって、そんなことあるんだね……具体的にはどのぐらいの魔力量なの?」

「うーん、もう自分でもよくわからないんだけど、魔力量が五の人の数百倍とか数千倍とかかな?」


 最近は魔力量が増えすぎて普通の人の魔力量がどの程度かわからなくなって来てるんだけど、たぶんそのぐらいの差はあるはずだ。

 最近転移とか使ってたらまた結構増えたんだよね。もうピュリフィケイションとかも普通に使えるレベルだ。


「もう想像できないよ」

「うん。とにかく魔力量が馬鹿みたいに多いと思ってて。それから他にも色々とできることがあって……」


 それからは他にも使える魔法について、毒除去や殺菌、病気の治療などについても説明した。


「なんか、凄いね。凄すぎると逆に驚けないってことがわかった。現実感がないっていうのかな?」

「確かにそれはあるかもね」

「あっ!! もしかしてこれって、使徒様の魔法なの?」


 ロニーはそう言って、首にかけていたネックレスを取り出した。俺が前に渡したバリアの魔法具だ。


「そう! よく分かったね」

「この魔法具をもらった時に公爵家の秘密だって言ってたでしょ? でもそれがずっと引っ掛かってたんだ」

「確かに、今思えば適当な言い訳だったかも」


 俺が苦笑しつつそう答えると、ロニーも同じような表情になった。


「流石に嘘が下手だよ。でも公爵家の秘密って言われたら暴こうと思う人なんていないから、効果はあるのかも」

「確かにそうか。ならまあ、良かったってことで。あっ、そうだ。そのネックレス貸してくれる? あと指輪も」

「うん、いいけどどうするの?」

「ちょっと改良するんだ」


 そうして俺は、ロニーのバリアの魔法具を家族に渡したものと同じ形に作り替えた。


「これなら外見では魔法具だってわからないから、隠そうと気をつけなくていいし前のよりもいいと思う。今度は指輪じゃなくてこの棒を引いたら発動するよ」

「分かった。ありがとう」

「うん。……それからこんな話をしておいて申し訳ないんだけど、俺の魔法については全部秘密にして欲しいんだ。伝えといて誰にも言わないでって迷惑かもしれないけど、ごめんね……」

「もちろん誰にも言わないよ。というかこれ、言ったらかなりの大事になるでしょ。逆にレオンがむやみやたらと言いふらしてたら僕が全力で止める」


 ロニーはそう言って頷いてくれた。やっぱりロニーは最高の友達だ。いや、親友だ。


「ロニー、ありがとう」

「うん。他には誰が知ってるの? さっきリシャール様って言ってたけど」

「他には公爵家の方達と一部の使用人、それからステファンとマルティーヌとリュシアン、あと俺の家族とマルセルさんとロジェだよ。あっ、アレクシス様とエリザベート様も知ってる。陛下と王妃様ね」

「凄いメンバーだね……」

「うん、皆俺の能力を知って守ってくれてるんだ。本当にありがたいよ」


 改めて、本当に凄いメンバーだ。国の中枢の中でも一番上にいる人たちだよね。


「そんなメンバーに加わわることを考えたら、眩暈がしてきたかも……」

「ロニー、俺の魔法について聞いた時よりも衝撃受けてない?」

「そんなことないけど、でもそうかも。だってレオンの魔法についてはなんとなく察してたというか、もうレオンには何があっても驚かないというか……」

「……そうなの?」

「うん。だって明らかにおかしいでしょ。王都の外れにある食堂の息子が公爵家で家族と同等の扱いを受けてて、次々と新たな魔法具を開発して莫大なお金を稼いでて、さらに大人も知らないような知識をたくさん持ってて、明らかにおかしいからね! もう僕はレオンについて深く考えないことにしてるから」


 ロニーから見るとそう見えるのか……

 確かにそんな子供がいたらかなり異質だ。それが俺だなんて、ちょっと落ち込む。上手く溶け込めてるはずだったんだけど。


「確かに、そう言われるとそうかも」

「レオンは上手く隠してたと思ってるだろうけど、全く隠せてないからね。あまり関わりがない人たちには隠せてるかもしれないけど、レオンと仲が良い人達には確実に普通の子供じゃないってことはバレてるよ」

「そっか……、でも仲が良いのってロニーぐらいだから大丈夫だよ。あとステイシー様かな」


 なんか、言ってて悲しくなってきた……


「確かにそうだね。僕たち友達いないもんね……」


 ロニーまで落ち込んじゃったよ。


「まあ、量より質って言うからね、一人親友がいればいいんだよ!」

「親友?」

「うん。俺とロニーは親友でしょ?」

「……そっか、そうだね。うん!」


 そうしてロニーに俺の魔法のことについて全てを明かしたところで、馬車は王立学校に到着した。

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