第227話 秋の休み開始
秋も深まり朝晩には肌寒さを感じるようになった頃。王立学校は秋の休みに入る。
今日は秋の休み前最終日、いつもならゆるい雰囲気が漂う校内も、今日ばっかりはピリピリとしていた。なぜなら明後日から魔物の森への遠征があるからだ。
結局遠征にはかなりの人数が参加することになり、敵対勢力の子供達も一部は参加する予定らしい。勲章目当ての貴族も多いみたいだけど、それでも参加することに意義があるだろう。
俺のクラスであるEクラスも例外ではなく、教室に入るとどこか緊張感のある雰囲気が漂っていた。
「ロニー、おはよう」
「レオンおはよう」
俺はロニーにいつもより小声で挨拶をして、静かに席に着いた。
「なんか、今日は皆緊張してるみたいだね」
「明後日から魔物の森に行くからね。それに、今日が馬車の席とかを決める日だし……」
「確かにそっか。馬車の席は重要だよね、長時間一緒にいることになるし」
「うん。僕も結構緊張してるよ。レオンと同じならいいんだけど……。多分身分ごとに分けるんだよね?」
「いや、もしかしたら違うかも」
マルティーヌが魔物の森への道中は皆一緒だって言ってたんだよね……だから、身分が高い人から同行者を決められるとかじゃないのかな?
俺がその話をロニーにしようとしたところで、教室にEクラスの担任であるオーブリー先生が入ってきた。
「皆おはよう。揃ってるか?」
オーブリー先生はそう言って教室をぐるりと見回す。
「皆いるみたいだな。では今日の予定だが、まず一限目の授業はなしだ。その時間で魔物の森への遠征について、色々と確認をすることになっている。しっかりと聞くように。遠征に行かない者は静かに自習をしててくれ」
その言葉に自習を始めたのは数人程度。このクラスはほとんど全員が遠征に行くらしい。
「よしっ、ではまず明後日の集合場所だが、ここ王立学校の馬車乗り場だ。九時には出発予定なので早めに来るように。Eクラスが遅れると印象が悪いから、そうだな……、八時過ぎには来るように」
当日はリュシアンとは別で来た方がいいかな。リュシアンが早い時間に来ても他の人が困るだろうし、俺が遅れていったら印象悪いだろうし。
こういうところが身分がある世界の面倒くさいところだ。ロニーと待ち合わせして歩いてこようかな。
「道中は六人一組で馬車に乗り移動することになる。基本的に遠征の最中はその六人の班で活動をしてもらうことになるから、班の中では仲良くな。ではその班をこれから発表する」
「先生、班はもう決まっているのですか?」
前の方に座っている女の子がそう聞いた。
「ああ、既に決まっている。班分けは基本的に身分が高い方々から同じ班になりたい者を指定してもらい、それを先生達で調整し班分けをした」
やっぱりその仕組みだったんだ。それなら俺は皆と一緒の班になれるかな。多分ロニーも大丈夫だろう。
俺は少しだけ安心してオーブリー先生の発表を待った。
「班には一から番号が振られているから、自分の班を覚えておくように。まず第一班、このクラスからは二名選ばれている。レオンとロニーだ。同じ班のメンバーは、ステファン・ラースラシア、マルティーヌ・ラースラシア、リュシアン・タウンゼントだ。この班は数を合わせるために五人だけとなっている」
よしっ、俺的には最高のメンバーだ。魔物の森への遠征、楽しみになってきたかも。
最初はステファンとマルティーヌは行けないのかなと思ってたんだけど、聞いてみたら王族だからこそ見てこなければいけないらしい。確かに、実際に見たことがあるのとないのとでは違うよね。
二人は大変なこともあるだろうけど、それでも二人と一緒に行けて嬉しい。
本当はアルテュル様もここに入る予定だったんだけど、遠征参加が許可されなかったようだ。アルテュル様……大丈夫かな。俺はもうできることがないんだけど、やっぱり心配だ。
「二人は大変だろうが、まあ、頑張れよ」
オーブリー先生は同情するような表情で、俺たちに向けてそう言った。まあ普通に考えて、高位貴族の班に放り込まれるただの平民って大変そうだよね。俺からしたらこのメンバーが一番落ち着くんだけど。
「……レ、レオン、今のメンバー本当に!? 僕の名前もあったけど間違えてない?」
しかし喜んでいる俺とは裏腹に、ロニーは衝撃を受けているらしい。俺に顔を近づけて小声でそう叫んだ。
オーブリー先生はもう他の班分けを発表しているから、少しは話しても大丈夫だろう。そう判断して、ロニーの方に体を向ける。
「間違えてないよ。俺とロニーとあの三人だよ」
「な、なんで僕も一緒なの? レオンはわかるけど……」
「うーん、ロニーも友達だからじゃない?」
「僕も友達枠だったの!? ちゃんと話したのは一度だけだよ? ありがたいけど、ありがたいけど緊張してやばいよ。最低でも五週間はずっと一緒ってことだよね?」
「そうなるね。でも緊張しなくて大丈夫だよ。皆は身分を笠に着て何かをするような人たちじゃないし」
「それは僕もわかってるんだけど……、なんかオーラが、雰囲気が、緊張するんだよ!」
「……そうかな?」
最近は慣れちゃって全く緊張しなくなったんだよね……そんなオーラなんて出てるっけ? 意外と普通な感じだと思うけど。
「レオンはもう慣れてるからわからないんだよ。凄いからね。そこにいるだけでキラキラして威圧感あるから」
「……気のせいじゃない?」
「そんなことない!」
「まあ、ロニーも五週間も一緒にいれば慣れるよ。最初は俺が仲を取り持つから」
「……絶対だよ? 僕と他の方達だけにしないでね?」
「分かった分かった。気をつけるよ」
そうして話していると、班分けの発表が終わったらしい。
「今発表した班分けを覚えておくように。では次は持ち物だが、まず班ごとに乗る馬車は基本的に王立学校の馬車となる。しかし班で別の馬車も用意することが可能だ。よってそれぞれの班により馬車の大きさが異なるので、持っていける荷物の量も変わる。基本的には王立学校の馬車で行くという前提で荷物をまとめて持ってくるように。必要な荷物は事前に知らせておいたものと変わらないから、前に渡した一覧を参考にするように」
馬車って自分たちで用意することもできるんだ。皆王立学校の馬車で行くのかと思ってた。
それだと俺たちは王家の馬車なのかな……、凄く目立ちそう。まあ、快適であるのに越したことはないよね。
「それから、男爵位以上の爵位を持つ家の子息子女は従者を一名連れて行けることになっている。しかし騎士爵以下の者は連れていけないから、Eクラスのお前たちは当日一人だけで来るように」
男爵位以上は従者を連れて行けるのか。王立学校にはダメだったから遠征でもダメなのかと思ってた。
でもそうだよね、生まれた時から従者やメイドに世話をされている貴族達が、何週間も一人で生活するなんて普通に考えて無理なんだろう。
そうすると予想以上の大人数になりそうだな。従者も全員馬車に乗れるのだろうか?
「先生、従者の方が馬車に乗り切れない場合はどうするのですか?」
クラスの男の子が俺の疑問をちょうど質問してくれた。
「ああ、その場合は従者が乗る馬車をもう一台増やしても良いことになっている」
もう一台増やすって、そんなことをしてたら馬車の数がかなり多くなりそうだけど……。予想以上に大規模な遠征なのかも。
「ですが、それだと馬車の数が凄いことになりませんか?」
「そうなるな。だから道中はかなり大変だ。魔物の森への最前線の街、リオールの街までは二週間ほどかかるが、その道中はできる限り街の宿に泊まることになっている。しかし街の規模の問題で全員が宿に泊まることはできないことも多い。そういう時は一班から順番に宿に泊まることができ、後半の班は街の外で馬車泊になる。だからお前たちは馬車泊が多いだろうな」
確かに、全員が泊まれるほどの宿がある街は少ないよね。そうなると馬車泊になるのか。馬車泊って、結構大変そう。だって椅子に一人ずつと床に寝るとして、そんなにたくさんの人数が寝れるわけないし……
「馬車泊って、六人全員が横になって眠れるほどの広さはないですよね?」
「そうだな。だから宿に泊まることができた者達の馬車も馬車泊に使う予定だ。要するに、一班からの高位貴族の方々に宿を使ってもらって、お前たちはその方々が乗ってきた馬車を借りて馬車で寝るってことだ。馬車泊の時も基本的には班ごとだが、男女は分けることになるからその場での指示に従うように」
それって、貴族でもないのに宿に泊まってる俺とロニーは、ギリギリ馬車泊になった中位貴族や下位貴族にかなり恨まれそうだな。まあ、仕方がないんだけど。
「そうして二週間ほど馬車で進むと、今回の目的地であるリオールの街に着く。リオールの街では騎士が滞在している簡易宿泊所に全員滞在してもらう。そこには一週間滞在し、リオールの町の見学や魔物の森の見学、弱い魔物との戦い、魔物の森の外縁部の探索をしてもらう予定だ。それから領主であるマレシャル伯爵の話も聞く予定だ」
マレシャル伯爵って確か、タウンゼント公爵家と同じ勢力だったはず。あんまり緊張しなくて良さそうでよかった。良い人だったらいいな。
「とりあえず予定はこんな感じだな。何か質問はあるか?」
「はい。道中の食事はどうするのですか?」
「基本的には街で食べることになる。しかし食堂などではなく、街で食料を買って馬車で食べることになるだろう」
「街がない場合はどうするのですか?」
「そういう時のために保存食も持っていくので心配するな。――他にはあるか?」
「はい。護衛などはいるのですか?」
「ああ、騎士団から道中の護衛が出されるらしい。しかしお前たちも自分の身はできるだけ自分で守るんだぞ」
一応道中の護衛もいるんだ。また大所帯になったな。
「他には質問あるか? ――ないみたいだな。よしっ、じゃあ明後日遅れるなよ。また何か質問があれば誰でもいいから先生に聞くように」
そうして説明を終えて、オーブリー先生は教室から出て行った。
行き先は魔物の森だけど、修学旅行前みたいにうきうきする気持ちもある。楽しみながらも真剣に魔物の森の様子を見てこよう。
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