第223話 アイテムボックスの魔法具

 ある日の夕食後。リシャール様に真剣な表情で部屋に呼ばれた。アイテムボックスの魔法具について検証が終わったみたいだ。


「レオン君、度々呼んでしまってすまないな」

「いえ、ほとんどは私が何かをやらかしてですので、こちらこそいつもありがとうございます」

「レオン君がやっていることは凄く有益なことなのだ。ただ……、凄すぎるゆえに繁雑なことも付き纏う。それだけだ。自分を卑下することはない。誇っても良い能力と知識だからな」

「……そう言っていただけるとありがたいです。これからもよろしくお願いします」


 リシャール様は本当に素晴らしい人だ。次々に厄介ごとを持ち込んでめんどくさいって言われても仕方ない気がするけど、そんなこと一度も言われたことないし、そんな表情をされたこともない。

 何度も思うけど、リシャール様と出会えて良かった。


「では、早速本題に入るが良いか?」

「はい」

「先ほども伝えたがアイテムボックスの魔法具のことだ。実は全ての検証が終わった。まずは一番重要なところ、人間を収納できるのかどうかだが……、これは収納不可能だった」


 収納不可能ってことは、生きた人間が間違えて収納されて死亡する事故は起こらないってことか。

 ……良かったぁ。俺は心から安堵して思わず深く息を吐き出した。


「良かったです。怖い性能でなくて」

「ああ、しかし魔物と同様、死亡した人間ならば収納可能だ。それも一応伝えておく」

「……そうなのですね。かしこまりました」


 目を逸らしたい事実からも目を逸らさない。俺はそう自分に言い聞かせて、しっかりと頷いた。


「では次だが時間経過と容量についてだ。時間経過は全くなかったので、レオン君の魔法と同じく時間は停止していると思われる。また容量だが、時間の許す限りさまざまなものを収納したが限界が来ることはなかった」

「では、私の魔法と同じ性能ということですね」

「そうだな。取り出す時も、中に手を入れるとリストが頭に思い浮かぶようになっていた。レオン君が言っていた通りだったので、基本的な性能はほとんど同じだろう」


 それは凄いな……これ、良くも悪くも影響力が凄そうだ。


「唯一違うところは、魔力がなくなると使えなくなるところだな。そこで魔力がなくなったこの魔法具に、再度魔力を込めてみて欲しい。これで前回収納したものが引き継げるのかどうか確かめたいのだ」


 確かにその検証必要だよね。中身を引き継げなくて全て消えちゃうのだとしたら、使い勝手が悪いだろう。


「分かりました。では魔力を込めてみますね」


 そうして俺はリシャール様からアイテムボックスの魔法具を受け取り、そこに再度魔力を込めた。前の魔法を引き継げるようにイメージしながら頑張ってみたんだけど、新しい魔法が込められただけな気がする……


「魔力を込めました。確認してみても良いでしょうか?」

「ああ、よろしく頼む。中に入れておいたのは大きな岩と細かい石、作りたてのスープ、氷、魔物の死体だ」

「かしこまりました」


 俺は魔石を魔鉄に触れさせて、アイテムボックスの魔法を発動させた。そして中に手を入れてみる。

 すると頭の中にリストが思い浮かぶけど…………、中身は空だった。


「リシャール様、中には何も入っていません」

「本当か!?」

「はい。リシャール様も確認してみてください」


 魔法具を手渡すと、リシャール様も手を入れて中身を確認する。


「本当だ……、何も入っていないな。中のものはどこに行ったのだろうか?」


 アイテムボックスは俺のイメージでは、時空間に物を収納する魔法だ。俺が魔法を使うと毎回同じ空間と繋がって物を出し入れできる。多分俺が物を収納している時空間を開けなくなる時は、俺が死んだときだけだろう。

 それが魔法具だと、魔力がなくなった時点で魔法の使用者が死んだ時と同じになってしまうのだろうか。


「推測ですが、魔力がなくなった時点で空間との繋がりがなくなる、またはその空間自体がなくなってしまうのだと思います」

「では、中に入っていたものはこの世界から完全に消え去るということだろうか?」

「……そうだと思われます」


 それって結構やばい性能だよね。やっぱりアイテムボックスはあまり広めないほうがいい気がする。

 リシャール様は今の検証結果を受けてしばらく考え込んだ後、真剣な表情で口を開いた。


「レオン君、このアイテムボックスの魔法具は凄く有用な物なのだが、私としては基本的に広めたくないと思っている」

「はい。私もそう考えていました」

「そうか。まず第一の問題は、魔力が切れた時に中のものが全て消えてしまうということだ。犯罪の証拠隠滅にはもってこいのものになってしまう」


 そうだよね、その心配もある。それにリシャール様達はそこまで考えが及ばないかもしれないけど、この星にある物質を綺麗さっぱり消してしまうのって世界全体に悪影響がありそうだ。

 アイテムボックスのせいで世界のバランスが崩れたとなったら目も当てられない。まあ、この魔法を俺が使えるってことは、悪影響がないように何かしらの作用が働くのだろうけど……


「それからこちらの方が問題だが、この魔法具を広めた場合、大量の物が簡単に運べるようになってしまう。保存も容易になる。それによって仕事を失う者が大量に出るだろう。それだけでも問題なのだが、これから先レオン君が魔法具を作れなくなるときがあったとしたら、その瞬間に一気に輸送が滞る。やはり一人の力に頼るのは危険性が高い」


 確かにそうだよね。俺が魔力を込めるしかないんだから、俺がいなくなったらすぐにアイテムボックスの魔法具は作れなくなる。今までアイテムボックスに頼ってきたところから、急に通常の輸送体制を整えるのは不可能だろう。

 そう考えると広めるのは得策じゃないな。


「おっしゃる通りだと思います。アイテムボックスの魔法具を広めるには、デメリットが大きいですね」

「ああ、だから基本的には魔法具を作らないでもらいたい。お願いしても良いだろうか?」

「もちろんです」

「しかし、一つだけお願いをしても良いか? 先ほどまでの話と矛盾するのだが……、魔物の森に対応する場合のみ、アイテムボックスの魔法具を貸し出してもらえないだろうか? 魔物の森にたくさんの騎士を送り込んでいるが、その騎士達の兵糧の輸送。それから倒した魔物の片付けに使わせて欲しい。もちろん、これはレオン君が王立学校を卒業し、その能力を公表してからの話だ」


 王立学校を卒業するまでは秘密って言われてたけど、やっぱり卒業したら公表するんだ。そしたら俺は貴族になるんだよね……。まだ先のことは何も聞いてないんだけど、ちょっと不安だ。

 公表する時は、使徒様じゃないことだけは強調してもらおう……


「卒業したら公表するのですね」

「ああ、卒業したら貴族になることができるからな。そのタイミングでの公表が一番だ。いつまでも隠しておけることではないだろう」

「確かにそうですね」


 そうなると、断る理由はないな。魔物の森への対処は今だけだろうし、そういう世界的な有事を乗り越えるためには使ってもいいだろう。

 世界のバランスとかを考えるとダメなのかもしれないけど、そもそも魔物によって人間は絶滅するかもしれないって時なんだ。使えるものは全て使うべきだろう。


「では、その時が来たらアイテムボックスの魔法具は作ります」

「本当か! レオン君、感謝する」


 でも、王家の管理下で使うことは前提とした方がいいよね。誰かに悪用されても困るし。


「はい。どのような用途で使うのかをしっかりと定めた上で、王家の管理として使用することを約束していただけますか?」

「勿論だ。約束する」

「ありがとうございます。ではその時にお作りいたします。……しかし魔物の片付けと仰いましたが、今まではどうしていたのですか?」

「基本的にはまとめて焼いていたのだが、運ぶのが難しいような魔物はその場に放置をしていた。それによりその魔物を餌とする魔物がそれを食べにきてと、悪循環だったのだ……」


 確かに放置してたら魔物が群がってくるよね。それは改善すべきだな。


「それは改善すべきですね。少しでも役立てるのであれば嬉しいです」

「少しどころではない、誰よりも多大な貢献だ。報酬はしっかりと支払うので受け取ってほしい」

「……別に良いのですが、そういうわけにもいきませんよね。では報酬は受け取らせていただきます。ありがとうございます」


 そうしてアイテムボックスの魔法具をどう活用するのかまで決めて、俺とリシャール様の話し合いは終了となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る