第217話 目的と黒幕

「犯人達の目的ってわかる?」

「捕まえてから尋問したら簡単に吐いたよ。でも使い捨ての奴らでほとんど情報を持ってなかったんだ。ローブで顔がわからない男から金を渡されて、平民の家族を攫ってきたら三倍の報酬を貰えるって言われたらしい」

「俺の家族を攫おうとしたってことは、目的は俺ってことだよね」

「うん。言いづらいんだけど……、レオン君を手に入れるか消すかの目的のために、家族を攫おうと思ったんだと思う。レオン君は全属性こそ明かしてないけど、優秀な成績と魔法具登録の件でかなり目立ってるんだ。貴族の中には、今後邪魔になりそうだから今のうちに手を打とうと考える人がいても不思議じゃない」


 確かに、全属性を明かしてないから爆発的に目立ってるわけじゃないんだけど、最近じわじわ俺のことが広まってる感じはあったんだよね……

 まあ、そもそもタウンゼント公爵家の勢力のために有能な部分を見せるのが俺の役割だから、俺のことが広まるのは狙い通りなんだよね。だからいずれにせよ、こういう事態にはなっていたんだろう。


 リシャール様達は、全属性を明かしたらもっと強硬手段に出る貴族が増えて他国も手を出してくるって言ってたけど……、今以上に狙われるようになるなんて先が思いやられるな。

 なんか俺って、結構やばい選択肢を選んだのかな。というか、俺よりもそれに巻き込まれてる家族だよね。俺が責任を持ってしっかり守らないと……


 はぁ〜、卑怯に家族を狙うんじゃなくて、俺のところに直接来ればいいのに!! それならいくらでも襲ってくれて構わないんだけど。返り討ちにしてやるし、万が一捕まったとしても自業自得だと諦められる。

 ほんと、弱いところを狙うのは卑怯だ。


「イアン君、そのローブの男が誰かは分かるかな?」

「それは、かなり難しいと思う。男達から声をかけられた場所と時間は聞いてあるから、後は聞き込みや偵察をするしかないんだけど……、情報が少なすぎる。でも男達に渡した金はかなりの金額だったから、お金を持ってるってことは間違いないと思う。だから、やっぱり貴族かな」


 そうだよね。やっぱり貴族かぁ〜。

 ……アルテュル様のお父さんとかもあり得るのだろうか。候補の一人ではあるよね。アルテュル様の話を聞いた限りだと、目立ってる平民は端から消したいと思ってそうな勢いだったし。

 俺とアルテュル様の関係が知られてなかったとしても、普通に狙われそうだ。そして他にもそんな貴族家はたくさんあるんだろうな……


「やっぱり、そうだよね」

「うん。でもここから先は難しいと思う。候補が多すぎて絞りきれない」

「敵対勢力の貴族達?」

「そうだね。その中でも特に怪しい家はいくつかあるんだけど、今回がそこの仕業とは限らない。何よりも証拠がないから、黒幕まであぶり出すのはかなり難しいと思う」


 証拠がなければ、いくら黒に近いグレーでもどうすることもできないのか。……悔しいな。

 俺は犯人への怒りをぶつける先が分からなくて、拳に力を入れた。手のひらに爪が食い込んで痛いけど、そうでもしていないと怒りや悔しさが収まらないのだ。


 多分今回の襲撃は、最終的に黒幕はわからない可能性が高い。すっごく悔しいけど、黒幕まで炙り出してその家を潰してやりたいけど、証拠もないのなら仕方がない……

 でも、いつか絶対に犯人を突き止めてやる。そしてその時は、絶対に今回のことを償わせてやる……


 俺はそう考えて犯人への怒りを深呼吸で押さえ込み、気持ちを整えてまた口を開いた。


「確かに、こういう場合は黒幕まで辿り着けないんだね」

「うん。そもそも黒幕まで辿り着けることの方が少ないんだよ。よほど馬鹿な人じゃなければ証拠を残すようなことはしないし。使い捨てのコマを使うのが普通だから」


 確かに普通はそうだよね。そう考えると、サリムってちょっと馬鹿だったんだな……


「イアン君、これからもこういうことってあるよね?」

「あるだろうね」

「俺は、どうすればいいかな? 何が最善策か教えてほしい」


 俺がそう聞くと、それに答えてくれたのはロジェだった。


「レオン様、今後のことについては私からお話しさせていただいても良いでしょうか? リシャール様からの提案がございます」

「リシャール様から?」

「はい。レオン様のご家族を、中心街にお連れしてはどうかとのことです」

「中心街に?」

「はい。中心街ならばお店に護衛がいるのも当たり前ですので、守りやすくなります。それから何よりも、今回のような使い捨ての素人を使った襲撃というものはほとんどなくなります。中心街は兵士の見回りが頻繁に行われていますし、騎士の見回りも行われています。さらには各店に護衛もおります。よって中心街の外よりも圧倒的に犯罪は少ないのです」


 そうなんだ……確かに、中心街の中にごろつきっていないよね。いるとしても入り口の広場までだ。


「確かに中心街の方が格段に安全だよね。……でも、皆はそれでもいい?」


 俺が家族の方を向きながらそう聞くと、皆は困惑した様子だ。


「……別に中心街に行くのは構わないのよ。でも私たちは礼儀もわからないし、仕事があるかしら?」

「父さんは料理しかできないからね。他の仕事となると、慣れるまでが大変そうだ」


 確かに一番の問題は仕事だよね。でもそれは、食堂を中心街に作れば解決だろう。中心街だからどうしても高級なお店になっちゃうけど、食堂を作ることはできる。

 ただ礼儀と読み書きは必要になるから、勉強してもらわないとだな。


「仕事は心配しないで。中心街でも食堂をやればいいよ」

「……でも、そんなお金はないわ」

「そこは俺が出すから大丈夫だよ」

「そんなのダメよ。レオンに頼り切りになっちゃうもの」

「ううん。こんな状況にしてるのは俺の責任だから、それぐらいはやらせて?」


 俺が母さんを見上げながらそう言うと、母さんは渋々ながらも頷いてくれた。


「レオンがそう言うなら、甘えちゃうけど……」

「でもレオン、中心街で食堂なんてお客さんは来るのかい?」

「うん。お店の従業員とか貴族の使用人とか、その他にもいろんなところで働いてる人がいるから、お客さんはたくさんいるよ。でも、礼儀とかは勉強してもらわないとだけど……」


 俺がそう言うと、父さんは少しだけ何かを考えるそぶりを見せた後、すぐに笑顔で頷いてくれた。


「そうか、それなら中心街で食堂をするのも良いかもしれないね」

「……本当?」

「うん。それも楽しそうだ。礼儀や敬語も学びたいと思ってたんだ」


 父さんはそう言って、俺に優しく笑いかけてくれる。


「確かにそうね。こんな機会もなければ中心街でお店をすることなんてできないものね」


 母さんもそう言って笑ってくれる。


「私たち、中心街に引っ越すの?」

「そうよ。前に馬車に乗って行ったでしょう?」

「覚えてるよ! すっごく綺麗なとこ!」

「あそこに引っ越すのよ。そしてそこで新しい食堂をやるの」

「本当!? じゃあ、お兄ちゃんも近くにいる?」

「ええ、いつでも会えるわ」

「やった〜!」

 

 マリー、俺といつでも会えることを一番に喜んでくれるなんて……幸せすぎて泣きそう! でもここでまた泣いたら話がややこしくなるから我慢だ!


「じゃあ、皆中心街に来てくれる……?」

「ええ、もちろんよ」

「逆に父さんからお願いしたいぐらいだよ。中心街でお店をするなんて憧れだからね」

「お兄ちゃんのとこ行く!」

「皆……本当にありがとう」


 俺はなんとか涙を堪えようとしたんだけど、それには失敗してまた涙が溢れてしまった。でも、顔は笑顔だ。


「では、このまま馬車で中心街に移動していただいても良いでしょうか? 今回の襲撃が失敗したことで、次はもっと徹底的に襲われる可能性もありますし、できる限り早めに移動すべきかと……」


 俺たちが中心街に引っ越すことを決めたら、ロジェにそう言われた。確かに、その可能性もあるよね……

 早く引っ越すべきだろう。


「皆、いますぐでも大丈夫?」

「そうね……サラとベンには伝えたいわ。少し前に心配して来てくれたんだけど、とりあえず危険かもしれないから帰ってもらったのよ」


 そうだよね、ニコラとルークにも伝えないとだろう。というか、隣の家族とはかなり仲良かったけど、大丈夫なのだろうか? 頻繁にお互いの家を行き来してるし……

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