第216話 事の顛末
リビングに入ると椅子に座って辛そうな様子のイアン君と、その隣に一人の男性がいた。多分この人も影の一人なんだろう。
俺はすぐにイアン君の元に駆け寄る。すると、俺が話しかける前にイアン君に頭を下げられた。
「いっ……、レオン様、食堂を守りきれず、大変申し訳ございませんでした」
イアン君は頭を下げたことで体に痛みが走ったのか、一瞬だけ顔を顰めた。
「大丈夫!? 頭なんか下げなくていいから。イアン君は家族を守ってくれたんでしょ? 謝る必要なんかないよ。とにかくすぐに怪我を治すから」
「……ありがとうございます」
俺はまだ何か話したそうにしているイアン君を制して、とりあえず怪我を治すことにした。
イアン君の体全体をスキャンすると、予想以上に酷い怪我がわかる。全体的に打撲がたくさんあるのと左足は折れてるし、肋骨もヒビが入ってるし……
「イアン君、こんなになってまで守ってくれて、本当にありがとう」
「いえ、この怪我は私の力不足の結果ですので」
そんなことない! そう言おうと思ったけれど、イアン君の瞳はかなり真剣だったので、俺はその言葉に反論するのはやめて治療に集中した。
「よしっ、これで全部治ったと思う。痛いところとか違和感があるところはない?」
「いえ、素晴らしいです。……さすがレオン様ですね。こんなに早く治るなんて、完全に元通りです」
イアン君は体を動かしながら、目を見開いてそう言った。
「そんなことないよ。……というか、さっきから気になってたんだけど、何で敬語なの?」
さっきからかなり違和感があったんだ。とりあえず治療を優先させたけど……
「既にご家族にもレオン様にも私の正体はバレておりますので、丁寧な言葉遣いは当然でございます」
「別に、丁寧な言葉遣いなんて必要ないよ? なんか違和感あるし……」
「そうですか? ……じゃあ、普通に話すよ」
「うん! そっちの方がイアン君ぽい」
「なんかそれ、喜んでいいのかわからないんだけど」
イアン君はそう言って、少しだけ拗ねたように唇を尖らせた。多分これが素なんだな。これからは隠し事も無くなってもっと仲良くなれたらいいな、そう思った。
そうしてイアン君を治療して、皆で円卓のように向かい合って椅子に座った。
まずは現状の把握からしないとだよね。
「とりあえず、今日起きたことを聞いても良い? ほとんど何も聞いてないんだ」
「うん。俺が話すよ」
そう言ったのはイアン君だ。
「今日もいつも通り昼営業をして、最後のお客さんが帰ってもうお店を閉めようか、そう思った時に事件は起きたんだ。突然五人の男達が食堂に入ってきた。全員が鉄の棒を持って大声を上げていて、明らかに普通のお客さんじゃなかった。一人は古かったけど剣も持ってたよ」
マジか……、そんなにやばい奴らがきたのか。
「その時入り口のドア近くにいたのが運悪くマリーちゃんで、マリーちゃんは一度男の一人に捕まった」
え? マリーが、捕まった……?
その男、絶対に、ぜっったいに、許さない。地の果てまでも追いかけてやる……
「マリー、悪い人に捕まったの?」
「うん、大きな男の人に急に捕まえられたの。でも、よく分からないうちに助けてもらえたから大丈夫だよ?」
マリーはそう言っているけれど、もしかしたら自分でも気づかない内にトラウマになっているかもしれない。マリーのことは今まで以上に気をつけて見ていくべきだな。
俺はそう誓うと共に、そんなことをしでかした犯人達への怒りがどんどんと湧き出てくる。
「イアン君、その馬鹿な男はどこにいるのかな? 今ここにいるの? ちょっと会わせてくれないかな?」
「レ、レオン君? ちょっと抑えて、怖いから!」
俺はイアン君に慌ててそう言われて肩を掴まれ、いつの間にか立ち上がっていた椅子に強制的に座らせられた。
ふぅ〜、そうだよね。ここで怒りをあらわにしてもしょうがない。マリーを怯えさせるだけだ。落ち着け俺。
そう自分に言い聞かせて、何度か深呼吸をして何とか怒りを抑え込んだ。
「ふぅ〜、ごめん。ちょっと怒りで我を忘れそうになった」
「大丈夫だけど……、落ち着いた?」
「うん」
「じゃあ、話を続けるね」
犯人たち絶対許さん! そう思いつつ、とりあえずはイアン君の話を聞くことにした。
「俺はマリーちゃんが捕まったとき食堂の奥にいて、犯人たちはマリーちゃんを捕まえられたことで安心したのか、かなり油断してる様子だったんだ。だから警戒されないうちにすぐ助けるべきだと判断して、暗器で犯人の男を殺してマリーちゃんを取り返した」
ということは、マリーが捕まってたのは本当に短い時間だったってことか。不幸中の幸いだな。……イアン君にはいくら感謝してもし足りない。
「……イアン君、本当にありがとう」
「当たり前のことをしただけだから。それに……、本当は気絶させてマリーちゃんを取り返せたら良かったんだけど、俺の技量的に殺す方が確実だったからそっちを選択したんだ。……マリーちゃん、改めて嫌な光景を見せてごめんね」
イアン君はそう言って、マリーに申し訳なさそうな顔で謝った。
「ううん、悪い人達から助けてくれて嬉しかったよ。ありがと!」
マリーはそう言って、イアン君ににっこりと笑いかけた。マリーは強いな。俺は目の前で人が殺されるところを見たら動揺しちゃうかもしれない。
……でも今、人が殺されたという話を聞いてもあまり動揺していない自分がいる。この世界では大切な人を守るためには仕方がないことだよね。そう思えている。
そんな自分になれていて良かった。そう思った。
「助けるための最善手を取るのは当たり前のことだよ。イアン君が謝る必要なんてない」
「そう言ってもらえるとありがたいよ。それで、そうして男からマリーちゃんを助けた後に、マリーちゃんを食堂の端に避難させてバリアを発動してもらったんだ。ロアナさんとジャンさんもカウンター越しにこちらを覗いてたから、二人にもバリアを発動してもらって、皆にその場から動かないように頼んだ。バリアがあったから皆を守る必要がなくてかなり助かったよ。ありがとう」
そっか、バリアも役に立ったのなら良かった。でもやっぱり、咄嗟の攻撃にはかなり弱いよね……。もっと改良が必要かな。
「そうして俺は犯人達を取り押さえにかかったんだけど、相手が火魔法を使える奴らでファイヤーボールをどんどん使われて、その消火をしつつ戦ってたから何回か攻撃を受けちゃって、それで怪我をしたんだ。でもその後すぐ、周りに待機してた影の仲間が加勢に来てくれたから、男達はすぐに制圧できたよ。一人も逃さなかったからバリアの魔法具の情報も漏れてないと思う。建物の中での出来事だったし」
「そっか……イアン君。改めて、皆を守ってくれて本当にありがとう」
俺はそう言ってイアン君に深く頭を下げた。
「当然だよ。仕事だっていうのもあるけど、大切な人たちだからね」
「……本当にありがとう」
「うん。それでその後、犯人の男達は縛り上げて手配した馬車で公爵家まで運んだよ。俺ともう一人の影がここに残って、他の影は犯人の輸送をしてる。犯人達はもう情報も持ってなさそうだったし、多分そのまま犯罪奴隷として鉱山行きかな」
じゃあもう、その犯人達は公爵家に行ってるのか。実際に会ったら怒りが抑えられなさそうだから良かったかも。
あと問題は、犯人達の目的だよね。それからどこの手の者かだな。
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