第215話 家族の下へ
家族も無事でイアン君の怪我も酷くはないということがわかり、俺は少し安心しながら馬車に揺られること二時間、実家に着いた。
馬車から降りて見上げた実家はいつもと同じにも見えるけど、地面が荒れていたりドアが傷付いていたりと襲撃があったことが分かる。
それを見て痛い気持ちになりながらも静かにドアを開けると……、食堂は机と椅子が壊れていてカウンターは黒く焦げ、中はかなり悲惨な状況だった。
俺たち家族の大切な食堂だったのに……、悔しい。
そう思って食堂を眺めながら無意識に唇を噛み締めていると、奥に続くドアが勢いよく開く。
「お兄ちゃん!!」
そしてマリーが俺のところに駆けてきた。父さんと母さんも後ろから顔を出してくれた。
「……マリー、大丈夫だった? 怪我はない?」
俺は悔しさや悲しさ、家族が無事な安堵感、犯人への怒り、そんな複雑な気持ちを感じながらも、とりあえずはそれらを心の奥底に仕舞い込んでマリーにそう問いかけた。
するとマリーは、顔を歪めて目に涙を浮かべ、俺にぎゅっと抱きついてきた。
「お、おにい、ちゃん、こ、こわかったぁ。ひっ、ひくっ……」
「そっか……怖かったよね。ごめんね」
俺はマリーを抱き寄せて優しく頭を撫でる。
何でここが襲撃されたのかはまだ分からないけど、高確率で俺のせいだよな……
皆を守るって言ったのに、結局こんなことになっちゃうなんて。俺なりにできることはやってきたつもりだったけど、もっとできることがあったんじゃないか。
そう思うと悔しくて、俺は強く唇を噛んだ。
しかしそんな時、マリーが未だ泣きながらも顔を上げてくれる。
「でも、でもね、お兄ちゃんがくれたネックレスが守ってくれたよ! お兄ちゃん、ありがとう」
マリーはそう言って、にっこりと笑った。
「本当……? 役に立った?」
「うん! 怖い人たちがお店に入ってきて、もうダメだと思ったの。でもお兄ちゃんのネックレスを思い出して棒を抜いたらね、怖い人たちから守ってくれる盾が出てきたの! 誰も私に近づけなくて、凄かった!」
そっか、バリアはちゃんと役に立ったのか。……本当に良かった。
「役に立って良かった。皆を守れて良かった……」
「レオンありがとう。レオンのおかげで父さん達は怪我一つないよ」
「ええ、レオンのおかげね」
母さんと父さんも俺のところに来てそう言って微笑んでくれる。俺のせいで襲われたようなものなのに、それを責めずに俺のおかげで助かったと言ってくれるなんて……
俺は皆のその言葉を聞いて、思わず涙が溢れ出てくる。
「み、みんな、本当にごめん……ひっ、ひっく、お、俺のせいで、食堂が、家が、こんなことになっちゃって……」
「悪いのはレオンじゃないわ。ここを襲った犯人達よ」
「そうだよ。レオンは悪いことしてないだろう?」
「でも、でもっ……」
俺が母さん達の言葉を素直に受け入れられずに泣きながら首を横に振っていると、母さんがマリーごと俺を抱きしめてくれた。
「レオン、こうして皆無事なのだからいいのよ」
「でも、家が……」
「物はいつか壊れるものよ。直せば良いだけじゃない」
「最近古くなってきたと思ってたからね。この機会に新しくしようか?」
「それもいいわね!」
母さんと父さんはそう言って優しく微笑みかけてくれる。俺は二人のその顔を見て、より涙が溢れ出てくるのを感じた。
「あらあら、そんなに泣いたら目が腫れちゃうわ」
母さんがそう言って、手拭いで優しく涙を拭いてくれた。
俺はそれから、しばらく泣き続けていた。自分でも驚くほど涙が止まらなかったのだ。
今まで感じてきた漠然とした寂しさやプレッシャー、迷惑をかけている申し訳なさ、そういうものが一気に溢れ出てきたみたいだった。
そうして思いっきり泣いたおかげで、泣き止んだ時にはかなりすっきりとした。憑き物が落ちたような感じだ。
でも落ち着いてくると同時に、子供みたいに大号泣したことが恥ずかしくなってくる。
「やっと泣き止んだかしら? レオンの泣き顔なんて久しぶりね」
「ご、ごめん……」
「謝ることじゃないわ。レオンは随分早く大人になっちゃったから、子供らしいところがみれると安心するのよ。悲しい時や辛い時は、いつでも母さんのところに来ていいのよ?」
「も、もう大丈夫! 俺は大人だから!」
こんなに大号泣した後に全く説得力ないけど、俺は照れ隠しでそう言った。
「ふふっ、そうよね」
「じゃあ、レオンも落ち着いたところでとりあえずリビングに行こうか?」
俺は父さんのその言葉で、未だに食堂に立ったままでいることに気づいた。あれ、というか……ロジェは?
俺はロジェの存在を思い出して、恐る恐る後ろを振り返った。するとそこには……、温かい目をしてはこちらを見つめるロジェがいた。
……うわぁ!! めちゃくちゃ恥ずかしい!!
大号泣してるところ見られてたよ。しかも母さんの腕の中で!
「ロ、ロジェ、記憶を消してくれたり、しないかな?」
「目に焼き付けさせていただきました」
「やめてー!!」
「ふふっ……冗談でございます。私は目を逸らしておりましたのでご安心を」
ロジェが冗談を言うなんて、それに今笑った!!
俺はロジェのそんな珍しい様子に、思わず恥ずかしさも吹き飛んでしまった。
しかしロジェは、すぐにいつもの表情に戻ってしまう。
「レオン様、落ち着かれたのでしたら今後のお話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「う、うん。いいよ」
「かしこまりました。場所は移動されますか?」
ロジェがそう言って周りを見回すので、俺もその視線に従って食堂の様子を改めて見る。
机も椅子も全部壊れてるんだよね……
「母さん父さん、リビングとかもこんな感じなの?」
「ううん。荒らされたのはここだけよ。イアンが守ってくれたのよ。イアンは公爵家から派遣された護衛だったのね。全然気づかなかったわ」
「そうだ! イアン君は? 怪我してるんだよね?」
「ええ、リビングにいるわよ。治してあげてくれるかしら? 私たちを守ろうとして怪我をしたから……」
「もちろんだよ!」
泣いてる場合じゃなかったよ!
「じゃあ皆でリビングに行きましょう。無事な椅子を運んであるから皆で座れるわ」
そうして俺たちは皆でリビングに移動した。
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