第205話 家族旅行!
「レオン、今更だけどお会計は大丈夫かしら? さっき値段聞かなかったけど……」
やっと注文を終えて一息ついた時、母さんがこそっと聞いてきた。
「心配しないで。前にも言ったけど、今日の支払いは全部俺がするから大丈夫。公爵家に招待するからってことで公爵家からお金も預かってるんだ」
これは事実だ。実際にリシャール様から、公爵家で過ごす服を買うようにとお金を預かっている。
俺の家族が屋敷で悪目立ちしないように配慮してくれたのだろう。リシャール様って本当に尊敬できる素晴らしい方だ。
「そうなの?」
「うん。だから母さんは気にしなくていいよ。父さんもね」
「……そう。レオンが言うなら気にしないことにするわ。どうせなら楽しまなきゃね」
「そうだよ! 家族旅行みたいな感じだからね。楽しまなきゃ損だよ」
そうして話していると、料理が運ばれてきた。
「お待たせいたしました。こちらフレンチトーストでございます」
「私の!」
マリーが大きく手を挙げて、店員さんをキラキラの瞳で見つめた。すると店員さんは一瞬だけ笑み崩れたが、すぐに元の優雅な微笑みに戻りマリーにフレンチトーストを渡してくれた。この人絶対に良い人だ。
「蜂蜜はお掛けいたしますか?」
「蜂蜜って甘いやつ? 掛ける!」
「かしこまりました」
そうしてマリーの目の前には、蜂蜜が掛かった暴力的に良い匂いのフレンチトーストが完成した。やばい……めちゃくちゃ美味しそう。
そしてフレンチトーストに続いて皆の料理も次々と運ばれてきて、全て揃ったところで食べることにした。
「じゃあ食べよう! いただきます!」
「いただきます!」
人一倍大きなマリーの声に釣られて皆も挨拶をして、各々食べ始める。
「うぅ〜ん! 美味しい!」
「マリー美味しい? 良かったね。もしもっと食べたければおかわりもできるからね」
「うん、ありがと!」
マリーはそう言ったっきり夢中で食べ始めた。気に入ってくれたのなら何よりだ。
「まぁ、このジャムトースト絶品だわ! ジャムは甘くてなめらかで、さらにパンは柔らかくて味も良い。中心街のお店はここまで凄いのね……」
「ロアナ、このサンドウィッチも最高だよ。特にパンが美味しい」
母さんと父さんも気に入ってくれたみたいだ。
「このパンを仕入れることができたら、うちの食堂のカツサンドとコロッケサンドももっと美味しくなるよね」
「本当ね。でもこのパン高いんじゃない? うちの辺りでは見たこともないわよ。レオン、これはどこで売ってるのか知ってる?」
そのふわふわのパンね。それは中心街の一部のパン屋でしか売ってないんだ……多分製法を公開してないんだろう。だから今は中心街のお店の一部と貴族家の一部でしか食べられない。
もっと広めればいいのにと思っちゃうけど、まあ利益を考えたらそんなわけにはいかないのだろう。
「それは中心街でしか食べられないんだよ。だから高いかな」
「やっぱりそうなのね……」
「まあ、それなら仕方ないね。今味わっておこうか」
「そうね」
そうして皆で楽しんで昼食を食べて、大満足で昼食は終わった。
それからまた馬車に戻ってきて、次に向かうは服飾店だ。質の良い商品を売っている中古服屋に向かう。
「お兄ちゃん、お洋服買うの?」
「そうだよ。すっごく可愛いものを選ぼうね」
「本当に? 買ってもいいの? 私の服まだ雑巾になってないよ?」
マリーはそう言って本当に不思議そうな顔をしている。マリーの中で基本的に服を買う時は、着ていた服がボロすぎて雑巾になった時なのだ。なんか……世知辛いな。
「今日は特別なんだよ。今日着るお洋服と、明日着るお洋服の二着買うんだよ?」
「二つも?」
「そう、一緒に選ぼうね」
「うん!」
「母さんと父さんも二着ずつね。これから何かで必要かもしれないし、とりあえず公爵家で必要だから」
「わかったわ。でもどんな服が良いかわからないから、レオンが選んでくれるかしら?」
「父さんもわからないな。いつも同じ服しか着てないから……」
「わかった。じゃあ俺とロジェで選ぶよ!」
俺がそう言ってロジェに目線を向けると、ロジェは心強く頷いてくれた。
「お任せください」
そうして辿り着いた服飾店は、小さな店ながらも質の良さそうな建物と落ち着いた雰囲気のお店だった。出迎えてくれた店員さんは壮年の男性だ。渋い感じのイケメンなおじさんって感じ。なんかカッコいい。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「今日はここにいる三人の服を探しにきました。平民が着る程度の質だけど、その中では一番質の良い服が欲しいです。貴族の屋敷を訪れる時に着用する予定です」
「そうですね……それでしたら布の質は高いものにして、装飾がないものがおすすめでございます。貴族様方は装飾を沢山お付けになられます。ですのでそこを抑えることで、質の良いものを身につけつつ嫌味ではない服装となりましょう」
そういうものなんだ。でも確かにそれ良いな。
装飾がついてなければ着やすいだろうし、後から付け足してより豪華にすることもできるし。
「じゃあそれでお願いします。マリー、この子には可愛さも重視してあげてください」
「かしこまりました。では皆様、奥へお願いいたします」
そうして皆はお店の方に寸法を測ってもらい、合うサイズの服の中から俺とロジェの意見も合わせて服を選んだ。
マリーは可愛い服が二つも買えて大満足だ。
「あの、今購入した服に着替えさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「もちろんでございます。奥の試着室をお使いください」
そうして皆は購入した服に着替えて、どこかの裕福な家族に大変身して店を後にした。
母さんはウエスト部分が細くなっているデザインのワンピースで、露出は少なめで首元まで隠れるタイプのものだ。スカートの丈は足首が少し見える程度で、ワンピースの色は濃いめの緑。靴も新調して高さのないヒールのような靴。首もとや袖口に少しだけついたレースも良いアクセントになっている。
うん、見違えた。綺麗な母さんだと思ってたけど、こういう格好すると途端にお淑やかな感じになる。
父さんはグレーの細身のパンツに、上は黒の丈が短いジャケットだ。その中には白いシャツを着ている。ジャケットにもボタンなどはなく、タイなどもつけていなく、かなりシンプルな感じだ。
なんか父さんは、優しくて面倒見が良い文官の上司って感じだ。
マリーは薄い黄色のような色のワンピースだ。スカートの長さは膝丈で、ウエスト部分にはオレンジ色の帯が締まっていて、後ろでリボンになっている。
半袖の袖口は少しだけフリルがついていて可愛い。首元はブラウスのような感じで襟があって、その下にはいくつかボタンがついている。
うん、マリーは何を着ても可愛い。
「皆、すっごく良い感じだよ!!」
「本当!? 似合ってる?」
「マリーのために作った服みたいに似合ってるよ。うん、本当に可愛い」
「やったぁ!」
「レオン、私は変じゃない? こんな服初めて着たのよ」
「僕もだよ。なんか変じゃないかい?」
母さんと父さんは着なれない服が落ち着かないようで、仕切りに服を触って確かめている。
「全然変じゃないよ。完璧! そうだ、父さんは暑かったらジャケット脱いでもいいからね。公爵家に着く前に着れば良いよ」
「そうかい? じゃあ脱ごうかな」
「うん! 母さんは暑くない?」
「私は一枚だけだから大丈夫だけど……本当に変じゃないかしら?」
「大丈夫、母さん凄く綺麗だよ。ね、マルセルさん!」
マルセルさんは突然俺に話を振られて驚いたのか、一瞬間が空いたけどすぐに慣れた様子で母さんを褒めていた。
さすが、準貴族と言っても貴族は貴族だな。
そうして皆で着替えた服にはしゃぎつつ馬車に乗って市場を回り、最後に俺の店にやってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます