第203話 話し合いと貴族の動向

 そして夕食を食べ終わり、やっと皆が落ち着いた。


「それでレオン、なんの話なの? さっきから使ってるよくわからない魔法のこと?」

「そう。この世界にある属性は六つでしょ? でも俺はそれ以外にも使える魔法があるんだ。空間属性って言うんだけど、バリアっていう攻撃を防ぐ魔法と、アイテムボックスっていう大量のものをいつでも取り出せて仕舞っておける魔法と、転移っていう一瞬で移動できる魔法。この三つが使えるんだ」

「……そうなのね。もうレオンの魔法については驚かないわ。その魔法が使えることでレオンの身体に悪いことがあったりはしないのよね?」

「うん。それは大丈夫だよ」

「それならいいわ」


 俺は母さんのその言葉を聞いてなんだか泣きそうになった。俺の力じゃなくて、俺自身を心配してくれるって嬉しい。


「……ありがとう。皆には伝えておきたかったんだ。また話せないことを増やしちゃってごめんね。これも秘密にして欲しいんだけど……」

「いいのよ。レオンも一人で抱えているのは大変でしょう? 私たちにはなんでも話しなさい。隠されている方が悲しいわ」

「そうだよ。父さん達にはなんでも話していいんだからね」

「……うん。ありがとう!」


 二人のその言葉を聞いて、俺の顔には自然に笑みが浮かんだ。母さんと父さんも穏やかに笑いかけてくれる。

 本当に俺は幸せだな。


「お兄ちゃんは、他の人が使えない魔法が使えるってこと?」

「そうだよ」

「お兄ちゃん凄いね!」

「マリーありがとう。でも、今話したことは他の人に言っちゃダメだよ。言うと家族が危険になるんだ。前にお兄ちゃんが全ての魔法を使えることを言っちゃダメって言ったけど、それと同じだよ」

「うん! もちろん分かってるよ!!」


 俺がマリーにそう言い聞かせると、マリーはちゃんと分かっているという顔で少し得意げに頷いてくれた。

 マリーももう八歳だし段々と話も理解してきてるんだろう。マリーも大人になったな……


「マリーは偉いね」


 俺がそう言ってマリーの頭を優しく撫でると、マリーは嬉しそうに満面の笑みを浮かべてくれた。

 うん、可愛い。


「マルセルさんも秘密でお願いします」

「当然じゃよ」

「ありがとうございます。……それで、ここからが本題なんだけど、今度俺の魔法の検証を公爵家の裏庭でやるんだ。それに皆も参加して欲しい」


 俺が皆を見回しつつそう言うと、母さんと父さんは途端に焦った様子になる。

 今までの話ではほとんど動揺を見せなかったのに、自分が公爵家に行くとなるとまた話は違うんだな。


「レオン、もしかして、父さん達が、公爵家のお屋敷に行くのかい……?」

「うん。次の回復の日が検証する日だから、その前日に公爵家に一泊して、次の日が検証。その日も泊まって貰って次の日に帰る予定かな。マルセルさんもその予定でお願いします」

「そ、それは、絶対に行かないといけないの?」

「うーん、絶対ではないけどできれば来て欲しいかな。リシャール様も、一度俺の家族を屋敷に招待したかったみたいなんだ。あっ、リシャール様は公爵家の前の当主で、今は宰相様だよ」

「さいしょうさま?」

「宰相は国で二番目に偉い人、なのかな? ちょっと違うかもしれないけど、王様と一緒に仕事をしてる偉い人だよ」


 俺がそう言うと、二人はより青ざめて少し震え始めた。


「そんなに心配しなくて大丈夫だよ! すっごく良い人達ばかりだから。皆信頼できるよ。これからもお世話になるし、皆も一度顔を合わせておいた方が良いと思ったんだけど……」

「ほ、本当?」

「もちろん!」

「そ、そうなのね。レオンがそう言うなら大丈夫よね」

「父さん達も、頑張るよ」


 二人は俺の様子に少しだけ肩の力を抜いて、恐る恐る頷いてくれた。


「二人ともありがとう! マリーも公爵家のお屋敷に来てくれる?」

「お兄ちゃんが住んでるところだよね?」

「そうだよ」

「私行ってみたかったの! もちろん行くよ!」

「そうなの? マリーありがとう。……マルセルさんも来てくれますか?」


 俺はマルセルさんの方に身体を向けてそう聞く。


「公爵家の屋敷に行くなど本当は気が進まんが、これから先避けては通れんじゃろう。わしも行こう」

「本当ですか!? ありがとうございます」

「いいんじゃよ」

「じゃあ、今週の土の日に公爵家の馬車が迎えに来るのでそれに乗ってください。皆もそれに乗ってね」

「わ、分かったわ」

「つ、土の日だね」

「うん! 皆ありがとう」


 あとは伝え忘れてることないよな……あっ、バリアの魔法具渡してなかった。


「皆、これを肌身離さずいつも着けていてくれる? これ、さっき説明したバリアの魔法具なんだ。何かあった時に鉄の棒を引けば、バリアが発動して皆を守ってくれるよ」


 俺はアイテムボックスからバリアの魔法具を取り出して、皆に渡していく。


「そんなに凄いものいいのかしら……?」

「いいんだよ。俺が作ったんだし」

「お兄ちゃん、ここを引くの?」

「そうだよ。マリーが悪い人に何かされそうになったり、自分で危険だと思ったら引くんだよ」

「分かった!」


 マリーはそう元気に答えて、嬉しそうにネックレスをつけてくれた。うん、可愛い。似合ってる。


「マルセルさんもつけていてください」

「ああ、レオン、これはどんな仕組みなんじゃ?」


 マルセルさんはこの魔法具の仕組みに興味津々らしい。瞳が輝いている。さすがマルセルさんだな。


「それはまた後でゆっくり話しましょう。今日はもう遅くなっちゃいましたし」

「確かにそうじゃな。では、わしはそろそろ帰るとするかのぉ」


 マルセルさんがそう言って椅子から立ち上がると、マリーがマルセルさんの手を掴んだ。


「マルセルおじいちゃん、帰っちゃうの?」

「もう遅いからな。帰らないとじゃよ」

「また、泊まっていかないの?」


 え、マルセルさんうちに泊まったことまであるの!?


「マルセルさん泊まったことまであるんですか!?」

「ああ、マリーちゃんに引き止められてな」


 マルセルさんはそう言って、顔をデレっと崩れさせた。


「なっ……」

「マルセルさん、今夜ももう遅いですし泊まりますか? 床に布を敷くぐらいしかできないけれど……」

「そうか? じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかのぉ」

「マルセルおじいちゃん泊まってくれるの!?」

「ああ、そうするぞ」

「やったぁ! じゃあ、もっとお話ししよう! そうだ、この前森で拾った綺麗な葉っぱがあるの。見せてあげる!」


 俺を抜きにしてどんどん話が進み、マルセルさんはうちに泊まることが確定してしまった。マリーはその事実に大喜びで、自分の荷物が入った木箱までマルセルさんの手を引いている。

 なんか……マルセルさんにマリーを取られた気分だ。というか、俺よりもマルセルさんの方が実家に馴染んでないか!?

 こんなんじゃダメだ。転移を使えるようになったんだし、これからはもっと家に帰ってこよう!


 そうして実家での夜は、マルセルさんに対抗してマリーの気を引くのに必死になり過ぎていった。

 そして次の日の朝、魔力が回復した俺はマルセルさんをしっかりと家まで送り届け、公爵家に戻った。



 そして公爵家に戻った日の夕食後。

 リシャール様に家族皆とマルセルさんが参加してくれる旨を伝えた。


「そうか、それは良かった。レオンのご家族と会えるのは楽しみだな」

「はい。ただ私の家族は礼儀作法など全くできませんので、そこはご容赦いただければと思います」

「ああ、そこは気にしなくて良い。使用人も厳選するし気にするな」

「ありがとうございます」


 良かった。これでもう心配事はないな。あとは当日が来るのを待つだけだ。

 そう安心して、俺はお茶を飲み一息ついていると、リシャール様が途端に真剣な表情になった。


「レオン君、魔物の森についての情報を平民に公布したことによる変化について、レオン君にも話しておこうと思うのだが良いか?」

「……はい。それについてはこちらからお聞きしたいぐらいです」


 これはしっかりと聞かないとだな。


「それならば良かった。まずは平民の混乱状況だが、これは然程ではないらしい。まず信じていない層も一定数いること。さらに力を合わせれば立ち向かえるということで、安心感が持てる内容だったこと。この二つが混乱を引き起こすことを回避させたのだろう。これからは真実だということを知りその上で協力してもらうため、定期的に情報公開をする予定だ」


 母さんが言っていたのと同じような感じだな。これは結構上手くいったと言っても良いだろう。


「それから貴族については前にも伝えたが、魔物の森の現状に全く目を向けずに己の私利私欲ばかりを考えているバカな者ども、あいつらはやはりダメだな。国を混乱させて滅亡させることを企んでいるのではと、訳のわからない戯言を言い出した貴族までいた!」


 リ、リシャール様、随分とお怒りなのですね……。初めてこんなに怒ってるリシャール様見たよ。それほどイラついてたんだな。

 まあ確かに、その貴族達本当に、本当に馬鹿だな。馬鹿すぎて呆れたため息しか出ない。


「ただ、一部今まで信じてこなかった敵対貴族の家が意見を変えたため、効果がなかったわけではないだろう。あちらは味方が減ったことでとりあえず様子見を継続するようだ」

「そうなのですね。少しでもそういう家があるのならば良かったです」

「貴族達にはまだこれからも訴えかけていくが、あの馬鹿な貴族達は己の目の前にまで魔物が迫らなければ信じないのだろう。とりあえず国の方針としては、内戦にだけはならぬよう水面下で抑えつつ、魔物の森への対処に力を尽くすという今までの方針を継続することになった」


 確かにそれが一番だな。話が通じない人って世の中にはいるんだよね。全く何を言っても話が通じないし、相手の主張も理解できないんだ。そういう人が貴族として権力を持ってるなんて、厄介すぎるな。


「私にできることは少ないですが、何か力になれることがありましたらお声がけください」

「ああ、頼りにしているよ。よろしく頼む」

「かしこまりました」

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