第201話 一時帰宅
次の週の火の日。
今日は魔物の森についての情報を平民に公布する日だ。今日の夕方にはかなり情報が広がっているだろうから、俺は夜に一度実家に帰る予定でいる。皆の様子を見にいくためと、今週末の魔法の検証についての話をするためだ。
俺は王立学校での授業を終え、研究会には参加せず屋敷に帰った。
そしてまずは自分の部屋に籠り、家族全員分のバリアの魔法具を作る。家族皆には影がついてくれているとはいえ、万が一ということもあるからね。少しでも危険を排除するためには、バリアの魔法具を持ってもらっていた方が良いと思ったのだ。
そうしてバリアの魔法具を四人分作り上げ、俺はロジェに声をかけた。なぜ四人分なのかは、マルセルさんにも渡そうと考えたからだ。マルセルさんもかなり危ない立ち位置だろう。
「ロジェ、じゃあ俺は実家に行ってくるね。明日の朝早くにはこの部屋に帰ってくるから、それまでこの部屋には誰も入れないようにしておいてくれる? 転移して帰ってきたところが見られたら大変だから」
「かしこまりました。この部屋には私以外入れないようにしておきます」
「ありがとう。そうだ、今日の夜ご飯と明日の朝ご飯は準備されちゃうのかな?」
「はい。レオン様がお出かけになられていることは大旦那様とリュシアン様、それから私とごく一部の使用人しか知りませんので、レオン様はこのお部屋にいる前提となります。しかし、レオン様の本日のご夕食はお部屋で召し上がられる予定にしておりますので、他の者に不審に思われる心配はございません」
「そっか。それなら安心だね」
でも、その料理もったいないよな……。ロジェが食べてくれるのかな?
「その料理、ロジェが食べてくれるの?」
「いえ、そのまま廃棄するしかないと思っていたのですが……」
「そうなの? ロジェが食べても良いよ?」
「それはありがたいのですが、私にも夕食は用意されますので二人分は流石に食べきれないかと……」
「そっか……、確かにそうだよね」
仕方がないのか。でも、勿体無いよなぁ。
「そうだ、夕食ってもうできてたりするかな? 今運んでもらうことってできる」
俺がそう聞くと、ロジェは時計を確認して頷いた。
「そうですね。今の時間ならばほとんどの料理は仕上がっていると思われます」
「なら今できてる料理だけでいいから、俺の分だけ準備してもらえないかな? そしたら料理をアイテムボックスに入れちゃうから」
「確かにそれならば無駄にならずに済みますね。確認して参ります」
そうしてロジェが確認に行ってくれて、そのまま夕食を運んできてくれた。今日の夕食のメインはチキンステーキみたいだ。凄く美味しそうだな……
でも、今日は母さんと父さんの料理を食べるのだ。それにこの料理はマリーにあげたら喜ぶだろう。うん、喜んでるマリーを思い浮かべたら持ち帰り一択だ。
俺はあまりにも空腹を刺激する匂いに誘惑に負けそうになりながら、なんとか思いとどまり料理を別の器に移し替えた。アイテムボックスにたくさんの器やお皿を入れておいたのだ。
そして移し替えた料理をまたアイテムボックスに仕舞う。これでここに残るのは食事後のお皿だけだ。
「これで大丈夫かな? じゃあ、行ってくるね。また明日の朝帰ってくるよ」
「いってらっしゃいませ。お帰りをお待ちしております」
そのロジェの声を聞いて、俺は転移魔法を発動させた。
行き先は実家のリビングだ。今の時間は夜営業が始まる少し前だから、母さんと父さんは厨房にいてマリーは食堂で準備中のはず。だからリビングなら突然現れても誰かを驚かすことはないだろう。
更にイアン君はこの時間には仕事が終わってていないはずだ。
そう考えて俺は、この時間を選びリビングに転移した。
転移するとリビングには案の定誰もいなく、厨房や食堂からは物音や話し声が聞こえてくる。
なんか落ち着くな……やっぱり実家はいい。
俺はすぐにリビングを出てまずは厨房に向かう。厨房のドアを開けると、母さんと目があった。
「母さんただいま」
俺がそう言うと、父さんも勢いよくこちらを振り返り俺を凝視した。
「父さんもただいま」
「レ、レオン……? 本当にレオンかい?」
父さんは俺が本物か疑っているようだ。
「ふふっ……父さんなら俺が本物か分かるでしょ?」
「ああ、うん、本物だ。本物だけど……なんでここにいるんだ? え、レオンは中心街に帰ったんじゃ? あれ? それは夢だったのか? いや、これが夢?」
父さんは大混乱だ。俺が中心街に帰ったのが夢だったのか、今の現状が夢なのか悩んでいるらしい。
「父さん、どっちも現実だよ」
「じゃあ……どういうことだ?」
「わかったわ! 今度こそ学校を辞めることになったのね!? 大丈夫よ、いつでも帰ってきていいって言ったものね。レオンの居場所はいつでもここにあるのよ」
母さんは盛大な勘違いをしたらしい。俺に駆け寄って優しく抱きしめてくれる。凄く嬉しい……
でも誤解は解かないと。
「母さん違うよ。実は俺の魔法で転移っていう一瞬で遠い場所に移動できる魔法があってね。それで一晩だけ帰ってきたんだ」
「そんなに……、凄い魔法があるの?」
「そう、その魔法についての話があるから帰ってきたんだ。あと、魔物の森についての話を聞いた? それで皆が不安を感じてないかなと思って帰ってきたんだけど……大丈夫だった?」
俺がそう聞くと、母さんは首を縦に振った。
「大丈夫よ。最初は皆凄く不安がってて大変だったけど、力を合わせればどうにかなるんでしょう? その事実で皆は安心したみたいだわ。だから皆張り切っているの」
「そうなんだ。それなら良かった!」
そこまで混乱が酷くなさそうで良かった……。上手く公布してくれたんだろうな。
「ロアナ、今日の夜営業は休みにしようか? 準備しちゃったものは僕たちの夜ご飯と朝ご飯にすればいいし」
「確かにそうね。レオンの話の方が重要よね。じゃあ夜ご飯を作ってリビングに行きましょう」
そう言って父さんが料理を作り始め、母さんは食堂にいるマリーを呼びにいった。俺は母さんに付いていく。
「マリー、今日の夜営業はお休みになったわ」
「そうなの? ……え!? お兄ちゃん!!」
マリーは俺の姿を見た途端に凄く嬉しそうな声で俺を呼び、俺のところまで走ってきた。
「お兄ちゃんなんでいるの? 何かあったの?」
「大丈夫だよ。ちょっと用事があっただけ。これから皆にはお兄ちゃんから話があるから聞いてくれる?」
「お話? いいよ!」
「ありがとう。じゃあマリーはお兄ちゃんとリビングに行ってようか」
そうして俺とマリーは、リビングで夕食ができるまで待つことになった。
しかしリビングの椅子に座って少し経った後、マルセルさんもこの場に呼んだ方が早いんじゃないかと気づいた。家族に話してから次はマルセルさんなんて大変だし、時間も遅くなるだろう。
そう考えて俺はマリーにはリビングにいてもらい、厨房にまた戻った。
「母さん父さん、マルセルさんにも一緒に話したいからここに呼んでもいい?」
「料理はたくさんあるからいいけど……もう暗くなってきたわよ? 危ないわ」
「大丈夫。さっき言った転移で行けば一瞬だから」
「……よくわからないけど、レオンが大丈夫ならいいわ。あなたはもう子供じゃないものね」
母さんが少しだけ寂しそうにそう言って了承してくれたので、俺はその場で転移を使いマルセルさんの工房に向かった。マルセルさんの工房を往復するぐらいの魔力ならばまだ残っていたのだ。
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