第200話 魔法の検証について
次の日の夕食後。
俺はまたリシャール様の部屋にいる。夕食が終わった後すぐに呼ばれたんだけど、何かあるのかな?
そう疑問に思いながらリシャール様の部屋に入ると、リュシアンも部屋の中にいた。俺がソファに座ると早速本題に入る。
「レオン君、先程陛下にも昨日の話を報告したのだが、話し合いの中で魔法の検証を近いうちにやってはどうかという話になった」
「空間魔法の検証ですか?」
「そうだ。魔物をアイテムボックスに入れる検証や、何人までなら転移可能かなどの検証だな。いずれはしてみたいと話していただろう?」
「はい」
「それをできる限り早めにやってほしいということになったのだ。さらに魔物の検証については危険も伴うため、危険の少ない魔物を準備するから安全に検証してほしいとのことだ」
凄くありがたい申し出なんだけど……魔物なんて準備できるのかな? 魔物の森にしかいないんじゃないの?
「魔物は、魔物の森にしかいないのでは?」
俺がそう聞くと、リシャール様はかなり真剣な表情に変わる。
「いや、実はそうではないのだ。……これから話すことは他言無用だ。守れるか?」
また機密事項を知ることになるのか……。できれば知りたくないんだけど、リシャール様が話してくれるということはその必要があるからだろう。なら聞くべきだな。
「はい。私の中だけに留めておきます」
「お祖父様、私もです」
「ありがとう、よろしく頼む。実は王宮の端に、ごく一部の者しか知らない施設があるんだ。その施設の名は魔物研究所。比較的弱く制御できる魔物を連れてきて、その生態などを調査している。基本的には魔物を効率的に倒すため、また魔物の弱点を探すための施設だ」
そんな施設あったのか……驚きだ。こんな近くに魔物がいたなんて。
「そのような施設があったのですね……」
「私も全く知らなかったです」
「魔物の持ち出しは禁止されているし、公には全く明かされていないからな。だが今回は特別に、弱い魔物を一匹いただけることになった。その魔物を使いレオン君の魔法の検証に役立ててほしい」
これは凄くありがたい話だ。魔物を使った検証は魔物の森に行った時にこっそりやろうと思ってたけど、俺は魔物に対する知識なんてないし困ってたんだ。
安全にできるに越したことはない。まずは魔物を転移させられるのか、その後にアイテムボックスに入れられるのかを検証だな。
「ありがとうございます。是非、検証をやらせてください」
「ああ、精一杯助力しよう。魔物については日時が決まり次第、私が責任を持って検証場所まで運ぶ」
「よろしくお願いします。検証場所はどこが良いのでしょうか?」
「そうだな……この屋敷の裏庭でいいだろう。あまり使われていない一角があるから、そこを外から見えないようにすれば問題ないと思う」
「かしこまりました。ではその場所は、私が土魔法で囲って外から見えないようにいたします」
土魔法で囲って、さらにその内側をバリアで補強すれば誰も入ってこられないだろう。
「ああ、よろしく頼む。では日時はいつが良い?」
「そうですね……。転移魔法の人数上限の検証をするのであれば、集める方達の予定に合わせる必要があります。しかしそもそも、誰が参加可能なのでしょうか? 私の空間魔法を明かせる人しかダメですよね」
「そうなるな」
そうすると、リシャール様とリュシアン、マルティーヌ、ステファン、カトリーヌ様、フレデリック様、このぐらいだよな。
さすがに国王と王妃であるアレクシス様とエリザベート様は呼べないだろうし……
……あっ、俺の家族はどうだろうか? 後マルセルさんも。呼んでも良いかな?
「リシャール様とリュシアン様にはご参加いただけますか?」
「もちろんだ」
「当たり前だろう」
「ありがとうございます。後はカトリーヌ様とフレデリック様にもお声がけしたいです。それからステファン様とマルティーヌ様にもお声がけいたします」
「わかった。カトリーヌとフレデリックには声をかけておこう。それからジュリアンも王都にいるから声をかけておく」
そうだった。フレデリック様の下のお兄さんであるジュリアン様は、王城で役人として働いてるんだったな。全属性のことも知っているはずだったし協力してもらおう。
「よろしくお願いいたします。それから……、私の家族とマルセルさんにも声を掛けていいでしょうか?」
「確かにそうだな。その方々は全属性のことも知っているしいいだろう。後はレオン君の全属性を知っているこの屋敷の一部の使用人も呼んでおこう。君の従者であるロジェもだな」
確かにそっか。ロジェも呼べるな。空間魔法のことはまだ知らせてなかったから今日この後知らせておこう。
「かしこまりました。ではタウンゼント公爵家の方々と一部使用人の方々、ステファン様とマルティーヌ様、マルセルさんと私の家族ということになりますね」
意外と大人数だな……。家族皆も流れで巻き込んじゃったけど良かっただろうか。
でも集まるのは特に信用できる方々だけだし、ここらで一度顔を合わせておくのもいいだろう。これから一度も交流なしってことはないだろうからね。ここは皆に頑張ってもらおう。マルセルさんは……まあ、貴族だし大丈夫だろう。
……後で謝っておこう。
「日程はいつならば良いでしょうか? タウンゼント公爵家の方々に合わせたいと思います」
「そうだな……それならば回復の日がいい。今週は流石に早すぎるから、来週の回復の日でどうだ?」
「かしこまりました。ではその予定で皆に連絡いたします。私は家族とマルセルさん、それからステファン様とマルティーヌ様への声掛けをすれば良いですか?」
「ああ、他の者には私が伝えておく」
「よろしくお願いします」
家族とマルセルさんには転移で伝えに行って、連れてくるのは乗合馬車に乗ってもらおうかな。多分あまり転移での移動はしない方が良いだろう。移動時間の矛盾が生まれるし、誰も乗合馬車に乗っているところを見てないのに移動したことになっちゃうし。
それに、マリーは馬車が好きみたいだった。この前乗合馬車に少しだけ乗せてあげた時、かなりはしゃいで楽しそうだったんだ。
うん、また乗せてあげよう。
「家族とマルセルさんには私が転移で伝えに行き、こちらに来てもらうときは乗合馬車で来てもらうことにします。検証の前日と検証の日は屋敷に泊めていただくことはできますか……? もし難しければ私のお店の従業員寮の部屋を使うことにしますが……」
「もちろん客人として迎え入れるから心配しなくて良い。レオン君の両親を屋敷に招待したという名目で良いだろう。実際一度は招待しようと思っていたのだ。更に乗合馬車ではなく、迎えの馬車も遣わすぞ」
迎えの馬車も寄越してくれるのか。……多分、マリーは凄い馬車に大喜びだろうな。
「ありがとうございます!」
俺は乗り心地の良い馬車にはしゃいでいるマリーを思い浮かべて、満面の笑みでお礼を言った。
「ああ、任せておけ。ではその予定でよろしく頼む」
そうしてリシャール様からの話は終わり、俺は自室に戻った。
部屋に戻ってロジェにお茶を入れてもらい一息ついてから、ロジェに魔法のことを伝えることにした。
「ロジェ、俺って全属性魔法が使えるでしょう?」
「はい。存じ上げております」
「でも、全属性以外にも使える魔法があるんだ」
「……全属性以外、ですか?」
「うん。空間属性って言うんだけどね、バリアと転移、それからアイテムボックスっていう魔法が使える」
俺はそう言って徐に立ち上がり、まずは転移を見せることにした。ソファから脱衣所までの転移だ。
「レッ、レオン様!?」
俺が脱衣所に転移すると、部屋の方からかなり焦った様子のロジェの声が聞こえる。確かに突然消えたら焦るよね。
俺はロジェを安心させるために、すぐに部屋へのドアを開けた。するとそこには、俺の方を見て驚愕の表情を浮かべるロジェがいた。
凄いな……ロジェの表情がここまで崩れるのは初めてかも。
「驚かせてごめんね。こんな感じで一瞬で別の場所に移動できる魔法なんだ。これが転移だよ」
「レ、レオン様、お身体は大丈夫なのですか?」
「うん。大丈夫だよ。ロジェも一緒に転移してみる?」
俺がそう聞くと、ロジェはかなり悩んでいる様子だったけれど小さく頷いた。怖さよりも好奇心が勝ったらしい。
「よろしくお願いいたします」
「じゃあ手を繋ぐね。別に繋がなくても良いんだけど、こっちの方が魔力を使わないんだ」
「かしこまりました」
そうして恐縮そうに差し出されたロジェの手を握り、俺は転移魔法を使った。今度は部屋の隅まで転移だ。
転移した後のロジェはしばらく呆然としていたけど、だんだんと状況を把握できたようで瞳が輝き始めた。
やっぱり皆テンション上がるんだな。
「レオン様、本当に素晴らしいです。このような魔法も使えるなど驚きました」
「ありがとう。でもまだ後二つあるよ?」
そうして俺はアイテムボックスとバリアについてもロジェに説明した。ロジェは終始驚いている様子で、特にアイテムボックスを羨ましがっていた。なんでもこの能力があれば従者としてレベルアップできるから、らしい。やっぱりロジェはどこまでも仕事人間だ。
そして魔法の説明が終わったところで、来週の回復の日に魔法の検証を行うことと、俺の家族とマルセルさんが屋敷に来ることを報告した。そして俺はいつもより少し遅い時間にベッドに入り、眠りに落ちた。
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