第189話 今後の予定と買い物

「じゃあ、これからの予定を話すよ。まずは今日これからなんだけど、とりあえず皆の服と時計を買いに行きたいんだ。それが終われば今日は終了。明日から数日は、ここでの生活に慣れてもらうために仕事はなしで、皆は市場の場所を覚えたりお店までのルートを覚えたりしてね。それで数日後からは仕事を始めてもらう。その時にはまた俺がここに来るから、どんな感じで仕事をしてもらうかはその時に説明するよ」


 俺がそう言うと、一番に声をあげたのはヨアンだ。


「レオン様、数日は仕事なしとのことですが、私は研究を続けても良いでしょうか? もうお店の厨房は使えるのですか?」

「うん。お店はほとんど改装が終わって、あとは裏庭に増築している更衣室とお風呂だけだから、お店の中は普通に使えるよ。厨房にはダリガード男爵家に置かせていただいてた物も運び込んである。でも毎日仕入れて届けてもらってた材料は、とりあえず止めてるんだよね。だからヨアンも数日は休みで良いよ?」


 俺がそう言うと、ヨアンはかなり落ち込んだ様子になった。休んで良いと言われて落ち込むって、ここにも社畜がいた……


「レオン様、もしよろしければ材料を明日から再開することは可能でしょうか? 研究をしたいのです……」

「それは勿論良いけど……、休まなくて良いの?」

「はい! 私は研究がしたいのです!」

「そ、そっか。じゃあ手配しておくよ」

「ありがとうございます!」


 ヨアンは手配しておくと言った途端、凄く嬉しそうな顔になった。まあ、ヨアンが楽しそうだから良いか。何か、ロジェと似たタイプな気がするな。

 早めに冷蔵庫とか設置してあげよう。


「他の皆は休みで良いからね。何か質問ある人はいる?」

「あの、服や時計は自腹でしょうか?」


 そう聞いたのはキアラだ。


「ううん。その二つは支給するから大丈夫。汚れたり古くなったり壊れたりしたら、その都度言ってくれれば新しいものを支給するから遠慮しないでね。ただ、わざと壊したりはダメだけど」

「かしこまりました。ありがとうございます!」

「他にはある?」

「はい。先程お店にもお風呂と更衣室があるとのことでしたが、何のためでしょうか……?」


 そうなんだよね。お風呂はこの従業員寮を作っちゃったら、そこまで必要じゃなくなった。でもまあ、使い道はあるだろう。


「更衣室はできるだけ清潔なお店にするために、お店までは私服で行って、更衣室で仕事着に着替えて仕事をして欲しいんだ」


 そうだ、だから私服も必要だよね。皆の私服は……うん、ちょっとボロボロすぎてお店のイメージも悪くなりそう。私服も最初は支給しよう。


「私服も最初は支給するから、そのあとは自分で買って欲しい。この辺でも悪目立ちしない程度の質があれば良いから。それからお風呂なんだけど、例えば仕事で汗をかいたとしたら、休憩中にお風呂で軽く流して着替えてからまた仕事をするとか、そういうふうに使ってくれるとありがたいかな。お店のイメージ的に汗だくとかは避けたいからね」


 俺がそうして説明すると、納得できたのか頷いてくれた。


「他には何かある? ……もうないかな? それなら早速、買い物に行くので良い?」

「はい」

「もちろんです!」

 

 そうして、皆で買い物に行くことに決まった。基本的にこれから皆には歩いて移動してもらうから、今日も歩きで行こうと思ったけど、荷物が多くなるので急遽馬車にした。今日はちょうど馬車も二台あるし。


 皆で馬車に乗り込んでまず訪れたのは、服飾品店だ。貴族向けと言うよりも、従業員向けの服を多く取り扱っている。

 店内に入るとドレスを身にまとった、四十代ほどに見える綺麗な女性が出てきてくれた。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなものをお探しでしょうか?」

「はい。お店の従業員の服を探しています。店長と警備担当、給仕担当、それから料理人の服が欲しいです」

「かしこまりました。新しくお店を開店されるということですか?」

「はい」

「それはおめでとうございます。既存の服でよろしければいくつか種類はございますが、お店の制服として新たなデザインでお作りすることも可能です。いかがいたしますか?」


 確かに、お店独自のおしゃれな制服とかもありだよね。でも俺ってその辺のセンス皆無だからなぁ。この世界ではどんな服装が良いのかよく分かってないし、やっぱり既存のものが一番無難で良い気がする。

 とりあえず既存のものにして、後でちょっとしたワンポイントを入れるとかは、また考えようかな。


「とりあえず既存のもので良いです。着替え込みそれぞれ三着ほど見繕っていただけますか?」

「かしこまりました。では皆さん、奥へどうぞ」


 そうして皆はそれぞれ採寸をされて、合うサイズの服を選んだ。合うサイズがなかった人は少し調節して、数日のうちに届けてくれるようだ。


「では、こちらが本日お渡しできる服でございます。それからこちらの男性とそちらの女性の分、合計六着は数日以内にサイズを直し、指定の場所までお届けいたします。料金は全て本日お支払いいただくのでよろしいでしょうか?」

「はい。それで大丈夫です」

「かしこまりました。では少々お待ちください」


 そうして服を受け取り馬車に積み、お金を支払って店を後にした。大量に購入したからか、店員さんは凄く笑顔で見送ってくれた。


「よしっ、とりあえずこれで仕事着は買えたかな。あとは靴と私服、時計、それから警備のための剣と簡易の鎧も買わないとだ。まずはどこから行くのが近いかな?」


 俺がそう聞くと、すぐにロジェが答えてくれる。


「はい。ここから馬車で数分ほどの場所に中古の服屋がありまして、そこでは裕福な平民が着る程度の中古服が多く売られています。まずはそこで私服を揃えるのが良いのではないでしょうか?」


 中古服か。確かにサイズが合えば安いし質の良いものもあるだろうし。皆の私服にはいいかも。


「じゃあそこに行こう」

「かしこまりました」


 俺がそう決めると、ロジェはすぐに頷いて御者に行き先を告げてくれる。そして馬車が動き出した。


「皆、これから行くお店では私服を一人三セット選んでね。今日は仕事着と同じで支給品として俺が支払う。でもこれからは、私服は自分で買ってもらうことになるから、なるべく長持ちしそうなのを選んだり工夫してね」

「かしこまりました。……あの、レオン様。私服まで頂いても良いのでしょうか? 先程の仕事着はとても質の良いものでしたし、かなり高いのではないでしょうか……? 私服は今着ているものがありますし、新しく買う必要はないと思うのですが……」


 そう恐る恐る聞いてきたのはエマだ。確かに皆が今まで着ていた服と比べたら、さっきの仕事着は天と地ほどの差がある値段だろう。この世界って安い服と高い服の差が激しいし。

 そんな服を何着も買ってたら心配になるのもわかる。でも皆はこれから貴族向けのお店で働くことになるんだし、その辺の価値観も変えていかないとだよね。


「お店は貴族向けのスイーツ店だから、イメージも大事なんだ。従業員の皆が勤務中じゃなくて通勤中とはいえ質の低い服を着ていたら、高級なイメージが損なわれるでしょ? だから服を揃えるのは必要なことなんだよ」


 俺がそう言うと、皆は納得したように頷いてくれた。


「かしこまりました。ではこれからは、私たちも身だしなみに気をつけます」

「うん、ありがとう。何かわからないことがあったらアンヌに聞くといいよ」


 俺がそう言うと、アンヌは心得たように頷いてくれた。


「お任せください」


 そうしてそれから中古服のお店に行き私服を購入し、その後も次々とお店を回り数時間かけて買い物は終了した。

 馬車の中は荷物でいっぱいだ。でも、これでとりあえず準備は整っただろう。


 ……凄く長かった。お店を一店舗始めるのがこんなに大変だなんて。最初はロニーの将来の希望を聞いて安易な気持ちで始めたけど、こんなに大変だとは思わなかった。

 でも大変だけど、かなり楽しいんだよね。お店を始めて良かったと今では心から思っている。


 そうして達成感を得つつ、俺たちは馬車に揺られて従業員寮に戻った。そして皆と荷物を下ろして、俺はそのまま公爵家に帰った。

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