第187話 入寮
「アンヌ、エバン、ティノ、出迎えありがとう」
「レオン様、本日は足をお運びくださりありがとうございます。準備は整っております」
「ありがとう。じゃあ新しい従業員を紹介するね。左からリズ、エマ、キアラ、ポール、ドニ、リビオだよ。詳しい自己紹介はまた後でかな」
「かしこまりました。皆さん、私はアンヌです。よろしくお願いします」
「俺はエバン。よろしくな」
「僕はティノだよ。よろしくね」
そうして三人が皆に向けて簡単な挨拶をすると、皆も慌てて頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「よしっ、じゃあとりあえず、荷物を運び込んじゃおうか。それが終わったら食堂に集まろう。ロニーとヨアンは俺が案内するから、他の皆はアンヌとエバンにお願いしても良い?」
「かしこまりました」
「お任せください」
そうして皆で馬車から荷物を下ろし、部屋に荷物を運び込む。皆のことはアンヌが上手く統率を取ってくれているようだ。皆が良い子だっていうのもあるけど、やっぱりアンヌは使用人を育てていたこともあって、凄く頼りになるな。まとめるのがうまい。
俺がそうして皆の様子を見ていると、ロニーが不思議そうな顔で聞いて来た。
「レオン? 何で僕たちだけ別なの?」
「皆は二階だけど、二人の部屋は一階なんだ。だから別で案内しようと思って」
「そうなの?」
「うん。重要な役職を任せる人の部屋は一階にまとめたんだ。だからロニーとヨアン、アンヌ、エバンは一階だよ。ティノも厨房が近いほうが良いってことで一階」
「そうなんだ。なんか何もしてないのに偉くなったみたいだね……」
ロニーがそう言って微妙そうな顔をした。確かにロニーは人の上に立つ経験ってないのか……。それにも慣れてもらわないとだな。実際に偉い立場になるんだし。
「ロニーにはまずお店の店長を任せたいと思ってるし、実際に偉い立場になるんだよ。それにも慣れないとだね」
「……うん、そうだね。今はかなり違和感あるし慣れないけど、これから店長として皆に認められるように頑張るよ!」
ロニーは腹を括ったようで、覚悟を決めたような顔でそう言った。凄く頼りになるな。
「うん、頼りにしてるよ。よろしくね。じゃあ荷物を運んじゃおうか。二人の部屋はこっち」
そうして俺は二人を部屋の前まで案内し、それぞれの部屋の鍵を渡した。この建物は各部屋に鍵がついてるんだ。
それによってフロア別などで男女を分ける手間も無くなったし、貴重品の管理の心配も無くなったし、凄く便利だ。やっぱり鍵は必要だよね。
ロニーとヨアンは受け取った鍵を使って、部屋のドアを開けた。ヨアンは普通に部屋に入っていったけど、ロニーはドアを開けたところで固まっている。
「ロニー、入らないの?」
「レオン……、こんなに広い部屋を一人で使っていいの!?」
ロニーはそう言って、後ろにいた俺に対して勢いよく振り返った。部屋の広さにかなり驚いているようだ。
別にそこまで驚くほど広くはないんだけど、前のロニーの部屋と比べたらかなり広いからね。あの部屋は本当に狭かった。木箱のベッドを置いたら、ほぼ足の踏み場がなくなるレベルだったからな……
「一人一部屋だからいいんだよ」
「でも、この部屋ベッドが三つは入るよ。三人で使えるよ?」
ロニーがそう心配そうにそう聞いてくる。
この部屋にベッドが三つも入ったら、それこそ足の踏み場なんてなくなるよ。俺はそう思って苦笑しつつ、ロニーに言った。
「ロニー、部屋はベッドを置くためだけのものじゃないから。他の荷物とか、あとは机とテーブルも置かないとでしょ? それに、部屋はたくさんあるから一人一部屋でも問題ないよ」
「そっか……。でもなんか、この辺の空きスペースが勿体無くない?」
ロニーはそう言って、部屋の中の空いているスペースを指差した。俺からしたら空きスペースがない部屋の方がおかしいんだけど、ロニーからしたら空きスペースがあることがおかしいみたいだ。
確かに、今まで住んでたところが孤児院とあの部屋だからな。孤児院は四人部屋だったけど、ほぼベッドで部屋が埋まってた。
この常識の差は、追々慣れていくしかないな。
「スペースがあれば私物をたくさん置けるし便利だよ。ロニーはこれから働くにつれて私物も増えるだろうし、このぐらいの広さは必要だよ」
「確かに、そうなのかな?」
「うん。まあそのうち慣れていくよ。じゃあどんどん荷物を入れちゃおう」
そうしてロニーが常識の壁にぶつかりつつ、部屋に荷物を運び入れた。ヨアンは貴族の屋敷に住んでいたので、かなりスムーズだった。
「じゃあ二人とも、食堂に行こうか」
「うん」
「かしこまりました」
そうして三人で食堂に向かうと、食堂ではティノがお昼ご飯を準備してくれていて、凄く良い匂いが漂っていた。お腹空くな……。
俺たちが食堂に着くとちょうど他の皆も片付けを終えて食堂に来たようで、全員が揃った。
「アンヌ、皆は荷物を片付けられた?」
「はい。一人一部屋というところに驚いてはいましたが、しっかりと部屋を決めて荷物を運び込みました」
「それなら良かった、ありがとう。じゃあとりあえずお昼にしようか。この匂いの中お預けは辛いからね」
俺が笑いながらそう言うと、皆がぶんぶんと縦に首を振ってくれた。皆お腹が空いてるんだろう。
孤児院の様子では、お腹いっぱいまで食べられることはなさそうだったもんな。
「かしこまりました。では、レオン様はこちらでお待ちください。配膳は給仕志望の者に練習でやらせます。エマとキアラ、私と一緒に厨房へ来なさい」
「かしこまりました」
そうしてアンヌは二人を連れて厨房に行ってしまった。
「じゃあ、他の皆は席に着いて待とうか。席順は……後で決めるとして、今日は適当に座っちゃって。話がしたいから離れずに座ってね」
「はい」
そうして俺たちが席に座って待つこと数分、三人にティノも加えた四人が食事を運んできてくれた。
パンと肉の煮込み料理に野菜炒めという普通の料理だ。でも、凄く美味しそう。
皆は目の前に運ばれたその料理を見て、わかりやすく顔が緩んだ。喜んでくれたみたいで良かった。
しかし料理が次々と運ばれてくるにつれて、皆がだんだんと心配そうな表情になっていく。どうしたんだろうか? 苦手なものでもあったのかな?
「皆どうしたの? 嬉しくない?」
「いえ、凄く嬉しいのですが……、その、こんなに沢山の豪華な料理を、本当に食べても良いのでしょうか……?」
恐る恐るそう聞いてきたのはドニだ。逆に量が多すぎて心配になってるのかな? 確かに、何か裏があるんじゃないかと考えちゃうのかも。
「勿論だよ。これぐらいの量がこれからの普通になるからね。目の前にあるのは一人分だから食べられるだけ食べて。もっと食べたければ多分おかわりもあると思うよ?」
俺がそう言うと、ティノが頷いてくれた。
「はい。育ち盛りの年齢の子ばかりだとレオン様から聞いていたので、少し多めに作ってあります」
「ティノありがとう。……そういうことだから、もっと食べられるならおかわり自由だよ。まあ、食べ過ぎには気をつけて欲しいけど」
「……ほ、本当ですか!?」
「もちろん!」
「ありがとうございます!!」
この量がこれからの普通で更におかわり自由と聞いて、ドニはかなり嬉しそうだ。他の皆も似たような表情で、あまり表情が変わらないリビオでさえ顔を緩ませている。
……皆、どんどん食べて大きくなるんだぞ。
俺がそんな親目線なことを考えていると、昼食の準備が整ったようだ。
「じゃあ皆、まずはお昼を食べよう。いただきます」
「いただきます!!」
俺の号令に従って皆が一斉に食前の挨拶をし、食事が始まった。でもさすがアシアさんの教育の賜物か、がっつきすぎずに最低限の作法は保って食べているようだ。それでも凄いスピードだけど。
俺も皆に少し遅れて食べ始める。まずは煮込みからだ。フォークで肉を押さえてナイフで切ると、肉はかなり柔らかくあまり力を入れずにスッと切れる。そして口に入れると、口の中で肉の旨みとソースの旨みが合わさって、絶品だ。本当に美味しい。
「ティノ、凄く美味しいよ。やっぱりティノは料理が上手いね」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
俺の食べる様子をニコニコと観察していたティノにそう言うと、ティノは途端に破顔した。
でもお世辞でもなんでもなく、本当に美味しい。
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