第186話 皆の引っ越し

 今日はロニー達が中心街にやって来る日だ。

 俺は昨日のうちに寮に行きアンヌ達にそのことを伝え、ティノにお昼ご飯からは皆の分を頼んでおいた。くれぐれも普通のご飯でよろしくと、念押しも忘れていないので大丈夫だろう。


 そして今はお昼の少し前、俺はロジェと共に馬車で中心街入り口の広場まで来た。乗合馬車乗り場から少し離れたところに馬車を止めて辺りを見回すと、ロニーと皆の姿が見える。ロニー、リズ、エマ、キアラ、ポール、ドニ、リビオ、皆いるみたいだ。

 まだこっちには気づいていないようだな。皆は緊張した様子で直立不動で立っている。


「ロジェ、皆を呼んでくるね」

「私も参ります」


 そうしてロジェと一緒に皆のところまで行くと、最初に気づいたのはロニーだ。


「あっ、レオン!」

「ロニー久しぶり。スムーズに会えて良かった。皆も久しぶり、まずは馬車に乗ってくれる?」

「うん。ありがとう」

「か、かしこまりました」


 皆は結構緊張しているようだ。まあ孤児院にいたのなら、馬車に乗ったのも中心街に来たのも初めてだろうし、緊張するのも当たり前か。

 俺も最初に来た時は、ワクワクしつつも少し緊張してたよな。マルセルさんに連れて来てもらったんだ。何だか懐かしい。

 そんなことを思い出しつつ皆を馬車に案内する。


「荷物を後ろの馬車に置いて、前の馬車に乗ってね」

「こ、こんなに立派な馬車に乗っても良いんですか!」


 そう嬉しそうに声を上げたのはエマだ。ロニーの妹のリズもその隣で目を輝かせている。

 この馬車は公爵家のお忍び用の馬車だから、立派ではあるけど豪華ではない。だけど、乗合馬車と比べたら天と地ほどの差があるから嬉しいよね。俺も最初は感動してた……。なんか皆を見てると最初の頃を思い出すな。


「勿論だよ。どんどん乗ってね」


 そうして皆が荷物を置いて馬車に乗り込むと、馬車はロニーの家に向かって進み出した。


「じゃあ改めて、皆中心街に来てくれてありがとう。これから長い付き合いになると思うけど、よろしくね。ちなみに俺と一緒にいる人は従者のロジェ。これから接することもあると思うから覚えておいて」

「ロジェさんですね! かしこまりました!」


 そう元気に言ったのは警備担当予定のドニ。警備担当はドニとリビオの二人なんだけど、ドニは背が低めでかなりがっしりとした体型なのに対し、リビオはかなり背が高くシュッと精悍な感じで対照的だ。もちろんリビオもガタイはいいんだけど、背が高いのでシュッとした印象になる。

 性格も対照的で、ドニは元気で活発な感じなのに対し、リビオは落ち着いて寡黙な感じだ。


「ロジェと申します。レオン様にお仕えしておりますので、これから関わることもあるでしょう。その際はよろしくお願いいたします」


 ロジェはそう言って綺麗な礼をした。


「よろしくお願いします」


 そう言って皆も頭を下げる。孤児院の教育のおかげで最低限の礼儀作法は身についているから、皆が孤児院出身だとは思えない。本当にあの孤児院、いやアシアさんが凄い。


「じゃあ早速これからの予定だけど、まずはロニーの家に行く予定なんだ。早速今日から引っ越してもらおうかと思って、それでも大丈夫?」


 俺がロニーにそう聞くと、ロニーは嬉しそうに笑って頷いた。


「うん! 今日から皆と一緒に暮らせるなんて嬉しいよ。ありがとう」

「それなら良かった。じゃあこのままロニーの家に行くね。そしてロニーの荷物も全部馬車に乗せたら、次は料理長のヨアンの家に行くよ。そしてヨアンの荷物も持って、従業員寮に向かう。とりあえずそんな予定かな。その後の予定はまた従業員寮に着いてからね」

「かしこまりました。ヨアンさんと会えるの楽しみです!」


 嬉しそうにそう言ったのは、料理人志望のポールだ。ポールはヨアンと関わることが一番多いだろうし、仲良くなってくれたらいいな。


「ヨアンは料理人として本当に凄いから、たくさん教えてもらうと良いよ」

「はい。頑張ります!」

「それから、従業員寮には皆の朝昼夜のご飯を作ってくれる料理人もいるんだ。後で紹介するけど、その料理人も凄いから時間がある時に教わると良いよ」


 二人に教わって技術を磨けば、スイーツも食事も極められるだろう。料理人志望の人にとってはかなり良い環境かもしれないな。


「朝昼夜のご飯も頂けるのですか!?」


 俺がそんなことを考えていたら、キアラがそう驚いたように言った。キアラは給仕志望のハキハキと話す女の子だ。


「うん。だから皆は食事の心配はしなくて良いからね」

「ですがそれは、あまりにも高待遇すぎませんか? 住む場所と食事まで提供していただけるなど……」


 確かにその辺の食堂とかに雇われることを考えると、破格なのかな? でもまあ、やっぱり職場によるよね。貴族の使用人は皆その仕組みだし。商会とかでもそういうところが多いだろうし。

 それに、ちゃんと皆の給金から差し引く予定だから大丈夫だ。


「ううん。皆の給金から寮の管理費と食事代は引くことにするから大丈夫だよ。あっ、もしそれが嫌で自分で好きなものを食べたいって人がいたら言ってね」

「そんなことないです! むしろ食事を三食出していただけるなんて、本当にありがたいです」


 キアラがそう言うと、皆が同意するように激しく頷いた。


「それなら良かったよ。凄く美味しいと思うから期待しててね」

「楽しみです」


 そうして話しているうちに、ロニーの家の近くに着いた。ロニーの家の前まで馬車が入れないので、手前の大通りまでだ。


「ロニー、荷物運ぶ手伝いはいる?」

「うん。でもそんなに荷物はないから、ドニとリビオの二人だけ手伝ってくれる?」

「わかった!」

「もちろんだ」


 そうしてロニーは二人を連れて家まで行き、しばらくして幾つかの木箱を持って戻ってきた。


「それで全部?」

「うん! これで引っ越し完了だよ。大家さんにも話して鍵を返して来たから大丈夫」

「それなら良かった。じゃあ次に行くね」


 そうしてまた馬車を動かして、ヨアンの家に来た。ヨアンの家の場所は俺も知らなかったけど、事前に知らせてもらっていたのでロジェがわかっていた。

 ヨアンの家は馬車でかなり近くまで行けたので、馬車が止まるとすぐにヨアンが家から出て来てくれる。多分頻繁に外を確認してたんだろう。

 俺は皆には馬車に乗っていてもらって、ヨアンを案内するために馬車を降りた。


「ヨアンお待たせ」

「いえ、迎えに来てくださってありがとうございます。荷物はこちらで全部ですので、馬車に載せればすぐに行けます」

「わかった。じゃあ後ろの馬車に荷物を置いてね。それで前の馬車に乗って」

「かしこまりました」


 そうして俺はヨアンと共に馬車に乗り込んだ。皆は大柄で強面なヨアンに一瞬びっくりしたようだけど、ヨアンが皆に笑いかけたことですぐに警戒心は解けたようだ。

 ヨアンって意外と親しみやすいから、すぐに慣れるだろう。


「じゃあ紹介するね。こちらがお店で料理長をしてくれる予定のヨアン。スイーツの開発を一人で頑張ってくれてるんだ」

「ヨアンさん! 僕はポールです。料理人になりたいと思っていて、これからよろしくお願いします!」

「そうか。これからよろしくな」


 ポールのかなりテンション高めのそんな挨拶を皮切りに、皆が次々とヨアンと挨拶を交わした。

 そうして皆が挨拶を終えて少し打ち解けた頃、やっと馬車は従業員寮に辿り着いた。

 馬車の中から寮を見上げて、まず声を上げたのはロニーだ。


「……え!? こんなに綺麗な建物なの!? それに、大きいし新しいし……」


 ロニーはそう言って呆然と建物を見上げている。他の皆も同じような感じだ。


「そうだよ。この建物丸ごと従業員寮だからね」


 俺がそう説明しながら馬車から降りるように皆を促していると、すぐにアンヌとエバン、ティノが出迎えに来てくれた。

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