第185話 ダリガード家への感謝
「じゃあ引っ越しのことだけど、いつ頃引っ越せるかな? できれば早い方がありがたいんだけど……」
「そうですね……明日一日荷物をまとめて、明後日には」
「じゃあ明後日に引っ越しでお願いしても良い? そうだ、ロジェ、馬車って借りられるかな?」
「もちろんでございます」
「良かった。そしたら明後日のお昼前ぐらいに、ヨアンの家に馬車を手配しておくよ」
「かしこまりました。ありがとうございます」
ヨアンが引っ越したら、そのついでにお店の厨房に拠点を移しちゃうのもありだな……。本当は改装が完全に終わってからにしようと思ってたんだけど、店内の改装は既に終わっていてあとは外だけなんだ。だから中で仕事をする分には問題ないと思う。
それにお店には冷蔵庫なども入れる予定だから、そっちの方が便利だろう。
「じゃあヨアン、引っ越したあとは仕事場所をお店に移してくれる?」
「もう使えるのですか?」
「うん、店内の改装は終わったんだ。それに箱の中を冷やす魔法具、冷蔵庫って言うんだけど、それも設置する予定だから便利になると思う」
「箱の中が冷えているのですか? ……冬のように、ですか?」
「そうだよ」
「それは、素晴らしいです! ではそちらに移動します」
ヨアンは輝くような笑顔を見せた後、すぐに仕事場を移すことに頷いた。かなり食い気味に頷いた。
俺はその様子に思わず苦笑してしまう。早めに冷蔵庫を設置しないとだな。
「ありがとう。じゃあ、ピエール様とキャロリン様に話してくるよ。ヨアンも一緒に行く?」
「ご一緒させていただきます」
そうして俺たちは屋敷の使用人に伝言を頼み、少し待った後にピエール様とキャロリン様と応接室で会うことができた。
「ピエール様、キャロリン様、お久しぶりでございます」
「久しぶりね。実家に帰っていると聞いたけれど、中心街に戻ってきたのですね」
「はい。先日戻って参りました」
「怪我もなくて良かったわ」
「ありがとうございます」
キャロリン様がそう言って優しく笑いかけてくれる。
「レオン君がいない間、ヨアンの作ったスイーツを食べることができて幸せだったよ」
「そう言っていただけると、本当にありがたいです」
本心もあるだろうけど、俺に気を遣わせないためにも言ってくれてるんだろう。本当に良い方達だ。これからもずっと仲良くしていきたいな。
「それで、今日は話があるんだったかな?」
「はい。実はお店の改装が終わり厨房が使えるようになりまして、仕事場所をお店に移そうと思っております。長い間厨房をお貸しいただき、本当にありがとうございました」
俺はそう言って深く頭を下げた。
「また、ヨアンのことを紹介いただいたことにも、本当に感謝しております」
この二人がヨアンを紹介してくれなかったら、スイーツ店は夢のまた夢だったと思う。本当に感謝しかない。
「そんな、いいのよ。私たちもこれからたくさんのスイーツが生まれるのを、楽しみにしているわ」
「ああ、レオン君のお店に行くのが楽しみなんだ」
「ありがとうございます。お二人には定期的にスイーツをお届けいたします。新作もいち早くお届けいたしますので、ぜひ楽しんでいただければと思います」
「凄く楽しみにしているわ。レオン君のスイーツを楽しむために、できる限り長生きしないとね」
「本当だな」
二人はそう言って優しく笑いあった。素敵な方達だな。
「レオン君、これからもいつでもこの屋敷に来て良いからね。ステイシーに会いに来るのでも、特に予定がなくても」
「ええ、たまには一緒にスイーツを食べましょう」
「……はい! ぜひまたご一緒させてください」
そうしてピエール様とキャロリン様との話を終えて、その後はヨアンがお二人と話して、ダリガード男爵家を辞去することになった。
ちょうど馬車もあったので、荷物も全て引き上げる。
そうして馬車に乗り込もうとしたとき、ステイシー様が見送りに来てくれた。
「レオン、ここの厨房から仕事場をお店に移すのですね」
「はい。ステイシー様のお姿が見えなかったので、学校でお伝えすれば良いかと思っていたのですが……」
「少し出掛けていて先ほど帰って来たのです。レオンが来なくなると、……寂しいですね」
ステイシー様はそう言って、少しだけ寂しそうに笑った。その笑い方がなんだか大人びていて、ちょっとドキッとしたのは内緒だ。
「また王立学校でいつでも会えますよ。それに私たちは友達ですから、予定がなくても遊びましょう」
「……そうですね! では、またここに遊びに来てください。ユキもレオンに会えたら喜びます」
「かしこまりました。ではまた学校で」
そうしてステイシー様にも挨拶をして、ダリガード男爵家を後にした。
ついでにヨアンを馬車で送ることにしたので、ヨアンも馬車に乗っている。
「ヨアン、引越しの手伝いとか必要?」
「いえ、そこまで沢山の荷物はないので問題ありません。明後日までには準備を整えておきます」
「それなら良かった。よろしくね」
「かしこまりました」
ヨアンが引っ越せたら、あとはロニー達だけだな。そういえば、ロニー達ってそろそろ中心街に来るよね。
いつだっけ……あれ? もしかして、ちょうど明後日かも。それならちょうど良いな。皆一緒に引っ越しちゃおう。
確かロニー達が中心街に着くのはお昼の便で、その頃に馬車で迎えに行く約束をしたんだよな。迎えに行ってからロニーの家に行って荷物をまとめて、それからヨアンのところに行って皆で寮に行く方が良いかな?
でも、そんなに荷物乗らないかな?
「ロジェ、今思い出したんだけど、ロニー達が中心街に来るのもちょうど明後日なんだ。だから皆を中心街の広場まで迎えに行って、それからロニーの家に荷物を取りに行って、その後でヨアンを拾って寮に行くことってできる? 流石にそんな馬車に乗らないかな?」
「そうですね。人数は何人でしょうか?」
「えっと……」
俺とロジェ、ロニーとポール、ドニ、キアラ、リビオ、エマ、リズ、あとヨアン。九人と引越しの荷物だ。流石に無理かも……
「俺とロジェも含めて九人と皆の引越し荷物だよ」
「それは……流石に難しいかもしれません。しかし、荷物だけを別の馬車に乗せれば可能です。そのようにいたしますか?」
「それもありなの?」
「もちろんでございます」
「じゃあそれでよろしく。ヨアン、ということだから、ヨアンのところに行くのはお昼過ぎになると思う」
「かしこまりました」
よしっ、これで従業員は皆寮に住める! 皆に寮に入ってもらったら、早めに仕事の割り振りをしないとだな。給金の話もしないとだし。でも最初の数日は、生活に慣れてもらう意味でも仕事はなしの方が良いのかも。うん、とりあえずそうしよう。
そして皆が慣れてきたら仕事を始めてもらおう。というか、最初は研修からだな。
屋台もやめたくないから、ローテーションで屋台もやってもらわないとだし、考えることはたくさんだ。
大変だけど頑張ろう。お店が形になってきてワクワクするし、今ならいくらでも頑張れそうだ!
そうしてワクワクしつつ馬車に揺られ、ヨアンを送って公爵家まで帰った。
明日はアンヌ達に皆が来ることを伝えて、ティノに食材費を渡して明後日のお昼から皆の分も作ってもらうようにしないと。それから寮のルールとかも決めた方が良いのかな?
そんなことを色々と考えつつ、疲れていた俺は寝る準備をしてベッドで横になると、すぐに眠りに落ちた。
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