第183話 ステイシー様との再会

 そうしてマルティーヌ達と楽しい時間を過ごした次の日、俺はヨアンのところに行くことにした。

 午前中は屋台をやっているはずなので、驚かせるために広場の手前で馬車を降りて、ロジェと共に歩いて屋台まで行く。

 服装が良いものだからちょっと目立ってるけど、まあ下級貴族程度の服装だしそこまで問題にはならないだろう。


 そうしてロジェと共に歩いていくと、俺の屋台が見えてきた。おおっ、数人並んでるみたいだ。結構繁盛してるな。

 俺は屋台の裏側に周り、後ろからバレないようにヨアンに近づいた。そして待っているお客さんがいなくなったところで、ヨアンに話しかけた。


「ヨアン、久しぶり!」

「うわぁっ!!」


 ヨアンは俺のその言葉に飛び上がって驚き、恐る恐る後ろを振り返った。そして俺の顔を見た瞬間に安堵の溜息を吐いた。


「レオン様……悪戯はやめてください! 本当に驚きました」

「ははっ、ヨアンごめんね。そんなに驚くなんて思わなかったんだ」

「次はやめてくださいよ!」

「わかったわかった」


 ヨアンはガタイが良い大男なのに、意外とビビリなのかな。俺はヨアンの意外な一面を知ることができて、ちょっとだけ嬉しくなった。


「レオン様、中心街にお戻りになったんですね」

「うん。数日前に戻ってきたんだ。今日はヨアンにその報告と、研究の進みを聞こうと思って」

「かしこまりました。では屋台を片付けてダリガード男爵家に向かいますので、レオン様は先に向かわれていてください。ステイシー様もレオン様に会いたがっておられましたよ」

「そっか、じゃあ先に向かってるね。ヨアンは急がなくていいから後から来て」

「かしこまりました」


 そうしてヨアンとまた別れて、俺は馬車でダリガード男爵家に向かった。



 ダリガード男爵家に着くと、久しぶりだからかステイシー様が出迎えに来てくれる。


「ステイシー様、お久しぶりです」

「レオン、帰って来たのですね! レオンに話したいことがあるのです。実はユキがとても大きく成長しました。是非会ってあげてください。ユキも喜びます!」


 俺がステイシー様に挨拶をすると、ステイシー様は凄く嬉しそうに弾んだ声でそう言うと、俺の手を取り屋敷の中に入った。

 えっと、急展開すぎる。どこに連れて行かれてるんだ? それに、ユキって誰だっけ?

 そうして俺が考えを巡らせている間に、一つの部屋に辿り着いた。


「ここです!」

「えっと、ステイシー様? こちらは何の部屋でしょうか?」

「私の部屋ですよ?」


 ステイシー様の部屋!? 二人きりで入ったらまずい予感しかしない! ステイシー様のメイドや護衛はいないみたいだし……

 俺はそう思って、とりあえずロジェに絶対俺のそばを離れないように目線で伝えた。そして部屋のドアも開けたままにしてもらう。


「ステイシー様、お部屋に入るのは無作法ですので、応接室に案内していただけませんか?」


 俺がそう言うと、ステイシー様は何かに気づいたような顔をして、途端に少し恥ずかしそうな様子になった。


「も、申し訳ありません。ついレオンが来たことが嬉しくて……暴走してしまいました。殿方を私の部屋にお連れするのは、はしたなかったですね。では応接室にご案内いたします」


 そうしてステイシー様は、今度はしっかりとメイドさんに指示を出して俺を応接室に案内してくれた。

 ステイシー様って少し他の人と違う感性を持ってるんだけど、基本的には礼儀正しくて普通に良い子なんだよね。友達としてなら仲良くしていける気がする。


 そうして応接室に移動して、今度こそしっかりとユキを見せてもらった。


「レオン、ユキは大きくなったでしょう? あの頃は少ししか咲いていなかった花も、沢山咲きました。ユキは毎年この時期が、一番綺麗でたくさんの花を咲かせてくれるのです」


 そうしてステイシー様が見せてくれたユキは、確かにとても可愛くて綺麗な花を咲かせていた。そうだよ、ユキってこの花のことだったよ。

 毎年ってことは、ユキは多年草なんだな。


「とても可愛いですね」

「そうなのです! 是非ユキに挨拶してあげてください」


 挨拶……、花に挨拶するのって、地味にメンタル削られるんだよな……。まあ、やるしかないか。


「ユキちゃん、お久しぶりです。レオンです」


 俺がそう言ってユキに頭を下げてからステイシー様を見ると、未だ期待の眼差しが俺に向けられている。

 えっと……まだ何か言わないとダメなの? これ以上は辛いよ!


「……とても、可愛らしく、なりましたね?」

「レオン、ユキがとても喜んでいます!」


 良かった。俺のセリフは正解だったみたいだ。


「良かったです」


 そうしてステイシー様とユキと共に、夏の休みのことについて少しだけ話して、俺は厨房に向かった。

 ふぅ〜、久しぶりに話すのは楽しかったけど、ちょっと疲れた。ステイシー様の夏の休みは基本的に料理をしていたらしい。レシピを考えていたら、同時に料理にもハマったみたいだ。

 その代わりレシピ開発は進んでないみたいだけど、まあステイシー様のお店は早くても卒業後だから、あと四年半はある。まだまだ時間があるから良いのだろう。


 厨房に行くと、既にヨアンが待ってくれていた。


「ヨアン遅くなってごめんね。ステイシー様と話してたんだ」

「いえ、謝られるようなことではありません。待っている間に準備を進めておきましたので」

「準備?」

「はい。実はレオン様から研究を任されていたものが形になりましたので、今出来立てを食べていただこうかと」

「本当に!?」


 凄い! ヨアン凄すぎる!


「私の中ではかなり美味しいものが作れました。あとはレオン様に判断していただければと思います」

「わかった。しっかり確認するね」

「ありがとうございます。では、あと数十分お待ちください」


 どんな仕上がりだろうか。ちゃんとスポンジケーキになっているのかな。すっごく楽しみだ。

 スポンジケーキになってたら、やっとショートケーキが作れる! やっぱりイチゴがいいけど、盛り付けるフルーツを変えて季節のケーキって売り出しても良いよね。

 この世界でショートケーキが食べられるなんて……。本当にワクワクする! 本当に嬉しい!


 よしっ、これを皮切りに次々と日本にあったケーキを再現したい。他に何のケーキがあったっけ?

 ええと、チーズケーキ、チョコレートケーキ、タルト、パイ、モンブラン、ミルクレープ、シフォンケーキ、ティラミス、シュークリーム、ロールケーキ、カップケーキ……こんな感じかな。


 この中でスポンジケーキがあれば作れそうなのは、ロールケーキとカップケーキ。


 ……あれ? もしかしてこれだけ? 他のやつは、どうやって作られてたのかわからないかも。え!? そんなことある? ケーキって基本的にはスポンジだよね?

  

 でもよく考えたら、チョコレートケーキはチョコがない。チーズケーキは……、全く作り方がわからない。レアチーズケーキにスポンジが使われないのは何となくわかるけど……、ベイクドチーズケーキとかスフレチーズケーキとかは、何で作られてたの? スポンジにチーズ混ぜれば良いの?

 うわぁ〜、またしても壁にぶち当たったな。


 でも、他には作れそうなのもある。うん、ミルクレープはクレープの皮を重ねるやつだから多分できるし、シフォンケーキもスポンジケーキと似てる、気がする。スポンジケーキをそのまま売り出せばシフォンケーキになるかな?

 まあ、誰も正解は知らないから、極論美味しければ良いんだ。モンブランもカップケーキに栗のクリームが乗ってるイメージだから、作れる可能性はある。


 そう考えたらとりあえず十分だろう。この世界にはケーキが全くないんだから、一種類だけでも流行るはずだ。

 とりあえず、種類を増やすよりも一つ一つのクオリティを上げることを重視するかな。

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