第172話 冷蔵設備の完成
そうして次の日。
午前中にスイーツ作りの準備だけをして、お昼の後に急いでスイーツを作ってマルセルさんのところまで走った。
スイーツはカゴに入れるフリをしてアイテムボックスに入れているので、いくら走っても問題はない。
とりあえず、すぐに作れるパンケーキやクレープを作って持ってきた。
「マルセルさん、レオンです」
俺は工房に辿り着くとカゴをアイテムボックスから取り出して、マルセルさんに声をかけた。すると、マルセルさんがすぐに出迎えてくれる。
「そろそろ来るかと思って準備しておいたぞ。もうケースの中も冷えてるはずじゃ」
「本当ですか? ありがとうございます!」
「そのカゴの中身がスイーツか?」
「はい。とりあえずいくつか作ってきました」
そうして俺は工房に入り、ケースの中にスイーツを入れた。ケースの中には棚を作ってあったので、いくつかの場所に離して置いてみる。
これで一時間ぐらいは待ちかな。
「マルセルさん、これで一時間ぐらい待って、どうなったかを確かめてみます」
「ああ、それが良いじゃろう」
じゃあ、その待ち時間何してようかな……。マルセルさんは何してるんだろう? 俺はそう思ってマルセルさんの手元を覗き込んだ。何かを紙に書いてるみたいだ。
「マルセルさんは何をしてるんですか?」
「わしは冷風機を考えてるんじゃ。昨日売れるかもしれないと言ったじゃろう?」
「ああ、部屋を冷やす機能の方ですよね?」
「そうじゃ」
「冷風機って名付けたんですね。管の周りを冷やす方法が成功したので、売れるでしょうか?」
「これは売れると思うぞ。ちょっとこれを見てくれんか? こんなふうに管の周りを氷で冷やして、さらにその外側を箱で覆えば良いと思ったんじゃ。そうすれば湿度が部屋中に広がらないじゃろう?」
マルセルさんが紙に絵を描きながら、そう説明してくれる。確かにそうすれば、部屋の中には管の中の湿度が上がらない冷たい空気が循環して、湿度が上がった外側の箱の中の空気は閉じ込められるのか。完璧じゃん!
というかこれ、ショーケースにも適用できるよね。ショーケースの管を冷やす機能の外側も箱で覆って、室内の湿度が上がらないように改良しよう。
「それ完璧だと思います。ショーケースにも応用できますね! 冷風機の形としては、鉄の管を作ってその管を氷で外から冷やす。そして氷の湿度が放出されないように管の周りを箱で覆う。管の両端だけその箱から飛び出るようにして、風魔法で管の中を空気が通るようにする。そういうことですよね?」
「その通りじゃ」
「じゃあ、魔法は俺が込めるので作ってみましょう!」
「本当か? じゃあとりあえず作ってみよう」
そうしてマルセルさんは器用に冷風機を作り出した。やっぱりマルセルさんが魔鉄を変形させる様子は綺麗だ……
俺は魔力量に任せてるから効率も何も考えずに、とにかくグニャグニャにしてから作り上げる。でもマルセルさんは魔力を節約するために、最低限の変形で作り上げるんだ。それが洗練されていて綺麗なんだよな。
俺がそんなことを考えつつマルセルさんの手元に見惚れているうちに、マルセルさんは製氷機を使って氷を作り出して、氷を管の周りの箱の中に入れた。箱は閉めれば隙間が全くわからない、完璧だ。
排水機能もしっかり付いている。排水機能は出来れば外に繋げた方が良いけど、まあ、それは設置場所によっても変わるか。
「レオン、この魔石に風魔法を込めてくれるか? 送風機より少し弱いくらいの風にしてくれ」
「わかりました。……はい、これで大丈夫だと思います」
「ありがとう。ではいくぞ」
マルセルさんがそう言って魔石をはめ込むと、管の中から空気が出てくる。おおっ、既に少し涼しい風だ。
「マルセルさん、完璧ですね!」
「そうじゃな」
返事はそっけなかったけど、マルセルさんは完成品を見て嬉しそうに笑った。やっぱり新しいものを作れた時って嬉しいよね!
「これは魔法具登録でしょうか?」
「そうだろう。レオン一人でいけるか?」
「え? 何で俺ですか?」
「これはお主のアイデアじゃろう?」
「いやいやいや! これは絶対にマルセルさんです! このケースの冷蔵設備の方もマルセルさんです!」
今回は俺ほとんど何もしてないからね? マルセルさんがほとんど考えたから!
「だが、お主が冷蔵設備が欲しいと言わなければできなかったし、やはりレオンの方が……」
「それはおかしいです! とりあえずこの冷風機は絶対にマルセルさんです。それは譲りません!」
俺がそう言ったのに、マルセルさんはまだ納得いかない顔をしている。
「じゃあ、仕方がないから一緒に登録するか?」
「それはっ……」
「レオンと一緒に登録……、それも良いな」
俺が一緒に登録するのも断ろうとした時、マルセルさんが一緒に登録できることに凄く嬉しそうな顔をした。
うっ……そんな顔されたら断りづらいじゃないか!
「レオン、仕方がないから一緒に登録しよう。確かに二人で意見を出し合ったのだしそれが良いじゃろう」
マルセルさんはそう言いながら顔が緩んでいる。断れない、絶対に断れない。そんなに嬉しそうな顔されたら断れないよ!
今回はマルセルさんが一人で登録すべきだと思うんだけどな。……まあいいか。そこまでこだわって、マルセルさんを落ち込ませることでもないだろう。
「じゃあ一緒に登録しましょう。冷風機とショーケース、後は厨房に置く冷蔵庫も作りましょう」
「そうじゃな」
マルセルさんはそっけなくそう答えつつ、顔はすっごく笑顔だ。俺はその顔にいたずら心が湧いて、少しだけマルセルさんをいじることにした。
「マルセルさん、顔がゆるゆるですよ。そんなに嬉しいんですか?」
俺がそう言うとマルセルさんは一気に顔を引き締めた。しかしその後すぐニヤッと俺の方を見て言った。
「孫と一緒に名を連ねられるのは嬉しいに決まってるじゃろう?」
「なっ……」
そんなにストレートに言われると照れる。孫って思ってもらえてるの嬉しいし……。俺がからかってたはずなのに!
俺は顔が少しだけ赤くなるのを感じつつ、話を変えることにした。何が嬉しくてマルセルさんと顔を赤くしなきゃいけないんだ! どうせなら可愛い女の子とか、俺の天使マリーとやりたかった!
心の中でそう叫んで、気を紛らわせた。
「マ、マルセルさん、冷蔵庫は基本的に木造にするか鉄製にするか、どちらかですよね? どちらにしても繋ぎ目部分を魔鉄にすれば、密閉にも問題はないですか?」
俺がそう言って話を逸らすと、マルセルさんはニヤッとしつつも俺の話に乗ってくれた。
「そうじゃな。枠の部分だけを魔鉄にしてそれ以外は他の材質で良いじゃろう。鉄板でも木板でも良いな。そこは個人の自由で良い。基本的には木造にして、鉄板を内側に貼るのでも良いな」
「ではそこは選んでもらうとして、基本的な形は作ってしまいましょうか」
「そうじゃな」
「このケースよりも横幅は短くして、縦に長くしたら良いと思うんですけど。流石にこの横幅は邪魔ですよね」
「確かに厨房に置くとしたら、横に長いのは邪魔じゃな。では縦長で作ってみよう。今は木板ならばあるからそれで良いか?」
そうしてマルセルさんと冷蔵庫を作り上げた。うん、完璧だ。これお店の厨房にも入れよう。
「完璧ですね」
「ああ、この三つで登録しようかの。運ぶには馬車が必要じゃな。いや、ここに来てもらう方が良いか……」
「え? ここに来てもらうことなんて出来るんですか?」
「ああ、魔法具登録も技術登録も、持ち運びが難しい場合は来てもらうことも可能じゃ。事前に申請してお金はかかるがな」
「そうなんですね。そうなると来てもらった方が良いかもしれませんね」
「では申請しておこう。風魔法は知り合いに込めてもらったことにするから話を合わせるんじゃぞ」
「分かってます」
そうして開発している間に、一時間どころか二時間近く経っていた。
「レオン、もうかなり時間が経ってるぞ。スイーツは良いのか?」
「あ! 開発に夢中で完全に忘れてました……取り出してみますね」
そうして俺は順番にスイーツを取り出していった。カゴにカトラリーも入れてきたので、それを取り出してマルセルさんにも渡す。
「マルセルさんも味見手伝ってください。まずはこれが、管の近くに置いておいたものです」
冷えた空気が出てくる場所に置いておいたものだ。他には一番上の段に置いておいたもの、二段目や三段目、それから空気が管に戻る場所の近くに置いておいたものがある。
それを順番に食べていくと……。うーん、空気の通り道の近くのやつは、ちょっとだけパサパサ気味な気がする。
「マルセルさんどう思いますか?」
「そうじゃな。これとこれ、それからこれの方が美味いな。まあ、そこまで気になるほど変わらないが」
「やっぱりそうですよね」
多分風が直に当たるのがダメなんだろう。ちょっと魔法を調整して、スイーツに直接当たらないようにしよう。
後は使いながら調整だな。もう少し湿度があった方が良ければ、氷が溶けた箱の中の空気を少し入れるとかもありだろう。
「魔法を調節して、スイーツに直に風があたらないようにしようと思います」
「それが良いかもしれんな。後の細かい調節は、使う店ごとにする方が良いじゃろう」
「はい! 後は店で調節します」
そうしてガラス窓付きのショーケース、冷蔵庫、冷風機を作って開発は大成功で終わった。
「魔法具登録をするのは早くて数日後になる。日程がわかったら連絡するので良いか?」
「はい、お願いします。……そういえば、マルセルさんって俺の家知ってましたっけ?」
「そういえば……、知らんな」
マルセルさんはそう言いつつ、愕然とした顔をしている。
「やっぱりそうですよね。そうだ、一度うちに来ませんか? 家族にも紹介したことなかったですよね?」
「……良いのか?」
「もちろんです!」
俺がそう言うと、マルセルさんは今までで一番嬉しそうな顔をして頷いた。
「じゃあ、よろしく頼む」
「はい! いつが良いですか?」
「わしはいつでも良いぞ」
「うーん、じゃあ明日にしましょう。俺が迎えに来ますね」
「わかった。お主の家族は何人家族なんじゃ?」
「母さんと父さん、それから妹のマリーです。従業員のイアン君もいるかもしれません」
「そういえば、食堂をやってるんだったか?」
「はい! なので明日の昼営業が終わった後の時間になると思います」
「わかった」
そうしてマルセルさんを家族に紹介する約束をして、俺は足取り軽く家に帰った。
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