第171話 冷蔵設備の開発 後編
「マルセルさん、凄いです!」
「そこまで褒められることではないわい。お主の方が余程凄い。それに、これだとただの中が見える箱じゃ。これを冷やすのが難しいんじゃろ?」
「確かにそうでした……」
この中に氷を入れたらそこそこは冷えるはずだけど、やっぱり氷を入れ替える手間があるし、そもそも店頭でお客さんがいるところで、氷を入れ替えてるのもどうなんだろうって思うよね。氷を入れ替えてる時は中の冷気もどんどん逃げていくし。
そうなると、氷を中に入れないで冷たい空気だけを送り込んだ方が良いのかな? ケースの中に管のようなものを繋げて、その管から冷気が入るようにすればできる気がする。
「マルセルさん、氷を直接中に入れるのではなくて、冷気だけを風魔法で送り込むのはどうでしょうか?」
「確かに……、その方が良いかもしれんな。ただどうやって冷気を作り出すかじゃが……」
「例えばなんですけど、ケースの中に管を繋げてその管の先に氷を入れる箱を作ります。そしてその箱から風魔法で冷気を送り込むのはどうでしょうか? 氷を直接入れるより満遍なく冷えると思いませんか?」
俺がそう言うと、マルセルさんは少しだけ考え込んだ後に頷いた。
「確かに良いかもしれんな。それならば管を二本にして、空気を循環させるのが良いじゃろう。とりあえず作ってみなければわからんな」
「確かに二本にして循環させるのは良いかもしれません。とりあえず作ってみます!」
「ああ、まずはさっき作ったケースを変形させて、ケースと箱を繋げる管を二本作るんじゃ。そして風魔法を魔石に込めて、ケースから管を通って箱、箱からまた管を通ってケースに空気が戻るように、循環するようしてみてくれ」
「わかりました! やってみます」
そうして俺は魔鉄をまた変化させて、ケースの右側上部から魔鉄の管が出るようにして、その管の先に大きめの箱を作った。そしてその箱から今度はケース左側下部に管を通す。箱の上部は隙間ゼロの扉にして、氷を出し入れできるようにする。
そして魔鉄部分が完成したら、魔石に風魔法を込める。風魔法は風量を調節して、ケース全体に冷気が回るように、空気を動かすような魔法にしていく。ケースの左側下部から空気を取り込んで、右側上部から空気を排出するようにして……
よしっ、完璧だ!
「マルセルさんできました! 製氷機ってありますか?」
「あるぞ。ついでに魔力を込めておいてくれ」
「わかりました」
そうして俺はマルセルさんから製氷機を受け取り、魔力を満タンまで込めて氷を作った。そしてその氷を先程作った箱の中に入れる。
後は風魔法の魔石をケースに嵌め込めば……
「これで完璧だと思います!」
「じゃあしばらく待ってみて、どれほど冷えているか確認しよう」
マルセルさんはそう言って、俺が作った魔鉄ケースを隈なく観察し出した。俺もそれに倣ってケースを観察する。どこか改善できるところはあるかな……
「レオン、氷が溶けた時の水を排出する設備も必要じゃ」
「あっ、忘れてました。作っておきます」
俺は溶けた氷が一箇所に集まるように少しだけ魔鉄を変形させて、水が外に排出される仕組みを追加した。その下にはとりあえず桶を置いておく。
「他に気になるところはありますか?」
「いや、結構よくできてると思うぞ。ただこれだと、湿度の問題が解決してないな。それに水を排出する場所が隙間となっておる」
確かにそうなんだよね。氷を直接入れてなくても、氷が溶けて冷えた空気を流し込んでるんだから、同じようなことだ。それに水を排出するところは必ず必要だし……
それを解消するとしたら、どうすれば良いんだ?
「確かにそうなんですが、どうやって解消すれば良いのでしょうか?」
「そうじゃな……」
そう言ってから共に考え込むこと数十分。最初に口を開いたのはマルセルさんだ。
「レオン、思いついたぞ! この管の周りを冷やすのはどうじゃ? そうすれば中の空気も冷たくなるのではないか?」
「確かに……鉄が冷やされれば空気も冷えますよね! それなら湿度は上がらないです」
「今ケースの中は冷えてるか? 温度を確認したら次の改良じゃ」
「はい!」
そうして俺は、ケースの引き戸を開けて中に手を入れてみた。するとひんやりとした冷気が漂っている。
「うわぁ……めちゃくちゃ冷えてます。涼しい……」
「本当か?」
マルセルさんも俺の隣にやってきて、ケースの中に手を入れた。
「これは……、良いな」
「これってケースを冷やすのだけじゃなくて、部屋を冷やすのにも使えませんか?」
「確かにそうじゃな……。もしこれから試すものが上手く行った場合は、空気を冷やす機能だけで売れるかもしれんぞ」
「今のこの状態じゃダメなんですか?」
「ああ、これだと氷と送風機で部屋を冷やすのとあまり変わらんからな」
「確かに、そうですね」
「今貴族の間では、氷と製氷機を使って部屋を冷やすのが主流になっているらしいんじゃ。だがその方法には、常に湿度の問題が付き纏う。書物のあるところでは使えなかったりな。そこが改善できれば売れるじゃろう」
そうだったのか。王立学校はまだ送風機だけだったから、貴族の冷房事情は知らなかった。季節的にも一番暑い夏は休みだし。
「じゃあ、管の周りを冷やす方法を試してみましょうか!」
「そうじゃな」
そうしてまたケースを改良して、管の周りを氷で冷やす方法を試してみた。すると結果は大成功! 湿度が高くならずに、ケースの中を冷やすことに成功した。
後の問題は結露だけど、それは水魔法を使っても解消できるし、室温を調節すればそこまで問題にはならないと思う。この方法が成功したから、エアコンのような魔法具も作れそうだし!
「マルセルさん、これならお店でも使えそうです。本当にありがとうございます!」
「役に立てて良かったわい」
「本当に、マルセルさんのおかげです!」
「お主の発想があってこそじゃよ」
「いえ、今回は完全にマルセルさんの手柄です。そうだ、実際にスイーツを入れてどうなるか試してみても良いですか? 明日スイーツをいくつか持ってきます」
「良いぞ。じゃあこれは床に置いておくかのぉ」
「確かに……、これ邪魔ですね」
「そこまで邪魔ではない。床に置いてもらえれば大丈夫じゃ」
こんなにどでかいもの絶対に邪魔なのに……。マルセルさんが良い人すぎる。
「本当にありがとうございます。じゃあ床に下ろしちゃいますね」
「ああ、一人で持てるのか?」
「もちろん、身体強化を使えば楽勝です」
俺はそう言って、全身に身体強化をかけてケースを持ち上げて床に置いた。
身体強化って魔力量が多いと本当に便利なんだ。こんなに大きいケースがあまり重さを感じないとか、怖いレベルだよね。これに慣れたら絶対に鍛えなくなるから、使うのは最低限にしてる。
「ここで良いですか?」
「ああ、良いぞ」
「じゃあ置いておきます。それじゃあ、また明日来ますね!」
「ああ、待ってるぞ」
「ありがとうございます!」
そうして俺はマルセルさんの工房を出て、家に戻った。
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