第156話 兵士ごっこ牢屋バージョン

 そうして午前中は皆の面接をして終わった。それからお昼を食べて午後の自由時間、俺とロニーは小さい子たちに手を引かれ、裏庭に連れて行かれていた。


「ロニー、レオン、遊ぼう!」

「何して遊ぶー?」

「兵士ごっこー?」


 子供たちは、身体は小さいのに凄くパワフルだ。マリーは大人びていたし、こんなに沢山の小さな子達と遊ぶのは初めてだな。

 ロニーは流石に慣れているようで、上手く話をしながら裏庭に向かっている。


「レオン、何か新しい遊び教えてー!」

「え!? 新しい遊び知ってるのか!?」

「兵士ごっこはもう飽きたのー」

「なら屋台ごっこは? 屋台ごっこ!」

「それも飽きたのー」

「レオンー、何か新しい遊びないー?」


 子供たちに次々とそう尋ねられた。新しい遊び……何かあるかな。鬼ごっこやかくれんぼはありふれすぎてるか。あとは、だるまさんが転んだとか、缶蹴りとか。うーん、なんかしっくり来ない。そもそも、缶蹴りに使えるような缶がないし。


 そうだ、ケイドロとかどうだろう。あれなら鬼ごっこを捻った遊びだし、面白いんじゃないかな。兵士ごっこの新しいパターンとして受け入れられそうだ。


「皆、兵士ごっこって何をしてるの?」

「皆で剣を持ってね、悪者を倒すんだ!」

「悪者って?」

「これが悪者だよ! これが剣!」


 そうして子供たちが教えてくれたのは、地面に埋められた小さめの丸太と削られた木の枝だった。

 木の枝で丸太を倒すのか。


「悪者が倒れたら兵士の勝ちなの!」

「そうなんだ。じゃあ今日は新しい兵士ごっこをやろうか。兵士ごっこ牢屋バージョン!」

「牢屋?」

「牢屋っていうのは、悪者を捕まえておく部屋のことだよ。ルールの説明をしてもいい?」

「ちょっと待って! 皆も呼んでくるから!」


 そうして俺の周りにいた子供たちが皆を呼びに行き、ロニーとアシアさんも俺の元に来た。そして子供達が全員話を聞く態勢になったところで、俺はルールを説明する。


「新しい遊びの名前は、兵士ごっこ牢屋バージョンです!」

「……レオン、何その微妙な名前」


 俺が気合を入れて発表すると、すぐにロニーから突っ込みが入った。


「え? かっこよくない?」

「うーん、まあいいや。続けて」

「う、うん」


 ロニーは微妙な顔をしているけど、子供たちも不思議な顔をしているけど、とりあえずこの名前で良いことにして話を続けることにした。


「まずは皆を兵士チームと犯罪者チームに分けるんだ。この時に犯罪者チームの方が少し人数を多くしてね。それで次に、犯罪者を捕まえておく場所を決める。今回は俺が書いちゃうね」


 そうして俺は、地面に十分な大きさの四角を書いた。


「この四角の中は牢屋とする。犯罪者はとにかく兵士に捕まらないように逃げて、もし兵士にタッチされたらこの牢屋に入らなければならない。兵士はとにかく犯罪者を捕まえて、捕まえた犯罪者を牢屋に入れる。そして犯罪者が全員捕まったら兵士の勝ち、犯罪者が一人でも生き延びれたら犯罪者の勝ちとなる。ここまでは分かった?」

「うん! 分かったー」

「犯罪者を捕まえれば良いんだな!」

「私がいっぱい捕まえるー」


 うん、分かってるのか分かってないのか微妙だけど、やってるうちにすぐ覚えるだろう。


「それからあといくつかルールがあるよ。犯罪者は捕まったら牢屋に入らないといけないって言ったけど、一つだけ牢屋から出られる方法があるんだ。それは、仲間の犯罪者が牢屋から助け出すこと。まだ捕まってない犯罪者が牢屋に捕まった仲間をタッチしたら、タッチされた犯罪者は牢屋から出られるんだ」

「そうなの!? 犯罪者を逃しちゃダメー」

「そう、犯罪者を逃さないように、兵士は牢屋の監視もしないとね」

「うん! 俺が絶対に逃さないぜ!」


 ルール説明はこれぐらいかな。そうだ、あと一つ大問題なのはこの世界では気軽に時間が図れないことだよね。

 何分経ったら犯罪者が勝ちとか決められない。そうすると少しルールを変えたほうが良いかな。

 うーん、それか何か時間を測れるものを作ろうかな。古い木のコップとかがあれば、それの底に穴を少しだけ開けて、水がなくなったら終わりとか。


「皆、あと一つルールがあるんだけどちょっと待ってて。アシアさん、古くて要らないコップとかありますか?」


 俺は皆に少しだけ待ってもらって、アシアさんにそう聞いた。


「確かあると思うけど……」

「時間を測るのに使いたいんです」

「それならば持ってくるわ」


 そうしてアシアさんが持ってきてくれたコップは、底に少しだけ亀裂が入ってて水が漏れてしまうものだった。

 ちょうど良いな。漏れる勢いからして、多分三十分ぐらいかな? とりあえず半分だけ入れて、十五分ぐらいにしてやってみよう。


「皆、さっきの犯罪者が勝つ条件だけど、このコップの水が全てなくなった時に、一人でも犯罪者が逃げられていたら犯罪者の勝ちになるよ。そしてこの水が全て無くならなくても、犯罪者が全員捕まれば兵士の勝ち。ルールわかったかな? 難しかった?」


 いざ説明してみると、意外とルールが多くて難しかったかな。俺も話しながら内容をまとめてたから、わかりづらい説明になった気がする。

 でもそんな心配とは裏腹に、皆はやる気満々だ。分かってない子もいるみたいだけど、半分ぐらいの子は理解してくれているみたい。


「俺はわかった!」

「私もー」

「よく分からなかった……」

「分からなかった子も、とりあえずやってみればわかると思うよ。じゃあ、とりあえずやってみようか。まずはチーム分けからだね。兵士チームがやりたい人!」

「はーい!!」


 俺が兵士チームをやりたい人を募集すると、もれなく全員手を上げた。まあ、そうなるか。誰でも兵士をやりたいよね。


「皆兵士をやりたいのはわかるけど、毎回役割は変えるから、今回は犯罪者をやってくれる人はいる?」

「えー、俺は兵士が良いー」

「カッコいい兵士になるんだ!」

「じゃあ、じゃんけんで決めようか」


 それが一番公平だろう。俺がそう思って提案すると、途端に皆が不思議そうな顔をする。そして隣のロニーに不思議そうに聞かれた。


「レオン、じゃんけんって何?」


 まさか……! じゃんけんってこの世界にないの!?

 確かに思い返してみると、今まで一度もやったことないかも。家ではマリー可愛さにマリーを優先してたし、王立学校に行ってからはじゃんけんで決めようなんて言える相手はほとんどいないし。身分があるから、話し合う必要もなく優先順位が決まるし。

 言えるとすればロニーぐらいだけど、二人だとじゃんけんで決めるようなこともないんだよね。

 今更気づいたよ……結構衝撃。


 じゃんけんを教えるか……でも、そもそもこの世界でじゃんけんなしにどうやって決めてるんだろう?

 

「ロニー、大人数をチーム分けをしたい時って、いつもはどうしてるの? あとは一つのものを取り合う時とか」

「チーム分けしたい時と取り合う時?」

「そう。例えば、孤児院の食事は調理班と配膳班に分かれてるでしょ? あれってどうやって決めてるの?」

「院長先生が決めてるよ」

「じゃあ、五人いるのに食べ物が一人分しかない時は? その食べ物が分けられないような時」

「うーん、大体は話し合いだけど、小さい子に譲ることが多いかな」


 身分が高い人やまとめるような人がいればその人が決める、そういう人がいなければ話し合いって感じかな。

 それで上手くいってるのなら、じゃんけんは教えなくていいか。色々と教えすぎても分からなくなるだろうし。


「そうなんだ。じゃあ、今みたいな時は俺が決めていいの?」

「うん、いいと思うよ」

「じゃあ皆、ここから右側にいる人は最初に犯罪者をやってくれる?」

「えー、俺犯罪者なのー?」

「そうだけど、役だからね。それにまた次は役割を変えるから」

「まあそれならいいけどー」

「じゃあ、とりあえずやってみようか!」


 それからは皆でケイドロ、いや兵士ごっこ牢屋バージョンを楽しんだ。皆はすぐにルールを覚えて、一回が終わるとすぐに次をやりたがるほどこの遊びを気に入ってくれた。


「これ楽しい! レオン、これ楽しい!」

「レオンありがとー!」

「もう一回! もう一回やろ!」

「やるー!」


 子供達って本当にパワフルだな。ずっとテンションが高い子供達に付き合って、身体は疲れなくても気持ちが疲れてきた。子供達って凄い。


「皆、やりすぎると疲れちゃうから、今日はここまでにしておこうか」

「えー!」

「もっとやりたいー!」


 俺がそんな子供たちの様子に困っていると、ずっと見守ってくれていたアシアさんが止めてくれた。


「皆、やりすぎるのは身体にも良くないのよ。また明日やりましょう」

「……はーい」

「レオン君、楽しい遊びを教えてくれてありがとう。楽しみながら体力作りになるし、チームワークも鍛えられるし良い遊びね」


 確かにそう言われると、連携して捕まえたり味方を助けたり、チームワークも鍛えられる遊びなのかも。少しでも役に立てたのなら良かった。


「レオン、この遊び僕は知らなかったよ。これ面白いね。今考えたの?」


 ロニーにそう聞かれた。実家で流行ってたと言ったらすぐ嘘だとバレそうだし、思いついたことにするしかないか。

 

「前からこんな遊びがあったら面白いかなと思ってたんだけど、人数が足りなくてできなかったんだ。今回は子供達がたくさんいるからちょうど良いと思って」

「確かに大人数の方が楽しい遊びだね」

「そうなんだよ。皆が楽しんでくれて良かった」


 俺たちがそんな話をしつつ休憩していたら、また別の遊びを始めていた子供たちから悲鳴が上がった。


「きゃー! 院長先生、大変!!」

「ご、ごめん、俺……」

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