第155話 従業員の面接

 次の日の朝。

 俺たちは朝食を済ませて、食堂でロニー推薦の子供達と相対している。

 他の子供達は仕事に行ったり、裏庭で遊んだり勉強したりと、思い思いの時間を過ごしているようだ。


 今目の前に座っているのは、女の子が二人と男の子が三人の合計五人。女の子の一人は昨日最初に会ったエマで、他の子達は名前は知らないけれど、皆昨日見た記憶がある。男の子の一人は、昨日凄くガタイが良いと思った男の子だ。


「レオン、この五人は僕が声を掛けて、皆レオンのお店で働きたいと言ってくれたんだ」

「わかった。じゃあ一人ずつ話していくので良い?」

「うん。よろしく」


 俺は端の人から順番に話していこうと思い、まずは右端にいた男の子に声を掛けた。

 一応俺が雇い主になるのだから、舐められないようにできる限り威厳を出そう。そう気合を入れて話しかける。


「初めまして、レオンです」

「初めまして、ポールです。十四歳です。僕は料理が好きで料理人になりたくて……、昨日食べたクレープ本当に美味しくて感動しました! 僕も美味しいスイーツを作れるようになりたいです!」

「ポールは料理人志望なんだね」

「はい!」


 ヨアンの研究時間を増やすためにお店に料理人を入れようとは思ってたけど、他のお店で働いた経験のある料理人と、今まで働いたことのない料理人のどっちが良いんだろう?

 技術的な問題は確実に経験がある料理人だけど、その場合はお互いの意思が強くて衝突する可能性も高いだろう。

 ……素人を育てた方が上手くいくのかな。


「今まで料理の経験はある?」

「孤児院の厨房での経験と、近くの食堂で雑用の仕事をしています」


 一応食堂で働いていた経験もあるのか。雑用だったのなら、料理人の仕事内容は把握しているけど、料理人としての経験があるわけではないって感じだろう。そのくらいの子が一番良いのかもしれない。うん、雇っても良い気がするな。


「食堂の仕事は辞められる?」

「他にもその食堂で働きたい子はいるので、一週間ぐらいで辞められると思います」

「そっか、うん。ポールには俺のお店で働いてもらいたいな。これからよろしくね」


 俺がそう言うと、ポールは嬉しそうに立ち上がった。


「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」

「まだ給金とか正確には決まってないんだけど、それでも大丈夫?」

「はい! ロニーのお友達なら安心です」


 ロニーって皆に信頼されてるんだな。本当にロニーには助けられている。

 それから俺は順番に皆と話していき、次々と採用を決めた。何故なら皆凄く真面目な良い子で、やりたい仕事も被ってないし、不採用にする理由がなかったのだ。多分ロニーが考えて選んでくれたんだろう。

 ドニという名前の男の子を警備担当、キアラという女の子を給仕として雇った。

 俺は警備担当のことなんて考えてなかったけど、確かにこの前の屋台の一件もあるし、有名になってきた以上は必要だよね。ドニは十三歳の男の子で、まだ背はそこまで高くないけれど、身体は鍛えてあるので見た目は強そう。十分抑止力になるだろう。さらに身体強化魔法の魔力量が四なので、これから鍛えればかなり強くなると思う。将来有望な男の子だ。

 キアラは赤色の癖毛が可愛い十四歳の女の子。ハキハキと話す明るい女の子なので、給仕に向いてると思う。敬語もしっかりしているし、すぐに即戦力になれるんじゃないかな。


「ドニ、キアラ、これからよろしくね」

「はい。しっかりとお店を守ります」

「はい! 精一杯働きます」


 よしっ、次は凄くガタイの良い男の子だ。昨日から目立っていた。


「初めまして、レオンです」

「俺はリビオです。力には自信があるので警備担当を希望します」

「魔力属性と魔力量を聞いても良い?」

「火属性で魔力量は五です」


 おおっ、魔力量が五は強い。この子は鍛えればかなり強い兵士になるだろう。ただ火魔法は安易に街中で使えないのが難点なんだよね。

 うーん、でも腕っ節だけでも十分強そうだ。結構鍛えてるんだろうな。

 俺も鍛えてるはずなんだけど、何でこうならないんだろう? 俺はリビオと自分を見比べてそう思った。俺って鍛えても、見た目がムキムキで強そうにはならないんだよね。どちらかといえば……、弱くて侮られる感じだ。

 何故だ……まあ、まだまだこれから成長するんだし、これからに期待だよね。


 俺はガタイの良いリビオに若干羨ましさを感じつつ、面接を続けることにした。


「剣は使える?」

「ドニと同じで自己流では使えます。剣がなかったので木を削ったものしか使ったことはありませんが」

「そっか。じゃあリビオにも、ドニと一緒に剣の基本的な使い方は学んでもらおうかな。それでお店の警護をお願いしてもいい?」

「はい。よろしくお願いします」


 ドニは活発な感じだけど、リビオは寡黙な感じだ。落ち着いた戦士って雰囲気がある。まだ十五歳なのに。

 これで四人、あとはエマだけだ。


「エマ、改めてよろしくね」

「はい! 改めまして私はエマです。まだ十歳なので他の方より子供ですが、精一杯働きます。給仕をやりたいです!」

「うん。エマは柔らかい雰囲気で給仕が似合うと思ってたんだ。是非お店で働いて欲しい、よろしくね」

「ありがとうございます! よろしくお願いします!」


 そうして俺は、ロニーに推薦された五人を全員雇うことにした。

 いつから中心街に来てもらおうか。できる限り早い方が良いけど、俺が実家にいる時は色々対応できないから……ロニーが中心街に戻る時に、一緒に来て貰えば良いかな。

 俺は少し早めに中心街に戻ってマルティーヌたちとのお茶会をする予定だし、その時に皆が住む部屋も整えておきたい。

 各自で部屋を探してもらうのでもいいんだけど、安いところは治安が悪いし、やっぱり飲食店の従業員だから清潔な家に住んで欲しい。

 

 ここはお店の従業員寮を整備するべきだよね。給金から維持費や家賃を差し引く形にすれば、皆も面倒がなくていいと思う。

 どこか、お店の近くか中心街の入り口付近で、良い建物を一棟買いたいな。そしてそこを改装すれば、良い従業員寮に出来るだろう。


「じゃあ、皆には俺たちの夏の休みが終わる時、ロニーと一緒に中心街に来てもらいたい。あと十二週間後ぐらいかな。ロニー、皆を連れてきてくれる?」

「うん。早めがいい?」

「ううん。逆にギリギリがいいかな。俺が早めに帰って皆が住む場所を整えておくから、早く来てもらっても住む場所がないかも。あっ、ロニーもそこに引っ越してくれる? 従業員寮を作ろうと思ってるんだ」

「本当に? いいの?」

「もちろん」


 俺がそう言うと、ロニーは嬉しそうに笑った。皆とまた一緒に暮らせることが嬉しいんだろう。


「皆も住む場所は準備するから、あまり心配せずに中心街に来てね。生活に必要なものは最低限整えておくよ。あっ、仕事着は支給するから」

「ありがとうございます」


 後は話しておくことはないかな……。あっ、そうだ。一つだけ思ったことがあるんだよね。ロニーの推薦に、妹のリズがいなかったんだけどいいのかな?


「ロニー、リズは推薦しないの?」

「リズは悩んだけど……、人見知りだし給仕には向かないと思って。それにまだ小さすぎるから」


 確かにそうなんだけど、せっかくロニーとリズがまた一緒に暮らせる機会なのに……。ロニーが帰ってきた時のあの様子を見たら、また引き離すのは可哀想だ。

 リズも雇っちゃダメかな? 確かに即戦力にはならないかもしれない。でもロニーが成長してるようにリズも成長するだろうし、さっき料理の手際は良かったから料理人なら向いてると思う。

 完全に贔屓で俺の自己満足かもしれないけど、リズが働きたいと言ったら雇ってあげたい。最初は下働きでも良いし。


「リズが働きたいなら俺は雇いたいと思ってる」

「でも、それは僕の妹だからでしょ……?」

「それもあるけど料理の手際は良かったし、何よりロニーの妹なら優秀だと思う。またリズを残していくの可哀想じゃない?」

「そうなんだけど……」


 ロニーは贔屓でリズを雇うことに抵抗があるみたいだ。でもこの世界って贔屓ばかりだし、コネがある人が勝つみたいな感じだし、あんまり気にしなくて良いと思うけど。


「何か引っかかることがあるの?」

「いや、リズよりも優秀な子がいるのにいいのかなって」

「でもロニーの妹っていう立場も、才能と同じだよ。コネがあるのも才能だと思うよ」

「確かに……そっか、そうだね。うん、じゃあリズも呼んできていい?」

「もちろん!」


 そうしてロニーはリズを呼びに行き、数分後にリズを連れてやってきた。

 リズは少し緊張しているようだけど、ロニーに隠れることなく一人で歩いている。


「あの、リズと申します。給仕は苦手だけど、料理を作るのは好きです。是非働かせてください。よろしくお願いします!」

「もちろん。リズ、改めてよろしくね」

「はい、精一杯働きます! お兄ちゃんとまた一緒に暮らせるようにしてくれて、本当にありがとうございます」


 リズはそう言って、目に涙を浮かべながら綺麗に笑った。おおっ……この笑顔を自然に出せるようになったら、確実に給仕で人気が出るな。マリーと良い勝負になりそうだ。まあ、勝つのはマリーだろうけどね。そこはマリーの兄として譲らない。


「じゃあとりあえずは全部で六人、皆これからよろしくね。何か聞きたいことはある?」

「はい!」


 元気よく手を挙げたのはドニだ。


「はい、ドニ」

「レオンさん、様? なんとお呼びすれば良いですか?」

「うーん……」


 別になんでも良いけど、雇い主ってことで呼び方はちゃんとした方が良いかな?

 ヨアンはレオン様って呼ぶし、それで統一しようかな。


「なんでも良いんだけど、一応レオン様で統一しようか。でも仕事以外の時は気にしなくて良いからね」

「わかりました。レオン様!」

「うん。ドニは元気で良いね。他に何か質問はある?」


 今度は誰も手を挙げない。とりあえず質問はなさそうだな。まあ、まだ何も分かってないし、働きながら段々と疑問点も出てくるだろう。


「何か疑問があれば、いつでも遠慮せずに聞いてね。俺にでもロニーにでも。あと中心街に料理長がいるから、また後で紹介するよ」

「はい! よろしくお願いします」

 

 そうしてとりあえずこの場は解散となった。

 とりあえず従業員を雇えて良かった。でも、これだとまだ足りないよな。皆まだ若いし、皆をまとめる立場の人を雇いたい。

 給仕を教えられる人を一人と、警備担当をまとめられる人を一人は最低限必要だ。でもどこで探せば良いのだろうか。教会で募集する? うーん、でも誰でも良いわけじゃなくて信頼できる人が良いし……


 うん、リシャール様に相談が一番かな。俺が勝手にやるより良さそうだ。

 俺はそう結論づけて、とりあえず考えるのをやめた。また中心街に戻ったらやることが沢山だな。

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