第146話 お店の決定

 そうしてまた馬車に乗り移動して、到着したのは中心街の丁度真ん中辺りの場所だった。この辺のお店はさっきまでよりも高級な雰囲気がなくなって、貴族の屋敷で働く使用人なども利用する。まあ、使用人でも上の方の使用人だけどね。下働きはやっぱり給金も低いみたいだ。

 馬車から辺りを見回してみると、高級なカフェが結構あるようだ。スイーツ専門店には雰囲気も合ってるかもしれない。さっきの場所は、高級なフレンチレストランみたいなお店しかなかったから、ちょっとイメージと違ったんだよね。


 馬車を降りて店舗をしっかりと見てみると、さっきの店舗よりもかなり大きい。それにレンガ造りで凄くオシャレだ。

 この国って貴族の屋敷や豪商の家などは石造りやレンガ造りがほとんどだけど、逆に平民の家は木造がほとんどなんだ。だから貴族向けのお店をやるなら、石造りかレンガ造りの方が良い。


 ロジェが鍵を開けてくれて中に入ると、中はかなり広いスペースが広がっていた。まずドアがお店の右端にあり、中に入ると目の前にカウンターがある。そして左側はかなり広いスペースだ。今は何もないけれど、ここをカフェスペースにできそうだな。


「この店舗は以前カフェでしたので、広い飲食スペースがございます。それから厨房もかなり広いです。問題は厨房の設備が古いことと、二階がないことです」


 やっぱり前はカフェだったのか。多分この広いスペースが飲食スペースだったんだろうな。


「とりあえずさっきの店舗よりは良い気がする」

「うん、僕もそう思う。このお店凄くオシャレだよね!」


 ロニーはかなり気に入ったみたいだ。確かに外装だけじゃなくて内装もオシャレなんだよね。内装でもアクセントにレンガを使って、それ以外の場所には壁紙が貼ってある。この内装はそのまま使えそうだ。

 広いスペースの奥にあるドアは、どこに繋がってるんだろう?


「ロジェ、あのドアの先は?」

「あそこはトイレです。お客様用のトイレが設置されています」


 そうなんだ、この国では珍しいかも。

 奥まで行きドアを開けてみると、結構広い水洗トイレだった。これはお客様に便利で良いかもな。


「とりあえず全部見てみようか」


 俺は皆を振り返ってそう言って、カウンターのところまで戻った。この空間にはあとカウンター裏のドアしかないので、多分この先に厨房などがあるんだろう。

 ドアを開けるとまずは廊下があり、右側にドアが一つ、左側にドアが二つある。

 右側のドアから開けてみる。おおっ、厨房だ。それもかなり広い。さっきの店舗の厨房とは比べ物にならない広さだ……三倍くらいはある気がする。


「レオン様、ここならば十分な広さですね」

「広さは十分だね」


 でも設備はやっぱり古いかな。料理用コンロもないし、調理台も新しくした方が良いかも。シンクも古いな……

 でも厨房は元々使いやすいように改装するつもりだったし、古いのは大きな問題ではない。逆に改装するのに躊躇わなくていい。


「改装は必要だけど、広さも十分だし良いと思う。ヨアンはどう思う?」

「俺も良いと思います! この広さならば他に料理人がいても問題なさそうです。特に調理台の広さが良いですね。スイーツ作りは広い調理台が必要なので」

「そっか、じゃあ改装する時も調理台の広さはこのままがいいかな?」

「はい。よろしくお願いします!」


 そうして皆で厨房を見て回る。ヨアンは真剣な顔で、この厨房でスイーツを作るときのイメージを膨らませているようだ。

 俺はそんな厨房の奥に向かった。厨房の奥に鍵がついているドアがあったのだ。多分外に出るドアだと思うけど、裏路地に出るのか、それとも裏庭とかあるのかな?

 そう考えつつドアを開けてみると、狭いながらも裏庭があり裏庭の先には門があった。その門の先が裏路地のようだ。

 裏庭には特別なものはなかったけど、唯一地面に鉄の扉がある。これって何だろう?


「ロジェ、これが何かわかる?」

「こちらは地下室への入り口でございます。食料を保存するために使われていたようです」


 地下室! それは嬉しい! 地下室に氷をたくさん入れておけば、地下室全体が冷えて大きな冷蔵庫のようになるだろう。


「中は見られるの?」

「はい。鍵を預かっております」


 ロジェはそう言って鍵を開けて、扉を上に引っ張って開いてくれた。見た目よりは重くないみたいだ。


「レオン様、何があるのですか?」

「食料を保存する地下室だって。ヨアンも見に行く?」

「はい!」

「レオン、僕も行くよ。地下室なんて初めてだ」

「じゃあ皆で行こうか」


 中は真っ暗だったので、俺はライトの魔法を唱えて階段を降りる。ここを使うようになったら光球を設置しないとだな。

 そんなことを考えながら下まで降りると、そこはかなり広い地下室でいくつか棚も設置されていた。地上よりも空気がひんやりとしている。ここに氷を置いたら完璧だな。


「ここいいね。製氷機で作った氷を入れておけば食料の保存に最適だよ。スイーツは傷むのが早いから、冷蔵設備は必須なんだ」


 でもここだけじゃなくて、厨房にも冷蔵庫があったら便利だよね。あとスイーツを陳列するショーケースにも、冷蔵機能をつけないとダメだ。

 そうなると冷蔵庫を開発するのは必須だな。でもこの地下室も絶対有用だと思う。


「レオン様、厨房とこの地下室はどちらも素晴らしいです。スイーツ作りには最適な店舗だと思います」

「レオン、僕もこのお店が良いと思うな」

「やっぱりそうだよね。俺もそう思ってたんだ。でも、まだ見てない部屋も一応見ておこうか」

「確かにそうだね。厨房の反対側に部屋があったよね?」


 そうして建物の中に戻り、他の部屋も見てみた。廊下の反対側にあった二つの部屋は、一つは水洗トイレでもう一つは何もない広い部屋だった。多分広い部屋は従業員の休憩スペースとかに使ってたんだろう。ここには家具を入れて、休憩スペース兼事務所って感じにしたらいいかも。


 うん、この店舗良いよ、凄く良い。俺の想像通りの店舗だ。でも一つ問題があるとすれば、やっぱりお風呂がないことかな。あとは更衣室も欲しい。

 料理人は言わずもがな、飲食店に身綺麗さは必須だからね。仕事着にはこのお店で着替えて欲しいし、自宅にお風呂がない従業員がいたら、仕事の前にお風呂に入って欲しい。

 やっぱりお風呂と更衣室は設置しよう。でも屋敷の中に増築は難しいよな……うん、中庭の方に増築しようかな。それなら屋敷に手を入れるわけじゃないし、そこまで大変な工事にはならないはずだ。


 というかこんなに色々考えたけど、まだこの店舗に決めたわけじゃないんだけどね。でも、俺の中ではもうこの店舗を買うことで決まっている。

 ここはかなり理想に近い店舗だし、立地も申し分ない。もうここ以上に良い物件はなさそうだ。


「ロニー、ヨアン、俺はこの店舗が良いと思うんだけど、二人はどう思う?」

「僕もここで良いと思う」

「俺も良いと思います」

「じゃあ決定でいいかな? そうだロジェ、後何店舗候補があったの?」

「はい。あと一店舗候補がございました。しかしレオン様達が話されている様子から、こちらの店舗の方が良いと思われます。もう一つの店舗はとにかく大きな店舗なのですが、中心街の外れに位置し、木造で少し古めかしい建物です」


 中心街の外れ、しかも木造となるとそれだけで候補からは外れるな。他に良い店舗がなければそこも良かったんだろうけど、ここが良すぎるからね。


「じゃあ最後の店舗は見なくても良いかな。ここに決めるよ」

「かしこまりました。ではお手続きをしておきます。遅くとも明日からは、レオン様のお好きなように店舗を改築出来ると思います」

「わかった、ありがとう」


 改築するのがかなり楽しみだな。二人の意見も聞きつつ、快適な空間に仕上げよう! 俺はそう気合を入れた。

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