第142話 作戦決行〜夜〜

 広場からロニーの家に戻る途中、大通りから裏路地に入るところに馬車が止まっていて、ロジェが待機してくれていた。


「ロジェ、待っててくれたんだ。ありがとう」

「私はレオン様の従者ですので、当然でございます。お荷物をお持ちいたしましょうか?」

「ううん、ロニーと二人で荷物を片付けてくるから、ロジェは馬車で待ってて」

「かしこまりました」


 そんな話をしてロジェとは一旦別れ、ロニーと家に向かう。


「レオン、もしかして僕たちを迎えに来てくれたの?」

「そう。俺が頼んだんだ。屋台で働いて、また公爵家の屋敷まで歩くのは大変でしょ? しかも今日は夜の見張りもあるし」

「確かにそうかも……」

「だから体力は温存しとかないと。ロニーも馬車に乗ってね」

「うん。ありがたく乗らせてもらうよ」



 そうしてロニーの家に荷物を片付けて、馬車で公爵家まで移動する。

 公爵家に到着し俺の部屋に行くと、ロジェが今夜手伝ってくれる兵士を連れてきてくれた。


「レオン様。こちらの兵士三人が、今夜見張りに参加する者たちです」

「レオン様、よろしくお願いいたします」


 三人はしっかりと頭を下げて、そう挨拶してくれた。


「こちらこそよろしくお願いします。今夜のことについては聞いていますか?」

「はい。大旦那様から伺っております」

「それなら大丈夫ですね。ではお手数おかけしますが、よろしくお願いします」



 それから数時間後、二十二時の少し前ぐらいに公爵家を出発した。大体二十二時までにはほとんどの屋台は閉まるのだ。居酒屋などの飲み屋はやっているが、広場の屋台は夜遅くまでやらない。

 公爵家から広場の近くまでは馬車で向かい、そこからは目立たないように歩いて向かうことになっている。今は馬車の中にいるけど、俺とロニー、リュシアンと護衛のジャックさん、兵士の方が三人乗っているのでちょっと狭い。いや、兵士の方たちはガタイもいいからかなり狭い。

 そうして狭い馬車の中でしばらく耐えていると馬車が止まった。

 ふぅ、やっと馬車から出られるよ。馬車を降りて辺りを見回すと、そこは広場まで歩いて十分程の目立たない場所だった。

 中心街の中なので、道路には少しだけ街灯があり、真っ暗で何も見えないということはない。中心街の外は街灯など全くないので、夜に出歩く時は各々ランタンのような光源を持たないとダメだけど、中心街は少しだけ街灯があるんだ。


「では、三チームに分かれよう。絶対にバレないように、また必ず捕まえるんだ!!」

「かしこまりました」


 リュシアンがキラキラした瞳で凄く楽しそうにそう言って、俺たちは三チームに分かれた。リュシアン楽しんでるな……

 チーム分けは、リュシアンとジャックさんのチーム、俺とロニーと兵士一人のチーム、兵士二人のチームで合計三チームだ。事前に屋台を監視できて目立たない場所を調べておいたので、それぞれそこへ向かう。


「ロニー、来るとしたら何時頃だと思う?」

「多分日付が変わる頃じゃないかな。その時間なら広場に人はいないし、さらに居酒屋とかで飲んでる人がいるから静まり返ってるわけでもない。物音を立てても目立たないから、その時間が一番可能性高いと思う」

「確かにそうだね。じゃあ後二時間もあるのか……もう少し遅くに来ても良かったかな」

「でもこの時間ぐらいから広場に人はいなくなるから、万が一を考えて見張ってた方が良いよ」

「確かに、見逃したらせっかくの作戦が台無しだもんね」


 でも待ち時間がめちゃくちゃ長いな……。今更だけど、見張りってずっと見てるだけだから暇だ。なにか見張ってる時にできることがあれば良いんだけど。

 日本で見張りの定番と言ったらあんぱんと牛乳だよね。でもこの世界にあんぱんはないし牛乳は気軽に手に入らないし……こっちの世界だったらジャムパンと水かな。


 ……なんか夢がない。でもあんぱんは作れないよなぁ。そもそも餡子って何で作られてるんだっけ。確か、小豆で良いんだっけ? 多分小豆であってるはず。

 この世界に小豆ってあるのかな。市場で探してみたことがないからわからないけど、今まで食べたことはないと思う。

 というか考えてみると、この国ってあまり豆を食べないよね。大豆をそのまま食べるぐらいだ。

 今度探してみて小豆があれば、餡子を作って和菓子にも挑戦しようかな。俺和菓子って結構好きなんだよね。一番好きなのはわらび餅なんだけど、餡子のお饅頭も好きだ。

 問題はいつものことだけど、作り方だな。


 ……レシピ本が欲しい。切実にレシピ本が欲しい。というかインターネットが使えるスマホが欲しい。


 こんなあり得ないことを考えててもしょうがないな。思い出すんだ! 頑張れ俺!

 確か……餡子は小豆を煮て砂糖を入れるだけじゃなかったっけ? でも、煮るだけで餡子になるのかな……煮詰めるのか、軽く煮たらすり潰すのか……。

 正確には分からないけど、でもケーキよりはハードルが低い気がする。今度時間がある時に挑戦しようかな。


 そんなことを考えていると、ロニーにジト目で見られていることに気づいた。

 や、やばい、見張りをするの忘れてた。


「ロニー……?」

「レオン、今絶対に何か考えてるでしょ。それで屋台を見てないよね?」

「ご、ごめん、ちょっと考え込んでた。ちゃんと見張るよ」

「しっかりね」

「うん。頑張るよ」


 それからは余計なことを考えずに、ひたすら真剣に見張を続けた。そしてそれから二時間が経過し日付が変わる頃、ついに昼間の五人組が現れた


「ロニー、来たね」

「うん」


 俺たちは辛うじて聞こえるぐらいの小声で、そう会話をする。


「どこまでやられたら捕まえに行く?」

「やっぱり実際に屋台が壊されてからが良いと思う。その方が良いですよね?」


 ロニーが兵士さんにそう聞いた。


「ああ、実害がなければ捕まえられないからな」


 そうして俺たちが会話をしている間にも五人組の男たちは俺たちの屋台に近づき、ついに一人の男が屋台を蹴った。さらに五人のうち二人は剣を持ち、屋台に向かって振りかぶっている。


 ドガンッ……ガンッ……バギッバギッ……


 おおっ……凄い勢いだ。なんの恨みがあるんだってくらい、思いっきり屋台を壊していく。

 

「もう良いでしょうか?」

「ああ、行こう」


 兵士の方のその声に従って、俺とロニーは屋台まで走った。周りを見てみると、他の皆も出てきたようだ。


「お前たち、何をやっている!」

「なんだ!? なんで兵士がいるんだ!?」

「に、逃げろ!」

「大人しく捕まれば手荒な真似はしない」

「大人しく捕まるわけねぇだろ! 早く逃げろ!」

「ダメだ! こっちにも兵士がいる!」


 五人の男は兵士の声に逃げようとしたが、兵士が上手く逃げ道を塞いでいる。


「ダメだ。しょうがねぇやっちまおう! 数はこっちの方が勝ってるんだ。相手は兵士とガキだけだ!」

「そうだな! 兵士なんて怖くねぇよ!」


 剣を待っていた男達は剣を構え、剣を持っていなかった男はナイフのようなものを取り出して構えた。そして一斉に襲ってくる。


「おらぁ!」


 一人の男が兵士に向かって、上から思いっきり剣を振り下ろした。兵士はそれを最小限の動きで躱し、男の腕を蹴り上げる。そしてその反動で男は剣を落とし、兵士はそれを素早く回収した。

 この男達、剣を持ってるけど剣術を習ったことはないみたいだ。とにかく力任せに剣を振ってるだけのように見える。

 それにしても、兵士も剣を持ってるけど使わないのかな? もしかして、できる限り怪我させないようにしてるのかも。黒幕の情報を聞きたいって言ったからそうしてくれてるのかな。


 剣をなくした男は一瞬怯んだ様子を見せたが、ナイフを取り出してまた構えた。そしてその男がナイフを持って、再度兵士に正面から向かって来る。

 兵士はそれを先程回収した剣で難なく受け止めるが、その瞬間に兵士の背後からもう一人の剣を持った男が、首を狙って思いっきり剣を横に振った。


「危ない!」


 俺は思わずそう叫んで咄嗟にバリアを使おうとしたが、寸前で踏み止まった。兵士が背後から襲ってきた男の剣もなんなく受け止めていたからだ。

 兵士はナイフを持った男の腹を蹴り飛ばし、その後で背後の男に対処したようだ。

 そして背後の男の剣を受け止めた後、男の手首を剣で叩き男を無力化した。

 そうして目の前の兵士が二人の男を倒す頃には、他の男達も皆倒されたようで、戦いは俺たちの勝利で終了した。

 凄いな、兵士って強いんだな。カッコいい……!

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