第140話 作戦準備

 公爵家についてすぐ、まずはロジェにリシャール様に話があると伝言してもらった。


「レオン様、夕食後に人払いをするのでそこで話を聞いてくださるそうです」

「ありがとう。でも、なんで人払いなんだろう?」

「それは……レオン様のご報告は、いつも広められないものばかりだからかと……」

「……そんなことはないと思うけど」


 俺が納得できない顔でそう言うと、ロジェは信じられないという顔を一瞬だけして、すぐにいつもの真顔に戻って言った。


「確かに、一度くらいは普通のご報告もありましたね」

「ロジェ、別に気を遣ってくれなくていいから。さっき何言ってんだこいつ、みたいな顔をしたの見たからね!」

「それは、申し訳ございません。ただ、レオン様が今までのご報告の内容を覚えていらっしゃらないのかと思いまして」

「ちゃんと覚えてるよ!」


 最近ロジェは、こんなふうにズバッと言うことが増えた。まあ遠慮がなくなって嬉しいんだけど、遠慮がなくなりすぎじゃない!?


「……確かにいつも、公表できないやつとかそんな報告ばかりだったけど、たまには普通の報告もした方が良いのかな? というか、普通の報告って何だろう?」

「レオン様は貴族の御子息様ではありませんし、普通の平民でもありませんので、あまり気にする必要はないかと思います」


 また言われた。皆して俺が普通じゃないって言うんだよなぁ。まあ、間違えてはいないんだけど。

 ……反論できないことが辛い。

 もう気にしないのが一番だな。普通よりも特別の方が良いよね。そうだよ、俺は特別なんだ。

 なんか虚しい……


「もう気にしないことにする」


 そうして、最終的には俺に大ダメージが残ったロジェとの会話を楽しみつつ時間を潰し、夕食の時間となった。

 夕食はいつも通り穏やかに過ぎていき、すぐに食後の時間になる。ここからは俺の報告の時間だ。


「リシャール様、ご報告があります」

「ああ、今回は何の報告なんだ?」


 リシャール様は嫌な顔一つせず、優しくそう聞いてくれる。今まで大変な報告ばかりしてたのに……リシャール様が優しすぎる。


「今回は屋台についてのお話です。屋台の運営をしてくれているロニーから本日聞いたのですが、誰かから雇われたようなごろつきが、営業妨害をしてきたようです」


 俺がそう言うと、さっきまで優しい顔だったリシャール様の顔が一気に厳しくなった。


「それは、具体的にどのような内容なのだ?」

「はい。物理的に何かをされたわけではなく、クレープを買わずに屋台の前に居座ったり、購入の列に並ぶのにクレープを買わなかったりと、迷惑だけれど注意しかできないようなものなのです」

「確かに……それだと兵士がいたとしても注意程度だろうな」

「はい。しかしそれによって売り上げも減っているようで、何か対策をしなければなりません。そこでロニーがどうするのか作戦を考えてくれたのですが、その作戦にリシャール様の力をお借りしたいと思っています。まずは作戦の内容を聞いていただけますか?」

「ああ、話してくれ」


 それから俺は、今日ロニーから聞いた作戦をリシャール様に話した。そして兵士を借りたいことも伝えた。


「この作戦を考えたのはロニーだったな。ロニーとはレオン君の友人の平民で間違いなかったか?」

「はい。王立学校で同じクラスで、私の友達です。そして平民で間違いありません」

「ロニーはどこかの商会の子供なのか?」

「いえ、ロニーは孤児院出身です」

「孤児院だと!?」


 リシャール様はかなり驚いた様子でそう声を上げると、何かを考え込むように黙ってしまった。

 もしかして、ロニーも優秀な平民として公爵家に引き込めないか考えてるとか? 確かにこの作戦を孤児院出身の平民が考えたと知ればそうなるか……

 それってロニーにとっては良いことなのかな。うーん、後ろ盾ができるのは良いことだと思うけど、ロニーは役人になるよりはお店をやりたいって言ってたんだよな……

 俺がそんなことを考えていると、リシャール様が顔を上げた。


「レオン君、正直孤児院出身の平民でここまで優秀な者がいるとは驚いている。ロニーは魔法や剣も使えるのか?」

「いえ、魔力量が少なく魔法の授業は受けていません。剣術も授業で初めてやったようです」

「では、頭だけが良いのだな」

「はい。あの……ロニーをどうしようとお考えですか?」

「公爵家の勢力の助けになってもらえないかと思っている。ロニーは将来やりたいことなどあるのだろうか?」

「実は、ロニーは私と一緒にお店をやる予定です」


 俺がそう言うと、リシャール様は一気に明るい顔になった。


「そうか、それは良い。公爵家が後援している店の中心人物となれば、公爵家との繋がりも印象付けられるだろう。ロニーにも定期的に公爵家へ来てもらいたいな。それによって繋がりも印象付けられる」


 ロニーは予定通りお店で働けて、その上で公爵家との繋がりができるのは良いことだよね。最初はかなり緊張すると思うけど、そのうち慣れるだろうし。今度ロニーを公爵家に連れてこよう。

 いつがいいかな……そうだ、今度お店の候補を見に行くときに、ヨアンと一緒に連れてこようかな。


「かしこまりました。お店の候補を見に行く際、ロニーと料理人のヨアンを同行させても良いでしょうか?」

「確か、二週間後の回復の日だったな」

「はい」

「その日ならば屋敷にいるから構わない」

「ありがとうございます。ではその日にお連れします」

「よろしく頼む。すまない、話がずれたな」


 そうだよ、屋台の話をしてたんだった。


「先程の作戦はかなり良くできていた。やってみる価値はあるだろう。兵士の派遣については手配しておく」

「ありがとうございます!」


 良かった。これであとは作戦が成功することを祈るだけだ。そう思って俺が安心した瞬間、今まで黙っていたリュシアンが声を上げた。


「レオン、私も一緒に夜の見張りをするぞ」


 やっぱりそう言われると思った。別に来てもらってもいいんだけど、万が一何かあったら大変だ。


「それはありがたいのですが、危険もありますのでお気持ちだけ受け取らせていただきます」

「兵士もいるのならば大丈夫だ」

「ですが……リシャール様、よろしいのでしょうか?」


 俺はもうリシャール様に判断は任せようと思い、リシャール様に話を振った。


「リュシアン、お前が行く必要はないだろう?」

「お祖父様、私は兵士が犯罪者を捕らえる場面を見たことがありませんので、後学のためにも見学したいです」

「ふむ、確かに一度見ておくのもありかもしれんな」


 この流れはリュシアンも来ることになりそうだ。リュシアンって、基本的には頭が良くて運動神経も良くて優秀な子供なんだけど、結構子供っぽいところがあるんだよね。

 まあ、それがリュシアンのいいところだと思ってるけど。


「では、私も参加して良いでしょうか?」

「そうだな。レオン君は良いか?」

「はい。ただ夜だけの参加でも良いでしょうか? 昼間は普段と変わらず営業をした方が良いと思うので……」


 リュシアンは佇まいや服装などとにかく目立つからな。リュシアンが昼間の屋台に来たら、それだけで作戦は失敗しそうだ。俺は何度か屋台にも行ってるし大丈夫だろう。


「そこの邪魔はしないぞ」

「では夜の見張りの時はお願いします。明日は普通に昼の営業をしてから、荷物を片付けて公爵家に来るので良いでしょうか?」

「ああ、兵士の準備をしておこう」

「ありがとうございます」



 そうして話を終えて、俺は自分の部屋に戻った。


「ロジェ、一つ頼みがあるんだけど」

「はい。何でもおっしゃってください」

「明日ロニーと昼の営業をしたら、荷物をロニーの家に片付けてからまた公爵家に来ないといけないんだけど、ロニーの家に馬車で迎えに来てもらうことって出来る?」


 ロニーの家から公爵家は結構遠いし、屋台の営業をした後に歩くのは辛いと思うんだよね。俺は大丈夫なんだけど、ロニーは辛いだろう。それにその後も見張りをやらないといけないし、体力は温存しておいた方が良い。


「もちろん差し支えありません。何時ごろお迎えに上がれば良いでしょうか?」

「うーん、明日は早めに終わると思うから、十六時ぐらいかな」

「かしこまりました。ではその時間に参ります」

「ありがとう。よろしくね」


 これで準備は完璧かな。後は明日の昼間にロニーと作戦を実行して、夜に見張っていればいいだけだ。もし明日の夜に誰も来なかったら数日見張らないとかな……それは大変だから明日来て欲しい。

 数日経っても何も起こらなかったら作戦を考え直さないと。でも何も起こらなかったら逆に不気味な気がする。やっぱりロニーが心配だよな……

 そうだ、バリアの魔法具を作れるか試すんだった。


 俺は部屋に一人だけになってから、アイテムボックスから魔石と魔鉄を取り出した。魔石と魔鉄は、リシャール様が自由に手に入るようにしてくれたので、アイテムボックスにいつも一定数入れている。

 やっぱりアイテムボックスって本当に便利だ。お金もたまに引き出してアイテムボックスに溜めてるし、食料や服、食器など使えそうなものはたくさん入れるようにしている。

 よしっ、作ってみるか。バリアはどんな形でも作れるけど、周りの人にバレるから常時発動は無理なんだよね。それに本人も動きづらくなっちゃうし。

 だから緊急事態に発動できるようにしたいんだけど、形をどうするのが良いかな……

 魔法具を持ってることがバレない方が良いと思うから、ネックレスで服に隠れるようにかな。それで普段は発動しないように、それでいて緊急時には簡単に発動させられるように、それが理想だ。

 そうなると……やっぱり指輪とネックレスかな。この世界って男性でも指輪をしてる人が結構いるし、魔鉄だけのシンプルな指輪なら目立たない。緊急事態の時も、指輪をしてる手でネックレスを握るだけでバリアが発動するし、簡単で良いだろう。


 そうと決まればあとは作るだけだ。バリアが長く持つように魔石連結で魔石を繋げてネックレス型にする。魔石連結は、一本の魔鉄線で繋がっていれば魔石同士の距離などは関係ないので、ネックレス型にもできる。そして魔鉄だけでシンプルな指輪を作って……完成だ。

 あとはどんな魔法にするかだけど、バリアはロニーの一メートル四方くらいにしたい。でも突然そこにバリアが現れるのだと、バリアの中に人がいた場合が危険だ。だからロニーのすぐ近くから、段々とバリアが広がっていくような魔法にする。速度を速くしすぎると敵が吹っ飛びそうだから、あまり速くしすぎない。

 うん、多分これで良いはず。あとはこれを明日渡せば完璧だ! 

 ふぁ〜、いつもは寝てる時間に作ってたから眠いや。明日に備えてもう寝よう。俺はそう思ってベッドに入り、すぐ眠りに落ちた。

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