第139話 ロニーの作戦
それから数週間、未だスイーツの研究は上手くいっていない。しかしヨアンもまだまだやる気だし、全く悲観してはいない。俺のヒントがあったとしてもそんなにすぐ作れるものではないだろうし、そもそもヒントがヒントになってない感じだったし……
まあ、使う材料がわかってるだけでもかなりのアドバンテージだよね! 材料があっていればだけど……多分、合ってるはず……。
そうしてスイーツの研究を進めつつ、他のことも並行して進んでいる。お店の場所についてはいくつか候補が決まったらしいので、二週間後の回復の日にロニーとヨアンと見に行く予定だ。
今は土の日の最後の授業が終わったところだ。明日は回復の日だからまたダリガード男爵家に行かないと。どれほど研究は進んだかな。
そんなことを考えながら訓練場を出てロニーと歩いていると、ロニーに少し深刻な様子で話しかけられた。
「レオン、ちょっと相談があるんだけど……」
「相談? ……どうしたの?」
「屋台のことなんだ」
「何か問題があった?」
「うん。物理的に何かをされたわけではないんだけど、かなり迷惑をかけられてるって感じで……」
ロニーの様子からすると、結構深刻な感じなのかな。それならちゃんと時間をかけて話を聞いた方が良いだろう。
今日は研究会を休んでロニーの家にお邪魔しようかな。
「ロニー、今日家に行ってもいい? そこで話を聞くよ」
「僕はいいけど、研究会はいいの?」
「研究会は自由参加だから。それよりも屋台の問題の方が大事だよ。ロニーに危険が及ぶかもしれないし」
「そっか、ありがと」
「ロニーが悪いわけじゃないから! じゃあリュシアンにだけ今日はロニーと帰ることを伝えてくるから、ロニーは玄関で待っててくれる? すぐ行くよ」
「わかった、正面玄関ね」
そうして俺はリュシアンを探し出して、今日はロニーと一緒に帰ることを伝えた。屋台のことで問題があるみたいと伝えたら、手に負えなかったら報告しろと言ってくれた。そう言ってもらえると、本当に心強いよね。
それからはすぐ玄関に戻り、ロニーと合流してロニーの家までやって来た。今は丁度部屋に着いたところだ。
「狭いけど入って」
「ありがとう。ここ座っていい?」
「うん」
俺とロニーはそれぞれ木箱やベッドに座り、話をする体制を整える。
「それで何があったの?」
「一昨日からなんだけど、ガタイが良くて怖い感じの男の人が沢山屋台に来るんだ。屋台の前に陣取って座り込んだり、買わないのに無意味に列に並んだり。それによって他のお客さんはかなり減っちゃったんだよね。でも物理的に何かをされたわけではないから兵士を呼ぶのも違うし……」
それは……結構厄介かも。物理的に何かをされていなければ注意するぐらいしかできないだろうし。
うーん、こういう場合ってどうすればいいんだろう。日本なら警察に相談だったけど、兵士の詰所に相談してもこの程度のことでは動いてくれない気がする。
「結構厄介だね」
「そうなんだ。でも昨日から色々考えて、とりあえず対策がまとまってるから聞いてくれる?」
「そうなの!?」
ロニー凄すぎる……やっぱりロニーって頭良いんだな。勉強だけじゃなくてこういう時にも発揮されるのか。俺って頭脳だけなら、ロニーにそのうち負けるだろうな。いや、もう負けてる可能性も……
「うん。まず何で今回の妨害が行われたのかだけど、とりあえず僕が見た感じだと、誰かに雇われて今回の妨害をしてるんだと思う。五人くらいが連携してやってるし、全員初めて見た人だし、お金がもらえなきゃあんなことやる意味ないから。だから目標としては、雇い主を突き止めて、もうこんなことができないようにすること」
「うん。それは重要だね」
「そうだよね。それでその方法だけど、今回は敵の羞恥心を煽るのと、その他大勢の人を味方につけて助けてもらおうかと思ってるんだ。具体的には、一日限定でクレープの無料配布をやる。一人一回限定で、普段のクレープの三分の一程度の大きさにすれば、費用も抑えられると思う。それで列に並んだ人皆にクレープを渡すことにすれば、妨害して来てる奴らにもクレープを渡すことになるでしょ?」
「うん。そうなるけど……それに意味があるの?」
「クレープを渡すときに大声でこう言うんだ。いつもお金はないけど匂いだけでも嗅ぎたいと思って来てくれてるんですよね。それに感動して今日は無料配布をすることに決めたんです。いつもありがとうございます! こう言うことで、クレープも買えないほどお金がないということで羞恥心が煽られる。多分次の日からは、屋台に来てクレープを買わない妨害はやり辛くなる」
「確かにそれは意外と有効かも……」
「あとは普通に他の人にもクレープを食べてもらえるから、美味しいと思った人は次の日も買いに来てくれると思う。更に、いつもいる怖い人はお金がない可哀想な人って認識になってるから、怖がって近づかない人も減ると思う。それによってお客さんが増えれば、妨害しようとしても他のお客さんが邪魔だと妨害を止めてくれるかもしれない。少数では立ち向かえなくても大勢だと立ち向かえるからね」
「ロニー、凄いね」
ロニーが凄すぎて相槌を打つことしかできない。ロニーって十歳だよね? 十歳の子供がこれを考えてるんだよ!? 普通に考えてありえないよ! ロニーが本当に天才すぎる!
待って……ここまでだとは正直思ってなかった。話し方もわかりやすいし……
ロニーみたいな平民もいるんだから、その子が埋もれたらそれこそ損失だよね。ロニーがお店で働いてくれるの、本当に頼もしい。
「レオンの方が凄いよ」
「絶対そんなことない。ロニー凄い」
「ふふっ……ありがと。でもまだ続きがあるんだ」
「そうなの!?」
まだ続くのか。本当に凄すぎる。
「うん。それで妨害できなくなった男達はどこへ行くか、多分雇い主のところに行くと思うんだよね。後は雇い主がどんな人かにもよるんだけど、こんな低レベルな妨害をするような人なら、次は高い確率で物理的な攻撃を仕掛けてくると思う。昼間はそのまま捕まるし目立ちすぎるから、たぶん夜に屋台を壊すとかじゃないかな。これはあくまでも予想だけどね。だからさっきの作戦をした日の夜に屋台の側で見張っていれば、男達が来ると思う」
「確かにそうかも……ロニー本当に凄いよ」
「ありがと、でもここからが問題なんだよね。ここからはレオンの力を借りないといけないんだけど……、公爵家に頼んで兵士を二人ほど借りて来れないかな? 男達が屋台を壊してるところを見て現行犯で逮捕しないとダメなんだ。後から言っても証拠がないって言われるだろうし。それで現行犯で逮捕したら黒幕を聞き出せると思う」
「確かにそうだよね。言い逃れされたら、俺たちが見たってだけだと弱いよね」
この世界にもカメラがあったら楽なのに、こういうところはカメラがないと本当に不便だ。やっぱり発言に信頼がある立場の大人が必要だよね。
「そうなんだ。本当は自分達だけで解決できる作戦を考えられたら良かったんだけど……、僕もまだまだだよね。もっと勉強もして頑張らないと」
「いやいや、充分だよ! この作戦かなりよくできてると思う!」
「結局はレオンに頼らないと無理だったから……」
「いくらでも頼ってくれていいからね! それにほとんど頼ってないし!」
何度でも言うけど十歳だからね! 十歳ではありえないほどの作戦を考えてるのにまだ反省してるなんて、もうすでに俺も負けてるな……。そしてこの先も頭脳ではロニーに勝てなさそうだ。
「ありがとう。それで、この作戦でどうかな?」
「良いと思う。やってみる価値は大いにあるよ」
「良かったぁ〜。こういう作戦は初めて考えたから、話すのちょっと緊張してたんだ。公爵家から兵士は借りられそう?」
「うーん、多分借りられると思う。今日話してみるね」
多分公爵家に言ったら、兵士長とかが来てくれそうな気がする。後はリュシアンが自分もついていくって言いそうだな……まあ、護衛がいれば危ないことはないと思うけど、出来ればリュシアンには留守番してもらう方針でいこう。でもリュシアンってこういうの好きそうなんだよね。
「それなら良かった! 今日からの屋台はどうする?」
「今日は休みにしよう。それで明日回復の日だよね、明日の昼間から作戦決行が良いかな。俺も屋台に行くよ」
「確かに早い方が良いよね。じゃあ明日よろしく!」
「うん! 明日は迎えに来るから家で待っててね」
「え? 広場に集合でいいよ?」
「でも、もしかしたら襲われるとかあるかもしれないし……。こんな話聞いたら心配だから」
ロニーって魔力も少ないし、身を守る術がないんだよ。何か対策を考えた方が良いかもしれないな。今回のはこれで解決できるとしても、これからもロニーは危険に晒される可能性がありそうだし……。
一番良いのは護衛をつけることだけど、それは無理だよなぁ。後は……バリアって魔法具にできるのかな?
もしできるのならそのネックレスとかをあげて、肌身離さず持ち歩いて貰えば良いかも。バリアを透明にして、常時発動でもわからないようにすれば良いかな?
うーん、でもそれだと魔力がすぐ無くなりそうだし、鎧を着てるようなものだから、座った時とか絶対に気づくよね。
そうなると常時発動型じゃなくて、ペンダントに魔石を固定しておいて、危ない時に魔石を押し込んだらバリアが発動するとか、魔鉄の指輪で触れたら発動するとかが良いかな。バリアをロニーの体からスライドさせるようにすれば敵も排除できるし、ロニーの周囲一メートルくらいに侵入不可って感じにすればその後も安心だ。
それだと使った場合バリアはバレるけど、ロニーの安全には代えられないよね。とりあえずその魔法具も今度作ってみよう。
「とにかく迎えに来るから勝手に行かないでね! すれ違いになっちゃうから」
「わかったよ。レオンは心配性だなぁ」
「何かあってからじゃ遅いからね!」
「わかったわかった。ちゃんと家にいるよ」
「じゃあまた明日ね。公爵家でやることもあるしもう帰るよ」
「うん。また明日」
そうして俺は、リシャール様に話す内容を頭の中で整理しながら、急足で公爵家に戻った。
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