第135話 スイーツ研究開始

 ダリガード男爵家を初めて訪れた日から一週間が経ち、今日はまたダリガード男爵家に来ている。この一週間でジャパーニス商会の登録は終わり、お店も探し始めてくれているようだ。

 王立学校でロニーに進捗を伝えたら、あまりに早い展開に言葉を失っていた。ロニーの気持ちは心からわかる。俺も展開が早すぎてついていけてないくらいだ。

 とにかくやるべきことの優先順位を決めてやっていかないとだよな。まずスイーツの研究は必須だ。

 今日からヨアンさんとスイーツ開発だから、しっかり頑張らないと! 俺は気合十分でダリガード男爵家に向かった。


 ダリガード男爵家に着くと、キャロリン様が迎えに出てきてくれた。


「レオン君いらっしゃい」

「キャロリン様、本日からしばらくお世話になります」

「私たちもスイーツの開発は楽しみにしているわ。頑張ってね」

「はい!」


 そんな会話をしつつ、キャロリン様に厨房まで案内された。厨房は屋敷の規模にしてはかなり立派なもので、設備も整っているようだ。

 厨房には、ステイシー様と二人の料理人、それからヨアンさんがいた。


「レオン、来たのね! 今料理人とお店で出せる料理について話し合っていたの」

「ステイシー様、おはようございます。もうお店で出す料理について考え始めているのですか?」

「私も食べるものだし、早い方が良いものが出来上がるでしょ?」

「確かに、ステイシー様の日々のお食事も向上いたしますね」

「そうなのよ!」


 ステイシー様は野菜だけの料理を作るのがよほど楽しいのか、かなりテンションが高い。このままだとステイシー様の料理開発に付き合わされそうなんだけど……

 俺がそう思って困っていると、キャロリン様が助け舟を出してくれた。


「ステイシー、レオン君はお仕事で来ているのだから邪魔してはダメよ。レオン君が休憩の時や手が空いているときに相談に乗ってもらいなさい」

「そうでした……レオン、ごめんなさい」

「いえ、ここを借りる条件として、ステイシー様への助言をすることになっていますので構いません。……ただ、時間を決めていただけるとありがたいです」

「では、休憩時間や仕事が終わった後にいたします」

「ありがとうございます」

「二人で上手くやるのよ。そうだ、レオン君は昼食はどうするのかしら?」


 キャロリン様は丸く収まったことに安心した笑顔を浮かべて、そう聞いてきた。


「昼食は自分で作って食べる予定です。……使用人の方の休憩所などをお借りしても良いでしょうか?」

「それはいいのだけれど、どうせなら昼食は一緒に食べましょう。ピエールも回復の日は休みでほとんど屋敷にいるのよ。皆で食べた方が美味しいわ」

「お祖母様、それは素敵な考えです!」

「そうよね。ではそうしましょう」


 ま、待って、どんどん話が進んでいくけど一緒に食べるの!? ヨアンさんもロジェもいるから……


「キャロリン様、大変ありがたいのですがヨアンさんもいますので……」

「あら、ヨアンももちろん一緒よ。レオン君とヨアン、それからレオン君の従者の方の分も昼食を作れるかしら?」


 キャロリン様の中ではもう一緒に食べることは決定事項のようで、料理人さんに俺たちの分も作れるのか聞いている。


「はい。材料は余分がありますのでお作りすることは可能です」

「では三人分追加で作ってちょうだい」

「かしこまりました」

「では私がいたらお仕事も進まないでしょうから、失礼するわね。昼食を楽しみにしているわ」


 俺たちが唖然としているうちに、キャロリン様は段取りを決めて厨房を出て行ってしまった。

 えっと……一緒に昼食を食べることになったんだよね。しかもヨアンさんとロジェも一緒みたいな感じじゃなかった?

 俺がどうすれば良いのかわからずロジェの方を見ると、ロジェも少し困った顔をしていた。そこで俺はロジェに小声で話しかける。


「ロジェ、一緒に昼食をいただいてもいいのかな?」

「レオン様はお誘いをお受けして良いと思います。しかし私は従者ですので……」

「多分ロジェの分も、使用人さんたちの食事じゃなくて、俺たちと同じメニューが用意されるよね。それってこの家の普通なのかな?」

「私には分かりかねますが……、ヨアンさんに聞いてみるのが良いのではないでしょうか?」

「そうだね」


 俺たちがそうして話していると、ステイシー様が二人の料理人を連れてやってきた。


「レオン、先程はろくに挨拶もせずにごめんなさい。こちらがうちの料理を作ってくれている料理人です」

「レオン様、よろしくお願いいたします」

「レオンと申します。よろしくお願いします」

「この二人はいつも厨房にいるので、何かあれば言ってください」

「かしこまりました」

「では、私たちは料理の研究に戻りますね」


 ステイシー様と料理人さん達は、そう言ってまた研究に戻って行った。残されたのは俺とロジェ、ヨアンさんの三人だ。


「ヨアンさん、お久しぶりです」

「はい。今日からよろしくお願いします」

「お願いします。それで早速聞きたいことがあるんですけど、先程キャロリン様が言っていた一緒に昼食を食べるのは、ヨアンさんや従者のロジェも同じ席で食べると言うことでしょうか?」

「はい、そうですが?」


 ヨアンさんは俺の質問に不思議そうな顔をしている。もしかして、この家って使用人も一緒に食事をするのが当たり前なの?


「この家では良くあることなのですか?」

「……当たり前ではないのですか?」

「普通の貴族の家では、使用人は使用人専用の休憩室などで食事を取ります。主人と席を共にすることはほとんどありません」

「そうなのですね……知りませんでした。この家では使用人とともに食事を取ることも珍しくはありません」


 そうなんだ……、貴族としてはかなり驚きだけど、この家の中ではこの家のルールに従うべきだよね。


「そうなのですね。ではありがたくご一緒させていただきましょう。ロジェも一緒に食べるよ」

「しかし主人と共に食事をするなど……」

「でも、それがこの家のルールなんだから従わないとでしょ?」

「それもそうですが……」

「これはもう決定だからロジェに拒否権はありません! ということで一緒に食べようね」


 ロジェは真面目だから俺と一緒に食事をすることに抵抗があるみたいだけど、強引に決定にしてしまった。

 いつもロジェは給仕をしてくれるけど、一緒に食べたことってなかったんだよね。ちょっと嬉しいかも!


「……かしこまりました」

「じゃあ昼食についてはそれで決まりで、スイーツの研究を始めましょう!」


 俺がそう言うと、ヨアンさんは途端に目をキラキラとさせて頷いた。


「はい! あっ、でもその前に一つ良いでしょうか? 私はレオン様に雇われている身ですから、敬語も敬称も必要ありません。もちろん、レオン様のお好きに呼んでいただいて構わないのですが……」


 そっか、ヨアンさんは年上だから自然に敬語と敬称を使ってたよ。やっぱりまだここは慣れないんだよね。

 でも段々と慣れていこう。


「わかった。じゃあヨアン、これからよろしくね」

「はい。こちらこそよろしくお願いします!」

「それじゃあ、まずは荷物の整理からかな」


 俺は厨房にある台の上に、沢山並べられた荷物を見てそう言った。スイーツの研究に必要そうなものを色々と持ってきたのだ。さっきこの家の使用人さん達が運び込んでくれた。


「沢山ありますね……」

「全てスイーツ作りに必要だと思うものだからね」

「宝の山ですね!」


 ヨアンはガタイが良くて強面なのに、スイーツのことになると目がキラキラして顔つきが幼くなる。絶対熱心に研究してくれるだろう。本当に得難い人材だ。

 俺も負けないように頑張ろう!

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