第132話 ステイシー様の将来

「レオン君、ステイシーは可愛いだろう?」

「そ、そうですが……」

「ステイシーはどうだい?」

「どうだと言われても……、私は平民ですので……」

「ステイシーにとっては、平民の方が重荷でなくて良いかもしれないからね」

「レオン君、ステイシーは優しい子ですわよ」


 凄い、お二人の猛プッシュが凄い。そもそも今初対面だよね!? こんな得体の知れない平民に大事なお孫さんを嫁がせても良いのですか!?


「あの、お二人は私のことをほとんどご存知ないのでは……?」

「確かにそうだけど、少し話しただけでレオン君が良い子だというのはわかるよ。私も貴族の一員だからね、人を見る目はあるつもりだよ」

「それにレオン君は、公爵家の所属で王立学校に通っている平民よ。それだけで信用に値するわ。将来は役人となれば給金も良いでしょうし、ステイシーも苦労なく過ごせるわね」


 キャロリン様はそう言ってにっこりと笑顔を浮かべた。怖い……笑顔なのになぜか怖いです! やっぱり貴族は貴族なんですね!

 俺はこのままだと押し切られそうだと思い、キッパリ断ることに決めた。まだ結婚なんて考えられないし、ステイシー様は良い子なんだけど、毎日あの不思議な子と一緒にいるのは……ちょっと厳しい。


「あの、申し訳ありませんが、お断りさせていただきたく……」


 俺がそう言うと、二人は一斉に笑いを堪えきれない表情になった。


「ははっ……レオン君、少しからかいすぎたみたいだね。すまなかったよ」

「レオン君ごめんなさいね。途中から楽しくなってしまって」


 なんだ……からかってるだけかぁ。でもそうだよね、まだ結婚なんて早すぎる話だよね。

 俺がそう思ってホッとしていると、また爆弾が投下された。


「でもステイシーを妻にって話は本気よ? まだ知り合って日が浅いものね。もっと仲良くなってからまた話をしましょう」


 待って……また話をするのですか!? もういいです。もうこの話はここで終わりでいいです。

 それに、ステイシー様の気持ちもあるよね! 絶対俺なんかと結婚したくないはずだよ!


「ステイシー様は、私ではご不満だと思いますが……」


 俺がそう言ったところで、ちょうどステイシー様が戻ってきた。手には綺麗な花が咲いている植木鉢がある。


「ステイシー、良いところに戻ってきたわね!」

「お祖母様、どうしたのですか?」

「ちょうど今ステイシーとレオン君の将来について、前向きに話し合っていたところなのよ」


 前向きに!? 前向きになんて話し合ってません!


「私とレオンの将来ですか?」

「そうよ。ステイシーはレオン君とずっと一緒にいたくないかしら?」

「ずっと一緒にいられたら、楽しそうです」

「そうよね」


 キャロリン様待ってください! ステイシー様は絶対に理解してないです! 今の返事も、よく分からないけどずっと遊べたら楽しいよね、くらいの軽い返事ですよ!

 この流れはまずい、ピエール様も苦笑いしてるだけじゃなくて止めてください!

 俺はなんとか話を逸らそうとして、別の話題を提供することにした。


「ス、ステイシー様は、将来やりたいことなどはおありですか?」


 俺がそう言うと、ステイシー様は途端に目を輝かせた。もしかして何かやりたいことがあるのかな?


「実はあるのです! 私は植物も動物も皆友達だと思っているので、ずっと食事が嫌いでした。ですがこの前レオンに取った方が良い葉や実もあると言われて、それを農家の方に確認したところ本当でした。なので私はそれらを積極的に食べていますが、それらを使った料理店をやりたいです!」


 まさか……この前の何気ない一言がそんな影響を及ぼしてるなんて。


「それは素晴らしい夢ですね」


 ピエール様とキャロリン様も初めてそんな話を聞いたのか、凄く驚いた顔をしている。


「レオンありがとう。ですが、野菜や果物しかない料理屋など流行りませんよね……」

「いや、そんなことはないと思います。ステイシー様は、野菜の中でも食べられないものはおありですか?」

「今までは仕方なくお野菜を食べていたので、全て食べることはできます。ですが動物は一切食べません。食べたくありません」

「……それならば、流行るお店が作れると思います」

「本当ですか!?」


 多分野菜や果物だけを使ったヘルシー料理店にしたら、結構お客さんが入るんじゃないかと思う。平民向けではなくて貴族向けのお店にすれば、ダイエットをしたい人が来てくれるんじゃないかな。


「はい。動物を使わないというよりも、ヘルシーで太らない料理として売り出したら良いと思います」

「確かにそうですね……私、そのお店をやりたいです!」


 そこまで話が進んだところで、ピエール様とキャロリン様が驚きから戻ってきた。


「ちょっ、ちょっと待ってくれるかい! ステイシーは本当にその料理屋をやりたいんだね?」

「はい、やっても良いでしょうか……?」

「もちろんだよ! ステイシーにやりたいことができるなんて凄く嬉しいよ」

「本当ですか!? お祖父様、ありがとうございます」

「ステイシー、あなたに素敵な夢ができて良かったわ」

「お祖母様、ありがとうございます」


 ステイシー様はそう言ってとても嬉しそうな笑顔で笑った。やっぱりピエール様とキャロリン様って、めちゃくちゃ良い人達だな。

 とりあえずステイシー様にやりたいことがあるのなら、嫁ぎ先を焦って探すこともないだろう。俺にとっても良かった。そう思って安心していたら、ピエール様が急に深刻な表情を浮かべた。何か問題でもあるのかな?


「ただ一つ問題がある……。お店を始めるのにはかなりのお金が必要だけど、うちにはそんな大金はないんだ。どうやってお金を作り出すか……」


 お金の問題か、そうだよね。普通はそこが一番の問題になるんだよ。俺はお金だけは潤沢にあるから失念してた。


「お祖父様、やはり難しいでしょうか……」


 ステイシー様はさっきまでテンションが高かったのに、目に見えて落ち込んでいる。そんなステイシー様を見て慌てたのはピエール様だ。


「ス、ステイシー、無理なんてことはない! 私がなんとかするからね」

「あなた、ここは決断する時だわ。スイーツの研究をやめればお金も貯まるのではないかしら? ステイシーの卒業まで五年もあるもの。それまでにはどうにかなるわよ」

「……確かにそうだね。スイーツの研究をやめればその分のお金が貯められる。ただ折角ここまでやってきたのに……」

「孫の幸せの方が重要よ」


 なんと、まさかのスイーツ研究のせいで貧乏だったのか。もしかしてこの家が質素なのも、スイーツの研究にお金を使いすぎていたから?

 良い人達なんだけど、やっぱり貴族としてはちょっとズレてるよね……

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