第130話 お店についての相談
屋敷に帰って少し休むとすぐに夕食の時間となった。今は夕食を食べ終えて、食後のゆったりとした時間が流れているところだ。
そこで俺は、徐に今日の話を切り出した。
「リシャール様。実は本日考えたことなのですが、私の商会を作ってお店を始めようと思っています。お店を始めても良いのでしょうか?」
「お店? 突然何でそんな話になったんだ?」
「はい。屋台で私の友達であるロニーを雇っているのですが、ロニーがこれからもこの仕事を続けたいと思っていることを知りまして、それならばお店を始めたいと思ったのです。私も作りたい料理がたくさんありまして……」
俺がそう言うと、リシャール様は納得したような顔をして一つ頷いた。
「そうか、そういうことならば全く構わない。レオン君の料理はもっと広めるべきだと思っていたからな。レオン君の店ならば公爵家が後援をする、完成するのが楽しみだな」
「後援していただけるのですか?」
凄くあっさりと言ったな。そんな簡単に後援しても良いのだろうか。まだお店の内容も言ってないのに。
最近よく思うけど、皆の俺に対しての信頼が厚すぎて逆に心配になる。
「勿論だ。レオン君は屋台も成功しているようだし問題ないだろう。それでどのような店にするのだ? やはりクレープ店か?」
「ありがとうございます、お店については勿論クレープも売るつもりですが、とりあえず最初のお店はスイーツ専門店にしようと思っています」
「スイーツ専門店? カフェのようなものか?」
「いえ、カフェではサンドウィッチなど食事も売っていますが、私のお店では甘いものだけを売るようにしようと思っています。基本的にはスイーツをお持ち帰りいただくお店にして、隣にカフェを併設しそこで食べていただくこともできるようにする予定です」
俺がそう言うと、リシャール様ではなくカトリーヌ様がすぐに反応した。
「レオン、そのお店は素晴らしいわ。必ず開店させるのです。甘いものだけのお店なんて……楽園ですわね」
カトリーヌ様はそう言ったっきり、うっとりとした顔で自分の世界に入り込んでしまった。多分スイーツに囲まれた様子を思い描いてるんだろうな……
カトリーヌ様がこの様子ならお店の未来は明るいかもしれない。やっぱり平民向けじゃなくて、貴族向けのお店にしたほうが良さそうだな。
今回は完全に貴族向けにするとしても、今後は平民向けのお店も出店したい。スイーツを誰でも気軽に楽しめるのが理想だ。
「レオン君、カトリーヌの様子を見ていればお店は流行りそうだが、甘いものだけを売るのでは客が減るのではないか? それにカフェなどで食べられるものを売るだけではあまり意味がないと思うのだが……」
「はい。今あるスイーツを売るだけではお客様に来ていただけないでしょう。そこで新しいスイーツを作ろうと考えています」
「新しいスイーツですって!? レオン、それは本当なの!?」
カトリーヌ様が、新しいスイーツの言葉に反応して自分の世界から戻ってきたようだ。カトリーヌ様って、スイーツのこととなると本当に周りが見えなくなるよね。普段は優しさと腹黒さも兼ね備えた貴族女性の見本のような人なのに。
まあ俺は、スイーツに目を輝かせているカトリーヌ様、結構好きだけどね。
「まだ作れる確証はありませんが、どういうものを作るかの構想はあります。そこでご相談なのですが、スイーツ専門の料理人さんを紹介していただけないでしょうか?」
「素晴らしいわ! あなた、必ず良い方をご紹介するのよ」
「カトリーヌ、少し落ち着くんだ。勿論全力で料理人を探すが……スイーツ専門の料理人は私の知る限りいないのだが」
「確かに、私も聞いたことがありませんわね」
そうなんだ……確かにこの世界はスイーツが少ない。でもフレンチトーストとかは普通にあったし、少しはいるのかと思ってたけど……
あれ? そういえば前にクッキーの作り方を教えたよね? この屋敷でクッキーを作ってる人は他のお菓子の開発とかしてないのかな。あれから何度かクッキーが食後に出てきたりしてるし。
「リシャール様、以前クッキーの作り方を料理人さんに伝えましたが、このお屋敷でクッキーを作ってる方は他のスイーツについては開発などしていないのでしょうか?」
「ああ、この屋敷では料理長がクッキーを作っているらしい。だが未だクッキーも満足のいくものが作れず、試行錯誤しているようだ。それゆえに他のスイーツには手を出せていないだろう。普段の業務の合間にやっているからな」
そうなのか……料理長を引き抜くわけにはいかないよね。それにクッキーを作ったことがあるだけなら、他の料理人もすぐ同じレベルになるだろうし。
もういっそのこと普通の料理人を紹介してもらって、その人に色々教えればいいかな? うーん、でも俺もよく覚えてないレシピを作ってもらいたいから、スイーツの開発に熱心な人が良い。
俺がそうして悩んでいると、リシャール様が何かを思いついたような声を上げた。
「そうだ。確かダリガード前男爵と奥方がスイーツ好きで、スイーツの研究をしていると以前耳にしたことがあるな……」
そんな人がいるんだ! ダリガード前男爵様に会ってみたいな。
あれ……ダリガード? ダリガードってどこかで聞いたことがあるような……そうだ! 確かステイシー様の実家だよ。
「ステイシー・ダリガード様が同級生でいらっしゃるのですが、そのご実家でしょうか?」
「そういえば、リュシアンと同い年の孫がいると言っていたな。ダリガード家は一つだけだから間違いないだろう。友達なのか?」
「知り合い、でしょうか。回復属性の授業で一緒なのです。成り行きで屋敷を訪れる約束をいたしまして、訪れても良いのかリシャール様に確認しようと思っていたところです」
「そうか、それならば丁度良い。ダリガード前男爵に連絡を取り、スイーツの件でレオン君が訪れることを伝えておこう。多分スイーツの研究をしている料理人もいるはずだ」
リシャール様はすぐにそう言ってくれた。ということは、ダリガード男爵家は公爵家側の勢力なんだな。
ステイシー様の実家ってところは少し不安だけど、スイーツの研究をしている料理人はまさに俺が求めている人材だ。是非とも協力してもらいたい。
「ありがとうございます!」
「ダリガード前男爵とその奥方はとても穏やかな方だ。レオン君の力になってくれるだろう。他にも何かあったらすぐに言ってくれ、できる限り力になろう」
「いつも本当にありがとうございます。よろしくお願いします」
俺が心からの感謝を込めてそう言うと、リシャール様は優しく微笑んでくれた。本当にありがたい、いつも助けられてばかりで恩が返しきれてない。
今回はお店を成功させて、まずは良い報告を出来るように頑張ろう。
ダリガード男爵家の料理人はどこまでスイーツの研究をしているのだろうか。協力的な人で、一緒にケーキを作ってくれる人だったら良いな。
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