第129話 レオンのお店

 そうして話が一段落すると、マルティーヌが商会の名前を決めようと言ってきた。


「商会の名前って自由に決められるの?」

「そうよ。他の商会とかぶっていなければ自由に決められるわ! 何か良い名前を考えましょう!」

「うーん、俺ってこういうセンスないんだよね。ロニー何か思いつく?」

「僕も全然センスないんだ……」

「では皆で考えましょう!」


 そうして皆で商会の名前を必死に考えた。まず口を開いたのはステファンだ。


「スイーツを売るのだから、それにちなんだ名前が良いと思うんだ。スイーツフルとかはどうだ?」

「それって……甘いもの沢山って意味だよね?」

「そうだ」


 ステファンは自慢げにそうだって言ってるけど、そのまま過ぎない? 


「ステファン、それはちょっと……微妙かな……」


 俺がそう言うと、ステファンは衝撃を受けたような顔をして落ち込んだ。もう見るからに思いっきり落ち込んでいる。そんなに落ち込むほど自信あったのか。俺は思わず笑いそうになりながら、何とかそれを抑えた。

 ステファンもたまに子供っぽいところあるよね。


「ごめんごめん。悪くはないと思うけど、もう少し捻った名前が良いかなと思ったんだ。それに少し可愛い名前過ぎる気がして」

「確かにそれもそうだな」


 俺がそう言うと、ステファンは気を取り直してまた名前を考えているようだ。クレープフル、マヨネーズフルとか言ってる声が聞こえてくる。何で全部フルが付いてるんだろう。


 ……ステファン、名付けのセンスはないんだな。


 俺は思わず吹き出しそうになるのを何とか抑え、自分でも名前を考え始めた。

 うーん、どうせなら日本的な名前が良いかな。こっちの世界の言葉に翻訳されないものなら、もしこれから先の未来に日本から転生してきた人がいたとして、気づいてくれるかもしれないし。そんな人がいるのかわからないけどね。


 甘いものを売るからそれにちなんだ名前でも良いけど、そのうちにスイーツじゃない日本料理屋とかも出来たら良いなって夢があるから、甘いものに拘らずに名付けたい。今は醤油も味噌も何もないから無理だけど、そのうち手に入ると信じている。

 うーん、日本って名前は翻訳はされないだろうけどそのまますぎるよね。ジャパン、ジャパニーズ、ニッポン、この中ならジャパニーズとか良いかも。


「ジャパニーズとかどう思う?」


 俺がそう言うと皆が顔を上げた。


「じゃぱにーず?」

「そう、ジャパニーズ商会」

「うーん、ちょっと言いづらいぞ」

「確かに発音が難しい。もう少し言いやすい名前が良いんじゃないか?」

「そっか……どう変えたら言いやすい?」


 俺がそう言うと、皆が口の中でジャパニーズと唱えながら最適な発音を探してくれている。


「そうね、私はジャパーニスなら良いと思うわ」

「確かにそれなら言いやすいな」

「ジャパーニス商会ね」


 うーん、日本の面影が残ってるか微妙な感じだけど、そのぐらいでいいか。ジャパーニスって何となくかっこいいし。


「うん、ジャパーニス商会にする!」

「決定ね」

「ロニーも良い?」

「うん! 凄くカッコいいよ。それにレオンの商会なんだから、レオンが決めることだよ」

「確かにそうだね。じゃあジャパーニス商会で決まり!」


 そうして皆で俺のお店についての話で盛り上がり、クレープ会は終了となった。急展開だったけど、お店をやるのはかなり楽しみだ。

 でも不安なのは、俺に仕事を回せるかだよね。商会の会長ってかなり忙しそう……無理そうだったら人を雇えば良いのかな? 

 うーん、まあ今そんなことを考えてもしょうがないか。そうなったときに考えよう。


「では、今日はこれで帰ることにする。またお店について決まったことがあれば教えてくれ」

「レオン、スイーツ専門店楽しみにしているわ!」


 ステファンとマルティーヌはそう言って、先に帰っていった。

 そして今は、ロニーを送るために二人で馬車に乗っているところだ。リュシアンも一緒に送ると言ってくれたけど、ロニーが流石に疲れてそうだったので遠慮してもらった。


「ロニー、さっきはどんどん話が進んじゃったけどお店をやるので良いの? ロニーの就職先が決まることになっちゃうけど……」

「うん! 僕からお願いしたいくらいだよ。王立学校に入って役人は向いてないと思ってたんだ……役人って貴族様と働かないといけないでしょ? でも他に良い働き先も思いつかないし仕方がないって諦めてたんだけど、レオンのお店で働けるのなら絶対にそっちが良い! レオンありがとう!」


 ロニーは少し身を乗り出しつつそう言った。そんなに乗り気ならもう遠慮することはないな。絶対に成功させて給料も多く出せるように頑張ろう。


「ロニー、絶対成功させようね」

「うん!」

「まずは料理人を見つけてスイーツの開発と、商会への登録とリシャール様に後援のお願いかな。そして開発の目処がついたら店舗を決めて内装を決めないとだよね。メニューも決めて仕入れも確認しないとだし……本当にやることが山積みかも。実際にお店を開くとなったら人も雇わないとだし……」


 やばいな。ロニーが卒業した時からお店を始めるにはかなり忙しくなるかも。俺も卒業できるように最低限の勉強は必要だし……ロンゴ先生には申し訳ないけど、研究会は休むことが多くなりそうだ。


「レオン、一つだけお願いがあって……、無理だったら全然良いんだけど……」


 俺が今後について色々と考えていると、ロニーが歯切れ悪くそう言ってきた。何のお願いだろう? 


「聞けるお願いなら聞くよ?」

「うん、出来たらで良いんだけど……お店の従業員に、僕の孤児院の家族を雇ってくれたら嬉しいなって思ったんだけど……、ほんとに、出来たらでいいんだけど!」


 そっか、ロニーは孤児院の皆にお腹いっぱいご飯を食べさせてあげたくて、役人になるって言ってたんだよな。


「孤児院ってどういう仕組みになってるの? 何歳で出ないといけないとか、どういう仕事に就くとか」

「孤児院は十五歳まではいられるんだ。だから皆は八歳ぐらいから仕事をし始めてお金を貯めて、十五歳になったらそのお金で一人暮らしを始める。でも子供ができる仕事なんてほとんどないし給金も低いから、殆ど貯まらないんだけどね。孤児院は食事も少ないから稼いだお金で食べ物を買うことも多いし……。だから孤児院を出たら貧乏暮らしになる人が多いかな。仕事が見つかって働ける人はましだけど、仕事がないと日雇いの仕事とかで食い繋ぐ感じになる。だから、着の身着のままで中心街に来る人も多いかも。下働きの求人はたくさんあるし住み込みも多いからね」


 そーなのか、やっぱり結構過酷なんだな。中心街で見つけられる住み込みの仕事だって当たりを引いたら幸せかもしれないけど、酷い労働環境のところとかもあるんだろう。

 この国の仕組みを変えて辛い思いをしてる人を救う! そんな高尚なことは言えないけど、知り合いくらいは救っても良いよね。誰を雇うのかは俺の自由なんだし。


「そうなんだね。実際に会ってみないと決められないけど、ロニーの孤児院の子達を雇うのは構わないよ。俺の店で働きたいと思う意欲がある子なら大歓迎だよ」

「本当!? レオンありがとう! なら今度孤児院に来てくれるときに会ってみて」

「そうだね。休みに孤児院に行くって話してたけど、夏の長期休みで良いかな?」


 王立学校には夏の初めと秋の終わり頃に二回の長期休みがある。その時がちょうど良いだろう。


「うん!」


 そうして俺はロニーを送り届けて、公爵家に戻った。

 今日は色々あって疲れたけど、夕食の時にリシャール様に話さないとだな。俺はリシャール様に話すことを頭の中でまとめつつ、馬車に揺られた。

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