第128話 ロニーの将来
ロニーがこれからもこの仕事を続けたいなら、今みたいに屋台でやるだけじゃなくてお店にした方が良いのかな。この世界ってケーキ屋みたいなデザート専門店ってないから、カフェ併設のスイーツ店みたいなのができたらかなり人気出ると思うんだよね。
そのためにはもっとスイーツを開発しないとなんだけど……まずはスイーツの開発をしてくれる料理人を探さないとダメだよな。
「ロニーがこれからもこの仕事を続けたいのなら、今は屋台だけどいつかはお店にできるように頑張るよ」
俺がそう言うと、ロニーは少しだけ迷うような表情を浮かべた。
「もしかして、どこか働きたい食堂があるとか?」
「ううん! そんなところはないよ。これからもずっと働けるのは本当にありがたいんだけど……、僕レオンに頼りすぎじゃない?」
「そんなことないよ! 逆に俺がロニーに頼りすぎなぐらいだよ。お店にするとなればかなり大変だと思うけど、力を貸してくれる?」
「勿論! 僕で良ければ精一杯働くよ」
「じゃあこれからもっと頑張ろっか。目指すは大人気のスイーツ店かな!」
「スイーツ店? クレープ店じゃないの?」
「クレープ店もいいけど、スイーツの専門店ってないからやってみたいんだよね。でも、もうこうなったらどっちも作ろうかな。別にお店は一つしか作れないなんてことはないし、夢は大きく持たないとね!」
俺とロニーがそうして盛り上がっていると、マルティーヌがキラキラした瞳で話に加わってきた。
「スイーツの専門店なんて素敵ですわ! 絶対常連になります!」
勢いがすごい……マルティーヌがこの勢いなら、実現すればかなり流行るかもしれない。俺は思わず苦笑いを顔に浮かべながらそう思った。
「マルティーヌが常連になってくれたらありがたいよ」
ちょっと話題になりすぎる気もするけど……、まあお店をやるときはそのくらいの方がありがたいよね。
スイーツ専門店なら最初は貴族向けになるだろうし。そのうち庶民向けのお店も中心街の外に作りたいな。
お店をいくつも作るとなると、人もたくさん雇わないとだよね。かなり大変だと思うけどちょっとワクワクしてきた!
俺がお店を出すとしたら一番の問題は何だろう。とりあえず初期の開店資金くらいはあるだろうからお金は大丈夫だ。やっぱり一番は信用かな。仕入れとかをするときも平民のしかも子供の俺だとかなり舐められそうだ。
公爵家は俺の後見をしてくれているけど、俺がお店を出すとなったらどうなるんだろう?
そもそも俺がお店を出しても良いのかな? 屋台は普通に認められたけどお店はまた違う気がする。
「リュシアン、俺がお店を出すのって良いのかな?」
「ああ、普通に許可が出ると思うぞ。たぶん公爵家がお店の後援をすることになるんじゃないか?」
「後援してもらえるの?」
「多分頼めば出資もしてくれるな。だけどレオンは出資の必要はないだろう?」
お金はあるから出資の必要はないかな……。出資してもらうと色々ややこしくなりそうだし。
「出資の必要はないかな。後援は本当にありがたいよ」
「後でお祖父様にお店について話せば、当然のように後援してくれると思うぞ」
公爵家が後援してくれるのならば、後は努力するだけだ。今さっき思いついたことなのにもう道筋が見えてきたよ……やっぱり身分って強いな。精一杯頑張って良いお店にしよう!
そうなると一番の問題は料理人の確保だよね。お店が作れたって肝心のスイーツが微妙だったら流行らない。今の状態でもクッキーやパンケーキ、甘いクレープなどは作れるけど、それだけだと物足りないだろう、やっぱりケーキが欲しい。
俺の曖昧な知識を聞いて開発してくれる、スイーツ専門の料理人が必要だな。早速今日の夕食時にでもリシャール様に聞いてみよう。
本当にワクワクしてきた! お店をやるのも楽しみだし、何よりケーキが食べられるかもしれない!
「ロニー、多分進めたら本当にお店が始まるけど、大丈夫?」
「うん! 僕ワクワクしてきたよ! 僕がお店をできるなんて夢みたいだ」
「お店をやるとしたら、ロニーには店長を任せても良い?」
「え!? 店長はレオンじゃないの!?」
「うーん、でも俺は卒業したら役人として働かないといけないから。それに将来的には何店舗もやることになるかもしれないし、全てのお店の店長はできないでしょ?」
俺のイメージ的には社長みたいな役職が一番望ましいんだよな。まあ社長って大変だろうから、他の仕事をしながらできるのかって問題はあるけど……
というかそもそも、この世界って会社とか法人の考え方はないよね? 何店舗もお店を経営する人はどうしてるんだろう?
「誰に聞いたら良いかわからないんだけど、何店舗もお店を経営してる人ってどうやってるの? 全てのお店の店長になるわけないよね?」
俺がそう聞くと、その疑問にはステファンが答えてくれた。
「そういう場合は商会を立ち上げるのが一般的だ。貴族が店をやる場合は必要ないが、平民の場合は商会を作ってそこで全ての店舗をまとめている。仕入れなどもやりやすいからな」
商会か……じゃあ俺も商会を作った方が良いのかな? というか今更だけど、商会って何?
「あの、今更の質問かもしれないけど、商会って何なの? 深く考えたことなかったんだよね」
俺がそう言うと、リュシアンが呆れた顔で俺をみた。
「レオンはいつも当たり前のようなことを知らないよな」
「それは俺が平民だから!」
「でもレオンは絶対に平民が知らないようなことはたくさん知ってるだろ?」
「それは、まあそうなんだけど……」
「まあ、レオンがおかしいのは今に始まったことじゃないからな」
反論出来ないけど反論したい! でも出来ない!
「それで、リュシアンは商会が何か知ってるの?」
「ああ、商会は簡単に言えば、平民が作れる形だけの家のようなものだ。何かを契約するときに商会の名前で契約できる」
うん? 平民が作れる形だけの家ってどう言うこと? 説明聞いてますますわからなくなったんだけど。
「……どういうこと?」
「そうだな……貴族は皆生まれた家に所属しているだろう? 私なら何かを契約するときは、個人でもできるがタウンゼント公爵家としても契約できる。店を出すときもタウンゼント公爵家の店ということで、何店舗もまとめて経営可能だ。そういう貴族の家のようなものを、平民が形だけは作れるのが商会だ」
そういうことか、何となくわかった。要するに会社みたいなものだよな。貴族は生まれながらに家という会社に所属しているけど、平民は所属してないから自分で作れるよって感じだ。
「何となくわかったよ。商会を作るのに条件とかあるの?」
「いや、確か難しい条件はなかったはずだぞ。でも毎年お金を支払う必要があったはずだ」
毎年お金を払わないといけないから、むやみやたらと増えないんだな。でも俺にとってはお金を払えば登録できるのはありがたい。
「じゃあ、とりあえず商会を作ろうかな」
「それが良いな」
「どこにいけば作れるの?」
「普通は教会だが、多分お祖父様に言えば登録してくれるんじゃないか? 貴族の後援があると無条件で作れたはずだ」
「それは流石に申し訳ないから、自分で登録に行くよ!」
「まあ、その辺もお祖父様に話してみれば良いと思うぞ」
「確かにそうだね」
でもそもそもの話、ロニーが卒業してからじゃないとお店を開けないのか。そうなると準備期間が必要だとしてももう少し先の話かな? ロニーって何年で卒業できるんだろうか? もし五年かかるのならあと数年先の話になる。
「ロニー、お店を始めるとしたら卒業してからが良いよね?」
「その方がありがたいかな」
「何年で卒業できそう?」
俺がそう聞くとロニーは、ちょっと不思議そうな顔をした後に口を開いた。
「何年って一年で卒業するよ?」
「え? 一年で卒業できるの!?」
「そんなに驚くこと? レオンだって一年で卒業するでしょ?」
「そうだけど……、普通は早くて二、三年とかだよね?」
「でもそれは、貴族様が人脈を広げつつ王立学校に残るからじゃないの? 僕は平民でお金もないし、早く卒業して働きたいから」
ロニーの中ではそんな認識になってたのか……、ロニーが純粋で良い子すぎる。多分貴族達は、実力不足で普通に卒業できないだけだと思う……
まあ、実際のところはわからないよね!
「ロニーは卒業できそうなの?」
「うーん、普通に勉強してれば大丈夫だと思う」
ロニーって、孤児院育ちで王立学校に入学して地頭が良いんだなと思ってたけど、やっぱりかなり頭良いんだね。何なら俺より絶対に頭良いよ。
俺は前世のアドバンテージがあるだけだから、すぐロニーに抜かれそうだ……もっと勉強も頑張ろう。
「それなら、次の春からお店が出来るように準備を進めてもいい?」
「うん! 僕も手伝うからね!」
そう言ったロニーはすごく嬉しそうで、ワクワクしたような顔をしていた。その顔を見て何だか俺も嬉しい。絶対成功させよう! 俺はやる気十分で気合を入れた。
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