第126話 レオンの部屋
ロニーと共に俺の部屋に入りソファーに座ると、ロジェはお茶の準備のために部屋を出た。
「レオン、僕が客人ってどういうこと!?」
「俺も初めて聞いたんだよ。多分リシャール様とリュシアン様の話でそうなったんじゃないのかな?」
今回ロニーとステファン、マルティーヌが公爵家を訪れることは、リュシアンがリシャール様に報告したんだよね。俺はその場にいなかったからどんな話がされたのか知らないんだ。
「そうなんだ……。何かもう色々驚きすぎて疲れたよ……まだ何もしてないのに」
「まだこれからが本番だよ。でも高待遇なのは良いことだから、そこは喜んでおけば良いんじゃない?」
「まあそうだよね。邪険にされるよりは絶対に良いしありがたいよね。でも期待に応えなきゃと思って逆に緊張するよ!」
ロニーはそう言いつつも、どこか吹っ切れたような顔をしている。やっぱりちょっとは慣れてきてるのかも。
「そういえばここがレオンの部屋なんだよね? レオンがこんな良い部屋に住んでるなんて……それくらい事前に教えてくれたっていいのに」
ロニーは俺の部屋を見回しながらそう言った。確かにロニーには、公爵家でのこととかあまり話さないようにしてたんだよね。怖がられたくないなって思いが無意識にあって避けてたんだ。
でもこれからはもう少し話すようにしようかな。
「これからは公爵家でのことも話すことにするよ。ちなみにここが俺の部屋だけど、元は客室だったんだ。そこを俺の部屋にしてくれたの」
「そうなんだ……。普通は平民なら使用人部屋とかだよね? 平民に客室を与えるって普通じゃないよね? もしかして、公爵家ではこれが普通なの? 違うよね、絶対レオンがおかしいんだよね。レオンといると何が普通なのかわからなくなってくるよ……」
ロニーが遠い目をしながら何かをぶつぶつと呟いている。でも声が小さすぎて何を言っているか聞こえない。
「ロニー? 何言ってるの?」
「独り言だから気にしないで……」
「それならいいけど……。そうだ、まだ時間もあるし何か疑問とかあれば何でも答えるよ」
俺がそう言ったところでロジェが入ってきて、二人分の紅茶を淹れてくれた。
そしてその紅茶を飲みながら話を続ける。
「この部屋ってレオンが一人で使ってるんだよね?」
「そうだよ」
「その衝立の向こうは?」
「ベッドがあって、トイレとお風呂に続くドアがあるよ」
俺がそういうとロニーがまた遠い目をする。
「じゃあレオン専用のトイレとお風呂ってこと?」
「そう。最初は俺もかなり驚いたよ」
「僕も今凄く驚いてるよ……。じゃあ疑問とかじゃないんだけど、部屋を見て回ってもいい?」
「全然良いよ! 案内するよ」
俺たちはそうしてソファーから立ち上がり、まずはお風呂から見て回ることにした。
「このドアがお風呂に繋がってるんだ。入ると脱衣所があって、脱衣所の奥にあるドアの向こうがお風呂だよ」
俺がそういうとロニーは恐る恐る脱衣所に入り、お風呂のドアを開けた。
「うわぁ〜広い! お風呂の実物って初めて見たよ。こんな感じなんだね」
「ロニーもお風呂入りたい? それならクレープ会の後に入ってくれても良いけど」
「いや、僕はいいよ。一度入るとまた入りたくなりそうだから」
「そっか」
俺はいつでもここに入りに来ていいよって言おうかと思ったけど、それはやめておいた。
お風呂に入るためだけに公爵家に来るのは流石に厳しいよね。役人になれば大浴場のようなものがあるらしいから、お風呂にも入れるようになるだろう。
「じゃあ次はトイレだね」
そうして次はトイレへと案内した。特に説明することもないので中をざっと見るだけだ。トイレは王立学校にもあるからそこまで珍しくはないだろう。
そうして部屋にある様々な装飾品も紹介していき、最後にクローゼットの中を見せることになった。
「本当に見てもいいの? 別に中まで見せなくてもいいけど?」
「でもさっき気になってるみたいだったから。全然見ていいよ。面白いものが入ってるわけじゃないけど」
「じゃあ、失礼しまーす……」
ロニーは控えめにそう言ってクローゼットを開けた。クローゼットの中身はとにかくたくさんの服や装飾品だ。ロジェが片付けてくれているので、中は綺麗で見やすい。
王立学校に行くためにリシャール様が買ってくれたものもあるし、自分で後から買い足したものもある。
一際目立ってるのは、エリザベート様がくれた服と装飾品だな。とにかく豪華でリュシアンかステファンの服みたいだ。サイズも大きいし、ここまで豪華な服を着る機会はない気がする。
「何か、凄いね……」
「ほとんどが頂いたものなんだよ」
「そっか……」
ロニーは言葉少なにそう言ってクローゼットを閉めた。
そしてソファーに戻り、少し冷めた紅茶を一口飲んで徐に口を開いた。
「僕は今日で本当によく分かったよ。さっき馬車でも言ったけど、レオンを平民だと思うことはやめる。どう考えても平民の生活じゃない! 貴族様の中でもかなり上位の生活だからね!」
「ま、まあそうかもしれないんだけど……、でも一応身分は平民だからね?」
「ううん、もうレオンっていう身分なんだよ」
ロニーはそう言いながら、うんうんと一人で深く頷いている。俺はそんなロニーの言葉に釈然としない気持ちを抱えながら、どことなく不安も感じていた。
これでロニーが俺と距離を取ったら悲しいな……
そう思っていたらロニーが顔を上げて、ビシッと俺を指さしてきた。
「レオン!」
「な、何?」
「とりあえず、これから王立学校で貴族様に絡まれたらレオンが助けてね。それから平民って馬鹿にされたら、レオンのこの生活のことをさりげなく話すことにするから! うん、王立学校での問題がほとんど解決した気がするよ。もっと早く言ってくれたら良かったのに!」
俺はロニーのその言葉を聞いて、嬉しくて思わず笑ってしまった。
「レオン、何笑ってるの!」
「ごめんごめん、ロニーが逞しくなったなと思って」
「そうかな? でももしそうなら、確実にレオンの影響だから!」
俺はさっき少しだけ頭をよぎった馬鹿みたいな考えはすぐに消し去り、笑顔でロニーに答えた。
「ロニー、王立学校で俺が助けるのはいいんだけど、その代わり他の友達が作りづらくなるよ? 高位貴族からは陰口を叩かれて、下位貴族からは怖がられるよ?」
「もうそれはしょうがないよ。今は貴族様全員から実害の恐れがあるわけだから、それがなくなるだけでもありがたい。それに……他の友達なんて、全くできないし……」
「ロニー、まだ可能性はあるよ、多分……」
「レオンも同じだからね! 僕を憐れんだ目で見てるけど、レオンも僕以外の友達作れてないよね!?」
グサッ……その事実からは目を背けてたのに……
「そ、そんなことないから。俺にはリュシアン様達がいるし、研究会の先輩方がいるから」
「その方々は例外だから! 研究会の先輩達は、本当に友達って言えるの?」
「うっ……友達、うん、知り合い?」
「その程度なら僕もいるからね! いつも食堂の一人席でたまに目が合う人がいるんだから」
「目が合うだけ……? 話したことは?」
「それはないけど……」
「ロニー、それは知り合いとも言わないよ?」
「顔は認識してるから知り合いなの!」
俺はそこまで言い争ったところで、また笑いが込み上げてきた。真面目に争ってたけど、めちゃくちゃ低レベルな争いだ。
「ロニー、お互いに傷つくだけだからやめようか」
「僕もそう思ってたとこ」
そうして二人でおかしくなって笑っていると、俺の部屋をノックする音が聞こえた。来たのは使用人だったようで、ロジェが対応して俺たちの元まで来た。
「お荷物を全て運び終えたようです」
「ありがとう。じゃあ厨房に行こうかな」
「かしこまりました」
ロニーだけを厨房に向かわせるのは流石に可哀想だと思ったので、俺も一緒に向かう。
ステファンはロニーが作ったクレープが良いって言ってたけど、あれはロニーと仲良くなりたい口実だろうから俺が手伝っても問題ないと思う。
そして厨房に行くと、前にクレープを試作した時と同じ場所が空けられていて、その時に手伝ってくれた料理人さんが並んで待っていてくれた。
「お久しぶりです。また手伝ってくださるんですか?」
「はい! お手伝いいたします。本日の昼食は公爵家の皆様もクレープを召し上がりたいとのことで、その分もお作りいただけますか?」
料理人さんの態度がこの前よりやる気に満ち溢れている。この前のクレープ作りで少しは認められたってことかな。俺は何だか嬉しくなって笑顔で答えた。
「そうなんですね、もちろん構いません。それから今日はこちらのロニーが主導で調理をします」
俺はそう言ってロニーを紹介した。
「ロニーです。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
そうして軽く顔合わせをしてからクレープを作り始めた。ロニーは毎日屋台で作っているからか、手際も良く出来上がりも綺麗で完璧だ。
卵はあらかじめ殺菌済みのものを用意してある。そもそも公爵家の食事にはたまにマヨネーズが使われるようになったんだけど、全て俺があらかじめ殺菌しているんだ。
まだ殺菌の魔法具のことは知られないほうが良いらしい。なので料理人さん達は特別な製法の卵だと思い込んでいる。
そうして順調にクレープを作り、全て作り終わるとクレープをワゴンに乗せて、俺とロニーはリュシアンの部屋に向かった。
既にステファンとマルティーヌも来ているらしい。
リュシアンの部屋に近づくほどにロニーが緊張しているのが俺にも伝わってくるけど、ロニーはこの前一度会ったからか何とか緊張を抑え込んでいるようだ。
そうして緊張感のある空気の中リュシアンの部屋まで辿り着き、ロジェが部屋のドアをノックした。
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