閑話 新たな技術の活用法(アレクシス視点)

 本日も仕事の山を片付けようと気合を入れたところで、リシャールから大事な話があると言われ人払いを頼まれた。昨日ステファンとマルティーヌから聞いた魔法具の話だろう。

 まさか子供達があのような仕組みを考えつくとは……

 まあ、レオン様がいらっしゃるのだから当然かもしれないが、それにしても驚くほどの発明だった。


「リシャール、魔法具の話か?」

「魔法具についてと、もう一つレオン様からのご提案についてのお話がございます。まずは魔法具についてからでよろしいでしょうか?」


 レオン様からの提案とは何だろうか。かなり内容が気になるが、まずはお互いに情報を得ている魔法具の話からするのが効率的だろう。


「ああ、それで良い」

「かしこまりました。陛下も既にご存知かと思いますが、魔石連結の技術についてでございます。陛下はあの技術、どのように扱うべきだとお考えでしょうか」


 昨日ステファンとマルティーヌから話を聞いて、様々なメリットデメリットを考えた。公表することによるデメリットはもちろんあるが、明らかにメリットがそれを上回るだろう。


「私は公表すべきだと考えている。一番の懸念は攻撃魔法具として使われることだが、魔石と魔鉄は基本的に王家が管理している。それゆえにそこまで大きな問題にはならないと思うのだが、リシャールはどう思う?」

「私も同意見でございます。魔法具を誰にどれほど売ったのかは全て記録してありますので、どの家に幾つの魔石と魔鉄があるかもわかります。したがって攻撃魔法具として使えるという事実は、王家にとって有利となるでしょう」


 やはりリシャールもそう考えるか。


「では、この技術は公表することとする」

「かしこまりました。レオン様とリュシアンには、登録したい魔法具のサンプルを作成し、全て私の元へ持ってくるようにと伝えておきました。私が手続きをして魔石連結の技術と各種魔法具を登録しておきます」


 流石リシャールだな、仕事が早い。


「ああ、職員では不安だからな。よろしく頼む。登録された有用な魔法具は優先的に作らせて活用しよう」

「魔法具が登録されましたら、魔法具の活用法について会議をいたしましょう」


 明らかに国のためとなる魔法具の使い道であれば、会議で却下されることはないだろう。まあ、文句の一つや二つは言われるだろうが。


「それから魔法具について、もう一つお話があるのです」


 魔法具についてもう一つ話? ステファンとマルティーヌからはこの話しか聞いてない。


「何の話だ?」

「実は……レオン様が毒除去の魔法具を開発されまして、これが実物でございます」

「毒除去の魔法具だと!?」


 そのような夢みたいな魔法具を開発したとは……つくづくレオン様には驚かされてばかりだ。


「はい。この魔法具は今のところ公表できませんが、陛下と私用にお作りくださいました。これから私たちの家族分も作っていただけるとのことです」

「それは……本当にありがたいことだ。毒見役がいるとは言っても不安は付き纏う。レオン様には感謝してもしきれないな……」

「私達にできる方法で……、少しでもレオン様に恩返しいたしましょう」


 私はリシャールのその言葉に力強く頷いた。今は国も大変な状態だが、レオン様に不利益なことが起こらないように最大限力を尽くそう。

 私はそう決意を固めてリシャールから魔法具を受け取った。


「この魔法具ですが、こちらの腕輪を左手にこちらの指輪を右手に着けていただきます。そして食事の近くで二つを重ね合わせることで、人体に害のあるものを除去するようです。効果範囲は半径五十センチほどらしいのでお気をつけください」


 人体に害のあるものを除去するとは……そのような魔法具を作れるということは、レオン様はそのような魔法が使えるということだ。

 使徒様とはこれほどまでに桁違いの力を持っているのだな。


「これは常に身につけるようにしておこう。シンプルだが洗練されたデザインで付けていて違和感がない。だがこれが魔法具だということは誰の目からも明らかだな……どう誤魔化せば良いだろうか」


 この魔石を見れば一発で回復属性の魔法具だとわかるだろう。腕輪型の光球と言っても無理がある……


「レオン様はその対策も考えてくださいました。ピュリフィケイションの魔法具で腕輪型のものを作っていただけるようです。何でも身体を綺麗にしてくれる魔法具だとか」

「何だと!? それも欲しいな……、二つ着けていては不自然だろうか」

「私も全く同じことを申したところ、レオン様が別のタイプの身体を綺麗にする魔法具を作ってくださるとのことでした」

「そうか、それはありがたい」


 王族としての服装はどうしても豪華さを重視するために、夏はかなり暑い。服の中は汗だくで気持ち悪いことが多々あったのだが、それも解決するのか。レオン様には返しても返しきれぬ恩が積み重なっていくな。


「では毒除去の魔法具については、レオン様が王立学校を卒業されるまでは公表しないということで良いな」

「はい。そのようにいたします」


 これで魔法具についての話は終わりだな。次はレオン様の提案についてだ。先程からその内容がずっと気になっていて、まずそれを聞かなければ他のことが手につかない。


「リシャール、魔法具の話はとりあえず終わりで良いか? あとは登録されてからの会議で決めよう」

「かしこまりました。では、レオン様からの提案についてですね」

「ああ、先程からずっと気になっていたのだ」

「レオン様からのご提案は、魔物の森の脅威が迫っていることを皆に公表してはどうかというお話でした」


 魔物の森についてのことを公表する……? 皆とは貴族のことか?


「皆とは貴族のことか?」

「いえ、貴族は勿論ですが、平民も含めた全国民でございます」


 なっ!? そんなことをしたら国中が大混乱でパニックになるではないか!

 それにそのようなことをしても意味はない。結局は騎士が抑え込めるかにかかっているのだから、悪戯に平民を不安にさせたところで国内が不安定になるだけではないのか?

 確かにそろそろ情報の規制も難しくなり、平民の間にも噂が広まるかもしれないが、それを自ら早める必要はないだろう。

 ……ただレオン様のご提案だ。何か重要な意図があるのかもしれんな。


「そのようなことをしても、国内を不安定にさせるだけだと思うのだが……」

「私も最初はそう思いましたが、レオン様の話を聞くうちにそうすべきだと考えを改めました」

「どのような意図があるのだ?」

「はい。魔物の森の脅威について事実を知らせると同時に、皆で力を合わせれば打ち勝てると希望を与える。その上で騎士たちだけの力では厳しくなっている現実を伝え、皆の力を借りたいと要望するのだそうです。具体的には魔物の森対策に協力してもらう兵士の募集とそれに伴い必要となる食料の提供。またそれに対して相応の対価を支払う。このようにして平民の力を借りて皆で立ち向かうように誘導することで、パニックも避けられ人手と物資を確保できるとのことです」


 ……確かにレオン様のおっしゃる通りだ。


 今まで平民は守るものと考えて共に戦ってもらうなど頭になかったが、このような事態の中では力を合わせねばならないのか。

 私は使徒様の教えを理解しているようで、本質では理解できていなかったのだな……。


「リシャール、レオン様のそのご意見はもっともだな。何故その考えに至らなかったのかと自分を恥じるほどだ」

「私もそのように感じました……。レオン様は、平民としても何も知らされずに魔物の森に飲み込まれるよりは、自分の力で戦いたいと思うだろうとおっしゃられていました」

「確かにおっしゃる通りだ。このご意見については内容を精査した後、すぐ実行に移そう」

「かしこまりました。それからもう一つレオン様からのご提案がありまして……」


 何と……ここまで有益なご提案をいくつもしていただけるなど、本当にありがたいことだ。


「なんだ?」

「王立学校の行事として、魔物の森への遠征を行ってはどうかとのご提案です。それによって子供たちの間で危機感が共有されることで、それが大人にまで広がる可能性もあるのではないかと」


 ……そのように王立学校という場を使うなど、考えつきもしなかったな。

 

 王立学校とは子供を教育する場としか考えていなかったが、確かに王立学校で学んだ考えが各家に広がることになるのか……

 遠征に参加しなくとも、王立学校内で嫌でも情報を耳にするだろう。


「リシャール、それも素晴らしいご提案だな」

「私もそう思います。王立学校の新たな可能性に気づくことができました。私はレオン様と話していると、どれだけ自分の視野が狭いのかを思い知らされます……」

「私も同じだ。こうしてリシャールから話を聞くだけでも、自分がどれほど考えが浅いのかがわかる。レオン様から多くのことを学ばせていただこう」


 この遠征は却下する理由がないな。騎士をしっかりとつければ危険度も低いだろうし、貴族の間に魔物の森の脅威について共通認識が広まるきっかけになるだろう。

 強制参加にしては貴族からの反発も大きいだろうから、まずは自由参加だな。ただ参加することによるメリットを提示すれば、参加する貴族が増えるやもしれん。

 何が良いか……


「リシャール、この遠征は採用だ。今年の秋の休みからが良いだろう。強制参加にはできないから自由参加になるが、何か参加するメリットを提示できないだろうか? 貴族が子供を参加させようと思うような強いメリットがあると良いのだが……」

「確かにそのようなものがあれば参加率も上がるでしょう。そうですね……参加した者には勲章を与えるのはいかがでしょうか? 魔物の森に挑んだ者への勲章を新たに作るのです。そして遠征に参加した者には勲章を授与すれば、参加率は上がると思われます。もちろん今現在魔物の森の最前線で戦っている騎士や兵士にも授与しなければなりませんが……」


 確かに貴族は見栄を張りたがる者が多い。遠征に参加するだけで勲章をもらえるとなれば、子供を参加させる貴族も増えるだろう。

 そのうちに勲章を持っていない家の方が少数派になれば、必ず持っていない家は子供を参加させる。さらに王立学校に通う子供がいない家では、騎士団に所属する者も現れるかもしれない。

 やる価値はあるな。


「リシャール、それは良い考えだ。とりあえずその方向で話を進めよう」

「かしこまりました。では本日決めたことの詳細を詰めて、またご報告いたします」

「ああ、よろしく頼む」


 そうして私とリシャールの話し合いは終わり、その後は通常の執務に追われることとなった。

 レオン様のおかげで希望が見えてきた。私も王として期待に応えられるようにしなければ。

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