第123話 研究会での報告

 次の日の放課後、俺たちはまた研究会の教室に集まっていた。

 昨日の報告の結果をまとめて、ロンゴ先生と先輩達に知らせるためだ。マルセルさんにはロンゴ先生が伝えてくれるらしい。


「昨日父上にお話ししたところ、魔法具の登録は問題ないと言われた。デメリットも王家にとってはそこまでマイナスにならず、メリットがかなり大きいからだそうだ。しっかりと管理さえすれば、国の発展に大きく寄与する技術だと仰せだった」


 アレクシス様もその意見なのか。それなら魔法具が登録されることは確実だな。


「お祖父様も同じような意見だった。魔法具は登録されるだろうとのことだ。それゆえに、登録したい魔法具は全てサンプルを作って持って来て欲しいそうだ。お祖父様が登録をしてくれるらしい。登録用紙も預かってきている」


 今日の朝、王立学校に行く前に技術登録と魔法具登録の用紙を渡された。それに皆で名前を書くようにということらしい。

 今回の技術と魔法具は皆で考えたものだから、そういう場合は全員の名前を併記して登録して、使用料は頭割りだそうだ。


「では、皆で登録したい魔法具を作りましょう。私は持ち運びトイレを作りたいですわ。ミゲルとロイクも一緒に作りませんか?」

「はい! 是非作らせてください」

「私もです!」

「では作りましょう。使いやすい形などもしっかり考えないとですわ」


 そうして三人は一つのテーブルに向かっていった。残ったのは俺とリュシアンとステファンだ。


「レオンはどうするんだ?」


 俺はとりあえず、ピュリフィケイションで身体を綺麗にする魔法具を作りたい。

 あと本当は、ヒールも魔法具にできたらいいと思ってるんだけど、ヒールは実際に患者がいて患部を見ていないと上手くいかないんだよね。

 前にヒールを魔法具に込められないか試したけど、どこをどんなふうに怪我しているのかわからないとダメだったんだ。多分他の魔法よりイメージが大事なんだと思う。回復魔法はイメージがしっかりしてないと失敗することもあるらしいし。

 それでも無理やり作ろうとしたんだけど、そうすると怪我をしているところを全て治すといった漠然とした魔法になって、魔力効率がかなり悪くなるんだよね。


 あっ……でも、昨日毒除去の魔法具を作る時にスキャンしてからの毒除去も成功したから、同じようにすればヒールも魔法具にできるのか? 

 ……なんかできる気がする。でもヒールの魔法具って多分公表できないやつだよね。スキャンって相当魔力量が多くないとできないし、魔石連結で魔石に入れられる魔力量が増えたからこそ込められた魔法なんだ。

 うーん、俺しか出来ないのなら確実に公表できないだろうし、ヒールは普通に誰でも魔法で使えるし、それなら今は作らなくてもいいかな。


「私は身体を綺麗にする魔法具を作ろうと思っています。お二人はどうされますか?」

「私達は思いつくものがなくてな。レオンと一緒に作っても良いか?」

「もちろんです」


 そうして俺達三人は、マルティーヌ達とは別のテーブルに座った。そして俺は昨日作った毒除去の魔法具と、全く同じ形の魔法具を作っていく。身体の表面や髪の毛などに付いた汚れを取り除くイメージで……

 よしっ、完成だ。昨日一度作ったからすぐに出来上がるな。

 

「レオン、それはどの様にして使うのだ?」


 ステファンが不思議そうに魔法具を見ている。身体を綺麗にするからお風呂の魔法具って名前かな? 

 ……流石にそれはカッコ悪いか。洗浄の魔法具とかの方が良いかな。


「これは洗浄の魔法具と言いまして、こちらを左手首にこちらを右手の指に着けて使います」

「腕輪と指輪なのか」

「おっしゃる通りです。試されますか?」

「ああ、試してみよう」


 そうしてステファンは洗浄の魔法具を装着した。


「この二つを合わせれば魔法が発動するのか?」

「はい。数秒合わせていただければ魔法が発動すると思います」


 ステファンが俺の言葉に頷いて腕輪と指輪を合わせると、ステファンの顔が驚きの表情に変わった。この魔法具も光を発さないようにしたので周りから変化はわからないけど、毒除去の魔法具と違って本人は違いがわかるからね。


「これは……素晴らしいな。汗でベタついた感触も全くなくなる」

「こちらの魔法具は皆様に受け入れられるでしょうか?」

「ああ、貴族は皆欲しがるだろう。暑くても正装をしなければならない時などには必須になりそうだ。騎士も欲しがるだろうな」


 昨日のリシャール様の反応でもわかったけど、皆が欲しがるのなら良かった。もしかしたら、貴族はお風呂に入れるからいらないのかもと思っていたんだ。


「ステファン様、私も試してよろしいでしょうか?」

「ああ、試してみてくれ」

「かしこまりました」


 そう言って今度はリュシアンが魔法具を試す。


「確かにこれは凄いな……。一度知ったらやめられないぞ」

「どこか不都合な点はありませんか?」

「そうだな……、今は全身全て綺麗になってしまうが、首から下だけが綺麗になる魔法具を欲しい者もいると思うぞ」

「確かにそうだな。女性はメイクをしているし、男性もワックスで髪を固めている者もいる。休憩室で使うのであれば全身を綺麗にしてからまた整えれば良いが、退出できない場面で使いたい時は身体だけのものもあったら便利だろう」

「確かに、おっしゃる通りですね。貴重なご意見ありがとうございます」


 確かにこの魔法具で全身を綺麗にすると、メイクやワックスなども落ちてしまう。身体だけの洗浄の魔法具と全身の洗浄の魔法具の二種類作っておいた方が良いかも。やっぱり貴族が使うものは貴族の意見を取り入れた方が良いものになるね。

 そう思いつつ、俺は魔法具を作り上げた。


 ふぅ〜、思いのほか早く終わっちゃったよ。まだマルティーヌ達は熱心に作ってるみたいだし……

 二人が研究していた魔法具の話でも聞こうかな。


「お二人はどのような魔法具の研究をしていたのですか?」

「私は結局良い魔法具が思いつかなかったのだ。水属性は水を出せることが一番の利点だからな、色々と考えたが全て水道があれば事足りるものしか思いつかない」


 確かに水属性って難しいのかも、水道は強い。何か考えるとしたら……、洗濯機かな。

 洗濯機を作ったら洗濯がかなり便利になる……あれ? そういえばピュリフィケイションって服も綺麗にできるよね? さっきの洗浄の魔法具は身体を綺麗にしたけど、服を綺麗にする魔法具があったらそれも売れそうじゃないか?

 貴族の服は高いから傷まないようにしたいだろうし、前にロジェが洗濯には気を使うって言ってた。

 それならピュリフィケイションでの服の洗浄は、貴族にはもってこいの品だな。これも作ろう!


 でもそうなると水属性の魔法具が思いつかない……。うーん、水を使う場面といえば、水道、トイレ、お風呂そのくらいだよね。

 何か作れるとすればお風呂だろうか? お風呂なら足りないのはシャワーだけど、シャワーを作るとしたらお湯をまず作らないといけない。火属性と組み合わせるにしても難しいし……。そもそもお湯なら、既に水道と湯沸かし器があるんだから作れる。あとはシャワーの仕組みだけだから、それは技術登録だよね。


 そうなると水属性は何もない……あっ、でも洗濯機も作ったら需要あるのかな? 貴族の服はピュリフィケイションで綺麗にするとしても、使用人の服や訓練着なんかは洗濯機で洗っても良いだろうし。

 そうだよ、洗濯機を作っても良い気がする。そして服を綺麗にするピュリフィケイションの魔法具も作ろう。

 名前は……クリーニングの魔法具とかでいいかな。

 

 ……本当はもっとかっこいい名前を考えたいんだ。だけど魔法具はわかりやすい名前が一番だろうし、そうなると結局そのままのダサい名前になるんだよね。光球みたいなかっこよくてわかりやすいやつが理想なんだけど。

 そういえば、光球ってマルセルさんが開発したんだよね? もしかして名前を考えたのもマルセルさんだったりする? 

 もしそうなら、マルセルさん名付けのセンスあるよ。俺も名付けのセンスが欲しい、マルセルさんに負けてる! 


 まあでも……、今回はクリーニングの魔法具でいいか。


 俺は名付けについては早々に諦めて、ステファンに魔法具について話すことにした。

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