第121話 毒除去の魔法具

 魔石は宝石として使われていたほど綺麗なので、装飾品としても全く問題はない。俺が思いつくシンプルな腕輪でも綺麗な装飾品になった。


 魔法を発動させる方法は、魔石の腕輪と魔鉄だけの指輪を作って、それを合わせることで魔法が発動するようにした。別々の腕につければ簡単に魔法を発現させられるだろう。

 魔法の発動範囲はとりあえず、半径五十センチほどの球体で、お皿の近くで魔法を発動させれば毒を除去できる。回復属性の魔法はどうしても光が発生してしまうのでそこも改善した。消費魔力量は少し増えるけど、光が発生すると周りにバレるからな。


 一番の問題は、毎回毒の種類や毒の強さが変わるものをしっかりと除去できるのかだけど、これは魔石に込める魔法をちょっと工夫してみた。

 俺がいつも使っている、回復属性の魔力を対象に流し込むやつ、スキャンとでも言えば良いかな。いつも俺はスキャンをしてから悪い部分を見つけ出して、それに対して回復魔法を使っている。なので魔石に込める魔力も、スキャンからの毒除去で一つの魔法になるようにイメージして魔力を込めた。

 これで毒の強さや量に応じて適切な魔力が使われるはずだ。


「とりあえず完成しました。この腕輪と指輪を合わせることで魔法が発動します。魔法の発動範囲は半径五十センチ程の球体にしてあるので、お皿の近くで発動させてください」

「凄いな……これで毒を除去できるのか。腕輪と指輪ならば身に付けていても問題はない。魔法を発動させると周りに気づかれるだろうか?」

「いえ、光は発生しないようにしましたので、周りの方には気づかれないと思います」

「それはさらに素晴らしいな……」

「とりあえず私が一度試してみても良いでしょうか?」

「ああ、よろしく頼む。そこの牛肉の煮込みにしてくれ」

「かしこまりました」


 俺は料理の近くで腕輪と指輪をカチリと合わせて、数秒で離した。何も起きないからわからないけど、多分これで除去できているはず。魔力を流して確かめてみたが、毒は一つもない。

 あとはこれよりも強い毒で試してみれば、どんな毒でも除去できるようになっているのか試せるな。


「リシャール様、牛肉の煮込みよりも強い毒が入っている料理はどれでしょうか?」

「それならばそのチキンステーキだが、何をするのだ?」

「強い毒でも弱い毒でも、等しく除去出来るのかを確認したいのです」

「そういうことか。それならば試してみてくれ」

「はい」


 そうして俺はチキンステーキにも毒除去の魔法具を使ってみたが、問題なく毒は全て除去されていた。完璧だ!

 毒見とこれを組み合わせたら、ほぼ毒殺の危険は無くなるだろう。


「私の魔法でも確認したところ、どのような毒でも完全に毒を除去出来ていました」

「本当に凄いな……。魔力はどれほど持つだろうか」

「そうですね……確かなことは言えませんが、毒が一度もない場合は百回ほどは使えるかと思います。ただ実際に毒があり除去するとなると一気に魔力が減りますので、残りの魔力量を見て毒があったのかを確認できると思います。強い毒であると満タンの魔石三分の一程度の魔力は消費しますので、魔力が残り三分の一以下になる前に魔力を補充してください。またもし魔法具を使用して魔力がゼロになった場合、不完全な除去しかできず毒が残っている可能性もあるので、その食事は絶対に召し上がられないでください」

「わかった。しっかりと注意事項を陛下にもお伝えしておく。この魔法具への魔力の補充はレオン君にしか頼めないが、毎回頼んでしまっても良いのだろうか?」


 確かに、そもそも毒を除去する魔法なんて俺にしか使えないからな。殆どの人は軽い怪我しか治せないし。

 王立学校を卒業したら、マルティーヌにやったような授業をもっと大勢の人にやりたい。怪我とかはもっと効率良く治せるようになるだろう。

 ただ毒除去や病気治癒は魔力量頼みだから、他の人がやるのは難しいんだよな……。マルティーヌも結局は軽い風邪を数日に分けて治すくらいしか出来なかった。

 どうにかして魔力量って増えないのかな? その方法が見つかれば問題解決なんだけど。俺のように馬鹿みたいな魔力量にはならなくても、二、三倍になるだけでかなり変わると思う。

 とりあえず今は俺が魔力を込めるしかないな。


「勿論です。同じものを二つお作りして、いつも予備を持っておくのが良いかもしれません」

「ああ、そうしてもらえると助かる。また、他の王族の方々や私の家族の分もお願いして良いだろうか……? 勿論相応の対価は支払う」


 それは俺から言おうと思ってたんだ。リュシアン、ステファン、マルティーヌも危険度は高いだろうし。持ってくれていた方が俺も安心だ。


「勿論です。ただ、この魔法具はまだ公には明かせないですよね?」

「そうだな……この魔法具を明かすのはレオン君が王立学校を卒業してからになるだろう。不便をかけて本当にすまないな」

「いえ、それは私のセリフです。本当にお世話になっていますし、守ってくださってありがとうございます。それで毒除去の魔法具を明かせないとなると、バレないように誤魔化せるようにした方が良いですよね……」


 この魔法具を公には明かせないとなると、他の人に聞かれた場合の誤魔化しが必要だ。見た目で魔石だとわかるし、魔石の色で回復属性だとわかる。

 魔石の色は何も魔力が入ってないと無色透明で、込める魔力によって色が変わる。火属性は赤、風属性は緑、水属性は青、土属性は茶色、身体強化属性は白、回復属性は黄になる。そして魔石の色は魔力が使用されると、段々と端から無色透明に戻っていく。

 なので黄色の魔石が嵌っていたら、すぐに回復属性の魔法具だとバレてしまう。

 でもそうか、丁度ピュリフィケイションの魔法具を売り出すんだから、腕輪型のピュリフィケイションの魔法具も作れば問題解決かも。全身を綺麗にしてくれる魔法具とかあったら最高だよね!

 あっ……でもそもそも魔石連結の技術を公表できないとダメだ。


「リシャール様、魔石連結の技術は公表できないのでしょうか?」

「いや、まだ陛下と相談していないので確定ではないが、この技術は公表することになるだろう。メリットが大きいし、デメリットも王家が管理することで最小限にできる。また、今まで出来たものの規模が大きくなるだけだからな。ゼロが一になる訳ではない」


 そうなのか。公表できるなら良かった。それなら、腕輪型のピュリフィケイションの魔法具を作ることで解決だな。


「それは良かったです。この技術が公表できるのであれば、腕輪と指輪を見た方が疑問に思われないように、ピュリフィケイションの魔法具の腕輪型も開発することにいたします。したがって、もしその魔法具は何だと聞かれたら、ピュリフィケイションの魔法具だとお答えいただけますか?」

「そこまで考えてくれるとは、本当にありがとう。その魔法具はどのような用途なのだ?」

「全身の汚れを落とすものにしようかと思っています」

「何だと!? その腕輪も欲しいな……ただ二つもつけていたら怪しまれるだろうか。いや、予備ということにしておけば……」


 リシャール様、そこで悩むのですか!? 俺はちょっとだけ苦笑しつつ代替案を提示した。


「リシャール様、全身の汚れを落とす魔法具はまた別の形でお作りいたします。例えば、服に隠れるようにペンダント型は如何でしょうか?」

「それはいい」

「お祖父様、いつものシャキッとしたお祖父様にお戻りください。素が出ています」


 リシャール様ってしっかりしてて本当にできる宰相なんだけど、たまに気が抜けるのか素が出るんだよね。俺を身内認定してくれたんだと思っていつも嬉しいんだ。


「ごほんっ……すまなかったな。ではそれらの魔法具を頼みたい。魔石と魔鉄はうちにあるものはいくらでも使ってくれて構わない。ロジェに言えばすぐに用意するだろう」

「かしこまりました。ありがとうございます」

「では随分と話が逸れたが、魔石連結の技術については公表することになるだろう。その場合は魔石を連結させる技術を技術登録として、ピュリフィケイションの魔法具を魔法具登録することになる。よって、後ほど登録したい魔法具を全て作成してサンプルとして私のところに持ってきてくれ。この登録は職員ではなく私がやることにしよう」

「かしこまりました。ありがとうございます」

「また陛下と相談して、何かあれば伝えよう。毒除去の魔法具についても伝えておく」

「はい。よろしくお願いします」


 そうして俺たちは一段落して、毒の入ってない普通の紅茶を飲んで一息ついた。毒入りのものは一箇所にまとめておいて、少しずつピュリフィケイションで消していくらしい。

 そうだ、この機会にもう一つ話したいことがあったんだよな。もう今日はキャパオーバーだろうか?

 でもとりあえず話してみてもいいかな。


「リシャール様、もう一つお話があるのですが……」

「何だ?」


 嫌な顔せずに聞いてくれるリシャール様が本当に良い人すぎる。ありがとうございます。


「魔物の森についてなのですが……一度、魔物の森を訪れてみたいのです」

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