第120話 毒除去の魔法

「も、申し訳ありません! 今ふと思いついただけですので、また後で検証してご報告いたします」

「いや、ついでだから今報告してくれ。それに悪い情報ではなく良い情報なのだろう?」

「そうですね……良い情報だと思います」


 毒殺の心配がなくなるとなったら良い情報だよな。でも、多分公表はできないだろうな……


「では話してくれ」

「かしこまりました。以前クレープを作った時に、殺菌の魔法についてお話ししたのは覚えていらっしゃいますか?」

「ああ、生の卵を食べられるようにするものだったな」

「おっしゃる通りです。あの魔法は、卵の中にいる目に見えないけれど身体に悪影響を及ぼすものを除去しているのです」

「そのようなものがいるのか!?」


 リシャール様はかなり驚いた様子で、ソファーから立ち上がりかけたがなんとか踏みとどまった。


「いつもそのように危険な物を食べていたとは……」

「いえ、確かに生で食べると危険ですが加熱することによって死滅します。したがって生で食べなければ問題はありません」

「そうか……それならば良いのだが。それで、その話と毒はどのような関係があるのだ?」

「はい。生卵に入っている悪いものと毒は、人体に悪影響を及ぼすと言う点で似たものです。したがって、殺菌の魔法と同じように毒も除去できるのではないかと考えました」

「そうなのか……。もしそれが本当にできるのであれば、毒殺の危険が完全に排除できる。その魔法は魔法具にできるのか?」

「殺菌の魔法具は用途を限定することで何とか実用まで持っていきましたが、今回の魔石連結の技術を使えば用途の限定なしに実用化できると思われます。なので毒除去の魔法具も同じようなものだと推測できます」

「そうか……試しに今作ってみてくれないか?」


 リシャール様はそういって、先程用意した魔石と魔鉄を渡してくれる。でもまずは毒が除去できるかを試したいから、毒が入った植物とかが欲しいんだよね。


「ありがとうございます。ですが魔法具を作る前に毒を除去できるかを試したいのですが、毒の入った植物や食べ物などを用意していただけますでしょうか? また、毒入りの料理なども用意していただけると助かるんですが……」


 でも毒なんてすぐに用意できないかな。気軽に買えるものでもないだろうし……、もし難しければじゃがいもとかでもいいよな。

 俺がそう考えて口を開こうとしたら、その前にリシャール様が了承してくれた。


「わかった。すぐに用意させよう」


 ……毒ってそんなにすぐ用意できるんだ。やっぱり貴族って怖い。


 それから十分程経って、俺の目の前には美味しそうな料理の数々といくつかの植物が並べられた。料理は見た目には毒が入っていることなど全くわからない。毒殺ってマジで怖いな……

 毒殺の危険性を排除するためにもこの魔法は成功させないと。そう気合を入れて、俺はまず植物の方から試してみることにした。

 とりあえずはよく知っているじゃがいもから。これは芽の部分に毒があるんだよな。そう思って全体に回復属性の魔力を行き渡らせると、ハッキリと毒がわかる。

 回復属性の魔力を行き渡らせた時の感じは言葉にしづらいけど、何もない時は全体的に真っ白い雲のようなイメージなんだ。何か悪いものがある時はその雲が紫っぽくなっている。その大きさや濃さ、範囲で重症度がわかるんだよな。あとはこれを取り除けるかだ。


 俺は病気を治すときや殺菌するときと同じように毒を除去しようと魔法を使った。

 すると呆気なく毒を除去できたようだ。うん、できるとは思ってたけどやっぱり簡単にできたな。毒を除去した後にもう一度じゃがいもを魔力で確認してみたけど、もう毒はなくなっていた。

 それから綺麗な花や葉っぱなどを次々と試していったが、全て毒を除去できた。


「毒の除去はできたのか?」

「はい。今試した物は全て毒を除去できたみたいです。では次は料理で試してみますね」


 料理に入った毒は除去できるのだろうか。全体に毒素が行き渡っていたら難しいような気もするけど……。そう考えつつ俺は、とても美味しそうに見えるスープの皿を手に取った。そして魔力を行き渡らせた。

 うわぁ〜、凄い毒が入ってるよ。もう紫を通り越して黒に近い。これは食べたら命が危ないんじゃないかな?

 俺はちょっと引きながら毒を除去してみた。すると、こちらも普通に除去することができる。でも強い毒だから結構魔力を消費するな。

 やっぱり毒が強いほど、そして毒の量が多いほど魔力を消費する。

 まあ、俺の魔力はもはや尽きることはないくらいまで増えてるから、全然気にすることはないんだけどね。気をつけないといけないのは、転移魔法を使った時くらいだ。また転移魔法の練習もしないと。


「リシャール様、このスープの毒は除去できました。試しに食べてみても良いですか?」


 俺がそう言って一緒に用意されていたスプーンを手に取ると、リシャール様が慌てて止めた。


「まっ、待て! それはダメだ。万が一失敗していた場合命を落とす可能性が高い」


 やっぱりそんなに強い毒だったんだ……。じゃあもう少し軽い毒から試そう。自分で除去したとはいえ流石に怖い。


「ではどれで試すのが良いでしょうか?」

「うむ……どれも試してほしくはないが、試すのであればそのジャムトーストだ」

「かしこまりました」


 俺はジャムトーストを引き寄せて魔力を流す。おおっ、これは薄紫って感じで綺麗な色だ。それでも毒であることに違いはないんだけどね。弱くて少量の毒なんだろう。


「ではいただきます」


 リシャール様とリュシアンは凄く心配そうにこちらを見ているけど、とりあえず無視して躊躇なくジャムトーストを一口食べた。

 うん。普通に美味い。でも一口食べただけだと毒のないところを食べた可能性もある。そう思って、とりあえず一つを食べ切った。

 とりあえず今のところ、体調に変化はないな。自分に回復魔法をかけてみてもどこにも悪いところはない。


「今のところ大丈夫ですが、この毒はどのような作用があるのでしょうか?」

「ああ、食べてすぐに酷く腹を下すらしい」

「それならば大丈夫そうですね」

「本当に毒を除去できるのだな……」

「あのリシャール様、他にも命の危険はないような弱い毒はありますか?」

「ああ、その紅茶も腹を下す程度だろう」

「これですね」


 俺はリシャール様の言葉を聞いて紅茶を手に取った。そして、毒を除去しないままに一口飲む。コクッ……毒を除去しなくても味はあまり変わらない。毒が入ってることなんて気づかないかも。

 そんなことを考えながら紅茶を飲み、その後に自分を回復属性の魔力で覆う。おおっ……さっきは無かったのに今回は体に異常がある。確かにそこまで強い毒ではないみたいだ。ただ早めに回復させたほうが良いな。

 俺は病気を治す時と同じように自分に回復魔法をかけた。すると簡単に治すことができる。

 よしっ、これで毒はもう怖くないな。基本的には口に入れる前にチェックをして、最悪は食べてしまっても回復できる。

 あとは魔法具にできれば完璧だ。


「では魔法具を作ってみます。リシャール様とアレクシス様は腕輪や指輪を付けることはできるのでしょうか?」

「私と陛下が? つけることはできるが何故だ?」

「毒除去の魔法具はお二人が一番必要ではないかと思ったのです。お二人に作らせていただいても良いでしょうか?」


 俺がそう言うと、リシャール様は驚きの表情を浮かべた後感極まったような表情に変わり、深く頭を下げた。


「レオン君、本当にありがとう。ぜひよろしく頼む」


 俺はそんなリシャール様の様子に慌てて頭を上げてもらった。リシャール様は公爵家の当主だった人で今の宰相なのに、平民の俺に頭を下げすぎなんだよね。こっちの心臓に悪いです!


「リシャール様、頭を上げてください! そこまで大層なものではないですし、材料もいただいているので……」

「いや、これは素晴らしいものだ。しっかりと礼を言わせてくれ」

「では、魔法具が成功してからでお願いします」

「まあ、確かにそうだな……。では作ってみてくれるか?」

「はい」


 そうして俺は毒除去の魔法具を作り始めた。

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