第119話 リシャール様に報告

 屋敷に帰ると、珍しくすでにリシャール様が帰ってきていた。そこで俺とリュシアンは、リシャール様の部屋を訪れて報告をすることにする。

 夕食まではまだ一時間以上あるから余裕だろう。


「二人から話があるとは珍しいが、どうしたのだ?」

「お祖父様。本日魔法具研究会で、ピュリフィケイションの魔法具を作ることに成功いたしました」


 リュシアンがそう言うと、リシャール様はかなり驚いた様子で固まっている。


「何と……研究しているのは知っていたが、まさか成功するとは。あれは何十年も研究されて、結局ダメだったのだが……」

「実は、魔法具の魔力効率をさらに高める方法を開発いたしまして、その方法を使うことでピュリフィケイションの魔法具が実用に足る物となりました」

「魔法具の魔力効率をさらに高められたのか!? それは、全ての属性魔法に応用可能な方法なのか?」

「はい。まだ色々と検証は必要なのですが、他の属性にも応用できることは確認済みです。ただ、土属性と風属性の者はいなかったのでまだ検証できていません。本日はマルセル殿が研究会に来ていたのですが、検証を進める前にまずは報告をすべきだと言われまして、そこでお祖父様に報告している次第です。ステファン様とマルティーヌ様は陛下にご報告されています」


 魔法具研究会は回復属性の人が多くて、他の属性が少ないんだよね。一般的には回復属性が一番少ないはずなのに、珍しい研究会なんだ。


「そうか……とりあえず報告してくれて助かった。まだ実物も見ていないのでよくわからないが、安易に公開するのは避けた方が良さそうだな。魔力効率はどれほど上昇するのだ?」

「ピュリフィケイションの魔法具は十倍を超えるほどでしたが、他の属性ではもっと効果が高いものもありました。火属性は二十倍ほどでしょうか」

「二十倍だと!?」


 リシャール様がそう叫んで、ソファーから立ち上がった。そこまで驚くことなのか……まあそうだよな。今までの二十倍の魔法が使えるようになったんだから。そう考えると結構やばいものを作っちゃったのかもしれない。


「それは本当なのか!?」

「はい。しかしまだ検証途中ですので、もっと上がる可能性もあります」

「そ、そうか……もっと……」


 リシャール様は今度はそう呟いて、ソファーに力無く座り込んでしまった。

 それほど衝撃的なものだったのか。俺たちはやっと成功した嬉しさの方が勝っていて、客観的に見てどれほど凄いものなのか考えていなかった。


「とりあえず、今この場で作ってもらうことはできるか? 魔石と魔鉄はすぐに用意できる」

「私は魔力がもうあまりないのですが、レオンでしたら作れます」


 リュシアンがそう断言して俺を見た。リュシアン、俺の魔力は無限だと思ってるよね。一応俺の魔力も尽きることはあるんだからね。まあ、今はまだまだ大丈夫なんだけど。


「はい。私はまだ魔力が十分にありますので作れます」

「では作ってみてくれ」


 リシャール様はそういうと、席を外させていた従者を呼んで魔石と魔鉄を用意した。いつも不思議なんだけど、この屋敷って魔石と魔鉄が常備されてるのかな?

 まあ公爵家だし宰相だし常備されていても良いのかもしれないけど、誰も魔法具作成の趣味とかなさそうなんだよね。


「ではレオン君、作ってみてくれるか?」

「かしこまりました」


 そこからは実際に作成しながら、どのような作りになっているのかを説明していった。作るのはそれほど大変ではないのですぐに出来上がる。


「これが一つの魔石のような働きをします。今は魔石の数が五個なのですが、この数を増減させて検証することでより効果を上げられるかもしれません」


 俺はそう言いつつ、リシャール様に魔石を手渡す。


「これはよく思いついたな。これで魔力効率が二十倍とは、本当に素晴らしい技術だ。だがこれを広めることによる悪影響もあるだろう。それについて二人は気づいているか?」

「はい。マルセル殿から聞きました。犯罪の証拠隠滅が容易になることや、戦争など争いでの犠牲者が増えることなどでしょうか?」

「その通りだ。パッと思いつくだけでもその辺りは考えつく。もちろん沢山のメリットも存在する。ピュリフィケイションの魔法具が実用化すれば、下水の処理や不可燃性のゴミの処理などがかなり楽になるだろう。それだけではなく、各種魔法具の魔力補充頻度が下がるメリットも、便利さという観点から見ればかなり大きい」


 やっぱりその辺がメリットなんだな。


「ただ、その分デメリットも考慮しなければならないだろう。やはり一番大きな問題は、攻撃魔法の魔法具が作られて争いで使用されることだ。ただ、魔石と魔鉄は王家が管理しているのでその点も考えると、王家にとっては有利な技術とも考えられる」


 やっぱりそうなるよな。こういうのは材料を押さえてるところは相当有利だ。でも相手も手に入れる手段がないわけではないんだろう。今現在持っている魔法具を作り替えることもできるし。貴族の間では魔法具は普通に買えるものだからな。


「犯罪の証拠隠滅については、今までもピュリフィケイションで毒を消すなどは行われていた。本当に少量の毒ならば魔力量が多い者は消すことができるのだ。それゆえに、これについては今までとそこまで変わらないだろう」


 そこまで言うと、リシャール様は頭の中で思考をまとめているようで考え込んでしまった。この技術を広めてもいいのか考えてるんだろうな。


 俺はリシャール様が考え込んでる時間で、毒について考えていた。毒を回復魔法で除去できるか試してみようと思ってはいるんだけど、まだ試してないんだよな。

 だって毒を回復させられるかを確かめるには、自分が毒を食べなければいけない。どうしてもそれが憂鬱で後回しにしてたんだ。お腹を壊すくらいの弱い毒でも苦しいだろうし……


 ……あれ。でも殺菌の魔法具って卵の菌を取り除けたよね? それなら毒も食べる前に取り除けるんじゃないのか? というか、そもそも菌と毒ってほぼ一緒じゃない?


 なんで気づかなかったんだろ……これからは何かを食べる前にはとりあえず回復属性の魔力を流してみよう。もう毒殺を怖がる必要なかったじゃん!


 魔法具も作れるかな? 殺菌の魔法具って魔力効率が悪くて用途を限定しないと作れなかったんだ。でも魔石連結の技術を使えば、殺菌の魔法具も人体に影響があるものを全て除去する魔法具として作れる。

 そして多分その魔法具って毒も除去するよね……本当になんで今まで気づかなかったんだろう。

 この魔法具は作って、リシャール様やアレクシス様にあげようかな。毒見役とかはいるだろうけど、その上でさらに魔法具を使ったらより安全になるはずだ。


 そうして考えがまとまって顔を上げると、リシャール様が俺を見つめていたようでバチッと目があった。

 えっと……もしかして俺待ちだった!?


「あの、私を待っていてくださったのですか? 申し訳ありません……」

「いや、別に良いんだが何を真剣に考えていたのだ?」

「先程の毒の話から毒を除去する魔法について思い出しまして……。もしかしたら毒を除去する魔法具を作れるかもしれません」

「また新たな情報だ……」


 リシャール様はそういって少し遠い目をした。リシャール様に色々負担をかけすぎたよ……リシャール様ごめんなさい!

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