第118話 メリットとデメリット
それからしばらく検証を続け、そして結果が出た。何と十五回だ! 十五回も完璧に綺麗にできた。これは凄いなんてものではない。魔力効率が十倍以上になったということだ。
これで持ち運びトイレが完成する!
「これでやっと持ち運びトイレが完成しますね」
「そうですわね。これで旅の問題が一つ解消ですわね!」
俺たちがそうやって喜んでいると、マルセルさんが少し呆れた表情で言ってきた。
「まさか本当にここまで効率の良いものを作り出してしまうとは思っていませんでしたが、これは持ち運びトイレなどという小さな問題には留まりません。この魔石を繋げられるという技術は、かなり影響が大きいでしょう」
まあ確かにこの技術は凄いよな。もしこれによって他の属性も魔力効率が上がるのならば、魔法具の革命になる。
そこの検証もしたほうが良いな。あと、今回は魔石を五個でやったけど、魔石の数を増やしたり減らしたりするとどうなるのかも検証したい。
「確かにこの技術は凄いものだわ。これはお父様に報告するのが先かしら?」
「マルティーヌ様、まずはその前に他の属性魔法ではどうなるかの検証や、魔石の最適な数の検証などもやってから報告するのが良いのではないでしょうか?」
「確かに検証も必要ですが、簡単な検証のみに留めて、マルティーヌ様のおっしゃる通り先にご報告するのが良いかと思います。レオンも宰相様に報告するのだぞ。これは魔法具登録ではなく技術登録になると思いますが、どのみち職員では手に負えないでしょう」
これはそんなに凄いものなの? 魔法具の魔力効率が上がったところで、便利にはなるけどそこまでじゃないのかな。
俺がそんなふうに疑問に思っていると、マルセルさんが解説してくれた。
「まずこの技術の凄いところは、今まで廃棄したくても出来なかったものを簡単に廃棄できるということじゃ。毒物や人体に影響があるものなど、焼いても廃棄できないものは王宮が回収しているのは知っているか?」
「知らなかったです」
「そういったものは王宮で回収して一つの場所に捨てているのだ。本当は全てピュリフィケイションで消せたら良いのだが、それは効率が悪すぎるゆえ、このような制度になっている。ただ、これからは魔法具を使えばできるようになる」
確かにそういうものにはかなり便利だな。よく考えたら下水の行き先とかもあるのだろうから、そこで使えば簡単に綺麗にできる。
でもそれって良いことじゃないか? そこまですぐに報告が必要だとは思わないけど……
「問題はここからじゃ。ピュリフィケイションは生物以外は全て消すことができる。それゆえに犯罪の隠蔽が容易になるのじゃ。例えば毒殺を試みるのも容易になる。毒をピュリフィケイションで消してしまえば、証拠は完全になくなるからな」
怖っ……めちゃくちゃ怖い話になってきた。でも毒って元々少ない量だろうから、回復属性の人なら消せるんじゃないのかな?
「毒って少量なので、魔法具を使わなくても消せるのではないですか?」
「いや、毒を消すのにはただの水を消すことの何十倍もの魔力が必要なのじゃ。それゆえに魔力量が五の者でも、本当に少量しか消すことができない」
ピュリフィケイションって、消す対象で消費魔力量に変化あったっけ? あまり考えたことなかった。
毒とか消したことないし……逆に水も消したことがない。拭けばいいしそのうち乾くからな。
よく考えてみたら、自分の体の汚れとトイレくらいにしか使ったことないかも。これからは色々に使ってみよう。
「それからこれが一番の問題じゃが、もし他の属性でもこの技術が有効だった場合、攻撃魔法を誰でも使えるようになる。今までも魔法具を魔物対策に使えないか研究はあったんじゃが、魔石一つ分の魔力で攻撃魔法は数発しか撃てなかった事で実用には至っていなかった。もともと攻撃魔法は魔力量が多い者でも数発しか撃てない。それが魔法具になったところで倍に増える程度、ましてや途中で魔石に魔力を込め直さなければいけないのでは全く使えなかったのじゃ」
確かに戦闘中に魔法具を取り出して、魔石を魔鉄にくっつけて魔法を発動させるのも面倒くさいよな。魔法具を持ってるのも邪魔だろうし、それなら剣で戦ってたほうが良いと考えるのもわかる。
でも今回の開発でそれが解消されるなら、魔物対策には良いことじゃないの?
「これから攻撃魔法が戦いの主軸になるようになれば、もちろん魔物対策には朗報だろう。ただし、戦争の形が完全に変わることになる。今までよりも犠牲者が増えることが予想される」
確かにそうか。今までは剣が戦いの主軸だったのが攻撃魔法に変わるんだ。犠牲者は増えるだろう……地球の歴史でも同じようなことがあったよな。
この技術、公表しないほうが良いんじゃないか?
「マルセルさん、この技術は公表しないほうが良いのでしょうか?」
「いや、わしに判断はできんよ。それゆえに陛下と宰相様に相談が必要じゃ。上手く使えば有益な技術であることは間違いない。ただ悪影響もあるからな」
確かに今の情勢では難しいよな。魔物の森の対策には今すぐにでも使いたいだろうけど、敵対勢力に渡ってしまったら厄介だ。でも、魔法具は基本的に王家が管理してるんだし、短い期間で大量に手に入れることは不可能だろう。
そう考えると、逆に王家が有利となって内戦が起こらなくなる可能性もあるのか。難しい……
犯罪の証拠隠滅が容易になってしまうのは、仕方がないと考えるしかないよな。そもそも貴族って、ピュリフィケイションがなくても簡単に証拠隠滅しそうだし。
「では、これから他の属性でも有効かどうかだけ検証をして、本日帰ったら報告するので良いでしょうか?」
「ああ、そこだけは検証しておいたほうが報告もしやすいじゃろう」
それから俺たちは、ステファンとリュシアンも巻き込んで検証をした。誰も持っていない属性の検証はできなかったけど、検証できた属性にはどれも有効だということがわかった。
しかも、ピュリフィケイションよりも魔力効率が上がる属性もあった。これは本当に凄いものを開発してしまったかもしれない。
そして検証を終えると、ステファンとマルティーヌはアレクシス様に、俺とリュシアンはリシャール様に報告するということですぐに帰路についた。
ロイク先輩とミゲル先輩には、せっかく研究が上手くいったのにお祝いモードにならなくて、本当に申し訳ないよな……。
できれば開発者として王宮に呼ばれて褒められるとか、そうでなくても謝礼がもらえるとかはあったらいいと思ったけど、ステファンもそんなことを言ってたから多分その辺は考えてくれるだろう。
とにかく今はリシャール様に報告しないと。俺は頭の中で何を言うべきか纏めながら、リュシアンと共に馬車に揺られた。
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