第117話 ピュリフィケイションの魔法具

 マルセルさんは魔鉄を薄くお皿のように伸ばして、その上に魔石を五つ置いた。魔石は五つが真ん中に固まって置かれている形だ。


「まずはこの形で試してみるので良いでしょうか? 全ての魔石が一つの魔鉄に触れていれば、成功する確率も上がるかもしれません」

「ええ、とりあえずこれでやってみましょう」

「皆で順番に試してみましょう。では、マルティーヌ様からお願いいたします」

「わかったわ」


 マルティーヌは真剣な表情で全ての魔石に触れて、魔力を込めた。


「ダメですわ。一つの魔石にしか魔力が込められません」

「そうですか……」


 それからマルセルさんと先輩達が順番に試してみたが、皆失敗した。次は俺の番だ。


「最後はレオンじゃな。やってみてくれ」

「わかりました」


 俺は頭の中で五つで一つの魔石となるように、五つ全てが繋がっているイメージをして魔力を込めた。


 ……これは……、無理だな。魔石と魔石の繋がりがないから、五つの魔石に一つの魔法を込めることは不可能だ。逆に何かしらの繋がりを作ることができれば、成功するような気がするんだけど……


「レオンどうじゃ?」

「これはできませんね」

「やはりそうか……」

「ただ、魔石と魔石に何かしらのつながりを作ることができれば成功する気がします」


 ただ、どうやって魔石に繋がりを作るのかが問題だよな。


「私もそのように感じたわ。魔石同士が繋がっていなくて通り道がないことが原因ではないかしら」

「マルティーヌ様もそう思われましたか」

「ええ、ただその方法が全く思いつかないのよね」

「マルセルさんはどうすれば良いと思いますか?」


 俺がそう聞くと、マルセルさんはしばらく考え込んだ後に口を開いた。


「魔石を一つ砕きその破片をそれぞれの魔石の間に嵌め込めば、全ての魔石が一つの魔石で繋がることにはならんか?」

「確かにそれは可能性あるかもしれません!」


 同じ種類の魔石で繋げれば可能性あるかもしれないよな! とりあえず試してみる価値はありそうだ。


「とりあえず思いついたことは試してみましょう。割れた魔石はあるのでしょうか?」

「ブエラに聞いてこよう」


 マルセルさんはそう言ってロンゴ先生のところに行くと、一つだけ割れてしまった魔石があったようでそれを持って戻ってきた。


「ちょうど一つだけあったぞ。とりあえず適当な大きさのものを持ってきたから、魔石の間に並べてみるとしよう」


 そうして俺たちはまた魔力を込めてみた。まずはマルティーヌからだ。

 マルティーヌはしばらく難しい顔で魔力を流そうと努力していたが、結局ダメだったようだ。


「やはり先ほどと変わりませんわ。やってみて気がついたのですけれど、割れた魔石に魔力が流れるのであれば、割れてない魔石にも魔力が流れるのではないかしら」


 確かに……割れてない魔石同士で魔力が流れなかったんだから、割れてる魔石でもダメだよな。

 さっきは気づかなかったよ。


「確かにマルティーヌ様のおっしゃる通りですな」


 マルセルさんはそう言って少し落ち込んでしまった。


「まあ、失敗したということはダメだということが分かったってことですから、一歩前進ですよ! 次を考えましょう。でもその前に、とりあえず全員試してみましょうか」


 そうして俺たちはまた順番に試してみたが、誰も成功しない。俺もやってみたが手応えはさっきと同じだ。

 そこで俺たちはアイデアがなくなって、皆黙り込んでしまった。そんな気まずい沈黙を破ったのはロイク先輩だ。


「あの、先ほどは魔鉄に乗せただけでしたが、しっかりと魔石と魔石の間に魔鉄を挟み込むのはどうでしょうか?」

「確かに試してみる価値はあるかもしれんな……」


 マルセルさんはそう言って魔鉄の形状を、薄いお皿からいくつかの仕切り板が飛び出している形状に変えた。

 そしてその間の一つ一つに魔石を嵌め込んでいく。


「よしっ、これで良いじゃろう」


 次こそは! そう思って気合を入れたが、これも全員が失敗した。

 うーん、どうしても繋がってる感じがしないんだよな。魔石から魔鉄には魔力が流れていくけど、魔鉄から魔石には流れていかない感じだ。

 何となくイメージとしては、魔石に弾かれてる感じだよな。それならば魔石の中側を繋げれば良いのか? でもそんなのどうやって……


 そこまで考えた時、ふと頭の中に思い浮かんだものがある。針金を使ったら繋がらないだろうか?

 日本って充電コードとかも、全部銅線で繋がってたよな。それなら、魔鉄線で繋げられないかな?

 魔鉄で針金を作るのは簡単だ。あとはそれをどうやって繋げるかだな。魔鉄って魔石の中に埋め込めるのだろうか?


「マルセルさん、魔鉄って魔石の中に埋め込めるのですか?」

「魔鉄を魔石の中に埋め込むのか? 考えたこともなかったわい。やってみなければわからんのぉ」

「じゃあやってみます」


 俺はそう言って、まずは魔鉄で針金を作った。そして魔石に差し込むように力を入れる。

 しかし、魔石はつるっとしていて丸いので針金が刺さらない。それに魔石はかなり硬いんだ。これは何か別の方法で穴を開けないと刺さらないかもしれない。

 でも魔石に力尽くで穴を開けたら、魔石が割れたことになって魔石自体が使えなくなりそうなんだよな……

 もっと魔石が魔鉄を取り込んでくれると良いんだけど。俺は魔石に穴を開けてみるのは最後の手段とすることにして、思い当たることを片端から試してみた。


 そうして色々試すこと数十分、遂にできた!!

 魔石と魔鉄の両方に俺の魔力を注いでいる状態で、二つをくっつけるようなイメージで魔鉄線を魔石に通すようにすると、驚くほどに全く抵抗がなく魔鉄は魔石に取り込まれた。

 凄い! それから俺は魔鉄線を他の魔石にも取り込ませて、最後に魔鉄線をくっつけて完成とした。

 これならいけるんじゃないか……?


 俺はこの一連の流れをずっと見守ってくれていた皆に、完成品を見せた。


「とりあえずできました。これであとは魔力が込められるかですね。あと、もし魔力が込められても魔法が常時発動してしまうのでは使えないので、そこも重要ですね」


 俺はどうか成功してくれと願いながら、五つのまとまった魔石をマルティーヌに手渡した。


「では、マルティーヌ様からよろしくお願いします」

「私で良いのかしら? レオンがやってみるのでも良いのよ?」

「いえ、マルティーヌ様にお願いしたいです」

「それならばやってみるわ」


 マルティーヌはそう言って真剣な表情になり、魔石に魔力を注いだ。するとすぐに驚いたような表情になる。


「できたわ! これは成功よ!」

「マルティーヌ様本当ですか!?」

「ええ、流石レオンね。やってみると良いわ」

「やってみても良いですか?」

「ああ、早くやってみるんじゃ」


 俺は皆に背中を押されて魔石の前まで来た。そして緊張しながら魔石に手を翳し、ピュリフィケイションの魔法を流し込む。すると一つの魔石だけではなく、全ての魔石が繋がったような感覚で魔法が入っていく。凄い!!

 しかも魔法が発動していない。大成功だ!


 俺は全ての魔石に、魔石一つ分の魔力だけを入れた。あとはこれで魔力効率が上がってるかだ。

 今は魔石一つ分の魔力しか入れてないから、これで魔石を使ってみればどれほど魔力効率が上がったのかわかる。


「五つの魔石が一つの魔石となったように、魔力を入れることができました。そして魔法も発動していないので大成功です!」

「やりましたわね!」

「連結させた魔石に合わせて魔石一つ分の魔力だけを入れたので、どれほど魔力効率が上がっているのかテストしても良いでしょうか?」

「早くやってみましょう!」


 俺たちは魔力効率を正確に測るために、小さな木箱に泥を詰めてそれを何回綺麗にできるかで魔力効率を図っているのだ。俺も今回は、木箱を綺麗にするイメージで魔力を込めた。

 その木箱は、ミゼル先輩とロイク先輩がすぐに用意してくれたようだ。


「ありがとうございます。ではやってみます」


 俺はとりあえず片手に魔鉄、片手に魔石を持ってその二つをくっつけることで魔法を発動させた。

 すると木箱の中は新品のように綺麗になる。まずは一回だ。魔石一個で作るピュリフィケイションの魔法具だと、二回目はいつも綺麗にしきれずに魔力が終わってしまう。

 次が完璧に綺麗になれば、とりあえずは成功だ。俺はドキドキしながら二回目のピュリフィケイションを使った。


 ……おおっ!! 完璧に綺麗になってる!


 少なくとも魔力効率は上がってるってことだ。何をしても上がらなかったのに……遂にできた!!

 俺が満面の笑みで皆を見上げると、マルセルさんは優しく微笑んでくれていて、マルティーヌは飛び上がって喜んでいる。

 そして、ロイク先輩とミゲル先輩は抱き合って号泣している。確かに二人は何年もやってきた研究だもんね。俺たちより感動はひとしおだよな。


「やったぞ! ロイク! 俺たちの長年の研究の成果がやっと出たんだ! マルティーヌ様、マルセル様、レオン、本当にありがとうございます」

「ミゲル、本当だね。皆さん本当にありがとうございます!」

「二人の今までの研究と手助けがあってこそだわ。やったわね」


 マルティーヌはそう言って二人に手を差し出した。そして二人は恐る恐るその手を取り握手をする。


「私たち全員の成果よ。誇りましょう」

「はい!」


 先輩方は全く同時に息の合った返事をして、また涙ぐんでいる。マルティーヌとも仲良くなれたようで良かった。


「では、どれほど魔力効率が上がったのか確認しても良いでしょうか?」


 俺は皆が感動しているところに悪いとは思いつつそう言った。さっきからそれが気になって仕方がなかったのだ。

 そして俺のその言葉に皆は我に返ったらしい。また真剣な表情に戻っている。


「そうだった。その確認をしなければいけないな。すぐに次の泥を準備する」


 そう言ってミゲル先輩が準備をしてくれて、また検証が再開した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る