第99話 魔法具登録と技術登録

 今日は王立学校に入学してから、初めての回復の日。

 俺は朝早くに起きて、王立学校の正門前に向かっている。今日はロンゴ先生と登録に行くのだ。

 歩いて行こうと思っていたのだが、ロジェが馬車を出して自分も付いて行くと言って聞かず、結局馬車で向かっている。


「ロジェ、別に歩いていくから良かったのに」

「私の仕事は、レオン様が快適に過ごせるようにお手伝いをすることですから。遠慮されなくても良いのです」


 まあ確かに、個人的な理由にロジェを付き合わせるのは悪いかなと思って、遠慮したところはあるけど。

 どうしても遠慮しちゃうんだよな。やっぱり庶民の考え方が抜けない。まあ、今も平民だから庶民なんだけどね……生活は全然庶民じゃないけど。


「確かにちょっと遠慮してたけど……」

「私に遠慮は不要です」

「でも、色々指示されたら嫌じゃないの?」

「いえ、逆に頼っていただけない方が、自分は役立たずなのだと思ってしまいます」


 そうなの!?


「ロジェが役立たずなんて思ったことないからね!」

「ありがとうございます」


 ロジェの顔が微妙に緩まった気がする。今までロジェのことを思って遠慮してたのが逆効果だったなんて。

 これからは遠慮せずに頼るようにしよう。


「これからは遠慮しないようにするよ」

「そうなさってください」



 王立学校の正門前に着くと、ロンゴ先生が既に待っていた。俺の方が早く着いて待ってようと思ってたのに!

 俺はロジェに続いて馬車を降りた。


「ロンゴ先生、お待たせして申し訳ございません」

「いや……それはいいんじゃが…………」


 ロンゴ先生が凄く驚いている。ポカーンと口を開けて固まっているようだ。えっと……何に驚いてるの?


「ロンゴ先生、いかが致しましたか?」

「いや……レオンは、タウンゼント公爵家所属の平民だとは聞いてたんだが、出かける時に御者と使用人付きで馬車を貸し出してもらえるほど優遇されていることに驚いたのじゃ……」


 そこ!? そういえばあまり考えたことはなかったけど、いくら後ろ盾になってるからってこの扱いは格別に優遇されているのか。

 他の例を知らないからよくわからないけど、先生がかなり驚くほどの高待遇ってことだな。まあ、確かに申し訳なくなるほど良くしてもらっていると思う。

 本当に感謝してもしきれないな。


「公爵家の皆様には、本当に良くしてもらっています」

「そのようじゃな……」

「では、ここにいてもしょうがないですから行きましょうか。ロジェ、ここまで送ってくれてありがとう。帰りは自分で帰るから大丈夫だよ」

「レオン様、ロンゴ様もご一緒に馬車でお送りいたしますが?」


 え? ここまでじゃなくて王宮まで送ってくれるの?


「いいの……?」

「勿論でございます」

「そっか……それならお願いしようかな。ロンゴ先生、馬車でお送りしますのでお乗りください」


 俺がそういうと、ロンゴ先生はギョッとしたような顔をした後、あたふたと慌て始めた。


「そ、そんな、公爵家の馬車に乗るなど……」


 公爵家の馬車に乗るのって、貴族のロンゴ先生もそんなに慌てるようなことなのか。

 俺はいつも乗ってるんだけど……


「遠慮しないでください。どうぞ」


 俺がそう言ってロジェが馬車の扉を開けると、ロンゴ先生はかなり緊張した様子で馬車に乗り込んだ。


「し、失礼いたします……」

「では、レオン様もどうぞ」

「ありがとう」

「それでは王宮に向かいます」



 しばらく馬車を走らせて着いた場所は、王宮の近くにある大きな建物だった。登録などはこの建物で出来るみたいだ。ここに着くまで、ロンゴ先生はガチガチに緊張してたけど大丈夫かな?


「到着いたしました」


 馬車からロジェが降りて、俺、ロンゴ先生の順番で降りる。こういう時はお客様が最後だったはずだ。礼儀作法を習っておいて良かった。

 ロンゴ先生は、馬車から降りて少し緊張がほぐれたみたいだ。


「レオン、では行くぞ。こっちだ」


 ロンゴ先生についていくと少し大きめの扉があり、中に入ると中央教会と同じような作りになっていた。違いはこっちの方が少し規模が小さいくらいかな。

 俺たちは三人で、空いている受付まで歩いていく。ここは目的によって受付が分かれていないようで、どこに行っても良いみたいだ。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」

「今日は魔法具の改良登録と技術登録をしたいのだが」

「かしこまりました。では別室に案内させていただきます」


 受付の男性がカウンターから出て来て、俺たちを応接室に案内してくれた。


「しばらくお待ちください」


 応接室に入り、ロンゴ先生と俺がソファーに座り、俺の後ろにロジェが立った。

 その状態でしばらく待っていると、先程の受付の男性に連れられて、かなりお年を召した女性と四十代くらいに見える真面目そうな男性がやってきた。


「こちらの方々は、魔法具登録の責任者と技術登録の責任者です」

「よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いいたします」


 二人に頭を下げられたので、俺たちも頭を下げて挨拶をする。


「それでは、まずは現物の確認からです。登録したい魔法具と道具を出してください」

「かしこまりました。ですが、どちらも同じものなので一つしかないのですが」


 そう言ってロンゴ先生が、机の上に光球の改良版を出した。小さな長方形の箱の上にスイッチが付いている。日本の公園でこれを見たら、不審物で通報するだろうな。


「こちらを考えたのはここにいるレオンですので、レオンに説明させます。レオン説明しなさい」

「かしこまりました」


 説明するの俺なら先に言っといてよ!! 俺は内心動揺しつつ、それを表に出さないように気をつけて説明を始めた。


「これは改良版の光球です。上に飛び出しているところと凹んでいるところがありますが、この機能をスイッチ機能と言います。このスイッチの右側を押すと光球が現れ、左側を押すと光球が消える仕組みです。押してみてください」


 俺がそう言うと、二人は恐る恐るながらも魔法具を手に取り、まずは男性がスイッチを押した。

 すると天井に光球が現れる。

 二人は天井を見上げて、かなり驚いた顔になっている。


「これは、どういうことなんだ?」

「ひ、左側を押してもいいですか!」


 女性が興奮した様子で、男性にそう問いかける。


「ど、どうぞ」

「ありがとうございます!」


 今度は女性が、スイッチの左側を押す。


「これは……本当に素晴らしい改良です! どういう原理なのですか?」


 そう女性の方に聞かれた。最初は厳しい人かと思ったけど、今は好奇心旺盛な顔になっている。


「これは火魔法の魔法具と同じ原理です。火魔法を魔石から離れたところに発現させられるのなら、ライトでもできるだろうと考えました」

「確かにそうですね……ただ、それを思いつく頭の柔軟性が素晴らしいです」

「ありがとうございます」


 そんな話をしていると、女性の勢いに押されていた男性が話しかけてきた。


「魔法具も素晴らしいが、このスイッチ機能も素晴らしい。これは鉄板の裏に魔石をつけてあるのか?」

「はい。そして箱の底部分だけが魔鉄になっています。この機能を、水道や水洗トイレなど他の魔法具にも取り付けたら便利になるだろうと考えて、技術登録をしたいと思っています」

「それは素晴らしい! かなり便利になる」

「ありがとうございます」


 かなりの好感触で良かった。結構緊張してたんだけど一安心だ。俺がホッとしていると、受付の男性が俺の前に二枚の紙とペンを置き、男性と女性に問いかけた。


「では、登録をするということでよろしいですね?」

「もちろんです」

「当然だ」

「かしこまりました。ではレオン様、こちらの用紙をご記入ください」

「はい」


 その用紙は名前や所属、現在の職業、銀行の口座など、かなり細かく書くものだった。やっぱり屋台販売権とかよりしっかりしてるんだな。まあ、当たり前だよね。

 

「書けました」

「確認させていただきます。……ありがとうございます。不備はないのでこのまま受理させていただきます」

「よろしくお願いします」

「魔法具の改良登録では使用料の三割、技術登録では使用料の全てがレオン様の口座に振り込まれますので、定期的に確認をお願いいたします。毎月第一週と第九週に振り込まれます」

「かしこまりました」


 これで定期的にお金が入ってくるから、前よりもお金の心配はいらなくなるかも!

 ちょっと安心だな〜。


「では、これで登録は終了となります。こちらはサンプルとして頂きますが、よろしいでしょうか?」


 持ってきた魔法具はサンプルとして持っていかれちゃうんだ。いいのかな……?

 俺はロンゴ先生の方をチラッと見ると先生が頷いてくれたので、了承の意を伝えた。


「どうぞお持ちください」

「ありがとうございます」


 その後すぐに応接室を退出し、登録は完全に終わりとなった。

 何事もなく終わって良かった。

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