閑話 レオンの有能さ(マルセル視点)
「マルセル! いるか!」
玄関を激しく叩いてるやつがいる……誰じゃ……うるさくしおって!
わしは食べかけの夕食をそのままに、玄関まで向かい扉を開けた。するとそこには、予想通りの人物がいた。
「ブエラ、貴様か。もう夜なのにうるさいんじゃ!」
「マルセル、レオンに会ったぞ!」
「会ったのか……どうじゃったのだ?」
わしは我が物顔で工房に入っていくブエラの後に続いて、工房に入った。
「あれは本当に平民なのか? 発想力には目を見張るものがあるが、普通発想というのはその分野についての知識をしっかりと持ってる者にしか、生まれないものなのだがな」
「わしの言った通りであっただろう?」
「ああ、そうだ、レオンはわしの研究会に所属することになったぞ。既に次の回復の日に登録に行くことになった」
「登録だと!?」
レオンのやつまだ入学して数日しか経っていないのに、もう登録するようなものを発明したのか?
確か、新しい魔法具の登録はやめるように言われているはずじゃが……それは解禁になったのか?
いや、入学の挨拶に来た時に、全属性は明かせないから隠すのが大変だと言っていたはずだ。それならば、全て解禁にはなっておらんじゃろう。回復属性だけは解禁になったのかもしれんな。
それにしても、最初に会った時から常識がなくて、次々と歴史に残るような事をしでかすやつじゃったが、王立学校でもそれは治ってないようじゃ。
最初に会った時は本当に驚いたものだ。服装や外見はこの辺にいくらでもいる普通の平民なのに、言葉遣いや仕草が貴族のような変な子供だった。
もし最初に会ったのがわしではなく悪どい貴族ならば、すぐにその異常さから連れ去られたじゃろうな。
その後も次々と驚かされた。新しい魔法具を次々と作り出していくのだ。あれには驚いたどころではない。
最初に製氷機を作り出した時は、歴史が変わると年甲斐もなくワクワクしたものじゃ。ただその後の火魔法の魔法具は、もう驚きが麻痺してたんじゃな、驚きよりも呆れが勝っていたわい。
レオンは家族を危険に晒したくない、自分の立場も危険にしたくないと言いながら、バレたら様々なところから狙われるようなことをするから、わしの肝が冷えたもんじゃ。危なっかしくて仕方がなかった。
今は公爵家で守られてるようだから大丈夫じゃろう。ただ、もし何かあればわしは何においても助けに行こうと決めておる。
何故ここまでレオンに肩入れしているのかが自分でもわからんのじゃが……家族もいなく実家とも縁が切れてるわしに、突然現れた孫のような存在だと思ってるのじゃ。
最初は変な子供、次は面白い子供だと思っていたが、今では自分の孫のように思っておるなんて……人生は何があるかわからんものじゃ。長生きはしてみるものじゃな。
「聞いてるのか?」
「おお、なんじゃ?」
「レオンの登録の話じゃよ!」
「そうだったな。それで何を発明したのじゃ?」
全属性は明かせないのなら、回復属性を使った魔法具か?
「これじゃよ」
「これは……? 魔法具なのか?」
変な形の箱……なのか? 手のひらサイズの小さな箱じゃが、上が変な形だ。左側が沈んでいて右側が盛り上がってる。これは何なのだ?
「その盛り上がってる方を押してみるんじゃ」
「下に押してみればいいのか?」
「そうじゃ」
わしは恐る恐る、盛り上がっているところを押してみた。すると思ったよりも軽い力で押すことができて、金属板が右側にスライドして止まった。
何も起こらないが……どういうことじゃ?
「上を見てみろ」
上には天井しかないが……そう思いながら上を見上げてみると、そこには二つの光球があった。
「ど、どういうことじゃ?」
「この箱の右側を押すと光がつくんじゃ。左側を押すと消えるぞ」
「ほ、本当か!?」
わしは慌てて左側を押すと、光球が一つ消えている。これは……革命じゃないか! これでどれほど生活が便利になるか。
これはどのような原理なんじゃ? 何故この箱の鉄板を動かすだけで光球が現れたり消えたりするんじゃ!
「これはどういう原理なんじゃ! レオンが考えたのか!?」
「ああ、あのレオンという少年が一日で考えてしまったんじゃ。これは鉄の板の右裏側に魔石がついていて、箱の底が魔鉄になっている。だから、右側を押して魔石と魔鉄をくっつけることで魔法が発動する」
「それではこの箱の中で光るだけではないか! 何故天井付近に光球が発生してるのじゃ!」
「火魔法の魔法具と同じ原理じゃよ」
火魔法の魔法具…………そうか! 光球も魔石から離れたところに発現させられるのか!
何故気づかなかったんじゃ…………光球は魔石が光るものだと思い込んでおったわ。
「何故わしは思いつかなかったのかとショックじゃ……」
「大丈夫じゃ、わしもまだショックを受けておる……」
やはりレオンは凄いな……本当に天才じゃ!
さすがわしの孫(みたいなもの)!!
それにしても本当に凄い、この光球はすぐに広まるだろう。それにさっきは光球への驚きで受け流したが、この箱の機能もかなり良くできてるな。
「光球への驚きで霞んでしまったが、この箱の機能もかなり良くできているな」
「そうなんじゃ、それにこれは他の魔法具に応用可能じゃ。水道や水洗トイレにこの機能をつけたら、かなり便利になると思わんか」
確かにこれはかなり便利になる。魔石を手から滑らせて肝を冷やすこともなくなるし、紛失する危険性もかなり下がる。なによりも押すだけというのが便利じゃ!
この機能もこうやって見てみると単純なものなのに、何故思いつかなかったのか……やはりこれを思いつける発想力を持つレオンは凄いな。
「魔法具に革命が起こるぞ……」
「そうじゃろう! だから次の回復の日に光球の改良魔法具登録と、スイッチ機能の技術登録をしてくる」
「スイッチ機能?」
「ああ、この箱の機能の名前じゃよ」
何故か聞いたことがある言葉じゃな……。そういえば、レオンが昔に言っていた気がする。遠くから光球をつけたり消したりする機能があったら良いと。
その時もスイッチとか言っておったな。それを実現したのか……。
「スイッチとはどんな意味があるんじゃ?」
「わからんが……レオンがそう呼んでおったからそう名付けるのじゃろう」
結局言葉の意味は分からんままか。レオンはたまに聞いたことのない言葉を言うことがあるんじゃよな。まあ、天才とはそういうものなんじゃろう。
「しっかり登録して来てくれよ」
「わかっておる。それでじゃ、今日はもう一つ話があるのだ」
「なんだ?」
「今度、研究会に顔を出してくれんか?」
「わしが研究会に? 何でじゃ? ブエラがいるのならわしはいらないだろう」
「お前じゃなきゃダメなんだ。マルセルは回復属性だろう? 今研究会で、ピュリフィケイションの魔法具を研究してるようなんだが、上手くいってないみたいでな。他の視点が加わると進むかもしれんじゃろう?」
ピュリフィケイションの魔法具とは……何とも難しいものに挑戦しておるな。あれは魔力消費が激しすぎて使い物にならないんじゃ。何故か魔法具にしても魔力効率が上がらんし。
「確かにそうだが、わしも長年研究して半分諦めておる。それでもいいのか?」
「ああ、一度でいいから顔を出してくれ。それに、最近話題の新しい魔法具を開発したお前が来たら、喜ぶと思うからな」
わしにとっても若い考え方に触れるのは良いことかもしれんな……それに、レオンにも会いたいし行くとするか。
「それじゃあ、今度顔を出そう」
「ありがとな。わしが予定を決めても良いか?」
「ああ、良いぞ」
「ならまた後で予定を決めて手紙を出そう」
王立学校なんて本当に久しぶりに行くことになる……少し楽しみじゃ。
「よしっ……それじゃあ今日はそろそろ帰るぞ。明日は朝早いからの」
「ああ、またな」
ブエラはそう言ってすぐに帰っていった。あいつは魔法具のこととなると、いつも嵐のような男じゃわい。
それにしても、レオンと会ってから色々と巻き込まれることが増えたのぉ。年甲斐もなくワクワクするわい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます