第97話 ダンスの授業
次の日、学校に行きロニーにクレープが完成したことを伝えた。
「ロニーおはよう!」
「おはよう。朝からテンション高いけどどうしたの?」
「昨日クレープを作ってみたんだけど、無事に成功したんだよ!」
「そうなんだ! それは良かったよ」
ロニーはかなり嬉しそうに顔を綻ばせた。ロニーも早く仕事をしたいだろうからな。
「それで、次の回復の日から屋台を始めるのでいい?」
「もちろん!」
「俺は朝早くから、ロンゴ先生と一緒に魔法具登録と技術登録で王宮に行かないといけないんだ。だからそれが終わったら、ロニーの家に行ってもいい?」
「いいけど、僕の家知らないよね? 屋台に集合でもいいよ?」
そういえばロニーの家知らなかったな。確かにロニーの家に行く必要はないか…………でも、いつもロニーは家から屋台に向かって食材を買いながら行くのだろうから、そこから練習したいよな。
「でも、ロニーには毎回荷物を持って、屋台まで食材を買いながら行ってもらわないといけないから、その練習もしたいんだ」
そういえば、ロニーに毎回荷物を持ち運びしないといけないことを伝えないと。
「ロニー、屋台に荷物はずっと置いておけないから、荷物はロニーの家に置かせてもらって、屋台を開く時に毎回持っていってもらわないとなんだけど、大丈夫?」
「どのくらいの量かな? 僕の部屋はあまり広くないんだけど……」
「荷車に乗せて半分もないくらいだよ。荷車も用意したから持ち運びは大丈夫だと思う」
「そのくらいなら大丈夫だよ!」
「それなら良かった。じゃあ、次の回復の日は学校の正門前に集合で、荷物を持ってロニーの家まで行って、そこから市場で買い物をしながら屋台に向かうのでいい?」
「うん。僕はそれで大丈夫だよ」
「じゃあその予定で! 時間は十二時頃かな」
「それでいいんだけど、僕は時計持ってないからお昼の鐘が鳴ってから学校に向かうことになるよ」
そっか……最近は当たり前のように使ってたから忘れてたけど、時計って高いんだった……今度ロニーにプレゼントしようかな? でも理由がないし……仕事のボーナスであげるとか? それありかも。
「それで大丈夫だよ。俺が時間を合わせるから」
「ありがとう! じゃあその予定で」
よしっ、これであとは買い物をして、ロニーにクレープの作り方を教えるだけだな。
そういえば今気づいたけど、食材を買うためのお金はロニーに定期的に渡さないといけないな。あと、荷物を荷車から部屋に持ち運ぶための大きめの袋と、荷車に荷物を載せてその上から被せる大きめの布も必要かも。
次の回復の日に一緒に買えばいいか。
そこまで考えたことで先生が来た。とりあえずまずは、今日の授業に集中だな。
その後は真面目に授業を受けて、最後の授業になった。今日の最後の授業はダンスの合同授業だ。
ダンスは毎日しっかり復習してるけど、まだまだぎこちないからなぁ……まあ、平民なんてダンスをできなくても当然だからいいだろう。
ダンスの授業も訓練場で行われるので早く移動しないといけない。
「ロニー、訓練場に行こうか」
「うん。早く行かないとだよね」
俺とロニーは、早足で訓練場まで歩きながら会話をしている。
「レオンはダンスをしたことあるの?」
「公爵家で少し習ったことがあるだけだよ」
「習ったことあるの!?」
「うん。でも本当に少しだけだから、まだまだぎこちないし上手になんて踊れないよ?」
「それでも一応は踊れるんでしょう? 僕はやったことなんてないよ……」
ロニーがまた落ち込んでしまった。ロニー、落ち込む必要はないんだよ。どちらかと言えば俺がおかしいんだから! 自分で言ってて悲しいけど……
「えっと……普通平民はダンスをする機会なんてないから、できなくて当然だよ! 多分基礎から教えてくれるんだろうから、大丈夫だと思うよ」
「そうかな……それならいいんだけど」
どんな先生かにもよるよな。基礎から丁寧に教えてくれる先生であってくれ!
俺とロニーは更衣室に鞄をしまい、訓練場に向かった。まだほとんど生徒は来てないみたいだ……良かったな。
しばらくすると生徒がどんどん集まり、先生が入ってきた。
先生は細身で背が高い四十代くらいの女性だ。少し厳しそうな顔つきをしている。なんか嫌な予感がする。
「これからダンスの授業を始めます。私はアデル・グラミリアン、厳しく指導いたしますのでしっかりとついて来るように。ダンスを踊れないなど、人としてあり得ませんわよね。皆さんは既に踊れると思いますので、どれだけ優雅に美しく踊れるかに重点を置いた授業にいたします」
これは最悪な先生だよ……基礎から教えてくれるなんてことは絶対にないな。というか、ダンスを踊れないなんて人じゃないみたいなこと言ってたけど、それだと平民は皆人じゃないってことになるんですけど!
この人平民を見下してるタイプの人なんだな……まあ、そういう先生もいるだろうってことは覚悟してたけど、実際にいるとめんどくさすぎる!
一応この学校では身分は関係ないと謳っているけど、先生があからさまに差別していいのか?
…………いや、この先生は明確に平民を差別してるわけではないのか。さっきは、ダンスを踊れないのは人としてあり得ないって言っただけだし……明確に言わなくても間接的に差別してるようなもんだけどね。
はぁ〜、この授業疲れそう……
「ダンスの授業の目的は、王立学校の卒業パーティーでダンスを踊れるようにすることです。卒業パーティーには、皆様のご両親もご出席されるので、しっかりと練習いたしましょう。今から真剣に練習すれば、卒業時には完璧に踊れるようになっていることでしょう。では、まずは基本の曲を一曲通して踊っていただきます。三回に分けて踊っていただきますが、女性の方が少ないので、数人の方には二回踊っていただきますわね」
え!? 最初から一曲通して踊るの!?
確実に踊れる前提の授業じゃん! 平民は完全無視なんですね!!
「レオン、どうしよう……僕踊れないよ」
ロニーが小声でそう言ってきた。そうだよね……俺も何とか踊れる程度だよ。
でも、平民でちゃんと踊れる人はいないと思うから、一人だけ踊れないってことはないと思うんだけど……
「多分平民は皆踊れないから、一人だけ目立つことはないと思うんだけど……」
今周りを見回してみても、結構顔を青ざめさせてる人がいるから大丈夫だと思う。平民だけじゃなくて騎士爵の子供でも結構いるな。
「それではまず、AクラスとBクラスの皆様に踊っていただきましょう。女性が数人足りないので、Cクラスの女性はお手伝いをお願いします」
先生のその言葉で、女子はステファンに男子はマルティーヌに、一斉に群がった。凄いな……二人ともご愁傷様。
もう勢いが凄すぎる。貴族では我が強くないとやっていけないのだろうけど、それにしてもぐいぐい行き過ぎじゃないか? 一見動きはお淑やかなのに、肉食獣の群れに見えるよ。
「皆ありがとう。ただ、私はマルティーヌと踊ると決めているんだ」
「そうなのです。私はお兄様と踊るので皆さんと踊れませんの。申し訳ございません」
二人とも双子で本当に良かったな……これなら争いが丸く収まる。一人だけだったらと考えると怖い。誰を選んでも争いが起きるだろう。
皆諦めて、近くの相手と組むようだ。リュシアンの相手は誰だろう?
…………おおっ! かなり可愛い金髪美少女だ。
他の貴族と比べるからかもしれないけど、かなり大人しそうな子だな。この肉食獣の群れの中で見るとオアシスに見える。
リュシアンさすがだよ……
「では踊ってもらいますわね」
グラミシアン先生がそう言うと、先生と共に訓練場に来ていた二人の方が音楽を奏で始める。
そして、それに合わせて皆がダンスを踊る。さすがだな……皆かなり上手い。今までしっかり練習してきたんだろうな。
アルテュル様も踊ってるけどかなり上手い……貴族でいるための努力は怠ってないんだな。
はぁ〜……そう言う人が一番厄介なんだよ。貴族であることに胡座をかいて、特権は使うけど義務を負わないような人だったら蹴落とすのも楽なのに。
そんなことを考えながら見ていたら、ダンスが終わった。
「皆さん、とても良いですわ。このレベルのダンスが今の段階でできているならば、卒業する頃には素晴らしいダンスが踊れるようになるでしょう。ダンスを踊ることができるのは当たり前ですわ。重要なのはどれほど優雅に美しく踊れるかです。これからもしっかりと練習してください。では次はCクラスとDクラスです」
その後のCクラスとDクラスの生徒も普通に上手かった。貴族にとってダンスが踊れるのって本当に基本なんだな。
「では最後、Eクラスです」
どうすればいいんだ……ついに順番が来ちゃったよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます