第96話 クレープの試食

 俺が食堂から出るとロジェが待っていてくれたので、ロジェとともに部屋に戻り、服を着替えて食堂に来た。マヨネーズを作るのに手間取ってギリギリだったよ。

 今日はリシャール様、カトリーヌ様、クリストフ様、ソフィア様、リュシアンが食堂にいる。


「レオン、先ほど聞いたが今日はクレープを作ってくれたのだな」

「はい。先ほど作りました。甘いクレープと食事のクレープの二種類を作りましたので、食べて感想をいただけたらと思います」

「おおっ! それはとても楽しみだ」


 美味しいと思ってくれたらいいんだけど、口に合わなかったらと思うと緊張する。マヨネーズは料理人さん達にかなり好評だったし、大丈夫だと思うけど……

 

「リシャール様、本日はレオン様のお料理と料理人が作った夕食の両方があるのですが、どちらを先に召し上がられますか?」


 リシャール様の従者の方がそう聞いている。


「そうだな……レオンの料理を先に持ってきてくれ。一度完成形も見たいからそのままで頼む」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 そういえば、クレープを一人一つ食べるのはかなりきついよな。もし食べられても夜ご飯が食べられなくなる。


「リシャール様、クレープは結構ボリュームがありますので、一つを切り分けて食べるのが良いかと思います」

「それなら完成形をみてから皆で切り分けて食べるとしよう」

「私は甘いクレープを多めに欲しいですわ」


 カトリーヌ様、本当に甘いものが好きなんですね……

 そこまで話したところで、給仕がクレープを運んできた。一人一皿で二つのクレープが乗っている。ここから切り分けて食べればいいのかな?


「こちらは、レオン様が作られたクレープでございます」

「おお、これがクレープなのか。初めてみる形の料理だな」


 リシャール様は興味津々で、様々な角度からクレープを眺めている。


「こちらの料理は屋台で売りやすいように丸めてありますが、今日のようにナイフとフォークで食べるのでしたら、このように丸めずに四角に畳むだけでも良いのです。丸く焼いたものを半分に畳むだけでも良いですし、盛り付けはアレンジ可能です」

「畳める料理とは、面白いな。ではいただこう」


 リシャール様は、クレープを三分の一ほど切り取り小皿に移し、そこから一口分を切り取って口に入れた。

 まずは食事のクレープから食べたようだ。


「おおっ……これは美味しい……なぜこんなに美味しいのだ? キャベツと豚肉だけではないのか?」

「そちらには、マヨネーズというソースを入れてあります」

「もしかしてこの白いものか?」

「はい」


 リシャール様は、今度はマヨネーズだけをフォークに取り口に入れた。


「おおっ! これだ! このソースがとても美味い。これは何で作ったものなんだ? こんなものは初めて食べた」

「気に入っていただけて嬉しいです。こちらはオリジナルのソースで、卵で作ったものです」

「卵からできているのか!? これは本当に素晴らしい美味しさだ」


 リシャール様は卵で作られているというところにかなり驚いていたが、今はそれよりもマヨネーズに夢中のようだ。

 やっぱりマヨネーズはみんな好きだよな。俺も大好きなんだよ。


「レオン! これは本当に美味しいぞ! 今まで食べたものの中で一番美味しいかもしれない!」


 リュシアン、今までで一番は言い過ぎじゃないかな? 俺は少し苦笑いしながら答えた。


「気に入っていただけて嬉しいです」

「レオン、このマヨネーズはたくさんの料理に合いそうだな。肉などにも合うのではないか?」

「はい。肉につけると合うと思われます。それから、野菜やじゃがいもなどにもよく合うでしょう」


 クリストフ様は最初は驚いた顔をしていたが、今は研究者のような顔で、真剣にマヨネーズに合う料理を考えているようだ。マヨネーズって基本的に何にでも合うからな。とにかくマヨネーズをつけておけば、合わないことはないだろう。

 俺は日本にいた時かなりマヨネーズに頼っていて、色々なものに付けていた。ハンバーグにも焼き魚にも結構何でも合うのだ。アスパラ、インゲン、ブロッコリーとかもマヨネーズをつけるだけで最高に美味しくなるんだよな!


「ただマヨネーズには欠点がありまして、生の卵を使うので食中毒の危険があるのです。このマヨネーズは私の魔法で殺菌しているので大丈夫なのですが、屋台にずっと私がいるのは難しいので、屋台でマヨネーズを使うために魔法具を作りたいと思っています。そこで、魔石と魔鉄をいただいても良いでしょうか?」


 俺がそう言うとリシャール様は少し遠い目をした後、了承してくれた。


「魔法で食中毒の危険を排除できるところに驚かなければいけないのだろうが、レオンだからな……前にレオンが使う分は融通すると言ったし、魔石と魔鉄を融通するのは構わない。しかし、このマヨネーズは魔法を使わなくても食べることはできないのか?」


 うーん、そう言われると確かに日本には魔法なんてないんだし……どうやって菌を殺してたんだろう? 何かしらの技術があったのかな?

 そもそも日本は生卵で卵かけご飯が食べられるし……


「申し訳ありませんが、私には分かりません」

「そうか、それならばしょうがないな。ここまで美味しいものを広められないのは勿体ないが……」

「私が作る魔法具を広めて、卵は全て殺菌をすることにすればいいのではないでしょうか? とは言っても、そんなに大規模なことができるのかは分かりませんが……」

「いや、確かにそうだな。回復魔法で食中毒の危険を排除するなど今の状態では登録できないが、レオンが貴族になってこの魔法具を登録すれば広めることは可能だろう……生産者に渡せば効率がいいな……」


 リシャール様は色々思いついたようで考え込んでしまった。リシャール様、マヨネーズ普及のためにも頑張ってください。

 俺はリシャール様から視線を外して他の方を見回した。そうするとカトリーヌ様と目が合う。


「レオン! この甘いクレープは素晴らしいですわ!」

「カトリーヌ様、私も同感ですわ。これは素晴らしい美味しさですわね」


 カトリーヌ様とソフィア様は甘いクレープを気に入ってくれたらしい。リクエストだったし良かった。


「これは蜂蜜ですよね?」

「はい。蜂蜜とバターです」

「この生地も少し甘さがあるようですけれど……?」

「生地にも砂糖を少し入れて、甘くしてあります」

「これは本当に素晴らしいですわね。毎日でも食べたいですわ!」

「気に入っていただけて良かったです」


 カトリーヌ様、甘いクレープ一つ分食べ切る勢いだけど、そんなに食べて大丈夫なのかな?

 凄く嬉しそうに食べてるから絶対止められないけど……

 

 まあ、とにかく気に入ってもらえたみたいで良かった。俺も食べよう。まずは豚肉サラダからだ。

 一口分を切って、ぱくっ……もぐっむぐっ……うん。美味すぎる。やっぱりマヨネーズ美味すぎるな。最高だ!

 俺はあっという間にクレープの半分ほどを食べてしまい、慌ててやめた。この後のご飯が食べられなくなっちゃうよ。

 次は蜂蜜バターだ。ぱくっ…………うん! 甘くてめちゃくちゃ美味しい! やっぱり甘いクレープ最高だな。幸せすぎる……ほのかに香るバターの香りと蜂蜜の甘さが、完璧にマッチしてる。これは大成功だな。


 屋台の料理はこれでいけるだろう。あとはロニーに教えて、問題が起きたら解決していけばいいな。

 次の回復の日から始められそうで良かった〜!


「では、こちらの二つの料理で、次の回復の日から屋台を始めようと思います」

「ああ、これなら人気も出るだろう」

「ありがとうございます。頑張ります!」


 クレープが完成して一安心だ。あれ? あと何か聞こうと思ってた気がする。リシャール様に聞こうと思ってたんだよ…………何だっけ??

 

 うーん…………あっ! 魔法具の登録をしてもいいのか聞こうと思ってたんだった! 危ない、忘れるところだったよ。


「リシャール様一つお聞きしたいのですが、前に新しい魔法具の登録は王立学校を卒業するまでやめるようにと言われました。ですが、魔法具の改良の登録は良いのでしょうか? あと技術登録もしたいのですが……」

「魔法具登録? 技術登録? 何でそんな話になったのだ? 先程の殺菌の魔法具なら登録はまだやめて欲しいが」

「いえ、殺菌の魔法具ではないのです。実は、魔法具研究会で魔法具の改良をしたところ、先生に登録すべきだと言われてしまいまして……」

「ちょっと待ってくれ、情報を整理するぞ。そもそもレオン君は魔法具研究会に所属したのか?」

「はい。お伝えしてませんでしたか?」

「聞いてないな」


 そういえば、昨日と一昨日は仕事が忙しいとかで夕食にリシャール様はいなかったんだ。それで報告せずに今日まで来ちゃったってことか。

 誰かが絶対報告してると思ってたんだけど、よく考えれば王立学校の中のことは自分で報告しないとすぐに知る術がないのか。


「伝えるのが遅れましたが、私とリュシアン様は魔法具研究会に所属しました。ステファン様とマルティーヌ様もです」

「何というメンバーなのだ……」


 リシャール様が呆れたような疲れたような顔になった。何か……ごめんなさい。


「話を続けても良いでしょうか?」

「ああ、続けてくれ」

「魔法具研究会で光球を改良しようと考えまして……」


 そこからは、光球をどのように改良したのかについてとスイッチ機能についての説明をした。


「話はわかった。それでスイッチ機能の技術登録と、光球の改良の魔法具登録をする予定なのだな」

「そうです。私の名前で登録しても良いのでしょうか?」

「そうだな……全属性がバレないのであればいいだろう。光球は回復属性だからな。技術登録も属性は関係ないから良い」

「ありがとうございます!」


 良かった〜! これで登録できたら定期的にお金も入ってくるし、便利になるだろうし最高だな。


「レオン君、君の行動にあまり制限はしたくないのだが、全属性だけは明かさないように気をつけてくれ。これだけは絶対だ。もし君が全属性持ちだと知られたら、他国から血眼になって狙われるだろう。できる限りの力で守るつもりだが、絶対とは言えない。君はまだ平民だ。貴族ならまだしも、平民では連れ去られたら助けることはできないかもしれない」

 

 リシャール様は凄く真剣な表情で俺にそう告げた。絶対にバレないようにしよう……


「はい。気をつけます」


 俺も真剣な表情でそう返すと、リシャール様は途端に顔を緩めた。


「それだけ気をつけていれば、あとは自由に学生生活を楽しんでくれ」

「はい! ありがとうございます」


 そこからは和やかなムードで夕食を食べ終え、部屋に戻った。ふぁ〜今日は疲れたな。

 ただ、俺にはまだ一つやることが残っている。アイテムボックスの検証の続きだ。俺は使用人もいなくなった部屋のベッドの中で、この前入れておいた氷を取り出してみた。

 おおっ! 一切溶けてない。入れた時と何も変化がないように見える。これは時間が経過してない可能性が高い!


 俺はテンションが上がりつつも何とか抑えて、もう一つ入れておいたものも取り出した。こっちは熱湯だ。

 もしアイテムボックスの中が、気温が低いだけで時間経過がある場合、氷の実験だけではわからないと思ったからだ。

 凄い……もう見ればわかる。水面からもくもくと湯気が上がっている。完全にアイテムボックスに入れた時のままだ。

 これで決まりだな!! 俺のアイテムボックスは時間経過なしの優れものだ。これはめちゃくちゃ嬉しい結果だ。

 とりあえずは、食料をこまめに買ってアイテムボックスに仕舞っておくことにしよう。これでいつ何があっても食料に困ることは無くなった。毛布やベッドもできれば入れておきたいけど……これは追々だな。


 …………あれ? 今思いついたけど、アイテムボックスに生き物って入れられるのかな。

 例えば生きたままの魚とか、植物とかはどうなんだろう? もしかして人間も入れられるの……?

 怖っ! もしそうだったら怖い。アイテムボックスの中って時間経過がないんだよね? 生き物を入れたらどうなるんだろう……そもそも入らないのかな。

 今度試してみた方が良いかも……川で魚釣って入れてみよう。土ごとの植物とかも試す価値あるな。


 ふぁ〜、でもとりあえず後でだ。もう流石に眠いから寝る……明日も頑張ろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る