第86話 魔法具の改良
「すみません! 考え込んでしまって」
「それはいいけど、何か思いついたのか?」
ステファンにそう聞かれた。新しい魔法具の情報ってすでに出回ってるんだよな? 確かロンゴ先生が授業で言っていた。
「はい。新しく登録された魔法具には、魔石から離れたところに魔法を発現させる技術が使われてますよね。それを光球にも応用すれば、魔法具を天井に設置する必要もないと思ったのですが……」
「それは…………素晴らしい! 素晴らしいぞ!」
おぅ……ロンゴ先生大興奮で拳を握って立ち上がっちゃったよ。
「なぜわしはそのことに気づかなかったんじゃ!! 光球は魔石が光るものだと思い込んでいた。レオン、お主の発想力は素晴らしい!」
痛いっ! ロンゴ先生、そんなに強く肩を掴まないでください!
「お、お役に立てて、良かったです」
「早速やってみるぞ! この中に回復属性が使える人はいますか?」
「私が回復属性です」
「レオン、お主は回復属性だったのか! ではすぐに試してみよう」
ロンゴ先生はそう言って、カバンに詰め込んでいた魔法具の中から光球を取り出した。
「これに魔法を込め直してみてくれ」
「かしこまりました」
えっと……天井に光球が浮かぶようにすればいいんだよな。この部屋なら三メートル上くらいかな? でも、今魔法具は机の上に置いてあるから、二メートル上くらいのイメージがいいのか……
これはあれだな、魔法具を置く場所によってどんな魔法を込めればいいのかが変わるよな。魔法は使う部屋ごとに込めてもらわないとダメだな。
「ロンゴ先生、今気づいたんですけど、これって魔法具を置く場所や部屋の形、大きさでどんな魔法を込めるのかが変わるので、その部屋ごとに魔法を込めてもらわないとダメですね」
「確かにそうじゃな……ただその程度の労力は問題ないだろう。貴族の屋敷には回復属性の者がいるだろうし、もし居なくても家まで来て貰えばいいからな」
「確かにそうですね。ではやってみます。魔法具はこの場所に置いて使うということでいいですか?」
「とりあえずはそれで良いぞ」
「かしこまりました」
しっかりと光球が浮かぶ場所をイメージして……天井の三十センチ下くらいがいいかな?
よしっ……『ライト』
「できました」
「では魔石を嵌め直してくれ」
「はい」
おおっ! ちゃんと天井に光球が作り出された。
「凄い! 凄いぞ!!」
「とりあえずこれで、離れたところに光を作り出せることは証明できましたね」
「レオン……君は簡単に凄いことをやってくれるね」
「お兄様、それがレオンですわ」
「ですが、これは新しい魔法具に使われた技術を光球に応用しただけですので……他の方でもすぐに気づかれると思いますが?」
ステファンにそう言われたが、これってそんなに凄いことだろうか?
「いつかは誰かが気付いただろう。ただ、光球は魔石が光るもの、という固定観念を崩して、この事実に気づける者はあまりいないだろう。一度気づいてしまえば簡単なことなのだがな」
確かに固定観念があると、簡単なことにも気づけなくなるんだよな。うーん、そんなものなのかな?
ただこれで完成ではなく、スイッチの機能をつけたい。
「そんなものなのですね。ただ、これだけでも便利になるので良いと思うのですが、できればもう少し便利にしても良いでしょうか?」
「レオン、これをもっと便利にするのか? もう十分じゃないか?」
リュシアンに少し呆れた顔でそう言われた。いや、スイッチ機能はあった方が便利だろう。
「もう少しだけなので」
「レオン、今すぐに話してみるんじゃ」
ロンゴ先生はめちゃくちゃ乗り気だ。思いっきり身を乗り出してくる。うっ……先生顔近すぎです。
「わ、わかりました。すぐに説明します」
そのあと俺は、さっき考えたスイッチ機能についての説明をした。
「これはかなり便利になるぞ……」
「はい。この機能を壁に埋め込んでもいいですし、魔石を取り替えるのが大変ならば、壁に埋め込むのではなく簡単に取り外せる箱型のようにして、壁に取り付けるのでも良いと思います」
「レオン……これは素晴らしい! どの魔法具にも応用可能ではないか! 水道にも水洗トイレにもこの機能を取り付けたら、かなり便利になるぞ! 送風機もいけるな。新しい魔法具にもいけるぞ。全ての魔法具に取り付けられるではないか!」
確かに、水洗トイレとか水道とかはかなり便利になるな。いちいち魔石を取り付けて取り外すのめんどくさかったんだ。まあ、贅沢な悩みなんだけどね。
「確かに全てに応用可能ですね」
「すぐに試してみなければならない! わしはこれから贔屓の鍛冶屋に頼んで、サンプルを作ってもらう。とりあえず光球でいいだろう。急がせて明日の放課後に持ってくるから、明日の放課後は必ず研究会に来るんじゃ」
「は、はい……」
ロンゴ先生の勢いが凄すぎる……
「形になったら王宮に持っていき、技術登録するぞ!」
「技術登録って何ですか?」
魔法具の登録とはまた違うのか?
「魔法具の登録と同じようなものじゃ。便利な仕組みなどを開発したときに技術登録をすると、その仕組みを広く広めて開発者は他の者がその仕組みを使ったときに使用料をもらえるんじゃ」
これも特許制度みたいなものなんだな。
「この仕組みは魔法具登録ではないのですか?」
「ああ、これは幅広く応用できるし技術登録じゃな。レオンの名前で登録するんじゃ、お主も一緒に王宮に行くんじゃぞ」
「え!? 私もですか?」
「お主が考えたんだからそうに決まってるだろう?」
確かにそうだよな……前は俺が登録したら流石におかしかったから出来なかったけど、今は王立学校に入学してるし、公爵家の後見もあるから登録できるのか。全属性を明かすわけじゃないし。前に新しい魔法具を登録するなって言われたけど、技術登録ならいいよね……多分。
それに、登録できれば定期的にお金が入ってくるってことだよな。ちょっと嬉しいかも!
「確かにそうですね。一緒に王宮に行っていただけるのですか?」
「わしの生徒の開発じゃ。一緒に行くに決まってるだろう?」
「ありがとうございます!」
ロンゴ先生、少し変人だけどいい人だ。俺一人で行くのは流石に怖すぎる。
「とにかくサンプルを作ってみてからじゃな。わしは鍛冶屋に行かないといけないのでこれで失礼する。皆さん、お先に失礼させていただきます」
ロンゴ先生はそう言って、嵐のように帰っていった。一瞬だったな……
それで、俺たちはどうすればいいんだ? 先輩二人は、先生がいなくなって所在なさげにそわそわしている。
「ステファン様、先生は帰ってしまわれたようですが、この後はいかが致しますか?」
「そうだな……少し早いがもう帰るとするか」
「そうですね。ミゲル様とロイク様はまだ残られますか?」
「う、うん。私たちはもう少し残って研究するよ」
そういえば、二人は何の研究をしてるんだろう?
「お二人は何の研究をされているのですか?」
「私たちは、ピュリフィケイションの魔法具を何とか作れないか研究してるんだ。二人とも回復属性だから」
おお! それ俺も研究したい! 普通の魔法具は魔力効率が良くなって、魔法を使うより大幅に少ない魔力で使える。しかし、ピュリフィケイションは魔力効率が変わらないんだよな。そしてピュリフィケイションは元々魔力効率が悪すぎるから、もし魔法具を作ったとしても結局使えないんだ。
確かトイレを綺麗にするとしたら、満タンに魔力を込めた魔石で何回か魔力を込め直さないと無理なんだったよな。それは効率悪すぎて実用にはならない。
何とか魔力効率を上げられれば良いんだけどな……
「確か魔法具にしても魔力効率が変わらず、使える魔法具にならないのですよね?」
「ああ、ただでさえ効率が悪い魔法なのに、魔法具にしても変わらないんじゃ誰も使ってくれない。何とか効率を良くして、使えるものができないかと思ってるんだ」
「どんな魔法具を考えているのですか?」
「例えば、持ち運びできるトイレがあれば便利だと思ってるんだ。馬車の旅などにあればかなり便利だとは思わないか? 用を足したら綺麗に浄化してくれるのが理想なんだけど……」
「それは素晴らしいですわ!」
突然マルティーヌが話に入ってきた。
「その魔法具が完成したら、馬車の旅は格段に便利になりますわね。私もその研究をお手伝いいたします! 私も回復属性ですの!」
おぅ……マルティーヌも暴走し出したよ……
二人の先輩たちは完全にフリーズしている。王女様と一緒に研究とか、意味わかんない状態だよね。
「レオンも一緒に研究しましょう。レオンも回復属性ですよね?」
おぅ……俺も巻き込まれたよ……マルティーヌめちゃくちゃイキイキしてる。これは断れないです。先輩ごめんなさい。
「はい。私も回復属性ですのでお手伝いいたします」
「ミゲル、ロイク、マルティーヌとレオンも研究に加わってもいいか?」
ステファン様が一応二人に意思確認してくれたけど、これで断れる人はこの国にいませんよ!
「は、はい。もちろんでございます」
「とても、心強いです」
二人は顔を青ざめさせながらそう言った。先輩方、共に頑張りましょう。
「ステファン様、四人がその研究をするのでしたら私達はどういたしますか?」
「確かリュシアンは火属性だったよな?」
「はい」
「私は水属性だから、一緒に一つのことを研究するのは難しいかもしれないな……」
「それならば、それぞれで新しい魔法具を考えますか?」
「そうだな。新しい魔法具を考えるのは面白そうだ」
二人は新しい魔法具を考えるのか。火魔法と水魔法で新しい魔法具か…………俺も何か考えてみようかな。
「では、私たちは帰るとしよう。ミゲル、ロイク、これからよろしく頼む」
「はい。こちらこそよろしくお願いいたします」
「よろしくお願いいたします」
そう挨拶をして、俺たち四人は帰路に就いた。
ふぅ〜、大変なこともあるけどこれから楽しくなりそうだ。ちょっとワクワクしてきたな。
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