第85話 研究会の先輩方
俺たちはロンゴ先生の後ろをついて歩いていく。ロンゴ先生はよほど改良の話がしたいのか、歩くのがめちゃくちゃ早い。
俺は一番後ろを歩いていたが、小走りじゃないと置いていかれそうだ。かなりのおじいちゃん先生なのに、何でこんなに早いんだ!?
かなり早足だったので、すぐに研究棟に着き教室に案内された。魔法具研究会の教室は二階の一番奥のようだ。
コンコン。
「ロンゴだ。入るぞ」
「どうぞ〜」
ロンゴ先生が教室に入っていく。俺たちは廊下で少し待っているように言われたので待機だ。
「先生がこっちに来るなんて珍しいですね。どうしたんですか?」
「何か新しい魔法具を思いついたのですか?」
「違う。今日はこの研究会に新しく所属する生徒を連れてきた」
「え!? 新しい生徒が来るのですか!?」
「良かったですね! 私達が卒業したら、この研究会は生徒がいなくなると心配していたのです」
そんな話し声が聞こえてきた。何か俺以外の三人が入ったら、かなり驚かせそうで申し訳ないな……
「皆さん中へどうぞ」
そんなことを考えていたら、ロンゴ先生が廊下に戻ってきてそう言った。
「紹介する。この度、魔法具研究会に所属することになった四人の生徒じゃ」
「え…………?」
二人の先輩達は、驚きで大きく口を開けて固まっている。
「ステファン・ラースラシアだ」
「マルティーヌ・ラースラシアですわ」
「リュシアン・タウンゼントだ」
「レオンです。よろしくお願いいたします」
そう自己紹介をすると、二人の先輩は思いっきり頭を下げて急いで自己紹介をしてくれた。
「お、お初にお目にかかります! ヴァネル子爵家三男、ミゲル・ヴァネルと申します」
「お初にお目にかかります! ルデュック男爵家次男、ロイク・ルデュックと申します」
「ここは王立学校だ。そこまでかしこまらなくても良い」
「か、かしこまりました」
二人は可哀想なほど恐縮している。まあ、この三人が来たらこうなるよな。
「これから仲良くするように」
ロンゴ先生、そんな簡単にまとめるのでいいの!? 二人も愕然とした顔してるよ。仲良くって言われても困るでしょ。
「では好きな席をお使いください。レオンはこっちだ」
「はい」
ロンゴ先生は早く研究がしたいんだな。やっぱり最初の印象通り、この人は魔法具馬鹿だ。
俺がロンゴ先生に続いて広い机に行くと、他の人たちも皆付いてきた。十分な数の椅子もあるしいいのかな?
「ここに座ってくれ。皆さんも一緒に研究いたしますか? それならばそちらの椅子をお使いください」
「ご一緒させていただきます」
「ロンゴ先生、私たちはどうすれば良いでしょうか?」
「ミゲルとロイクは自分の研究を進めても良いぞ。ただ、ここで見ているのも勉強になるだろう」
「かしこまりました。では私たちもご一緒させていただきます」
大きな四角い机に皆で座った。俺はロンゴ先生の隣だ。
「レオン、どのような改良を考えているのかもう一度話してくれないか?」
「はい。魔法具は、魔石をいちいち外さなければいけないところが不便だと思っていたのです。そこを何とか改良したいです。例えば光球ですが、光を消す時は魔石を外さなければ光は消えません。それを魔石をつけたまま光をつけたり消したりできるようにしたいのです。その操作が光球から離れたところでもできると尚良いです。例えば天井についている光球を、部屋の入り口で操作できるととても便利だとは思いませんか?」
「素晴らしい発想だ!! 魔法具がすでにとても便利なものだから、それ以上に便利にしようと考えるものはあまりいなかったのだ。もしこれが実現できたら凄いぞ」
そうなのか? 確かに魔法具はまだ歴史が浅いって言ってたな。そこまで研究が進んでないのかもな。
「それで、どうすればそれが実現できるかの案はあるのか?」
「はっきりとした案はないのですが……魔石と魔鉄の間に何かしらの素材を挟んでそれを動かせるようにするとか、魔石自体を遠隔で動かせるようにするとか、色々考えてはいます」
俺もハッキリとこれだっていう案はないんだよな。何らかの素材を挟み込んだら、それを取り除けば魔法が発動するけど、またそれを挟み込むにはどうしたらいいのかわからない。
魔石を遠隔で動かすのも、俺が思いつくのは魔石に棒のようなものを取り付けて、遠くからでも取り外しができるようにするくらいだな。
うーん、それじゃあ便利とは言えないよな……
日本でスイッチ機能って言ったら一番に思い浮かぶのは電気だけど、あれってどういう仕組みだったんだろう?
確か…………電気は鉄を通っていくから、それをスイッチによって離したりくっつけたりして、電気のオンオフをしてたんだよな?
……ダメだ!! 全然覚えてない!!
もっと理科の授業とか真剣に聞いてればよかった。でもとりあえず詳しい仕組みはわからないけど、電気のスイッチはあのシーソーみたいなやつだよな。
例えば、魔鉄の板の上に普通の鉄で作った支柱を置いて、その上に普通の鉄で作った板を置く。そして、その板の右側の裏には魔石、左側の裏には魔石と同じ重さの何かをつければ、シーソーのような感じで右側を押したら魔法が発動して、左側を押せば魔法が切れるようにできるよな。
あれ? そもそも魔石って魔鉄に嵌め込むけど、嵌め込まないで触れさせるだけでもいいのか?
「ロンゴ先生、魔石を魔鉄に嵌め込むと魔法が発動しますけど、魔石を魔鉄に触れさせるだけでも魔法は発動するんですか?」
「うん? それは普通に発動するぞ。ただ嵌め込めるようにした方が便利だからそうしてるだけじゃ。魔石は丸いから、転がってしまわないようにな」
「そうなんですね」
それなら、さっき俺が考えたシーソー型のスイッチは簡単に実現できるな……
ただ、その機能がつけられても結局天井まで行かないといけないのなら、魔石を普通に外すのと労力は変わらないよな……
…………うん? ちょっと待てよ。
魔法って魔石から離れたところにも発現させられるんだよな? それって火魔法でも風魔法でもできたんだから、回復魔法でもできるよな?
それなら、光球も魔石から離れたところに光の玉を作り出せればいいんじゃないか!?
待って、何で気づかなかったんだろう。何となく光球は電球と同じだと思ってたから、魔石自体が光るという前提を変えられるとは思い付かなかった。
離れたところに光球を作り出せるなら、さっき考えたスイッチ機能を部屋の隅に設置すれば、日本と同じようにスイッチを押して電気のオンオフができるんじゃないか!?
というか、すでにスイッチ機能もいらないのか? 魔鉄の箱と普通の箱を用意して、魔石を入れ替えるだけでオンオフができるよな。
うーん、でもそれだと魔石がなくなる可能性もあるし、入れ替える労力がかかるか。スイッチ機能もしっかりと作れたら、あった方がより便利になるな。
「レオン、どうしたんだ? さっきから驚いたり考え込んだりしているが」
そうロンゴ先生に言われて、ここが研究会の教室だということに気づいた。
周りを見回してみると、皆の注目を浴びている。やばい、考え込みすぎた……
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