第82話 剣術の合同授業
それから少しして、訓練場に先生が入ってきた。スティーブ先生ともう二人若い男性がいる。
「これから剣術の授業を始める! 俺は剣術の授業を教えるスティーブ・オーブリーだ。この二人は剣術の授業に助っ人で来てもらってる騎士の二人だ。この授業は、ふざけたり真剣でないと怪我をすることもある。俺たち三人の言うことはしっかりと聞くように」
この二人は騎士なのか。確かに格好が騎士の軽装って感じかも。なんかカッコいいな……
「これから何回かの授業は、全員で基礎から始める。経験者も基礎は大事だ。復習の意味でもしっかりと参加するように。基礎を全て教え終えたら、レベル別にチーム分けして実践形式の練習も取り入れる。では、まずはここにある木剣を一人一つ持っていくように」
騎士の二人が運んできた大きな箱の中に、木剣がたくさん入っているようだ。
Aクラスの人から順番に木剣を選んでいく。
「レオン……さっきは僕のせいで巻き込んでごめんね」
ロニーが、木剣を取るための列に並びながら俺にそう謝ってきた。
「ロニーのせいじゃないよ」
「でも最初は、僕の服装のせいで目をつけられたから」
「そうだけど、途中からはどっちかっていうと俺のせいって感じだったし。どっちも悪くないんだから謝らないでよ」
「そうだよね……ありがとう」
「それよりも、服装早めに整えた方がよさそうだね」
「僕もそう思ったんだけど……お金がなくて」
「さっき屋台の話したでしょ? その給金を前借りって形で貸すから、明日にでも買いに行った方がいいよ」
俺がそう言うと、ロニーは一瞬驚いたような顔をした後、すぐに申し訳なさそうな顔になった。
「そんなことまでしてもらえないよ。僕、レオンに迷惑かけてばかりだよね……ごめんね」
「迷惑だなんて思ってないよ。友達が困ってたら助けるのは当然でしょ?」
「レオン……本当にありがとう。お金よろしくお願いします」
「うん、後で渡すね」
そんなふうに話がまとまると、ロニーは少しホッとしたような顔になった。やっぱり服装でここまで目立つのは嫌だよな。今日は耐えてもらうしかない。
「そんなことより、剣術の授業頑張ろうね」
「そうだった……色々あって授業のこと忘れてたよ」
「今日は基礎だけだろうし、そこまで厳しくないんじゃないかな?」
「そうかな? でも厳しくても、剣術の授業頑張ることにする! 少しでも強くなった方が良さそうだし……」
やっぱりそう思うよな。身の危険を感じるから少しでも強くなろうと思うんだ。俺ももっと強くなりたい。
「お互い頑張ろうね。筋トレとかも毎日やったら良いと思うよ」
「うん!」
そんな話をしていると、俺とロニーの順番になった。俺たちは、何本か残っていた木剣から適当に選びとる。
かなり古くて傷がついたようなものしかなかったが、それはしょうがないだろう。
「全員木剣を持ったか? では剣の持ち方から教える。基本的には、右手が上で左手が下で両手持ちだ。ただ利き手が左の場合は、逆の持ち方をする奴もいる。そこはやりやすい方で良い」
ジャックさんから教わったのと同じだな。
「よしっ、次は素振りをする。剣に慣れるためにも身体を作るためにも、素振りは大切だ。強くなりたい奴はできる限り毎日やるように。では俺がやる素振りをまず見てくれ」
おお! スティーブ先生の素振りカッコいい……速いし形もしっかりしているようだ。
スティーブ先生って結構強いのかも。
「しっかり見てたか? では全員で一緒にやる。とりあえずは二十回だ。いくぞ、一……ニ……三…………二十!」
ふぅ〜、この学校で溜まってたストレスが洗い流されるようで、めちゃくちゃ気持ちいい。
流石にこの程度なら疲れなくなったな。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「ロニー大丈夫?」
「う、うん…………なんとか……」
ロニーはめちゃくちゃ疲れてるみたいだ。腕も痛そうにしている。素振りって慣れてないとかなり疲れるんだよな。
「次はお前達が素振りをしているところを、俺たちが見て回る。アドバイスはしっかりと聞くように。ではいくぞ、一……ニ……三…………そこの赤髪のお前、肩に力が入りすぎだ。十……十一……十二…………二十!」
ふぅ〜流石にちょっと疲れてきた。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
「ロニー大丈夫か?」
「も、もう、ダメ……かも…………」
ロニーは今にも倒れ込みそうだ。ロニー体力なさすぎるよ。平民の子供って基本的に体力あるものじゃないのか?
貴族の子供は、騎士になる予定がなくても最低限の剣術はやってきた人が多いようで、疲れてはいるがロニーほどではない。
何人か体型がかなり太ってる子供だったり、逆にヒョロヒョロで弱そうな子供は、ロニーと同じくらい疲れているようだ。多分、最低限の剣術の鍛錬もサボってきた子供達だろうな。
「この程度で音を上げているような奴は、卒業試験もクリアできないぞ! 剣術の卒業試験は全ての型の素振りを十回ずつすることだ。綺麗な型で、止まらずに最後までやる事が求められる」
剣術の卒業試験って素振りができればいいのか。全ての型って、ジャックさんに教えてもらった五つのことかな? もしその五つなら、五十回の素振りができればいいってことだよな。
それは凄くありがたい。剣術の卒業試験は難しくなさそうだな。
「卒業試験って剣術もあるの……」
ロニーは逆に、さっきの話で絶望している。
「ロニー、素振りをすればいいだけなんだからそんなに難しくないよ。体力をつければ大丈夫だと思うよ」
「そうかな……その体力作りが大変だと思うけど……」
「うーん、多分、授業を真剣に受けてるだけで大丈夫だと思うよ? もしそれでも不安だったら、家で筋トレをするとか、時間がある時にランニングとかすればいいと思う」
「そっか……そのくらいなら頑張れそうだよ」
「うん、頑張って」
「レオンは全然疲れてなさそうだね」
「俺は鍛えてるし、剣術も少しやったことあるから」
そこまで話していると、ロニーも少し回復してきたようだ。さっきよりは辛くなさそうな顔になってる。
そこからの授業は、足捌きのやり方を教わったり、別の素振りの型を教わったりした。
剣術の授業は結構楽しいかもしれない。スティーブ先生が、身分を気にしない姿勢なのも好感触だ。高位貴族で少し嫌そうな顔をしている人もいたが、学校では先生を敬うというルールがあるからか、文句は出なかった。
うーん、やっぱり身体を動かすのって気持ちいい!
「よしっ! 今日はこれで終わりにする。木剣はしっかりと箱に片付けてから帰るように」
終わった〜! まだ学校に通い始めて一日目なんだよな……凄く長かった気がする……
俺とロニーは、貴族の方々が更衣室に入って行ったのを確認し、最後に更衣室に入り、素早く着替えて更衣室の外に出た。まためんどくさい貴族に絡まれたら最悪だからな。
早着替えが特技になりそうだよ。
「ロニー、なんか疲れたね」
「わかる……僕早く帰って休みたいよ……」
「大変なことも多いけど、これから一緒に頑張ろうね」
「うん。これからもよろしくね」
俺とロニーは疲れ切って、そんな会話をしながら教室に帰った。
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