第83話 魔法具の研究会
剣術の授業が終わり、俺とロニーは教室に戻ってきた。あれ? 今気づいたけど、教室に戻ってくる必要なかったかも……
「ロニー、なんで教室に戻ってきたんだっけ?」
「え? なんでって…………なんでだっけ?」
「多分戻ってくる必要なかったよね」
「そうかも……授業終わったら帰っていいんだよね」
日本での癖で教室に帰ってきちゃったよ。荷物も全部訓練場に移動させるし、そのまま帰ればいいんだな。
「せっかく戻ってきたけど、帰ろうか」
「そうだね。レオンはこの後予定あるんだっけ?」
俺たちは、玄関に向かって歩きながら話し続けた。
「うん。魔法具の研究会に行く予定」
「研究会に入るの?」
「そう。魔法具に興味あるんだよね。ロニーは研究会入らないの?」
「うん。特に興味があるものもないし、それならその時間働いてお金を稼ぎたいから」
「そっか。それなら早く屋台の話を進めないとだね」
「よろしくね」
「俺もやりたいことだったからすぐにやるよ」
「レオン、本当にありがとう。絶対後で恩返しするから」
「友達を助けるのは当然だからいいんだよ」
「でも……じゃあ、レオンが何か困ってたら今度は僕が助けるね」
「それいいね。ありがとう」
そんな話をしていると、すぐに玄関までたどり着いた。玄関にはまだリュシアン達は来ていなかった。
「俺はここで待ち合わせしてるから」
「そうなんだ。じゃあまた明日ね!」
「うん! また明日!」
ロニーが帰ってしまうと、人がまばらな玄関ホールは少し寂しい。日本の学校と違って土足で校内に入れるから、玄関ホールを使わない人も結構いるんだろうな。さっきの授業にいた皆は、訓練場から直接帰ったんだろう。
俺はじっくりと校内を見たことがなかったので、この機会にと思って、玄関ホールを眺めてみた。こうやって改めて見てみると、学校とは思えない雰囲気だな。
装飾品がたくさん飾ってあって、凄く豪華な雰囲気だ。
本当に今更だけど、俺が日本からこの世界に来て今この場所に立ってるって、凄いことだよな。人生何が起こるかわからないって本当だな。
学校という場所は、嫌でも日本を思い出させる。もうこの世界に来て一年以上経ってるけど、今までは色々必死で、日本のことは思い出さないようにしていた。でも、こうして学校で暇な時間ができると、どうしても思い出しちゃうな。
…………日本って本当に良い国だった。それに、俺は良い人たちに囲まれてたよな。家族も友達も大好きだった。
もう会えないのか…………今初めてそれを、しっかりと実感した気がする。なんとなく世界に一人ぼっちの気分になってきた。寂しいな。
ただ、日本の家族には会えないけど、この世界の家族には会えるもんな! そうだよ、日本の家族の分まで、この世界の家族を大切にしよう。
母さん、父さん、マリーに会いたくなってきた。休みがあったらすぐに帰ろうかな。
「レオン待たせたか?」
そんなことを考えて少し寂しい気持ちになっていると、後ろからそう呼び掛けられた。
ちょっとビックリした〜。
「リュシアン様、私も今来たところです」
「レオン……? どうしたんだ?」
「え? 何のことですか?」
「気づいていないのか? 泣いているぞ」
え? 泣いてる……?
俺は慌てて自分の頬を触ってみると、確かに濡れていた。全然気づかなかった。確かに日本のことを思い出して寂しくなってたけど、泣くつもりなんてなかったのに。
「こ、これは…………目にゴミが入っただけです。気にしないでください」
「本当か?」
「本当です! もう大丈夫です」
「そうか、それならいいんだが」
何とか納得してくれたみたいだ……良かった。これから気をつけないとだな。
「それよりも、ステファン様とマルティーヌ様はどうされたのですか?」
「ああ、お二人は先にロンゴ先生のところにいらっしゃっている。先程廊下でお会いしたのだ。私はレオンを呼びに来た」
「そうだったのですね、ありがとうございます。では私たちも行きましょう」
俺はリュシアンの後ろに続いて、ロンゴ先生の部屋まで行った。
「ロンゴ先生、リュシアン・タウンゼントです。入っても良いでしょうか?」
「どうぞ」
「失礼いたします」
部屋に入ると、奥には執務机があり、その手前に応接セットなのか机とソファが置かれている。
そして、部屋の左右には天井までの棚があり、本や魔法具、魔鉄、魔石などがたくさん置かれている。
凄いな…………魔法具の先生の部屋ということが一目でわかる雰囲気だ。ちょっとワクワクする。
ロンゴ先生は執務机に座っていて、ステファンとマルティーヌが左側のソファーに座っている。
どんな挨拶をしたらいいんだろうか? ロンゴ先生にとってみれば俺とは初対面なのか?
俺は迷いつつも、とりあえず当たり障りのない挨拶にとどめた。
「ロンゴ先生、レオンと申します。よろしくお願いします」
「ああ、確か今日授業をしたクラスにいたな。とりあえず座ってくれ。リュシアン様もどうぞお座り下さい」
覚えてもらえてたんだな。俺はちょっとビックリしつつも、リュシアンと共に右側のソファーに座った。
「それで、本日はどのようなお話でしょうか?」
ロンゴ先生がそうステファンに聞いた。
「話の前に一つ良いでしょうか? ロンゴ先生は私達の先生ですので、敬語や敬称は校内では必要ありません」
「ですが……授業中であればそういたしますが、今は放課後ですので」
「ロンゴ先生がそうおっしゃるのでしたら良いのですが、必要ないということだけ伝えておきます」
「かしこまりました。私からすれば、ステファン様が私に敬語を使うなど恐れ多いことなのですが……」
「それは、生徒は先生を敬うという王立学校の決まりですので」
身分制度がある世界での学校ってめんどくさいな。生徒だけど王子、先生だけど身分は下ってめんどくさい関係性だ。その点、俺は楽だよな。とりあえず全員を敬っておけば完璧だ。
「お兄様、どちらも敬意を持って接するということで良いではないですか。それよりも本題に入った方が良いと思いますわ」
「マルティーヌ、確かにそうだな。話が逸れてしまい申し訳ありません。今日の本題は、ここにいる四人で魔法具研究会に入りたいというお話なのですが」
「え? ま、魔法具研究会にステファン様とマルティーヌ様、リュシアン様が入られるのですか?」
「入りたいと思っています。それからレオンも一緒です」
俺忘れられてるよ……まあ、この三人が入ることに比べたら、俺が入ることなんて何でもないことだよな。
……ちょっと悲しい。
「えっと…………もちろん入っていただけるのはありがたいことなのですが、何故魔法具研究会に入って頂けるのでしょうか? お恥ずかしい話ですが、今現在魔法具研究会に所属している生徒は二人しかいなく、とても小さな研究会なのです」
二人しかいないのか!? 魔法具を研究する人はあまりいないのだろうか? かなり夢があるものだと思うんだけどな。
「理由はレオンが所属するので、私たちも共に入ろうと思ったのです」
「レオン……」
そこで初めて、ロンゴ先生がしっかりと俺の顔を見た。今までは他の三人に意識がいっていたからな。先生、俺のことも認識してください。
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