第80話 ロニーの働き口

 リュシアンと昼食を食べた後、三限の授業を終えて次は合同で行われる剣術の授業だ。

 剣術の授業は訓練場の更衣室で着替えないといけないから、少し急がないと間に合わなくなる。平民が遅れたら今でも悪目立ちしてるのにより目立つだろう。絶対に遅れないようにしないと。


「ロニー、早めに訓練場に行こう。俺たちが遅れたら、絶対文句言われてかなり悪目立ちするよ」

「そうだよね。早く行こう」


 俺とロニーは鞄を持って一番に教室を出て、早足で訓練場に向かった。


「僕、剣術なんてやったことないよ。練習だから本物の剣は使わないだろうけど、当たったら痛いよね?」

「当たったら痛いだろうけど、最初は剣の持ち方とか素振りとかをやるだけじゃないかな? 最初から剣が当たるようなことはないと思うよ」

「そうかな? それならいいんだけど……レオンは剣術やったことあるの?」

「リュシアン様と一緒に少しだけやったことがあるんだ。でも本当に少ししかやってないから、初心者と変わらないよ」


 俺も剣術をしっかりと習い始めたのは、一週間前くらいだ。毎日素振りはやってるけど、まだ初心者と変わらないだろう。

 剣術の授業では、しっかり学んで少しでも強くなりたい。魔法は得意だけど手数は多いほうが良いからな。接近戦には剣術の方が便利だし、剣は盾の代わりにもなるだろう。


 ロニーとそんな話をしながら早足で歩いて、訓練場についた。すぐに男子更衣室に入ると、入り口の少し先に衝立が置いてあり、その奥にロッカーがある。

 確か、クラスごとにまとまってロッカーがあるんだよな。たぶん俺たちのロッカーは入り口の一番近くだろう。そう思って入り口の近くから探し始めると、すぐに見つかった。

 やっぱりそうだよな。一番人が通るところはEクラスで、奥がAクラスなんだろう。


「ロニー、見つけたよ」

「本当に? ありがとう」

「じゃあすぐに着替えちゃおうか」

「そうだね。他の人の邪魔にならないように、すぐに出たほうがいいよね」


 俺たちは素早く着替えて、更衣室から出た。ロニーはいつもより体を縮こませているが、その理由は訓練着だろう。

 ロニーの訓練着は、私服よりも数段劣る品質のものだった。多分、訓練着を同じ品質で揃えるほどのお金は集まらなかったんだろうな……

 この服だと、俺の家の周りでも「新しい服買ってもらったの? 良かったわね」って言われるくらいのレベルだ。

 たぶんこの学校だと、めちゃくちゃ浮くだろうな……


「レオン、やっぱりこの服じゃダメかな?」

「うーん……ちょっと浮くかもね」

「やっぱりそうだよね……品質の良い訓練着を買えるほどのお金はなかったんだよ」


 多分この服だと、かなり浮くし馬鹿にされるだろう。ロニーはいい奴だから、できれば虐められる要素は少なくしてあげたい。

 でも俺がお金を貸すのはどうなんだろう? ロニーは遠慮しそうだし…………

 何かバイトを勧めるとか? でも、この世界ってほとんど学校がないから、学校終わりの短時間だけ働ける仕事を見つけるのは大変そうだ。

 ロニーはバイトをしているのかな?


「ロニーは今仕事をしてるの? 学校がない日だけとか、放課後とか」

「今はまだしてないよ。そんな都合の良い仕事なんてすぐに見つからないんだ。雇うなら一日中働ける人を雇うからね。僕も仕事をしたいと思ってるんだけど……」


 やっぱりそうだよな……でもロニーは読み書き計算ができるし頭がいいんだから、それを活かせる仕事はないのかな?


「読み書き計算とか、ロニーの頭の良さを活かせる仕事はないの?」

「それは考えたことはなかったけど、それでも少しの時間しか働けない人を雇うことはないと思うな。でもそうだね……一応探してみるよ」


 読み書き計算を使う仕事で一番に思い浮かぶのは商人だけど、短時間しか働かない人を雇うなら、ずっと働いてくれる人を雇って必要な教育するのかな? まあ、俺ならそうするかも。

 うーん、結構難しいな。


 いっそのこと、俺がお店をやってロニーを雇うとか? 今なら元手もあるし結構いいかも。

 放課後と回復の日だけの屋台とかはどうだろう? 屋台って申請すれば誰でもできるんだよな。

 それなら必要なものは俺が買って、ロニーを雇って売り上げは折半にすれば良いんじゃないか? もし利益がなくても、一定の給金をあげれば良いし。

 それ結構良い気がする! あとは何を売るのかだよな。それから、ロニーが休日に時間を取れるかも重要だ。

 

「ロニー、休日は働く時間を取れるの? 勉強しないとダメかな?」

「うーん、多分大丈夫だと思うけど……一応休日の午前中は勉強の時間にしたいかな」

「それなら放課後と休みの日の午後、俺と一緒に屋台をやらない?」

「屋台?」

「そう。俺が屋台を始めてロニーを雇うって形でどうかな? 給金は利益の半分で、利益が出なくても一定の給金は渡すよ」

「えっと……それはすごくありがたいんだけど、屋台を始めるのって凄くお金がかかると思うよ? それにそんな簡単に利益なんて出ないと思うけど……」


 確かにそうなんだけど、俺が持ってるお金で足りないってことはないだろう。それに、売れそうなものは色々思い浮かぶんだ。この世界で受け入れられるのか、確認しながら売ればいいだろう。


「お金はあるから大丈夫! それで、もし屋台をやるってことになったら働いてくれる? 俺は、放課後研究会に所属する予定だから、屋台にはあまり行けないと思うんだけど……」

「もちろん! って言いたいとこだけど、どのくらい給金もらえるのかな?」


 うーん、どのくらいがいいんだろう? 放課後に三時間くらいと、休日は午後に六時間くらいだよな。

 時給千円と考えれば時給銅貨一枚だ。一週間で十八時間だから、銀貨一枚と銅貨八枚。少し上乗せして一週間で銀貨二枚くらいでどうだろう?


「一週間に銀貨二枚を固定給にして、利益が出たらその半分は給金に上乗せっていうのはどうかな?」

「え…………え!? それはさすがに僕がもらいすぎだよ!」


 そうなのか? この世界の基準がわからないな。


「その半分でも高い給金だよ! それに、そんなにもらってるのに利益の半分ももらうことなんてできないよ」


 うーん、そんなに言われると少し下げた方がいいのかな? でも固定給はこれでいいと思うんだ。利益の半分はちょっと減らそう。


「じゃあ固定給は銀貨二枚で、利益の二割を上乗せでいい?」

「そ、それでもかなり貰いすぎだよ! そもそも従業員が利益をもらうことなんてないから!」

「確かにそうなんだけどロニーと二人だけでやる屋台だし……銀貨二枚と利益の二割でいいよ」

「うーん……まあ、貰えるのならありがたく貰うけど」

「じゃあこれで決定ね! 色々準備するから決まったらまた話するよ」

「うん。僕のためにやってくれるんだよね? 本当にありがとう」

「別に、俺も屋台やってみたかったから、色々売ってみたい物もあったんだ」


 そこまで話したところで、他の生徒もたくさん訓練場に入ってきたので話をするのはやめた。


「じゃあとりあえず授業頑張ろうか」

「うん。憂鬱だけど頑張るよ」

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